支払督促に異議申し立てされたら差し押さえできない? 債権回収の対策
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「支払督促」は、債権回収のために利用できる簡易的な裁判手続きです。相手方の住所がさいたま市にある場合、さいたま簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てることになります。
ただし支払督促に対して、債務者から異議が申し立てられた場合には、通常訴訟に移行します。通常訴訟では、書面の作成や証拠の収集・提出などの複雑な対応が求められるので、事前に弁護士へご相談ください。
この記事では、支払督促に対する異議申し立ての概要を中心に、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、支払督促における異議申し立てとは?
まずは支払督促の制度概要と、支払督促に対する異議申し立てについて、基本的な知識を押さえておきましょう。
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(1)支払督促とは?
「支払督促」とは、裁判所から債務者に対して、金銭債務の支払いを督促してもらう法的手続きです。
(参考:「支払督促」(裁判所))
支払督促は主に金銭債務が対象ですが、証拠の提出が不要であり、かつ迅速に債権回収を図ることができる点で大きなメリットがあります。
また、裁判所に納付する手数料も、訴訟に比べて半額で済みます。
債務者からの異議申し立てがない場合、最終的に仮執行宣言付支払督促が確定し、強制執行の債務名義として用いることができます(民事執行法第22条第4号)。
なお、支払督促申立書の提出先は、相手方(債務者)の住所を管轄する簡易裁判所です。 -
(2)異議申し立てのタイミングは2回
支払督促は、2回に分けて債務者に送達され、それぞれのタイミングで督促異議の申し立てが認められています。
1回目は通常の支払督促が送達され、債務者は受け取ってから2週間以内に異議を申し立てることができます。
上記の期間に異議申し立てがなかった場合、債権者の申し立てがあれば、今度は裁判所から債務者に対して「仮執行宣言付支払督促」が送達されます。
仮執行宣言付支払督促に対しても、債務者は受け取ってから2週間以内に異議を申し立てることが可能です。
なお、異議申し立てに理由は必要なく、単に「異議を申し立てる」旨の督促異議申立書を裁判所に提出すれば足ります。
債務者により異議申し立てが行われた場合、裁判所から申立人に対して、その旨が通知され、通常訴訟に移行します。
2、支払督促に異議申し立てされた場合における債権者側のリスク
支払督促に対する異議申し立てが行われた場合、「簡易迅速に債権回収をする」というメリットは失われ、債権者は通常訴訟において煩雑な対応を迫られてしまいます。
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(1)通常訴訟に移行する
債務者が支払督促に対して異議を申し立てると、自動的に通常訴訟へ移行します。
通常訴訟では、支払督促とは異なり、債権の存在を証拠によって立証しなければ、債権者の請求が認められません。また、通常訴訟で効果的に主張を展開するためには、主張内容を整理した「準備書面」を作成する必要があります。
証拠収集や準備書面の作成は、訴訟に不慣れな方にとっては負担が大きいため、弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)強制執行の取り扱いについて
支払督促に対する異議申し立てが行われた場合の強制執行の取り扱いは、異議申し立てのタイミングによって異なります。
1回目の通常の支払督促に対して異議申し立てが行われた場合、支払督促は直ちに失効するため、そもそも強制執行を申し立てることができません。
これに対して、2回目の仮執行宣言付支払督促に対して異議申し立てが行われた場合、これだけでは仮執行宣言付支払督促の確定が阻止されるだけであり、支払い督促の効果は存続します。債務者が仮執行宣言付支払督促の執行力を停止させるには、別途「強制執行停止の申立て」を行うことが必要です。
(参考:「13.強制執行停止事件の流れ(申立てから発令まで)」(裁判所))
3、支払督促に対して異議を申し立てられた場合、消滅時効の取り扱いは?
支払督促に対して異議を申し立てられ、支払督促が失効した場合に、気になるのは消滅時効の取り扱いです。
民法上、支払督促に関する消滅時効のルールはどのようになっているのでしょうか。
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(1)消滅時効は「完成猶予」の状態になる
支払督促が行われた場合、その時点で消滅時効の「完成猶予」の効果が生じます(民法第147条第1項第2号)。
「完成猶予」とは、消滅時効の進行が一時的にストップすることを意味します。仮に異議申し立てによって支払督促が失効した場合、自動的に通常訴訟へ移行しますので、「裁判上の請求」として完成猶予の効力が維持されます(同項第1号)。
したがって、支払督促に対して異議申し立てが行われたとしても、通常訴訟が続いている限り、消滅時効の完成を心配する必要はありません。 -
(2)訴訟で権利が確定した場合、消滅時効は「更新」される
支払督促に対して異議が申し立てられ、通常訴訟に移行した場合、最終的には判決や裁判上の和解によって権利が確定します。
この場合、消滅時効は「更新」されてカウントし直しとなります(民法第147条第2項)。
4、支払督促以外で債権回収を行う方法は?
支払督促は、債権回収のための法的手続きとしては簡易性・迅速性に長けたメリットがありますが、異議申し立てによって失効してしまう点がデメリットです。
債権回収を実現するには、支払督促以外にも以下の方法が考えられますので、状況に合わせて使い分けましょう。
どの方法を活用すればわからない場合は、弁護士までご相談ください。
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(1)債務者に内容証明郵便を送付
債務者に対して債務の支払いを求める際には、まず内容証明郵便を送付するのが一般的です。
(参考:「内容証明」(郵便局))
内容証明郵便は、郵便局がその内容・差出人・受取人を証明してくれるため、文書として高い証拠力が認められています。そのため内容証明郵便は、正式な債権回収の請求を行う方式として適しているといえます。
また、内容証明郵便によって債務の履行を催告することにより、6か月間の消滅時効の「完成猶予」の効果が発生します(民法第150条第1項)。よって、とりあえず消滅時効の完成を阻止したいという場合にも、内容証明郵便を送付する方法が有効です。
特に、内容証明郵便を弁護士名で送付すると、債務者に対して心理的なプレッシャーを与えることができ、任意の支払いがなされる可能性が高まります。
法的手続きに発展させずに債権を回収した場合は、まず内容証明郵便の送付を検討しましょう。 -
(2)民事調停
民事調停を利用すれば、調停委員に債権者・債務者間の話し合いを仲介してもらうことができます。
(参考:「民事調停」(裁判所))
穏便に債権を回収したいものの、当事者同士だけの話し合いがうまくいかない場合には、民事調停の利用をご検討ください。 -
(3)少額訴訟
少額訴訟は、60万円以下の金銭債権の請求を行う場合に利用できる、簡易迅速な訴訟手続きです(民事訴訟法第368条以下)。
(参考:「支払督促」(裁判所))
少額訴訟は、原則として1回の口頭弁論期日で審理が完了します(同法第370条第1項)。
また、少額訴訟に対する控訴は禁止されており(同法第377条)、異議申し立てが認められるにとどまります(同法第378条第1項)。
これらは迅速に紛争を解決するための配慮であり、通常訴訟のように長期化する心配がありません。
一方、被告が通常訴訟に移行させる旨の申述をした場合、少額訴訟により審理を進めることはできませんので注意が必要です。 -
(4)通常訴訟
債務者が支払督促等に応じそうにない場合には、最初から通常訴訟を提起してしまうのも有力です。
通常訴訟は長期化が懸念されるものの、終局的に権利を確定させることができるメリットがあります。また、債務者側に反論材料がなければ、債務者欠席の下で認容判決が確定し、結果的に早期に債権を回収できるケースも少なくありません。
ただし、通常訴訟を提起する場合、主張書面の作成や証拠の収集・提出を綿密に行う必要があり、不慣れな方にとっては大きな負担がかかってしまいます。
通常訴訟を提起する際には、円滑に債権回収を実現するためにも、弁護士にご相談ください。
5、まとめ
支払督促は、簡易・迅速に債権回収を実現できる便利な法的手続きですが、異議申し立てによって効果が覆されてしまうデメリットがあります。
支払督促以外にも、内容証明郵便の送付・民事調停・訴訟など、債権回収の手段はさまざまです。債権額や債務者の態度などを考慮して、状況に合った手続きを選択してください。
ベリーベスト法律事務所では、迅速・円滑に債権回収を実現するため、経験豊富な専門チームが、あらゆる手続きを駆使して債権者をバックアップします。
貸付金や売掛金がなかなか回収できずにお悩みの債権者の方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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