ネットで誹謗中傷や風評被害に遭った! 可能な対処方法と被害相談先
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なんとなくインターネットで自分の名前を検索してみると、検索結果にネット掲示板が。開いてみると「○○さんは不倫している」「○○は死ね」などと書き込まれ、自分の写真と電話番号がさらされている……。
恐ろしい話ですが、実際に起こり得るネットの誹謗中傷・風評被害です。被害に遭うと仕事や家庭に影響が出たり、精神的に参ってしまったりする方もいらっしゃいます。
「誰がこんなことを……」と頭を抱えてしまうかもしれませんが、情報の拡散を防ぐため、気づいたらすぐに対処することが肝心です。
そこで今回は、ネットの誹謗中傷・風評被害で頼りになる相談先と対処方法などを、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、ネットの誹謗中傷・風評被害とは?
インターネット上にはさまざまな情報があふれていますが、どのようなものが誹謗中傷や風評被害にあたるのでしょうか? またどんな罪に問われるのでしょうか?
まずは一般的なネットの誹謗中傷・風評被害の概要についてご説明します。
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(1)ネットの誹謗中傷・風評被害とその特徴
誹謗中傷とは、他人を悪く言う「誹謗」と、根拠のない悪口や嫌がらせで他人の名誉を傷つける「中傷」とが合わさった言葉で「根拠のない悪口を言いふらしたり嫌がらせをしたりすることで、他人の名誉を傷つけること」という意味があります。
ネット上で行われる誹謗中傷は多くの場合、匿名で行われるという特徴があります。
ネット掲示板ではハンドルネームなどが使われていることが多く、書き込んだ相手の氏名などは通常、わかりません。またSNSの場合も、ニックネームなどで登録されていたり、誹謗中傷するために作られた専用アカウントであったりすることがあります。
匿名であることは内容をエスカレートさせ、また無責任な情報拡散を助長する原因にもなっています。被害者にとっても、相手の顔がわからないことで不安はより大きくなるでしょう。
ひどい言葉を浴びせられたり、身に覚えのない情報が広まったりすることで「誰がこんなことをしたのか」「自分が悪いのだろうか」と精神的に追い込まれてしまう方もいらっしゃいます。
また飲食店などの場合、誹謗中傷の口コミがあると風評被害が広がり、売り上げの低下につながることもあります。
ネット上の書き込みが、いつのまにか実際の生活にも影響を与えるようになるのです。
誹謗中傷はネット上のあらゆる場所で行われています。ネットの掲示板はもちろん、TwitterやFacebook、InstagramといったSNS、個人ブログや口コミサイト、Yahoo!知恵袋、Googleマップなどにも書き込まれることがあります。 -
(2)誹謗中傷は罪に問われる? 刑事罰は?
ネット上にはさまざまな書き込みがありますが、誹謗中傷には具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
誹謗中傷の書き込みは、主に以下の4つに分類されます。
- 名誉毀損(きそん)
- 侮辱
- 信用毀損・業務妨害
- プライバシー権の侵害
「名誉毀損」は、たとえばネット掲示板に「○○は会社の金を横領した」「○○は前科者」などと、事実の摘示をすることによって、特定の相手の社会的評価や信頼を失墜させることです。
名誉毀損は刑事責任を問える可能性があります。
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀(き)損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役、もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処する」(刑法230条第1項)
名誉毀損罪は、書き込みの内容が事実でない場合はもちろん、事実である場合にも対象となります。
たとえば前科などは通常他人に知られたくないことであり、それを勝手に暴露することで相手の名誉を傷つけることになるからです。
ただし書き込みに公共性や公益性があり、かつ真実である場合には名誉毀損の対象外となります。
「侮辱」は、たとえばTwitterに「○○はバカ」「知能低すぎ」などと、事実の摘示をすることなく、相手の人格や容姿などを否定し侮辱することです。
侮辱も刑事責任を問える可能性があります。
「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する」(刑法231条)
侮辱罪は名誉毀損罪とは異なり、特定の事実を示す必要はありません。相手を侮辱し傷つける、ひどい言葉や悪口を投げかけることで該当します。インターネット上の誹謗中傷が増加したことを受け、令和4年に法改正が行われ、厳罰化しました。令和4年7月7日以降の書き込みの場合は厳罰化した法定刑が科されることになります。なお、改正前の法定刑には懲役刑の規定がなく、拘留または科料でした。
「信用毀損・業務妨害」は、会社やお店に対して「○○店は国産と偽って外国産の肉を売っている」「食べ物に虫が入っていた」などと、虚偽の内容を書き込んでその信用を失墜させたり、業務を妨害したりすることです。
こういった情報が口コミサイトなどに書き込まれて広まることで、お店の売り上げが下がったり、批判の電話が殺到して営業に支障が出たりすることがあります。
信用毀損罪・業務妨害罪も刑事責任を問える可能性があります。
「虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する」(刑法233条)
「プライバシー権の侵害」は、相手が公開したくないと考えている名前や住所、電話番号、写真、メールアドレスなどの情報を勝手に公開することです。
芸能人がこのような被害に遭うことがありますが、一般の人でも同僚や元交際相手から嫌がらせなどとして行われて被害に遭うことがあります。
プライバシー権の侵害自体には刑事罰はありません。ただし書き込んだ相手への損害賠償は検討できます。 -
(3)どこからが誹謗中傷として責任を問える?
ネット上に事実ではない情報が書き込まれたとしても、すべてが誹謗中傷として刑事・民事責任を問えるわけではありません。
ポイントとなるのは「情報が公開されているかどうか」です。
誹謗中傷を受けたとしても、それが個人のメールや1対1の非公開チャットであれば、自分と相手以外はその情報を見ることができません。
特に刑事責任を問いたい場合には、名誉毀損罪や侮辱罪は「公然性」が要件となります。つまりネット上で、不特定多数の人が内容を見られる状態であることが必要なのです。
2、ネットの誹謗中傷・風評被害に遭ったときの対処方法とは?
ネット上で自分に対する誹謗中傷の書き込みを見つけたり、風評被害を受けたりした場合には、どのように対処したらいいのでしょうか?
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(1)証拠の保存
誹謗中傷・風評被害に対してその後どのような対処をするにせよ、まずは証拠を集めておくことが大事です。
ネット上で誹謗中傷の書き込みを見つけたら、スクリーンショットやカメラなどを使って、画面を保存・プリントアウトしておきましょう。投稿は後に削除されることもあるので、事前に対策をしておくことが必要です。日時やURLも記録しておきましょう。
また書き込んだ相手につながる情報があれば、できるだけ収集しておきましょう。
批判の電話が殺到するなど具体的な被害が出ている場合には、いつどのような被害があったのかを、詳細に記録しておきましょう。 -
(2)書き込みの削除請求・依頼
誹謗中傷の書き込みは転載され拡散する可能性があるため、早めに削除することが大切です。
SNSの場合は、相手に直接メッセージをして削除を依頼するか、対応してもらえない場合には、SNSの運営会社に報告・通報しましょう。
ブログの場合は、メッセージ機能や問い合わせフォームを使って相手と連絡を取るか、相手が削除してくれない場合には、ブログ運営会社に依頼しましょう。
ただし、相手に直接連絡を取る場合には、さらに炎上し情報が拡散してしまう可能性も考えられますので、注意が必要です。
また、ネット掲示板の場合には、問い合わせフォームや削除依頼ページなどから管理者や運営会社、経由プロバイダに削除をお願いしましょう。「送信防止措置依頼書」を送って対応を求めることもあります。
ブログ・掲示板の管理会社などが削除依頼に応じない場合には、裁判所に削除の仮処分を申し立てます。申し立てが認められると仮処分命令が発令されます。 -
(3)書き込みをした相手の特定
ひどい誹謗中傷で精神的に苦痛を受けたり、風評被害で損害を受けたりした場合には、相手への損害賠償請求が検討できます。
また名誉毀損などの疑いがある場合には、刑事告訴も考えられます。
損害賠償請求や刑事告訴をするためには、まず書き込みをした相手の氏名や住所を特定しなければいけません。
まず書き込みのあった掲示板やSNSの管理会社などに、相手のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求めます。
開示を受けたIPアドレスを元に、利用されたプロバイダを特定し、プロバイダに対して、書き込みをした発信者情報の開示を求めます。
ただし顧客の個人情報であるため、プロバイダも簡単には開示してくれません。その場合には、裁判を起こして発信者情報開示請求を行います。
裁判で開示が認められれば、相手の氏名や住所などを知ることができます。 -
(4)相手への損害賠償請求・刑事告訴
書き込みをした相手に慰謝料を求める場合、まずは内容証明郵便などで慰謝料を請求します。
相手が応じない場合には証拠をそろえ、裁判所に損害賠償請求訴訟を起こします。
刑事告訴をする場合には、相手の情報や書き込みの記録などの証拠を持って、警察に相談に行きましょう。
3、ネットの誹謗中傷・風評被害で困ったときの3つの相談先
ネット上の誹謗中傷・風評被害は、放っておくと状況がより悪化してしまう可能性があります。該当する書き込みを見つけたら、できるだけ早く相談することが大事です。
代表的な相談先としては、以下の3つがあげられます。
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(1)法務局
ネットの誹謗中傷は、名誉毀損やプライバシー権の侵害など「人権侵害」にあたる可能性があるため、全国の法務局が相談を受け付けています。
法務局では誹謗中傷の書き込みの削除要請の方法や警察の窓口の紹介など、対処方法のアドバイスをしてくれます。
個人による削除要請が難しい場合や、掲示板の管理人などが要請に応じない場合には、法務局が代わりに削除要請をしてくれることがあります。
ただしあくまで「人権侵害」にあたるケースのみです。「自分で手続きするのは面倒だから」といったケースや、人権侵害にあたらないと判断された場合には対象外です。 -
(2)警察
受けた誹謗中傷が犯罪にあたる可能性が強い場合は、警察への相談もできます。
名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪であり、自ら刑事告訴しなければ、警察に捜査をしてもらうことはできません。
また法務局と違い、警察が書き込みの削除要請をしてくれるわけでもありません。
警察が扱うかどうかは「事件性の有無」が分かれ目となっています。本当に名誉毀損にあたるのかといったことは判断が難しく、捜査をしてもらえないこともあります。
ただし「殺してやる」との書き込みをされるなど、緊急の場合にはためらわずに警察に相談しましょう。
相談は各地域の警察署のほか、都道府県警本部のサイバー犯罪相談窓口でも受け付けています。 -
(3)弁護士
警察が刑事事件として捜査しているか否かに関係なく、弁護士はネットの誹謗中傷に対処してくれます。
ネットに詳しい弁護士であれば、誹謗中傷の書き込みに対するアドバイスはもちろん、掲示板やサイトの管理人に対する削除要請や、裁判所への仮処分の申し立てなど実務も代行してくれます。
また書き込みをした人への損害賠償や刑事告訴を検討している場合には、代理人となってくれます。
匿名の掲示板であっても、弁護士がプロバイダに対して発信者情報の開示を求めることで相手を特定できることがあります。
相手がわかれば、刑事告訴や損害賠償請求など具体的な対抗策を進めることができます。
4、ネットの誹謗中傷・風評被害に対抗する際の注意点
ネットの誹謗中傷・風評被害は年々深刻になっており、より迅速で、適切な対応が求められます。ですが対応を焦ると失敗してしまうこともあります。どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
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(1)個人での対処は逆効果になることも
掲示板やSNSで誹謗中傷を受けた場合、書き込みをした相手に掲示板やSNS上で直接反論をしてしまいたくなるかもしれません。
ですが不用意に反論すると相手を逆上させたり、いわゆる「炎上」となったりして、逆に情報が広まってしまう結果になることもあります。
「ふざけるな!」とついつい頭に血が上ってしまうかもしれませんが、まずは一度冷静になりましょう。そして弁護士などの専門家に相談しましょう。 -
(2)相談・依頼は信頼できるところへ
ネット上の誹謗中傷や風評被害が相次いでいることから、被害対策を専門としたサービスが次々と生まれています。
ネットの記事削除要請を行うためには、悪質な書き込みを行った者やサイト管理者と交渉する必要がありますが、こうした法律業務を行い、報酬を受け取ることができるのは弁護士のみです。そのため、弁護士以外の者が代理人として交渉し、報酬を受け取ることは、非弁行為に該当しますので、かえってトラブルに巻き込まれてしまう可能性があります。
相談や対応を依頼する際には、警察や弁護士など、信頼できるところに相談されることをおすすめします。
5、まとめ
インターネットは今や生活に欠かせない、便利なツールです。ですが手軽で匿名性が強いからこそ、安易に個人情報を流したり、人を傷つける言葉を発したりする人もいるのです。
「私は大丈夫」と安心してはいられません。
被害を受けると、心に大きな負担を受けることが多いです。ですが泣き寝入りする必要はありません。弁護士と一緒に情報の削除や慰謝料請求など、きっちり対処していきましょう。ネットの誹謗中傷や風評被害でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスまでご相談ください。
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