同居義務違反とは? 相手に慰謝料請求や同居命令をすることは可能?

2022年10月04日
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同居義務違反とは? 相手に慰謝料請求や同居命令をすることは可能?

さいたま市が公表する「第21回さいたま市統計書」によると、令和2年のさいたま市では、1816件の離婚がありました。なかでも大宮オフィスがある大宮区では165件の離婚を選択した世帯があることがわかっています。

夫婦には互いに同居義務があり、これに違反すると離婚請求や理屈上は慰謝料請求の対象となる可能性があります。もし配偶者が自分に黙って家を出て行ってしまった場合、適宜家庭裁判所の手続きも活用して、できる限り円満な解決を図りましょう。

今回は、同居義務違反や、夫婦の同居義務に関する法律上の問題点について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、夫婦の同居義務違反とは?

法律上、結婚(婚姻)が認められているのは、男女が協力して生活を営み、「家族」として生活するのがよいとされているためです。
そのため、夫婦には原則として「同居義務」があり、正当な理由なく配偶者と同居しない場合には、同居義務違反に該当します。

  1. (1)夫婦には同居・協力・扶助の義務がある

    民法上、法律上の夫婦には、互いに同居・協力・扶助の義務があります

    (同居、協力及び扶助の義務)
    第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。


    このうち「同居」は、夫婦が共同生活を営むうえでの前提になる要素です。
    同居していればこそ、夫婦は臨機応変に互いを助け合い、より良い家族を形成できると考えられます。

  2. (2)夫婦の同居義務違反が認められるケース

    正当な理由なく配偶者と同居しない者は、民法上、同居義務違反に該当します

    同居義務違反が認められる場合の例は、以下のとおりです。

    • 配偶者とちょっとした言い争いをしたことをきっかけに、無断で長期間にわたってまったく家に帰らなくなった
    • 「仕事をするために都合がよいから」という理由で、配偶者が反対しているにもかかわらず、自宅とは別のマンションを賃借して住み始めた
    • 「実家のほうが居心地がよいから」という理由で、実家に泊まって過ごしている
    など
  3. (3)夫婦の同居義務違反が認められないケース

    ただし、夫婦の同居義務は絶対的なものではなく、正当な理由があれば、別居状態でも同居義務違反に当たりません
    たとえば、以下のいずれかに該当する場合には、夫婦の同居義務違反には該当しないと考えられます。

    1. ① 配偶者が別居に同意している場合
      同居をすることが、夫婦がよりよく協力するための唯一の方法とは限りません。また、転勤に伴う単身赴任など、やむを得ず別居せざるを得ないケースもあります。
      夫婦がお互い納得のうえで別居しているのであれば、それを尊重したほうがよいと考えられるため、同居義務違反には当たりません。
    2. ② 別居が一時的なものにとどまる場合
      夫婦仲が一時的に悪くなった場合に、冷却期間として一時的に別居することは、夫婦仲を修復するために有益となるケースもあります。
      そのため、将来的には再び同居するという前提のもと、一時的に別居しているにすぎない場合には、同居義務違反に該当しないと考えられます。
    3. ③ DVやモラハラから逃れるために別居した場合
      夫婦の一方が、他方からDVやモラハラの被害を受けている場合には、夫婦の同居義務よりも、被害者の心身の保護を優先すべきことは明らかです。
      したがって、DVやモラハラから逃れるために別居した場合には、同居義務違反に該当しません。

2、同居義務に違反する相手への対抗手段

夫婦の同居義務に違反して、一方的に別居した相手に対して取り得る法的手段は、主に「離婚請求」と「慰謝料請求」の2つが考えられます。

  1. (1)離婚請求

    1つ目の対抗手段として、相手に離婚を求めることが考えられます。

    相手が離婚に同意すれば、協議や離婚調停を通じて離婚を成立させることができます。
    これに対して、相手が離婚を拒否している場合には、訴訟で「法定離婚事由」(民法第770条第1項各号)を立証しなければなりません。

    この点、配偶者が同居義務違反に該当する行動をとっているケースでは、配偶者の行為が「悪意の遺棄」(同項第2号)に該当する可能性があります。

    「悪意の遺棄」とは、正当な理由がないのに、夫婦間の同居義務や扶養義務等に違反する行為を意味します。
    別居の期間が長期におよんでおり、その間戻ってきてもらうよう何度も説得したり後述する手続きを利用したにもかかわらず戻ってこない、かつその間の生活費を相手がまったく負担しないなどの事情があれば、悪意の遺棄が認められる可能性が高いです。

    悪意の遺棄が立証されれば、離婚訴訟において離婚を認める判決を得ることができます。

  2. (2)慰謝料請求

    2つ目の対抗手段としては、同居義務に違反している配偶者に対して、慰謝料の支払いを請求することが理屈上は考えられます。

    慰謝料とは、「不法行為」(民法第709条)によって被害者が受けた精神的な損害を賠償するため、加害者が被害者に支払う金銭のことです。
    同居義務違反は「不法行為」に該当するといえるため、理屈上、慰謝料請求の対象になります。

3、相手に対して同居を求める方法

離婚請求や慰謝料請求といった強硬な手段に出る前に、まず相手に対して同居を求め、夫婦関係の修復を図るのがよいでしょう。

相手に再び同居を求めるためには、直接相手を説得する方法と、家庭裁判所の調停・審判手続を利用する方法が考えられます。

  1. (1)同居するように相手を説得する

    夫婦間で話し合いができる状態であれば、最初は相手と直接協議し、再び同居してもらうように説得を試みましょう。

    説得に当たっては、法律上の同居義務があることに加えて、同居によって実現できるメリットをしっかりと伝えることが考えられます。
    また、同居にわたって障害となる問題点がある場合には、何らかの歩み寄りを含めた改善策を提示すると、説得が成功しやすいでしょう。

  2. (2)家庭裁判所に調停・審判を申し立てる

    夫婦間の直接の話し合いがうまくいかない場合には、家庭裁判所に同居を求めるための調停(同居調停)を申し立てることも選択肢としてあります

    家庭裁判所の調停では、調停委員が夫婦双方から事情を聴き、夫婦関係が円満でなくなった原因を探りながら、改善に向けた方策を話し合います。
    最終的に、夫婦双方が一定の内容で合意した場合、調停は成立となります。

    調停が不成立となった場合でも、夫婦の同居義務については、家庭裁判所に対して審判による結論の提示を求めることが可能です(家事事件手続法第39条、別表第2第1号)。

  3. (3)同居義務の強制執行は認められない点に注意

    協議・調停・審判の手続きを通じて、夫婦の同居義務が肯定されたとしても、相手方に対して同居を強制することはできません

    嫌がる相手を無理やり縛り付けて同居させること(直接強制)は、居住・移転の自由(憲法第22条第1項)などの観点から問題があるのは明らかです。
    また、同居を開始するまでの期間に金銭的なペナルティーを課す「間接強制」も、夫婦の同居義務については認められないとされています(大審院昭和5年9月30日判決など)。

    したがって、強制執行によって配偶者に同居を強制することはできず、最終的には離婚請求などを通じた解決しかない点に注意しましょう。

4、相手が家を出て行った場合に知っておくべきこと

配偶者が突然家を出て行ってしまった場合、生活費を確保することと、相手の居場所を突き止めることの2点が大切です。

  1. (1)婚姻費用の分担を請求できる

    夫婦は、同居しているか別居しているかにかかわらず、資産・収入等に応じて、婚姻から生ずる費用(生活費)を分担する義務を負います(民法第760条)。

    したがって、ご自身よりも配偶者のほうが、経済力が上回っている場合には、別居期間中の生活費の支払いを受けられる可能性があります
    請求できる婚姻費用の金額については、弁護士にご確認ください。

  2. (2)居場所がわからない場合は、戸籍の附票で住所確認を

    配偶者が行き先を告げずにいなくなってしまった場合、戸籍の附票を確認すると、配偶者の住所がわかる可能性があります。

    戸籍の附票とは、戸籍が作られてから現在に至るまでの住所の履歴を示す書類です。
    もし配偶者が住民票を移していれば、戸籍の附票を確認することで、配偶者の住所を突き止めることができます

    別居が長期間におよぶようであれば、戸籍の附票を取り寄せて確認してみましょう。

5、まとめ

今回は同居義務違反や注意点について説明しました。

夫婦には同居義務があり、正当な理由なく配偶者に無断で別居した場合、同居義務違反に該当します。

もし配偶者が勝手に家を出て行った場合、話し合いや家庭裁判所の調停・審判手続を通じて、同居を再開するように求めましょう。
話し合いがうまくいかなければ、離婚請求などを行うこともご検討ください。

ベリーベスト法律事務所は、家族間トラブルに関するご相談を随時受け付けております。
配偶者との関係性が悪化し、別居状態となってしまった方は、お早めにベリーベスト法律事務所 大宮オフィスへご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています