離婚の財産分与で借金はどう取り扱うべきか? 弁護士が解説します
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厚生労働省が公表している「人口動態総覧」によると、平成28年の埼玉県の離婚率は1.74(人口1000人当たりの離婚数)と、全国で11番目に高い数値を示しています。
夫婦が離婚するにあたってはさまざまな事柄について整理しなければなりませんが、その中でも重要なのは、結婚生活を送っていた間に築いた「財産」に関することではないでしょうか。
婚姻中に共同で築いた資産を分け合うことは、お互いの離婚後の生活にとって非常に大切なことです。しかし、財産といっても必ずしもプラスの財産だけとは限りません。離婚時、家庭にマイナスの財産(借金)がある場合、その扱いはどうなるのでしょうか?
今回は、離婚するにあたって家庭に借金がある場合の「財産分与」(夫婦で資産を分け合こと)がテーマです。「すべての借金が財産分与の対象となるのか」、「資産より借金のほうが多い場合の財産分与の方法」などについて、大宮オフィスの弁護士が解説いたします。
1、財産分与とは
財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を離婚時に分け合うことをいいます。
民法768条1項には、「・・・離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」と規定されており、不貞行為などによって離婚原因をつくった側からも財産分与を請求することができます。
財産分与の割合は、2分の1ずつが基本です。これは、夫婦のどちらかが専業主婦(主夫)の場合であっても同様と考えられています。
もっとも、財産形成への貢献度に差がある場合には割合が変化することもありますし、財産分与はあくまでも個人間の問題ですから、夫婦の話し合いで双方が納得するのであれば、どのような配分で分けても問題ないというのが大前提です。
財産分与の対象となる財産には、貯金、不動産(家や土地)、家具・家電といったプラスの財産のほか、住宅ローンなどのマイナスの財産(借金)も含まれることがあります。
財産分与の請求は、離婚の前後どちらでもできますが、離婚成立後2年が過ぎてしまうと家庭裁判所への請求ができなくなるので注意しましょう。
2、財産分与の対象とならない借金
マイナスの財産も財産分与の対象となり得ますが、すべての借金が対象となるわけではありません。
「結婚生活を送っている間に二人で築いた財産を清算する」のが財産分与の主な目的ですから、どちらかが結婚前につくった借金については、財産分与の対象とならないのが基本です。
また、結婚後につくった借金であっても、夫婦の共同生活の中から生じた借金とはいえない場合には、財産分与の対象にはなりません。
たとえば、「妻が高級ブランドバッグを買うために借りたお金」や「夫がギャンブルでつくった借金」は、通常、個人的な借金として財産分与の対象外となります。
3、財産分与の対象となる借金
財産分与の対象となる借金のうち、最も身近なものとして挙げられるのは、住宅ローンや車のローンでしょう。
そのほか、通常の生活を送るために生活費として借り入れたお金や、医療費、子どもの教育費として借りたお金なども財産分与の対象となります。
4、財産分与の方法
具体的な財産分与の方法をみていきましょう。プラスの財産が債務(借金)より多い場合と少ない場合では、財産分与の方法に違いがあるのでしょうか?
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(1)プラスの財産が債務より多い場合
まずは、プラスの財産が債務より多い場合の財産分与の方法をみていきましょう。
結論から言いますと、この場合、プラスの財産から債務の金額を引いて残った財産を分与の対象とするのが一般的です。
例として、“夫名義で組んだ住宅ローンの残高が1000万円”あり、“夫名義の預貯金が2000万円”あるようなケースについて考えてみましょう(わかりやすくするため、これを全財産とします)。
この場合、借金(住宅ローン)を考慮せず、預貯金と不動産を折半してしまうと、夫だけが引き続き借金を負うことになってしまい公平さに欠けます。そこで、住宅ローンなど、借金が婚姻生活に必要なものであった場合には、借金の名義に関わらず、プラスの財産からマイナスの財産(借金額)を引いて、残った財産を分与の対象とするのです。
つまり、預貯金2000万円(プラスの財産)から債務額1000万円(マイナスの財産)を引いて残った額である1000万円を、ふたりで500万円ずつ分けることになります。 -
(2)プラスの財産が債務より少ない場合
それでは、プラスの財産が債務より少ないときの財産分与はどうなるのでしょう?
先ほどの“プラスの財産が債務より多い場合”と同じように、プラスの財産から借金を引いたものを財産分与の対象と考えると、分与の対象となる財産はマイナスとなってしまいます。
このような場合、マイナスの財産(残った借金)を夫婦で半分ずつ分けなければならないかというと、そうではありません。 “債務超過(預貯金や不動産などの資産を、借金などの負債が超えた状態)の部分については考慮しない”というのが、基本的な考え方になります。
例として、“夫名義の預貯金が500万円”あり、“夫名義の住宅ローンが1000万円”残っているケースをみていきましょう。
この場合、プラスの財産500万円からマイナスの財産1000万円を引いた額は-500万円ですが、夫婦がそれぞれ-250万円(-500万円を折半)ずつ借金返済の義務を負うことにはならないのです。現在の実務では、“財産分与はできない”ということになります。つまり、ローンの名義人である夫には、預貯金500万円と住宅ローン1000万円がそのまま残り、妻には財産も借金も残らないということになるのです。
ただし、これはあくまでも審判等になった際の考え方であって、協議や調停で財産分与を行う場合、異なった分配や負担にすることも可能です。「夫婦で住むために購入した家のローンなのだから、名義は自分(夫)であっても妻にも債務を負担してほしい」、「(債務超過でも)ある程度の分配は受けたい」などとお考えでしたら、あらかじめ弁護士に相談することをおすすめします。
5、財産分与の進め方
協議・調停・審判、3つの方法それぞれの進め方をみていきましょう。
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(1)協議による財産分与
財産分与は離婚と同時に行われるのが一般的です。協議離婚(夫婦の話し合いによる離婚)であれば、その話し合いの中で財産の分配についても決定するのが理想的といえるでしょう。
ただ、離婚の意思は夫婦に共通していても、財産分与に関しては折り合いがつかないような場合、離婚だけを先に成立させ、財産分与については後から協議するという方法もあります。
話し合いの流れは以下のようになります。
- ①財産分与の対象となる財産の洗い出し・確定をする
- ②その財産の価値を確定する
- ③財産分与割合を決定する
協議がまとまったなら、金額・支払日や期間、方法などを公正証書にしておくことをおすすめします。公正証書は強い証拠力を持つため、万が一、後に裁判などに発展した場合に役立ちます。
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(2)調停による財産分与
協議で決められなかった場合には、家庭裁判所に「財産分与請求調停」を申し立て、財産分与を求めることができます(離婚成立前であれば、「夫婦関係調整調停」を申し立てることで財産分与についても話し合うことができます)。
調停委員が間に入って話し合いが進められますが、調停は裁判とは違い、あくまでも当事者の合意を目指すものです。そのため、調停委員が財産分与の方法などを強制的に決定することはありません。なお、離婚後の財産分与請求調停では、調停が不成立となった場合、自動的に審判手続きに移行します。 -
(3)審判による財産分与
調停でも話し合いがまとまらなかった場合、最後の方法として審判で結論を出すことになります。裁判官が財産分与の方法を決定するのですが、この審判決定に納得できない場合には、不服申し立てをすることができます。ただし、不服申し立てができる期間は2週間と決まっているので注意が必要です。
審判となると、相当の労力や時間を費やすことになってしまいます。可能であれば、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。財産分与の方法が原因で離婚後に苦しむことがないよう、早期かつ有利に話し合いを整えましょう。
6、まとめ
今回は、借金がある場合の財産分与について解説しました。
この記事内では、考えやすいようシンプルな財産構成を用いて説明しておりますが、実際の家庭における財産には、自宅や車の価値、年金、退職金などさまざまなものがありますから、財産分与はとても複雑なものになると考えられます。
財産分与にあたっては、借金を含めた全財産をリストアップする必要がありますが、それを自力で行うことは非常に困難です。場合によっては、相手(夫または妻)が財産を隠し持っていることもあるでしょう。
弁護士に依頼することで、対象となる財産を見落としなく洗い出したうえでの公正な財産分与が可能になります。ベリーベスト法律事務所には、財産分与に関する実務経験豊富な弁護士が多数在籍しております。無料相談も行っていますので、財産分与のことでお悩みでしたらお気軽にお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています