亡くなった後に認知させることはできる? 死後認知請求の手続きについて解説

2020年03月18日
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亡くなった後に認知させることはできる? 死後認知請求の手続きについて解説

婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことを、父親が自分の子どもとして正式に認める法的手続きを“認知”と言います。そしてこの“認知”は、父親が亡くなった後でも請求することができるということをご存じですか?

実は大宮オフィスのあるさいたま市大宮区を管轄するさいたま家庭裁判所でも、認知に関する手続きは常に発生しています。司法統計によると、平成30年度中にさいたま家庭裁判所で取り扱われた「合意に相当する審判事項」のうち、認知に関するものは81件でした。

亡くなった後に認知を請求するメリットは、主に相続権です。遺産分割協議が終わった後でも、金銭による支払いを他の相続人に求めることができるようになります。

今回は、死後認知の手続きと注意点について大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、死後認知とは

  1. (1)そもそも認知とはどのような手続きなのか

    冒頭でも説明しましたが、認知とは、「婚姻関係にない男女の間に生まれた子を、父親が自分の子として法的に認める手続き」を意味しています。
    母子関係は出産という事実により証明されますが、父子関係は事情が異なります。母親が複数の男性と交際していた場合、どの男性の子どもなのかは出産によってはわからないからです。

    厳密にはDNA鑑定をしないと本当に父子関係があるのかわかりませんが、民法では婚姻関係にある男女間の子については“摘出の推定”がなされています(民法772条)。
    父母が法律上の夫婦でない場合には、たとえ血のつながりがあったとしても、出生した段階では、父親とその子はあくまでも“法律上他人の状態”です。

    “法律上他人の状態”とはどういうことかといいますと、親子間の法的義務・権利が発生しないということです。たとえば養育費請求権、相続権などです。
    そこで、父親に認知を請求することによって、生物学的にも法律的にも父子関係が認められます。認知されると、子どもの戸籍には認知した父親の名前が記載されます。

    ちなみに、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもは、法律用語で非嫡出子(婚外子)と呼ばれています。
    かつての民法では、非嫡出子の法定相続分は摘出子の2分の1でした。しかし、「生まれる環境は自分で選べないのに、子どもに不利益を負わせるべきでない」という理由から、最高裁で当該条文について違憲判決が下されました。その判決を受けた民法改正後は、非嫡出子も嫡出子と同じ法定相続分となりました。

  2. (2)認知の手続きにもさまざまな種類がある

    認知の手続きにも、以下に述べるとおりさまざまな種類があります。

    ●任意認知
    任意認知とは、父親が存命中に自分の意思で、「自分の子どもである」と認める手続きです(民法779条)。この場合は、父親本人が認知届を市区町村役場に提出します(戸籍法60条、民法781条1項)。ただし、子どもが成人している場合には、子ども本人の合意が必要になります(民法782条)。

    任意認知は、遺言によってもすることができます(民法778条2項)。遺言に「○○を自分の子として認知する」などと記載すれば、効力が生じるとされています。この場合、認知された子どもは他の摘出子と同様に相続権を主張することができます。

    ●強制認知(裁判認知)
    父親が任意認知を拒む場合であっても、裁判手続きによって強制的に認知させることもできます(民法787条)。この制度を、強制認知(または裁判認知)と呼んでいます。
    この場合、まずは裁判を起こす前に調停を経なければならないとされています。離婚・親子関係など家族に関するトラブルを取り扱う家事事件では、裁判の前に、まず調停で話し合う「調停前置主義」(家事事件手続法257条1項)というルールがあるからです。

    父親側が調停でも認知を拒む場合は、「認知の訴え」と呼ばれる裁判を起こすことになります。裁判の中では、証拠としてDNA鑑定を用いることが多いです。生物学的に父子関係にあることが証明され、認知が認められれば、父親の意思とは関係なく養育費の支払い義務等が発生します。

    ●死後認知(死後の強制認知)
    父親がすでに死亡している場合は、死亡から3年以内に死後認知を請求する方法があります(民法787条ただし書)。
    本来であれば父親を相手取って訴訟を起こすのですが、もう亡くなっているため、代わりに検察官を被告とすることになります(人事訴訟法12条3項)。

    死後認知が認められると、生まれた時にさかのぼって父親の子どもであったとみなされるため(民法784条)、相続権が発生します。
    しかし、すでに遺産分割協議が済んでいる場合、もう一度最初から協議をやり直すとなると他の相続人の権利を著しく害してしまうことになります。
    そのため、他の相続人に対して金銭の支払いを請求することで利害調整を図るものとされています(民法910条)。

  3. (3)認知されるメリットとは

    ●子が未成年の場合は養育費を請求できる可能性
    子どもが未成年かつ父が存命中の場合、認知させることで父に養育費を請求できる可能性があります。法律上の父親には、子どもを扶養する義務があるからです。

    ●父を親権者とすることもできる可能性
    上記と同じく、子どもが未成年かつ父が存命中の場合のみ当てはまるメリットです。病気・死亡などの事情で母親が親権者になるのが難しくなった場合、父を親権者とすることもできます。

    ●相続権が認められる
    今回の死後認知のケースで考えられるメリットは、三つ目の“相続権”です。前述の通り、死後であっても、認知されると生まれた時にさかのぼって父子関係にあったとみなされるため(民法784条)、摘出子と平等に相続権を得ることが可能です。

2、死後認知の手続きの流れ

  1. (1)死亡後3年以内に、管轄裁判所に対応する地方検察庁を訴える

    まず、“どこの誰をどこで訴えればよいのか”というところから説明します。
    裁判を起こす場所は、原告(子)の住所地または亡くなった父親の最後の住所を管轄する裁判所となります(人事訴訟法4条1項)。

    訴える相手(被告)は、管轄裁判所に対応する地方検察庁です(人事訴訟法12条3項)。
    死後認知の場合は、父親がすでに死亡しているため“調停前置主義”は取られません。そもそも家事事件の“調停前置主義”は、「家庭内のことはなるべく家族同士の話し合いで解決すべき」という考えに基づく制度なので、死後認知の状況は当てはまらないからです。
    なお、「父の死亡後3年以内」の時間制限があることにご注意ください。

  2. (2)訴訟提起後の全体的な流れ

    弁護士に依頼して訴訟を提起すると、まず被告である検察庁に訴状が届きます。訴訟が提起されると、裁判所は訴訟記録上、氏名及び住所又は居所が判明している利害関係人(相続人(ただし、被相続人の妻は除く。))に対して、訴訟が提起されたことを通知するものとされています(人事訴訟法28条、人事訴訟規則16条)。

    第1回期日では、原告の提出した訴状と被告(検事)の答弁書が陳述され、今後の流れについて話し合います。
    そして、第2回期日までに、補助参加人(正妻・摘出子など)からの意見を記載した書面が提出されることが多いです。
    その後、裁判官は補助参加人に、「DNA鑑定に協力できるかどうか」確認します。DNA鑑定への協力は強制ではないので、拒否される可能性もあることにご注意ください。

    ただしDNA鑑定をできなかったからといって、必ずしも死後認知が認められないわけではありません。裁判官は、DNA鑑定だけでなく他の証拠・証言などから総合的に判断を下すようにしています。

  3. (3)他の相続人に対する相続分請求は、民事訴訟で

    死後認知が認められたら、次は相続分を請求しましょう。
    認知請求訴訟には、数か月から数年かかることもあります。したがって、死後認知が認められる頃には、遺産分割協議がすでに完了していることも少なくありません。

    先ほども述べたとおり、死後認知が認められると相続権が発生しますが、その際にすでに行われた遺産分割協議を無効とし、改めて遺産分割協議をやり直させるのは他の相続人にとっても負担が大きいといえます。
    そこで、民法では、すでに完了した遺産分割協議は有効なものとして、他の相続人に“金銭による支払い”のみ請求できるものとされています(民法910条)。
    この場合は、一般的な金銭支払い請求と同様に民事訴訟手続きによることになります。

3、死後認知を請求する際の注意点

  1. (1)DNA鑑定への協力を拒否される可能性がある

    亡くなった父・夫に婚外子がいたという事実には、大なり小なり衝撃を受ける人がほとんどです。
    DNA鑑定への協力はあくまでも任意ですから、拒否されるケースも中にはあります。

    全く連絡を取っていない状態から突然訴訟手続きを通じてDNA鑑定への協力を求めると、遺族はパニックに陥ってしまうかもしれません。
    できれば訴訟を提起する前に遺族に連絡をとり、その上で協力を求めると、相手も心の準備ができ、協力してくれる可能性を高めることができます。

    ただし、DNA鑑定は、あくまでも判断の精度を高めるための一つの参考として位置づけられています。協力が得られなかったからといって、必ずしも死後認知が認められない訳ではありません。

  2. (2)金銭による遺産支払い請求は、プラスの遺産のみで計算される

    では、亡くなった父の遺産に借金など“マイナスの財産”も含まれていた場合は、どうなるのでしょうか? 通常の相続手続きにおいては、相続人はプラスの財産とともにマイナスの財産も相続するとされています。

    これについて、令和元年8月27日最高裁判決は、「民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額であると解するのが相当である。」との判断を下しました。
    この事例では、摘出子側が「遺産で父親の借金を弁済したので、現金はほとんど残っていない。」と主張していました。

    しかし、裁判所は、民法910「条に基づき支払われるべき価額は、当該分割等の対象とされた遺産の価額を基礎として算定するのが、当事者間の衡平の観点から相当」であること、そして、「遺産の分割は、遺産のうち積極財産のみを対象とするものであって、消極財産である相続債務は、・・・遺産の分割の対象とならないものである。」と判示しました。すなわち、相続の開始後に認知された者が請求できる相続分の金額を算定する際には、マイナスの財産である相続債務は控除されることとなります。

  3. (3)不動産・株式・美術品など価格変動がある遺産は、請求時を基準に計算

    不動産・株式・美術品などの財産は、その時その時で価格が変わっていきます。遺産の中にそのような財産が多く含まれていた場合、いつの時点を基準に相続分を計算すべきなのでしょうか?

    これについて、平成28年2月26日最高裁判決では、死亡後に認知された子どもについては「民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は、価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。」とする初判断を下しました。
    この事件では、平成19年の遺産分割時点で約18億円あった遺産の評価額が、非嫡出子の原告が請求した平成23年時点で約8億円にまで下がっていました。

    前述のとおり、死後認知の効力は出生時にさかのぼるとされていますが、これを徹底すると他の相続人の利益を侵害したり、立場を不安定なものにしてしまうおそれがあります。
    そこで最高裁は、「その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが、当事者間の衡平の観点から相当である」としました。

4、まとめ

死後認知が認められると、相続分の金銭支払いを他の相続人に請求できるようになります。ただし、通常の相続手続きと違って、利害調整のためのさまざまな例外規定があることには注意しましょう。
死後認知には3年間のタイムリミットがありますから、手続きを検討されている方はなるべく早めに弁護士にご相談ください。
死後認知をしたいとお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスにご相談ください。経験豊富な弁護士が、あなたの状況に合わせた適格なアドバイスと対応をいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています