いじめは犯罪? 加害者の子どもが問われうる罪と逮捕されうるケース

2023年09月12日
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いじめは犯罪? 加害者の子どもが問われうる罪と逮捕されうるケース

埼玉県教育委員会が公表する、令和3年度埼玉県公立学校における児童生徒の暴力行為、いじめ、不登校、中途退学などの調査結果によると、令和3年度に埼玉県公立の小中高等学校および特別支援学校で起きてしまったいじめの認知件数は30874件、暴力行為の発生件数は3720件あったことが報告されています。

たとえ子ども本人がいじめではなく、ただの愛あるいじりであると認識していたり、子ども同士のけんかと保護者が受け止めていたりしていたとしても、行為によっては罪に問われることがあります。いじめが刑事事件になってしまえば、逮捕や厳しい処分などによって、これまでどおりの平穏な生活からも引き離されてしまうことにもなるでしょう。

本コラムでは、いじめの加害者が負う刑事責任について触れながら、逮捕の可能性や罰則などについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、いじめは「犯罪」になる! 適用される罪名と刑罰

はるか昔から『いじめ』に類似する行為は存在していました。しかし、多くは「生徒間の問題」「被害者にもいじめられる理由がある」といった理屈で、法的な規制が見送られ続けてきたのです。

しかし、平成25年にようやく施行された「いじめ防止対策推進法」の第2条において、現代における「いじめ」については、以下の通り明確に定義されることになりました。
第2条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にあるほかの児童等が行う心理的または物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

なお、被害者が心身の苦痛を感じるいじめ行為は、法律に照らすと主に「刑法」において規定されている各犯罪に該当しえます。

  1. (1)暴行罪

    相手に対して殴る・蹴る・髪の毛を引っ張る・胸ぐらをつかむなどの暴力を振るう行為は、刑法第208条の「暴行罪」にあたります

    暴行罪が成立するのは相手にケガがない場合に限られ、相手にケガを負わせてしまうと傷害罪が成立します。暴行罪の法定刑は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。

  2. (2)傷害罪

    暴行によって被害者にケガを負わせた場合は刑法第204条の「傷害罪」が成立します。刑法の定義では負傷の程度は問われないので、出血を伴う傷や骨折などの重大なケガに限らず、打撲・擦り傷程度の軽傷でも傷害罪は成立します。

    また、度重なるいじめを原因として心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した場合も傷害罪となることがあります。法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

  3. (3)脅迫罪

    生命や身体、自由、名誉、財産に対して危害を加えることを告知して脅せば、刑法第222条の「脅迫罪」になります

    「痛い目にあわせるぞ」などと身体への危害を告知する、「学校中がお前を無視するように仕向けてやる」などと平穏な学校生活ができなくなるよう脅すといった行為は、脅迫罪にあたるでしょう。脅迫罪の法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

  4. (4)恐喝罪

    暴行・脅迫を用いたうえで金品などの財物を交付させた場合は刑法第249条の「恐喝罪」が成立します

    いわゆる「かつあげ」行為が代表例となるでしょう。法定刑は10年以下の懲役です。

  5. (5)強要罪

    暴行・脅迫を加えたうえで、被害者に義務のないことを行わせる、または権利の行使を妨害した場合は、刑法第223条の「強要罪」が成立します

    土下座などを強いるほか、「自分の小便を飲め」などと強いる行為は強要罪によって罰せられる可能性があります。法定刑は3年以下の懲役です。

  6. (6)侮辱罪

    公然と人を侮辱する行為は刑法第231条の「侮辱罪」にあたります

    大勢の同級生の前や学校内の掲示板、インターネット上の掲示板サイトやSNSを利用して、個人を名指ししたうえで「気持ち悪い」「バカ」「デブ」などの中傷を加える行為が該当しうるでしょう。

    侮辱罪は、インターネット上の誹謗中傷増加に伴い、令和4年の刑法等改正で厳罰化されています。そのため、令和4年7月7日以降の行為が有罪となった場合、「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」が科されることになります。ただし、令和4年7月6日までの行為は法改正前の刑罰が適用されます。なお、改正前の法定刑は拘留または科料でした。

  7. (7)名誉毀損罪

    公然と事実を摘示して人の名誉を傷つけた場合は刑法第230条の「名誉毀損罪」が成立します

    侮辱罪と同様の状況のなかで「あいつは万引きの常習犯だ」「◯◯さんは殺人犯の娘だ」などのように具体的な事実を摘示したといったケースが典型例です。名誉毀損罪では、摘示した内容の真偽を問いません。根も葉もないデマだけでなく、たとえ真実であっても公表されることで本人の名誉が毀損されるおそれがあれば成立します。法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。

  8. (8)いじめ防止対策推進法による処分

    前述した犯罪行為のほかにも、いじめとされる行為には「無視」「意図的に仲間はずれにする」などが挙げられます。

    いじめ防止対策推進法第26条では、市町村の教育委員会の義務として、いじめの加害者となった児童・生徒の保護者に対し出席停止を命じるなどの措置を講じるよう定められています。たとえ犯罪が成立しないケースでも、校長や教員からの懲戒や出席停止といった処分を受ける可能性があるでしょう。

2、未成年が起こした事件の流れ

いじめにおいて適用される刑法の犯罪を見ていくと、いずれの犯罪にも、刑務所に収監される「懲役」や多額の金銭納付を命じられる「罰金」などが規定されています。

これらの刑罰は、成人が事件を起こした場合に限られるもので、原則として未成年の児童・生徒に科せられることはありません。ただし、特に何も起こらないという意味では当然ありません

  1. (1)少年法が適用され少年審判を受ける

    未成年が起こした犯罪事件のことを「少年事件」といいます。

    少年法第2条では、罪を犯した少年について「家庭裁判所の審判に付する」と定めています。つまり、成人のように地方裁判所や簡易裁判所で審理されて刑罰が下されるのではなく、家庭裁判所における「少年審判」によって、更生を目指した処分が下されるのです。

    少年審判によって下される処分は次の通りです。

    ●保護観察
    保護観察官や保護司の指導・監督を受けながら社会内で更生できると判断された場合の処分で、家庭などで生活しながら更生を目指すことになります。

    ●少年院送致
    社会内での更生が難しいと判断された場合は、少年院において矯正教育が施されます。

    ●児童自立支援施設等送致
    開放的な施設における生活指導が施される処分で、比較的低年齢の少年に対して下されます。

    ●都道府県知事または児童相談所長送致
    少年の更生を児童福祉機関に委ねるのが適当と認められた場合の処分です。

    ●不処分
    いずれの処分を下さずとも更生が期待できる場合は不処分となります。
    また、審判の必要もないとされれば「審判不開始」となることがあります。

  2. (2)重大事件は検察庁に送致される

    少年事件にはさらに区別があり、事件を起こした少年が14歳以上であれば「犯罪少年」、14歳未満の場合は「触法少年」と呼ばれ、それぞれ処分内容が異なります。

    もし、加害少年の年齢が14歳以上で、事件の内容や少年の性格などから更生を目指した処分よりも刑罰を科すのが相当と認められた場合は、家庭裁判所から検察官に送致されることがあります。なお、16歳以上の少年が故意の犯罪によって被害者を死亡させた事件については、家庭裁判所から検察官への送致が義務付けられています。

3、いじめの加害者が子どもでも逮捕される可能性はあるのか?

少年法の定めに基づくため、20歳未満の少年が犯した罪については、懲役・罰金といった刑罰を科すのではなく、更生を目指した処分を下すのが原則です。また、刑法第14条には刑事上の責任年齢について「14歳に満たない者の行為は罰しない」と明示しています。

これらの規定から、少年や保護者のなかには「成人するまで逮捕されない」と誤解している人も少なくありませんが、この考え方は間違いです。未成年の少年であっても、必要に応じて逮捕されることがあります

  1. (1)逮捕とは

    逮捕とは、逃亡または証拠隠滅のおそれがある被疑者の身柄を拘束する手続きです。処罰を意味する行為ではありません。

    逮捕による身柄拘束を受けている間は、自由な行動は大幅に制限されるので、自宅へ帰ることも学校へ行くことも許されません。自由な連絡もできなくなるので、電話やメール等による連絡も不能です。

    また、逮捕後72時間以内に「勾留」が決定すれば、さらに最長20日間まで身柄拘束が延長されます。勾留が決定するまでの間は、たとえ家族であっても被疑者との面会が認められません。この間、子ども自身の気持ちを聞いたり状況を確認したり、サポートを行いたいとお考えのときは、弁護士に依頼してください。依頼を受けた弁護士であれば接見が可能です。

  2. (2)未成年でも逮捕される可能性がある

    未成年が起こした少年事件についても、警察等の捜査機関は、成人に対する場合と同じく捜査の権限をもっています。したがって、逃亡や証拠隠滅のおそれが認められれば、逮捕に踏み切る可能性は十分にあるといえるでしょう。

    逮捕されれば長期間にわたる学校や職場への欠席を強いられるだけでなく、家庭から隔離されて少年自身も強い不安を感じることになりえます。早期釈放を目指した弁護士のサポートが必須となるでしょう

4、いじめを起こしてしまったら弁護士に相談を

わが子がいじめの加害者となった場合は、直ちに弁護士に相談して必要なアドバイスとサポートを受けましょう。

  1. (1)被害者・保護者との示談交渉を一任できる

    いじめをしたことが事実であれば、被害者となった児童・生徒とその保護者に対して真摯に謝罪し、許しを求めるのが先決です。

    いじめ防止対策推進法第23条6項には、学校側の措置として「いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認められるときは所管警察署と連携してこれに対処する」と明示しています。

    逮捕や処分を避けるには、いじめ問題を認知した学校側が「犯罪事件として警察に届けなければならない」との判断を下す前に被害者側との和解を目指すのが最善策となるでしょう

    とはいえ、いじめを受けた児童・生徒やわが子が被害に遭った保護者が「謝りたい」「話し合いをしたい」という求めに応じてくれるとは限りません。謝罪を含めた示談交渉をかたくなに拒否されるケースも少なくないでしょう。

    弁護士に示談交渉のすべてを任せることで、被害者側の警戒心がやわらぎ、謝罪・示談交渉がスムーズに運ぶ可能性があります。

  2. (2)学校側へのはたらきかけが期待できる

    いじめを認知した学校側には、加害者である児童・生徒に対する懲戒や出席停止などに向けた措置を講じる義務があります。

    いじめをしたことは決して容認されることではありませんが、懲戒・出席停止などの処分を受けることは加害者となった児童・生徒の更生や健全育成を阻害するおそれもあります。また、学校内で「いじめで処分を受けた」との情報が広まってしまえば、新たないじめのターゲットになってしまったり、不登校を引き起こしてしまったりする原因になりえるともいえるでしょう。

    いじめの加害者となった児童・生徒が、過剰に不当な扱いを受けないような配慮を求めるよう、弁護士に学校側にはたらきかけるよう依頼することが可能です

5、まとめ

わが子がいじめの加害者であると聞かされれば、まさかと動揺されるでしょう。いじめという言い方はマイルドに聞こえますが、行為によっては刑法に定められているさまざまな「犯罪」に該当します。

家庭裁判所が下す処分を受けるだけでなく、一定の重大事件については成人と同じく刑罰を受けることもあるので、少年に与える影響は小さくありません。また、未成年といえども必要に応じては警察に逮捕される可能性もあるので、早急に解決する必要があります。

いじめが刑事事件に発展してしまい、わが子の逮捕や処分・刑罰に不安を抱えているなら、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスにご相談ください。刑事事件・少年事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、被害者との示談交渉や学校側へのはたらきかけなどを全力でサポートします。

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