家族が執行猶予中に再度逮捕されてしまった! どうなってしまう?

2019年11月28日
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家族が執行猶予中に再度逮捕されてしまった! どうなってしまう?

平成30年1月29日東京地裁は、執行猶予中に罪を犯した男性につき、再び執行猶予の判決を言い渡しました。この男性は、東京都内のスーパーマーケットで食料品を盗んだとして、平成29年5月に懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受けていました。そして、それから間もない同年6月に再びスーパーマーケットで食料品を盗んだため、今回判決が注目されていました。
通常、執行猶予中に罪を犯した場合、実刑となるケースが多いといわれています。しかし、このように再び執行猶予判決が下されるような場合もあるのです。家族が執行猶予中に罪を犯して再び逮捕された場合、他の家族はどうしたらいいのでしょうか。手続きの流れや他の家族が取るべき対応などを中心に、大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、執行猶予とは何のためにある?

執行猶予という制度はどのようなものでしょうか。報道などでもしばしば執行猶予がつくかつかないかが注目されています。この執行猶予の制度についてみていきましょう。

  1. (1)懲役刑等を猶予される

    罪を犯して裁判にかけられ、有罪判決となり懲役刑や禁錮刑が下されると、刑務所に入らなくてはなりません。しかし、執行猶予がつくと、一定期間罪を犯さないことを条件として刑務所に入らなくてよくなるのです。執行猶予は、その言葉から想像できるように刑の執行を猶予するという特別措置です。

  2. (2)一種の救済措置

    本来、懲役刑や禁錮刑が確定すると、刑務所に入ることとなり、その刑期の間は社会から隔絶されることになります。刑務所における期間は、罪を犯したことに対する報いであると同時に、罪を犯したことを反省し、二度と犯罪に手を染めないようにすること等を目的としています。
    しかし、懲役刑等によって、一定期間社会生活から離れてしまうと、刑期を終えたあとの社会復帰が困難になってしまうという不利益が生じます。懲役刑が下されるような犯罪の中にも情状酌量の余地があるようなケースもあり、そのような場合等については、刑務所で過ごさせるよりも、社会生活を行いながら罪を償わせることにより再犯を防止することが可能ではないかとの考え方があります。
    こうした考えのもと、執行猶予は、社会活動をしながらの更生を促し、再犯を防止するとの目的で、被告人に対して、一定期間犯罪をしないことを条件に刑の執行を猶予し、その期間中罪を犯さなければ刑罰の言い渡しの効力を失わせる制度になっています。このように、執行猶予の制度は、罪を犯してしまった人に対する一種の救済措置として設けられています。

  3. (3)具体例

    具体的には、懲役1年執行猶予3年との判決が下された場合、懲役刑が下されていますので、本来的には1年間刑務所に入らなければなりませんが、判決後3年間、再び罪を犯さなければ、懲役刑の言い渡しは効力を失い、刑務所に行かずともよくなります。

2、執行猶予期間中に、逮捕されたらどうなる?

執行猶予は、上記のとおり一定期間罪を犯さないという条件のもと、社会内での更生を許されています。この期間中に犯罪行為をし、逮捕されてしまった場合、どうなるのでしょうか。

  1. (1)実刑となれば、原則として執行猶予が取り消される

    執行猶予期間中に逮捕された場合、その犯罪行為について、刑事手続きが行われることになります。そして、当該犯罪について起訴され、禁錮刑以上の判決が下された場合には、執行猶予が付されない限り(再度の執行猶予)、先に付された執行猶予の言い渡しは取り消されることになります(刑法26条1号)。そして、執行猶予が取り消された結果、後に犯した罪の刑期だけでなく、先の犯罪の判決として言い渡された懲役刑の刑期も併せて刑務所に行くことになります。
    具体的には、一度目の犯罪で懲役1年執行猶予3年を言い渡され、3年の執行猶予期間中に、犯罪行為に及び、それについて懲役1年が言い渡された場合、原則として、執行猶予は取り消され、2年間の懲役刑に服することになります。

  2. (2)執行猶予が取り消されない場合

    他方、執行猶予期間中に罪を犯したとしても、執行猶予が取り消されない場合もあります。それは、執行猶予中に犯した罪に対して罰金刑が科された場合です。罰金刑が確定した場合、裁判所が検察官の請求に基づき執行猶予を取り消すか否かについて決定します。

    上記と同様に懲役1年執行猶予3年との判決が下され、その執行猶予期間中に罰金刑にあたる罪を犯した場合を考えてみましょう。罰金に処されたことにより執行猶予が取り消された場合、罰金の支払いに加え、1年間の懲役刑に服することになります。他方、執行猶予が取り消されなかった場合、執行猶予の期間は継続し、罰金を支払えばよいことになります。そして、定められた執行猶予の期間が到来すれば、懲役1年との判決は効力を失います。

    このように、執行猶予期間中に犯した罪や、その処罰の違いによって、執行猶予の取り扱いが変わってきます。

  3. (3)再度執行猶予が付される場合も

    冒頭の例のように、執行猶予期間中に犯罪行為をなし、懲役刑を言い渡される場合でも、例外的に再度執行猶予が付される場合があります。刑法第25条第2項に規定されている以下の条件を満たす場合に限り、例外的に、再度執行猶予付きの判決を下すことが可能です。

    • 執行猶予期間中に犯した罪について、1年以下の懲役刑または禁錮刑を言い渡されたこと
    • 情状に特に酌量すべきものがあること
    • 執行猶予が付された最初の犯罪行為について保護観察がついていないこと

    このように、初回の執行猶予に比べ、厳しい要件のもとでなければ再度の執行猶予は認められません。再度の執行猶予は容易には認められないというのが実情です。

3、再犯率の高い犯罪について

執行猶予期間中であるにもかかわらず、罪を犯してしまったというニュースを耳にすることもあるかと思います。その中でも、覚せい剤に関連する犯罪や万引きを含む窃盗については再犯者が多いイメージはないでしょうか。

法務省が毎年発表している平成30年度犯罪白書によりますと、執行猶予中もしくは仮釈放中に起訴された犯罪のうち、もっとも多かったのは窃盗罪でした。その次に多かったのは覚せい剤取締法違反になっています。

覚せい剤は中毒性があり、更生しようとしても、完全に覚せい剤と縁を切ることは難しいといわれています。薬物に依存する状態になっていると、自身を制御できずに再び薬物に手を出してしまうのです。

また、窃盗罪は、いわゆる「万引き」が含まれる犯罪行為です。お店で買い物をすることは日常的な行為のため、犯罪行為を繰り返しやすい環境が身近にあるといえます。中には、「クレプトマニア」と呼ばれる、窃盗により利益を得るのではなく、窃盗行為によるスリルや達成感、解放感等を味わうことを目的となってしまっている場合もあります。そのような場合、専門的な医師による心理カウンセリングなどが必要となります。

実際に、冒頭の報道について、弁護人が「再犯防止には医療ケアが必要と認めた意義ある判決」としています。

4、執行猶予期間中に逮捕された場合、弁護士に依頼するべき?

執行猶予期間中に家族が逮捕された場合、弁護士に依頼するかどうか迷うかもしれません。しかし、執行猶予期間中に逮捕された場合でも、不起訴処分にしてもらう、起訴されたとしても再度の執行猶予をつけてもらうなど、少しでも有利な結果が得られるよう弁護士ができることがあります。

執行猶予期間中に逮捕された場合、再度の執行猶予を付してもらうのは、法律の規定上、かなり困難なことは、先ほどご紹介したとおりです。

他方、執行猶予は、一定期間罪を犯さないことを条件に社会内での更生を認める制度です。そのため、もう二度と罪を犯さないという本人の反省や周囲のサポート、被害者がいる場合は示談の成立などを示すことで、再度の執行猶予を検討してもらうことは可能です。
ただし、再び犯罪行為に及んでしまった、という事実は消すことができませんので、以前と同じサポートでは足りないでしょう。今後本人が二度と犯罪を繰り返さないように家族がどのように監督していくのか、本人の心理的なサポートをどうしていくのかということを考えて行かなければなりません。こうしたサポートや監督の方法について、弁護士がアドバイスすることもできます。

このように、執行猶予期間中に逮捕された場合においても、弁護士のサポートを経て、不起訴処分を目指したり、再度執行猶予を付してもらえるよう働きかける意義はあります。

また、執行猶予期間中に犯した罪に対して懲役刑や禁錮刑ではなく、罰金刑が科される場合には、執行猶予が取り消されずにすむ場合もありますので、後に犯した罪についての処罰を軽くするよう弁護士が力を尽くすことで、できる限り執行猶予が取り消されないように取り組むことも可能です。

執行猶予期間中に罪を犯して逮捕されてしまったからといって、刑務所に入るしかないとあきらめるのではなく、少しでも刑を軽くする、再度の執行猶予を付してもらう可能性を高めるよう、逮捕後は早急に弁護士に相談することをおすすめします。

5、まとめ

執行猶予期間中に罪を犯し、その犯罪行為について禁錮刑や懲役刑で処罰されると、再度執行猶予が付されない限り、当初の犯罪の執行猶予は取り消されてしまいます。他方、後に行った犯罪の処罰が罰金刑の場合には、執行猶予が取り消されないこともあります。もちろん、後に行った犯罪が不起訴となれば、当初の犯罪の執行猶予に影響を及ぼしません。こうしたことから、できる限り早期に弁護士に依頼し、不起訴にしてもらう、判決で言い渡される刑をできる限り軽くする、再度の執行猶予を付してもらうなど、当初の執行猶予が取り消されないよう最善の努力をする必要があるといえます。

執行猶予期間中に家族が逮捕されてお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスへお気軽にご相談ください。大宮オフィスの弁護士が力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています