DNA鑑定で子どもの父親じゃなかったことが判明したとき可能な法対応

2024年02月05日
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DNA鑑定で子どもの父親じゃなかったことが判明したとき可能な法対応

さいたま市が公表する人口動態総覧によると、さいたま市では令和3年に9720人が出生しています。子どもが生まれることは大変めでたくうれしいことですが、中には「子どもが自分に似ていない」「DNA鑑定をしたら父親じゃなかったことが発覚した」などでお悩みの方がおられます。

さらに、令和6年4月1日から改正民法が施行されることによって、離婚後300日以内に生まれた子については、母親が再婚した後に生まれたのであれば、再婚後の夫の子どもであると推定されることになります。男性からしてみたら、なおさら自分の子どもかどうかがわかりにくくなったとお感じになる方がいらっしゃるかもしれません。

なお、最近ではDNA鑑定の精度が高まり、99.9%以上の確立で親子関係を判断できるとされています。そこで、DNA鑑定で親子ではないとわかった場合、父親はどうすべきか、離婚できるのか否かなどについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、DNA検査の結果父子関係がなければ養育費は不要?

養育費の請求は、法律上の親子関係がある場合に、子どもを養育する親から、養育していない親に対して支払いを求めることができる権利です。法律上の親子関係は、結婚している夫婦の間に子どもが生まれた場合と、親が子どもを認知した場合に発生します。そして、妻が婚姻期間中に懐胎した子どもは、常に夫の子どもと推定されるため(民法772条1項)、法律上は夫の子どもとして扱われます。さらに、令和6年4月1日以降は、前述のとおり、離婚してから300日以内に生まれた子どもについては、母親が再婚していれば新たな夫の子どもとして扱われることになります。

そのため、この法律上の親子関係を解消しない限り、養育費の支払義務が継続するのです。
つまり、たとえ離婚話に発展して、妻と別居することになっても、正式に離婚が成立する離婚までの間は、妻の生活費も支払わなければなりません。このように、DNA鑑定の結果が明白に親子関係を否定するものであっても、すぐに養育費や婚姻費用を支払う義務がなくなるわけではないことを覚えておきましょう

2、自分の子どもではないことを公的に認めてもらうには

  1. (1)嫡出否認の訴え

    法律上の親子関係を否定する手段には2つあります。ひとつは、嫡出否認の訴えです。この訴えは、子どもが生まれたことを知ってから1年以内に提起しなければならないという強い制限があります。出生から1年を超えると、裁判所に訴えること自体ができなくなるのです。

    具体的には、自分の子どもが次のいずれかに該当する場合は、推定される嫡出子という身分を持っています。

    • 結婚から200日を経過した後に生まれた子ども
    • 離婚してから300日以内に生まれた子ども


    この場合、父親が自分の子どもでないと主張するためには、原則として、子どもの出生を知った日から1年以内に嫡出否認の訴えを起こすしかありません。ただし、令和6年4月1日以降は、この1年以内という出訴期間が3年に伸長されます。民法改正により多少期間は延びることになりましたが、それでも、もしも、自分の子どもが自分と似ていない、出生の日時に不審な点があるなどの事情があるなら、出生からはなるべく早くDNA鑑定を行って、親子関係を確認するべきでしょう。

  2. (2)親子関係不存在の訴え

    嫡出否認の訴えが提起できない場合、親子関係不存在確認の訴えを提起することになります。親子関係不存在の訴えには、出生を知ってから1年以内といった期間制限もなく、嫡出否認の訴えに比べると利用しやすい制度です。しかし、実際に親子関係の不存在が認められるかどうかのハードルは、かなり高く厳しいのが実態です。先例となっている平成26年の最高裁判決をご紹介します。

  3. (3)平成26年最高裁判例

    平成26年、最高裁において99.9%の精度で父子関係はないとのDNA鑑定結果が証拠として出されたケースにおいて、DNA鑑定の結果を理由として父子関係を否定することはできないという判断が出されました。

    親子関係は、原則としては生物学上の親子関係を前提としたものです。したがって、この判決が出るまでは、生物学上の親子関係がひとつの基準であり、いわゆる実の親かどうかが重要だとされていました。しかし、この最高裁判決では、嫡出推定は子どもの身分を守るために重要な制度であり、法律上の父子関係と生物学上の父子関係が一致しないこともあり得ると結論付けたのです。

    この判決は、DNA鑑定が明白に父子関係を否定していても、親子の縁を切ることは許されないという画期的な判断を示したものとして、大変注目されました(最高裁平成26年7月17日)。

    なお、この判例のケースは、父親ではなく、母親側が子どもの法定代理人として父と子どもとの間の父子関係を否定する訴えを起こしたものです。母親は結婚当初から浮気をしており、実際に浮気相手の男性の子どもを妊娠して出産しました。そして、夫はそのことに気づきながらも、生まれた子どもを自分の子どもとして届け出て、家族として一緒に暮らしてきたという事情があります。

    母親が訴えを提起した時点で、すでに夫婦は離婚しており、母親が子どもを引き取って養育していました。なお、子どもは母親の当時の浮気相手の子どもであるというDNA鑑定が出されています。

    この判例に従うと、たとえDNA鑑定で血縁関係はないという判断が出ても、法律上の親子関係を否定する手段はなく、その後も子どもに対して養育費を支払い続けなければならない可能性が高いといえます。それほど、子どもの権利は強く認められているということになります。

3、離婚までのプロセスと注意点

このように、子どもとの縁を切ることはできなくても、離婚によって妻との関係を解消することは可能です。自分の子どもだと信じて育ててきた子どもが実は他人の子どもだったと知ったなら、妻を信頼できなくなって離婚したいという気持ちになるのも当然でしょう。この場合、どのように離婚手続きを進めるのかご説明します。

  1. (1)協議離婚

    日本の離婚はほとんどが夫婦間の話し合いによって進められています。いわゆる離婚届に双方が署名押印して、役所に提出する離婚方法が協議離婚です。

    話し合うべき内容としては、子どもの親権者をどちらにするか、子どもとの面会を希望する場合はその条件や頻度、養育費、慰謝料、財産分与、住居をどうするかなどで、多岐にわたります。夫婦間の信頼関係が壊れている場合は、子どもとの関係をどうするか悩んでいる場合は、夫婦だけで話し合いをまとめることは難しくなるでしょう。

  2. (2)離婚調停

    夫婦だけの話し合いでは決着できないときは、家庭裁判所の調停制度を利用しましょう。調停は裁判所を通じて、当事者間での話し合いを行う場所です。男女1名ずつの調停委員が間に入り、双方の言い分を聞いて話を進めます。この調停を通じて成立した離婚が、調停離婚と呼ばれています

    夫婦が同席して顔を合わせることは原則としてありません。待合室も別々に用意されており、不仲な関係に配慮したつくりになっています。調停は、平日の日中、おおむね、1か月に1度のペースで進められます。調停で、離婚や離婚に関する条件がすべて決まり、双方が納得すると調停は成立します。

    ただし、調停はあくまで話し合いの場であって、裁判所が何かを決定するところではありません。したがって、夫婦のどちらかが納得せず、合意がいつまでも得られなければ、離婚調停は不成立となって終了します。また、調停を起こしても、そもそも相手が出頭しなければ調停は進みません。裁判所が強制的に相手を連れてきてくれるわけでもなく、相手が来なければ不成立として終了の手続きがとられます。

  3. (3)離婚訴訟

    調停が不成立になった場合は、相手と離婚するためには離婚訴訟を訴えるしかありません。離婚訴訟で勝てば、たとえ相手が離婚を嫌がっていても、強制的に離婚が可能となります。裁判で成立した離婚は、裁判離婚と呼ばれます

    しかし、訴訟で離婚が認められるためには、民法第770条で定められた5つの事情のうちの最低ひとつが認められる必要があります。この事情のことを法定離婚事由といいます。この点が、協議離婚や調停離婚と、離婚訴訟との大きな違いです。

    さて、民法770条が規定する法定離婚事由とは、次の5つです。

    1. ①配偶者に不貞な行為があったとき
    2. ②配偶者から悪意で遺棄されたとき
    3. ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
    4. ④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
    5. ⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき


    なお、これらのどれかに該当すれば、必ず離婚が認められるというわけではありません。裁判所は、上記①から④の事由がある場合でも、やはり婚姻の継続が相当と認めるときは離婚の請求を棄却し、離婚させないという判断をすることができるのです。

    夫婦間に生まれた子どもが自分の子どもではないという場合、妻の妊娠時期が結婚した後であれば、妻が自分以外の男性と性交渉をしていた事実が立証できます。したがって、法定離婚事由のうち➀が立証できることになります。この場合、夫側からの離婚請求が認められる可能性は高いでしょう。

    また、仮に妻の妊娠時期が明白でなく、結婚前の可能性がある場合はどうでしょうか。たとえば、妻がこの子どもは別の男性の子どもだと知りながら、それをあえて隠して結婚し、夫をだましてきたようなケースです。この場合、夫婦間の信頼関係を破たんさせる事情として、離婚が認められる可能性があります。

    他方、妻もその子どもを夫の子どもだと信じており、夫をだますようなつもりはなく、出産後の夫婦関係も良好だったケースもあるでしょう。この場合、実質的に離婚を認める理由がなく、夫からの離婚請求が否定される可能性があるといえます。

    このように、離婚自体が認められなければ、たとえ、別居を続けていても、婚姻費用の支払いを続けなければならないことを覚悟しておく必要があるでしょう。

4、離婚の相談は弁護士へ

離婚や親子関係に関することは早めに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談するメリットについて以下ご説明します。

  1. (1)タイミングを逃さないで済む

    嫡出否認の訴えは、子どもが生まれたことを知ってから1年以内という短期間に訴えを提起しなければ認められません

    訴訟の提起はさまざまな法的なルールにしたがって行う必要があります。自分おひとりでやることは時間のロスにつながります1日でも早く弁護士に相談して、迅速に手続きに入るべきでしょう

  2. (2)嫡出否認以外の方法を検討できる

    すでに出生から1年を過ぎてしまった場合には、親子関係不存在の訴えを提起するしかありません

    しかし、最高裁判例が示すとおり、その道のりは楽ではありません。経験豊富な弁護士に相談し、自分の場合にはどんな可能性があり得るのかぜひ確認してみることをおすすめします。

  3. (3)離婚の交渉のポイントがわかる

    離婚は結婚と違って、たくさんの条件を決めたり、負の感情と戦ったりと、負担の大きな作業です。特に、妻が自分を裏切っていたという不信があると、冷静な交渉は極めて困難になるでしょう。そんな中でも、自分に不利にならないように交渉を進めるためには、弁護士に相談して重要なポイントを整理することです

  4. (4)法的な手続きを任せることができる

    協議離婚で成立する場合でも、条件を決めた離婚協議書は必ず作成すべきです。この協議離婚書面の内容次第で、将来のさまざまな権利関係が決まってしまいますので、必ず弁護士に相談すべきでしょう。

    また、協議がうまくいかず調停や裁判に進む場合は、法的にどんな主張をすべきか、慎重に検討しなければなりません。特に、訴訟では訴えを起こす側がすべての立証責任を負っています。つまり、自分が提出する証拠ひとつで結果が変わるということです。訴状や準備書面など、法的な書面を作成し、提出のタイミングを考えるのも、弁護士ならではの仕事です。

  5. (5)精神的に落ち着ける

    離婚だけでなく、子どもとの関係まで悩みが広がっている場合は、相当な精神的負担を負っています。知らないうちに疲れがたまり、仕事にも支障が出るかもしれません。また、日々の生活で子どもとどうやって関わっていけばよいのかわからなくなる人も多いものです。

    こうした場合に、経験豊富な弁護士に相談することで客観的な立場から親身にアドバイスを受けることができ、精神的な負担からかなり解放されることになります

5、まとめ

DNA鑑定で実の子ではないとわかったときのショックは大きいものです。そのショッキングな現実を踏まえてどう行動するか、自分おひとりで判断して行動していくことは難しいものではないでしょうか。交渉においても裁判においても、弁護士に相談することで的確に前に進んでいくことができます。

ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでは、親子関係不存在確認や離婚問題についても経験豊富な弁護士が在籍し、お話を丁寧にうかがっています。まずはお気軽に法律相談へお越しください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています