住宅を財産分与したら譲渡所得税がかかる? かからないケースとは
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さいたま市のサイトには、「土地建物等の譲渡所得に係る課税の特例」の概要が記されたページが存在します。通常、夫婦が離婚する際には財産分与を行いますが、住宅を譲渡した場合でも譲渡所得税が発生するのか、気になる方は少なくないでしょう。
結論を言えば、財産分与の方法によっては譲渡所得税が課されることがあります。本コラムでは、財産分与に関する課税について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。財産分与に関する課税を避けたい場合には、必要に応じて税理士・弁護士に相談しながら対策を行うことをおすすめします。
1、財産分与について問題となる税金とは?
夫婦が離婚する際、これまでの婚姻生活中に形成した財産を分け合う「財産分与」が通常行われます。結論から言えば、財産分与を現金の範囲で行う場合は、ほとんどのケースで税金がかかることはありません。
ただし、一部の不動産や未公開株式などが財産分与された場合、「譲渡所得税」の課税が発生することがあります。また、財産分与の金額が過大な場合には「贈与税」が課税されるほか、不動産の財産分与では不動産取得税・登録免許税が課税されるので注意が必要です。
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(1)譲渡所得税
譲渡所得税は、資産の譲渡益に対して課税される所得税です。
不動産や未公開株式など、金銭に換算した価値が変動する資産について、譲渡所得税の課税が発生する場合があります。
以下の計算式によって求められる金額を譲渡所得として、同じ年の他の所得と合算したうえで、税率表に従って所得税が課税されます。
譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)
財産分与の場合、譲渡価額は「財産分与時の時価」となります。
なお、財産分与の譲渡所得がゼロ以下となる場合には、譲渡所得税は課税されません。
また不動産の譲渡所得がゼロ以下となった場合は、他の不動産譲渡所得と損益通算を行うことで、その年の所得税を軽減できます。 -
(2)贈与税
贈与税は、財産の贈与を受けた際に課税される税金です。
年間110万円までの贈与は非課税とされていますが、それを超えると贈与税が課税されます。
財産分与は、夫婦の共有財産を分けるという性質を持っているため、「贈与」には当たらず、贈与税は課税されないのが原則です。
しかし、以下のようなケースでは、財産分与についても贈与税が課される可能性があります。
- 財産分与の名の下に、過大な金額の財産が移転された場合
- 実質的に婚姻関係を解消する意思がないにもかかわらず、贈与税の課税を免れる目的で離婚届を提出し、財産分与を行った場合
贈与と評価された財産分与と、その年に受けた他の贈与を合算した後、基礎控除額110万円を控除した金額につき、税率表に従って贈与税が課税されます。
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(3)不動産取得税・登録免許税
不動産を財産分与によって移転する場合には、不動産取得税と登録免許税が課税されます。
もっとも、不動産取得税は、夫婦共有財産の清算として行われる財産分与(清算的財産分与)の場合には課税されません。
不動産取得税は、不動産を取得した際に課税される税金です。
不動産の固定資産税評価額に、以下の税率をかけて計算されます。
<不動産取得税の税率>
土地・家屋(住宅) 3%(令和9年3月31日までに取得する場合の特例) 家屋(非住宅) 4%
登録免許税は、不動産の所有権移転登記を行う際に課税される税金です。
たとえば土地の所有権の移転登記の場合、当該土地の固定資産税評価額に、以下の税率をかけて計算されます。
<登録免許税の税率>
売買 1.5%(令和9年3月31日までに登記を受ける場合の特例) 相続・法人の合併・共有物分割 0.4% その他 2%
土地を財産分与する場合は上記の「その他」に該当するため、登録免許税の税率は2%です。
2、財産分与に関する税金はどちらが支払う? ケース別解説
財産分与に関する税金は、種類によって納付義務を負う側が異なります。
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(1)不動産・株式等の財産分与|分与する側が譲渡所得税を支払う
財産分与によって譲渡所得税が発生する場合には、分与する側が納付義務を負います。
譲渡所得税は資産の譲渡益に対して課税される性質上、資産を手放した段階で発生するためです。
財産分与によって、不動産や未公開株式の財産分与を手放す際には、取得に要した費用を確認して、譲渡所得税が発生しないかを検討しておきましょう。 -
(2)過大な金額の財産分与等|分与を受ける側が贈与税を支払う
過大な財産分与、または財産分与に見せかけた贈与と評価された場合には、分与(贈与)を受ける側が贈与税の納付義務を負います。
なお、同じ年に他にも贈与を受けている場合には、贈与税の税率が上がる可能性があるので注意しましょう。 -
(3)不動産取得税・登録免許税は分与を受ける側が支払う
不動産の財産分与が行われる場合、不動産取得税と登録免許税は、分与を受ける側が負担します。もっとも、不動産取得税は、夫婦共有財産の清算として行われる財産分与(清算的財産分与)の場合には課税されません。
登録免許税は財産分与登記の際に納付しますが、不動産取得税は、財産分与後ある程度時間がたってから納付することになりますので、覚えておきましょう。
3、財産分与に関する課税を避けるための対策
財産分与によって課税が発生すると、新生活に向けて資金が必要な時期に大きな負担が生じてしまいます。
財産分与に関する課税を避けたい場合には、以下の対策を行うとよいでしょう。
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(1)現物ではなく金銭で財産分与を行う
譲渡所得税・不動産取得税・登録免許税の課税を避けたい場合には、不動産や未公開株式などの資産による財産分与を避け、金銭による財産分与を行うことが有効です。
弁護士などのサポートを受けながら、対象財産の価値評価を行い、公正な財産分与額を見極めましょう。 -
(2)過大な財産分与は避ける
贈与税の課税を避けたい場合には、過大な財産分与を避けることが大切です。
そのためには、財産形成に関する夫婦の貢献度を踏まえたうえで、客観的に見て適当な財産分与の金額を見積もる必要があります。 -
(3)各種特例を利用する
譲渡所得税・不動産取得税には、税制上の特例による軽減措置がいくつか設けられています。
(例)
- 居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例
(参考:「マイホームを売った時の特例」(国税庁)) - 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得に係る軽減税率の特例
(参考:「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」(国税庁)) - 住宅用土地、家屋に係る不動産取得税の軽減
利用できる特例はすべて利用し、できる限り財産分与に関する課税を軽減しましょう。
税制上の特例の利用については、税理士のアドバイスを受けることをおすすめします。 - 居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例
お問い合わせください。
4、財産分与について弁護士に相談すべき場合とは?
離婚に伴い財産分与を行う場合、まずは弁護士にアドバイスを求め、対応を依頼したほうがよいケースが多々あります。特に以下のいずれかに該当する場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
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(1)夫婦間で財産分与についての意見が食い違っている場合
財産分与に関する希望・意見が異なっていると、夫婦間での話し合いはなかなかまとまりません。
そのようなときは、客観的な第三者である弁護士を通じて交渉することが有効です。
弁護士は、法的な観点から公正な解決策を提案し、双方が納得できる形で財産分与が行えるようにサポートします。 -
(2)財産分与の対象財産の金額が大きい場合
夫婦の共有財産が多額に及ぶ場合、夫婦双方にとって、財産分与はいっそう重要な意味を持ちます。
手続きに慎重を期すためにも、専門家である弁護士に調整をご依頼いただくのが安心です。 -
(3)夫婦仲が険悪で話し合いが難しい場合
離婚を検討するほどの段階では、夫婦仲は険悪になってしまっているケースも多いでしょう。相手の顔も見たくないという状態で、財産分与を含む離婚条件についての話し合いを行うことは、夫婦双方にとって大きな苦痛です。
弁護士にご依頼いただければ、離婚協議における交渉を一括して代行します。相手と直接顔を合わせる必要がなくなりますので、精神的なご負担は大いに軽減されるでしょう。 -
(4)課税が発生しないか心配な場合
これまで解説した財産分与への課税が心配な場合にも、一度弁護士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では、必要に応じてグループに所属する税理士と連携し、税務に関するご相談をお受けすることができます。財産分与に関する譲渡所得税・贈与税・不動産取得税・登録免許税の課税が気になる方は、お早めにご相談いただくことをおすすめします。
5、まとめ
財産分与によって資産を移転する場合、資産の種類や金額などによって、譲渡所得税・贈与税・不動産取得税・登録免許税が課されることがあります。財産分与の方法を工夫することで、これらの課税を避けられる可能性があります。税制は毎年のように改定されることがあるので、お早めに弁護士や税理士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでは、離婚問題に対応した経験が豊富な弁護士が対応します。グループに所属する弁護士および税理士が随時連携を行い、法務・税務の観点から円滑な財産分与をサポートすることも可能です。配偶者との離婚をご検討中の方、財産分与に関してご不明点や心配事をお抱えの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています