遺産も財産分与の対象になるの? 婚姻中に発生した相続との関係
- 財産分与
- 財産分与
- 遺産
さいたま市の人口動態総覧によると、同市内における令和元年中の離婚件数は1963件で、前年比+8件とほぼ横ばいでした。
本来であれば、離婚の数だけ財産分与が行われているはずです。中でも、ご両親の死亡等によって遺産(相続財産)を相続した後、配偶者と離婚することになった場合、遺産が財産分与の対象になるかどうか、気になる方もいるでしょう。
本コラムでは、遺産が離婚時の財産分与の対象になるかどうかを中心に、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、財産分与の概要と分与すべき財産の条件
遺産を財産分与する必要があるかどうかを考えるにあたっては、前提として、財産分与に関する基本的なルールを理解しておかなければなりません。
まずは、民法に基づき財産分与に関する原則的な取り扱いを解説します。
-
(1)財産分与とは?
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に共同で築き上げた財産を、離婚時に夫婦間で公平に分ける手続きをいいます。
婚姻期間中は、夫婦は相互に助け合って生活を成り立たせる義務があります。そのため、法的には片方の名義で取得した財産であっても、実質的には夫婦が協力して手に入れたものであると考えるべきケースが多いのです。
たとえば、サラリーマンと専業主婦の夫婦のケースでは、形式的にはサラリーマンである夫の側が収入(所得)を得ることになります。しかし、夫の収入(所得)は、専業主婦である妻による家事労働などの支え(内助の功)によって成り立っていると考えられます。
離婚時においては、上記のように婚姻中に夫婦が協力して手に入れた全ての財産につき、多く持っている方から少なく持っている方に対して分与させることで、夫婦間の公平が図られるのです。
以上が、財産分与の基本的な考え方となります。 -
(2)財産分与の対象は、夫婦の共有財産
財産分与の対象となるのは夫婦の「共有財産」です。これに対して、夫婦の一方が単独で所有し、かつ、財産分与の対象とならない財産を「特有財産」といいます。
共有財産と特有財産の区別は、以下のように整理されています(民法第762条第1項、第2項)。<共有財産>- 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産
- 夫婦が婚姻中に共同で得た財産
<特有財産>- 夫婦の一方が婚姻「前」から有する財産
- 夫婦の一方が婚姻中に得た財産のうち、「夫婦の協力とは無関係」に得たもの
上記のルールに基づくと、夫婦のどちらかが婚姻中に得た財産であれば、大半が財産分与の対象になるという結論になります。
-
(3)財産分与の割合は原則1対1
財産分与は、原則として1対1の割合で行われるのが離婚実務です。
たとえば、夫名義で800万円、妻名義で200万円を所有しているとします。この場合、夫婦共有財産の総額は1000万円になりますから(800万円+200万円)、財産分与の割合を1対1とすると、夫婦それぞれの取り分は500万円ずつです。現実的なお金の流れとしては、夫から妻に対して300万円を支払うことにより財産分与が完了します。
なお、婚姻中の財産の形成に関して、夫婦の一方のみの貢献度が明らかに高いと認められる場合には、財産分与の割合が変更されることもあり得ます。また、上記の取り扱いにかかわらず、協議によって双方が合意すれば、財産分与の割合を自由に定めることが可能です。
2、相続財産は財産分与の対象になる?
婚姻中に夫婦の一方が取得した財産は、大半が財産分与の対象になると述べました。では、相続によって取得した財産(遺産)は、どのように取り扱われるのでしょうか。
-
(1)遺産は「特有財産」のため、財産分与の対象にならない
相続によって取得する財産は、基本的には婚姻しているかどうかに関係なく取得できるものですから、「夫婦の協力とは無関係」に取得する財産であるといえます。したがって、取得した者の「特有財産」にあたるため、原則として財産分与の対象になりません。
なお、相続によって財産を取得できるのは、以下のいずれかの原因によります。- ① 相続権を有する法定相続人であること(法定相続)
- ② 遺言書に基づき遺贈を受けたこと
①については、純粋に相続人との血縁関係(または養親・養子関係)に基づくものであるため、夫婦の協力とは無関係です。
②についても、被相続人の意思によって行われるものであるため、やはり夫婦の協力とは無関係といえます。
このように、相続によって承継する財産は、夫婦の協力とは無関係な原因によって取得するものです。
そのため、遺産は承継者が「自己の名で」得た特有財産として、財産分与の対象外とされます。
なお、相続や遺贈によって得た遺産と同様に、被相続人から生前贈与を受けた財産についても、特有財産として財産分与の対象から外れると考えられます。 -
(2)協議によって遺産を財産分与することは可能
上記のとおり、遺産は「特有財産」として財産分与の対象外となるのが民法の原則です。
しかし、民法の原則にかかわらず、夫婦は離婚をする際に、財産分与の割合や方法などを自由に決めることができます。
したがって、夫婦間合意をする場合には、遺産を財産分与の対象に含めることも可能です。
もちろん遺産を承継した側としては、民法の原則に従い、遺産の財産分与を拒否する選択肢を持っているわけですが、状況によっては、遺産を財産分与の対象に含めた方が、早期円満な離婚成立につながるケースもありますので、事案に応じて柔軟に判断することが重要です。
3、遺産の財産分与を検討すべき場合もある
前述のとおり、民法上、遺産の財産分与は不要ですから、わざわざ配偶者に遺産を財産分与する必要はないというのが一般的な考え方になります。
たしかにそのとおりですが、以下に挙げるような場合には、遺産の一部を財産分与した方が円滑に離婚を実現できる可能性があります。
離婚協議における交渉戦略にも関わってきますので、方針に迷う場合には弁護士にご相談ください。
-
(1)早期に離婚を実現したい場合
ご自身は離婚をしたいと考えていても、配偶者が離婚に同意しなければ、協議離婚または調停離婚を成立させることは不可能です。
たとえば、配偶者の側が離婚を拒否している場合や、条件面で強硬な主張をしている場合などは、なかなか離婚成立に至らないことが予想されます。
協議離婚ができず、調停離婚も不成立となれば、裁判離婚を目指すことになりますが、時間も費用も労力もかかってしまうでしょう。
このような場合には、離婚成立に向けての交渉の一手段として、自身が相続した遺産の一部を財産分与することを検討してみましょう。
通常であれば財産分与の対象外となる遺産の分与を提案されれば、相手方も協議離婚に傾くかもしれません。また、親権や面会交流など、他の離婚条件について譲歩を引き出せる可能性もあるでしょう。
できるだけ早期に離婚を成立させたい場合には、遺産の財産分与を提案することも検討してみてください。 -
(2)相続した土地に夫婦共有名義の建物が存在する場合
片方が相続によって土地を承継したケースで、その土地上に夫婦共有名義の建物が存在する場合には、以下のように財産分与における取り扱いが分かれてしまいます。
土地:財産分与の対象外
建物:財産分与の対象になる
しかし、土地と建物の権利関係が分かれてしまうのは将来のトラブルのもとです。そのため、離婚時にあえて土地を含めて財産分与の協議を行い、後腐れなく権利関係を清算してしまうことも一考に値します。
たとえば、土地と建物を一緒に売却し、その売却益を分けるなどの方法が考えられます。その際、土地がもともと片方が相続によって得た特有財産であったことを財産分与の割合の中で適切に考慮すれば、公平を図ることも可能です。
上記のようなケースで公平に財産分与を行うには、不動産査定などのプロセスも必要になります。
そのため、弁護士を通じて不動産業者や不動産鑑定士などを紹介してもらい、サポートを受けるとよいでしょう。
4、離婚条件の交渉がまとまらない場合は弁護士に相談を
離婚を早期に実現する観点からは、協議離婚を成立させることがもっとも望ましい方法です。しかし、配偶者が離婚自体に反対していたり、財産や子どもに関する離婚条件等で折り合いがつかなかったりと、さまざまな理由から離婚協議がまとまらないケースが多数見受けられます。
夫婦の離婚協議が成立しないのは、多くの場合、感情的なもつれが存在することや、離婚に関する論点が整理されていないことなどが原因です。
弁護士にご依頼いただければ、依頼者に代わって離婚の交渉を行うため、冷静かつ建設的に離婚協議を進めることができます。また、さまざまな離婚条件について、お互いの希望や都合を整理することで、適切な妥協点を探ることも可能です。さらに、弁護士が間に入ることにより、相手方と直接話し合いをする必要がなくなるという精神衛生上のメリットもあります。
弁護士にご依頼いただくことにより、離婚協議が早期円満にまとまるケースも多いので、ぜひお早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
遺産相続によって取得した財産は、原則として財産分与の対象外です。ただし、離婚協議の状況や、財産に関する権利関係の内容によっては、遺産を財産分与の対象にした方がよいケースもあることに留意しましょう。
財産分与その他の離婚条件について、判断や方針に迷う場合や、なかなか話し合いがまとまらない場合には、お早めにベリーベスト法律事務所 大宮オフィスにご相談ください。あなたの立場を考慮して、法的に適切な対応ができるよう全力でサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています