熟年離婚で決めておくべきことは? 生活費や年金はどうなる?
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平成29年の埼玉県の離婚率(人口千対)は1.70という結果が公表されています。前年よりも離婚数は減ったということでしたが、およそ43分に1組が離婚している計算になるそうです。
若い夫婦だけでなくいわゆる熟年離婚も珍しくなくなってきましたが、熟年離婚でも気になるのは、お金の面ではないでしょうか。どうしても離婚したいという思いだけが先行してしまい、きちんと話し合わないと後悔する場合もあります。この記事では、熟年離婚の際にきちんと決めておくべきことを中心に弁護士が解説します。
1、離婚するために必要なことは?
協議離婚するためには、双方の合意が必要です。さらに、熟年離婚の場合は特にきちん金銭面について話し合いをする必要があります。
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(1)双方の合意
結婚が夫婦双方の意思がないとできなかったように、協議離婚するためにも双方が納得した上でしなければなりません。もちろん訴訟で争い、離婚したいと思っている側が勝訴すれば離婚することはできますが、多くの場合、訴訟の判決が出るまで長い期間を要してしまいます。
ましてや熟年離婚の場合、訴訟で長期間争いながら離婚にたどり着くのは得策ではありません。
そのため、できるだけ双方が合意の上で離婚するのが好ましいといえます。当事者だけで冷静に話し合うのが難しい場合は、弁護士に相談し、間に入ってもらうこともできます。 -
(2)離婚原因の存在
離婚について相手との合意ができなかった場合でも、民法770条1項に定められた離婚原因が存在すれば、離婚訴訟によって、離婚が認められます。
具体的には、以下になります。
- ①不貞行為
- ②悪意の遺棄
- ③生死が3年間以上明らかでない
- ④強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由がある
いわゆる不貞行為をした場合、専業主婦の配偶者に生活費を一切渡さない場合、配偶者に暴力をふるう場合などがあげられます。
ご自身の場合が該当するかどうかよくわからない場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。 -
(3)金銭面の話し合い
慰謝料や財産分与についての取り決めをしなくても、法律上は離婚ができます。 しかし、専業主婦のように、十分な収入や老後の貯えがない場合は、離婚後、経済的に困窮するおそれがあります。
そのため、離婚をするにあたっては、財産分与や慰謝料についてしっかりと話し合い、離婚後の生活費を確保する必要があります。また、離婚に際して、年金分割という手続きを利用できる場合もあります。具体的にみていきましょう。
2、年金や財産分与、慰謝料はどうなる?
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(1)年金分割
夫婦が離婚した場合、婚姻期間中の厚生年金を分割する、年金分割という手続きを取ることができます。
これは、夫婦の一方が加入していた、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を一定の割合で分割し、それに基づいて計算される老齢厚生年金を、専業主婦など働いていなかった配偶者に支給するというものです。
離婚時に夫婦で合意できれば、最大で2分の1の割合で厚生年金を分割することができます。
なお、平成20年4月1日以降の納付部分については、夫婦間の合意がなくとも、働いていなかった配偶者が年金事務所において必要な手続きを行えば、その2分の1を分割することが可能です。
熟年離婚の場合は、婚姻期間が長い場合が多いでしょうから、若い夫婦の離婚と比較すると、得られる年金の額が大きくなる可能性があります。
しかし、年金分割の対象は国民年金や企業年金ではなく厚生年金の部分のみとなりますし、婚姻期間中に納付した部分に限定されますから、年金分割だけでは、十分な生活費を確保できるとは言い難いです。
また、結婚後に納めた厚生年金が対象ですので、結婚が遅くなったような場合はさらに少なくなります。
そして、自営業の場合は、国民年金にしか加入できないため、そもそも年金分割を行うことができません。
こうしたことから、年金分割だけでなく、財産分与や慰謝料についてもしっかりと取り決めをすることが必要です。 -
(2)財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦で築き上げた、いわゆる共有財産について、配偶者に対して分与を請求できるという制度です。
預金口座の名義が夫であっても、婚姻期間中に夫が稼いだ給与が入金されているのであれば、妻はその貢献度に応じて分与を請求することができます。
現在の実務では、財産の形成に関する夫婦の貢献度は、原則として平等とされているため、多くの場合は共有財産のうち2分の1について権利を主張することができます。
しかし、離婚が成立すれば、当然に財産分与がなされるわけではない点に注意が必要です。
財産分与の請求ができるのは離婚後2年以内に限定されています。
また、離婚成立後に相手が対象となる預金などの財産を費消してしまったり、話し合いに全く応じなくなってしまったりするおそれがあります。
やはり離婚時に財産分与についての取り決めをしておくのが最適であると言えます。
財産分与は計算方法が複雑であったり、対象となる財産の範囲に争いがあったりするなどの理由で、当事者同士では話し合いがうまく進まないことが珍しくありません。
そのため、離婚における財産分与については弁護士に相談して、場合によっては間に入ってもらい、取り決めることをおすすめします。 -
(3)慰謝料
相手が不貞行為や暴力などの離婚の原因を作り、離婚に至った場合、離婚に伴う精神的苦痛について、相手に対して慰謝料の請求をすることができます。
注意が必要なのは、離婚すれば必ず慰謝料が請求できるわけではないという点です。
単なる性格の不一致では足りず、離婚原因である不貞行為や暴力などを相手が行ったと言えるかどうかが重要となります。
話し合いの際に、離婚原因となる行為があったか否か、あったとして適正な慰謝料の額はいくらなのか、という点で争いになることも多いため、不安な場合は弁護士を頼ることをおすすめします。
3、離婚を進めるにはどうすればいい?
離婚を進めるには、どうしたらいいのでしょうか。
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(1)協議(話し合い)
まず離婚したい旨を告げ、相手が応じれば離婚に伴う条件等について話し合います。
この話し合いできちんと金銭面での取り決めをしないと、後から請求しても支払いに応じてもらえない可能性があります。配偶者が主に稼いでおり、ご自身が専業主婦だったような場合、経済的にはかなり厳しい状況になるおそれがあります。
また協議離婚の場合、取り決めた結果について、きちんと書面で残しましょう。書面を取り交わしておけば、取り決めた内容を証拠に残すことができますし、離婚協議書を公正証書で作成しておくと、合意内容に違反して慰謝料の支払い等がなされない場合に、相手の財産を差し押さえることができます。
話し合いがうまくまとまれば、協議離婚が成立します。
離婚についての話し合いや離婚協議書の作成は、自分でしようと思うとかなりの負担となることがありますので、協議離婚の段階から弁護士へご依頼される方も多くいらっしゃいます。
話し合いをしても離婚がまとまらない場合は、裁判所の手続きを利用します。 -
(2)調停
まず、調停制度を利用して、離婚について話し合います。調停の場合は、調停委員が間に入り、離婚についての話し合いが円滑に進むように調整をします。
調停では、離婚するかどうかだけでなく、財産分与、慰謝料、年金分割についても話し合うことができます。 -
(3)訴訟
調停を経ても離婚が成立しない場合は、離婚訴訟を行います。
離婚訴訟では、裁判官が民法に定められた離婚原因の存否について判断します。
もちろん、離婚の可否だけでなく、財産分与、慰謝料、年金分割についての判断を裁判所に求めることも可能です。
離婚訴訟を行うには高度の専門性が要求されるため、弁護士に依頼するとよいでしょう。
4、弁護士に相談したほうがよいケースは?
弁護士に相談した方がいいケースはどのような場合があるのでしょうか。そもそも離婚については、一方がしたいと思っても、もう一方はしたくないと思う場合が多くみられます。そのため、離婚が成立するまでかなりの時間がかかってしまうことが珍しくありません。当事者同士で冷静な話し合いができない場合も多いです。
また、金銭面での話し合いについては、双方で「損をしたくない」という感情が強くなってしまうため、なかなか折り合いがつかない傾向があります。
離婚に応じてもらえない、金銭面での話し合いがまとまらないような場合は早期に弁護士に相談することをおすすめします。
調停や訴訟になってしまった場合、手続きの面では難しい部分が多いため、弁護士に相談すればスムーズに手続きを進めることができるでしょう。
その他、困ったことがあれば、弁護士に相談してみることをおすすめします。離婚は結婚と同様に、人生において何度もあるわけではありません。そのため、分からないことも多いだけでなく、結果的には不利な立場になってしまうおそれがございます。
5、まとめ
離婚は結婚するよりも労力が必要だといわれています。共有していた家具から預貯金まで、財産分与の取り決めも非常に大変です。特に金銭面では大きなトラブルに発展することもあります。こうしたことから、早めに弁護士に相談することをおすすめします。熟年離婚をしたい、したいけれど相手が応じてくれないなどとお困りの場合は、ベリーベスト・大宮オフィスまでお気軽にご相談ください。大宮オフィスの弁護士が力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています