逮捕から起訴の流れとそれぞれの違いとは? 弁護士が教える基礎知識
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令和5年10月、電車内で女性の体を触ったとして不同意わいせつ容疑で大宮署に逮捕されていた男が不起訴になったという報道がありました。刑事事件を起こしてしまうと、ニュースや新聞で事件の内容や容疑者の名前、職業などが報道されることがあります。
報道されるタイミングは逮捕や起訴といった刑事手続きがとられたときが主ですが、その違いを詳しく理解していない方は多いようです。逮捕も起訴も捕まった罰を受けるといったイメージに直結するものですが、実際のところはまったく異なる刑事手続きとなります。
本コラムでは逮捕と起訴の違いに注目しながら、刑事手続きの全体的な流れを、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、逮捕と起訴の違い
逮捕と起訴は、根本的にまったく別の手続きです。誰がするのかも、どのような意味があるのかも違います。
まずは逮捕と起訴の意味を確認しながら、両者の違いをみていきましょう。
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(1)逮捕とは
逮捕とは、犯罪の容疑がかかっている被疑者の身柄を拘束する手続きです。
窃盗や詐欺、暴行・傷害、器物損壊といった一般的な犯罪では、主に発生地を管轄する警察によって執行されます。
日ごろの報道をみていると犯人が捕まったというイメージを抱いてしまいがちですが、逮捕の段階では容疑がかかっている人の身柄が確保されたというだけなので、犯人として罰を受けることが決まったわけではありません。
また、逮捕はあくまでも逃亡や証拠隠滅を防ぐ目的で行われる身柄拘束であるため、懲罰を目的とした性格はもっていません。懲罰ではないので、逮捕された被疑者の人権は厳格に保障されています。
たとえば、食事や睡眠が確保されているのはもちろん、体罰や人格を無視した暴言などを用いた処遇・取り調べは厳しく禁止されているのです。
逮捕には3つの種類が存在しており、状況に応じて適切な逮捕種別が選択されています。
● 通常逮捕
裁判官が発付した逮捕状に基づいて身柄を拘束するもので、犯行の後日に執行されることから後日逮捕とも呼ばれます。日本国憲法第33条に規定されている令状主義に従った、原則的な逮捕種別です。
● 現行犯逮捕
現に罪を行い、または罪を行い終わった者の身柄を拘束する逮捕種別です。被疑者の取り間違えが起きるおそれが弱いことから逮捕状がない場合でも逮捕可能で、一般人による逮捕も認められています。
● 緊急逮捕
一定の重大犯罪について、逃亡・証拠隠滅のおそれがあるものの逮捕状を請求する暇がない場合は、逮捕状の発付を待たずに逮捕することが可能です。逮捕状の発付を受けていないうえに現行犯人ともいえない状況で行われるため第三の逮捕とも呼ばれます。
緊急逮捕によって被疑者の身柄を拘束した場合、直ちに逮捕状の発付を受けて被疑者に示せば令状主義の趣旨には反しないと考えられています。 -
(2)起訴とは
起訴とは、犯罪の被疑者について刑事裁判を提起する手続きです。法律上の表現では公訴の提起といいます。
金銭の貸し借りや慰謝料の請求、離婚の可否などを裁判(民事裁判)によって決着をつける場合、訴えを起こす原告となるのは一般人なので、この場合の訴えは私訴です。一方で、刑事事件の被疑者を裁判にかける公訴を提起できるのは検察官に限られており、警察や一般人には起訴の権限がありません。
また、犯罪の被疑者は起訴されることによって被告人へと立場が変わります。
令和4年版の犯罪白書によると、検察官が刑事事件について公開される裁判を提起した割合は全体の10.4%でした。刑事事件のなかには、逮捕をされずに捜査を受ける在宅事件も数多く存在しており、仮に逮捕されたとしても検察官が起訴するとは限らず、示談などの成立により、検察官が起訴しなければ刑事裁判は開かれないので、刑罰を受けることも前科がつくこともありません。
2、逮捕から起訴までの流れ
逮捕と起訴はまったく別の手続きですが、刑事事件の全体的な流れをみれば、一連の流れのなかで段階的に行われるものであることがわかります。
逮捕から起訴までの流れを確認していきましょう。
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(1)逮捕による身柄拘束
犯罪を認知した捜査機関は、捜査を進めたうえで証拠を集め、裁判官に逮捕状を請求したうえで発付を受けて被疑者を逮捕します。
あるいは、現行犯人であれば逮捕状がなくても逮捕が可能です。
逮捕された被疑者は警察署へと連行され、留置場に身柄をおかれたうえで捜査員による取り調べを受けます。警察官が逮捕した場合の時間制限は、逮捕の時点から48時間以内です。
警察は、48時間以内に被疑者の身柄を検察官へと引き継がなくてはなりません。 -
(2)検察官への送致と勾留請求
被疑者の身柄が警察から検察官に引き継がれる手続きを検察官送致といいます。単に送致と呼ぶことも多く、また、ニュースなどでは省略して送検とも呼ばれています。
送致を受けた検察官は、自らも被疑者の取り調べを実施して逮捕事実に対する認否や主張を聴取します。なぜなら、この段階で検察官には起訴するかあるいは起訴しないかを判断する必要があるからです。
しかも、その選択は送致を受けて24時間以内に決断しなくてはなりません。
ところが、逮捕からわずか2日程度の時間しかたっていない段階では、起訴するか否かの重要な決断を下すための考慮要素が足りない場合があります。そこで検察官は、さらなる捜査をするために裁判官に対して身柄拘束の延長を求めます。
この手続きを勾留請求と呼びます。 -
(3)勾留による身柄拘束
裁判官が勾留を認めると、初回では10日間を限界として身柄拘束が延長されます。10日間では捜査を遂げられない場合は、さらに10日間までの延長が可能です。
つまり、勾留による身柄拘束の限界は20日間となります。
勾留が決定すると被疑者の身柄は警察に戻されて、検察官による指揮のもとで捜査が進められます。接見禁止、つまり面会の禁止の命令が付されなかった場合は、この段階から家族などによる面会が可能です。 -
(4)起訴・不起訴の判断
被疑者段階での勾留の限界は20日間で、それ以上の延長はありません。
勾留が満期を迎える日までに、検察官は再び起訴するか否かの判断を下す必要があります。
検察官が刑事裁判で罪を問うべきと判断した場合は起訴されます。起訴が決定すると、保釈が認められない限り被告人としての勾留を受けることになり、刑事裁判が結審する日まで身柄拘束が続きます。
一方で、公訴を提起する必要がないと判断された場合は不起訴処分が下されます。不起訴となった場合は刑事裁判が開かれません。罪を問う裁判が開かれないので、有罪・無罪が問われることもなく、刑罰を受けることもないのです。したがって、不起訴となった場合は前科がついてしまう事態を回避できるということになります。
3、家族が逮捕されたら直ちに弁護士に相談を
あなたの家族が逮捕されてしまった場合は、ためらうことなく直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。
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(1)素早い接見が必要
逮捕された被疑者との面会が可能となるのは、検察官による請求を受けて裁判官が勾留を認めた段階からです。
逮捕直後の警察に与えられた48時間と、検察官に与えられた24時間の、合計72時間の段階では、たとえ家族であっても面会が認められません。
ところが、逮捕直後の警察官・検察官による取り調べにおいて語った供述は、記憶が新しい段階であるため信用性が高いと評価されやすく、不用意な供述があれば不利な状況を招きかねません。
やってもいない無実の容疑で逮捕されてしまったのに、取り調べに恐怖を感じて「やりました」と真実に反する供述をしてしまうケースも少なからず存在します。逮捕直後には、容疑をかけられた内容や逮捕の状況などについて相談し、取り調べに際する適切なアドバイスが必要です。
逮捕直後の72時間以内でも被疑者との接見が認められているのは弁護士だけなので、直ちに弁護士に接見を依頼して、逮捕されてしまった本人にアドバイスを与えましょう。 -
(2)不起訴処分の獲得に向けたアクションが期待できる
窃盗や詐欺、暴行・傷害などの事件では、事件の被害者が存在し、被害者が存在する事件においては、示談や被害弁償をすることが非常に大切になります。弁護士に依頼することで、早いうちから被害者との話し合いの機会を設けて、被害届や告訴を取り下げてもらうための交渉を進めることが可能です。
被害者との示談が成立すれば、被害届・告訴が取り下げられ、検察官は、当事者同士では和解が成立しているとして、あえて起訴する必要はないと判断する可能性が高まるでしょう。
また、被害者との示談交渉に頼らない場合でも、贖罪(しょくざい)寄付を行ったり、被疑者自身が深く反省している状況や、家族などが監督を約束しているといった状況を検察官に伝えたりすることで、更生の可能性が高いことを主張し、不起訴もしくは略式請求による罰金での終結によって、公判請求を免れる可能性もあります。 -
(3)勾留・勾留延長の阻止が期待できる
勾留は、被疑者の身柄を釈放してしまえば逃亡・証拠隠滅を図るおそれが高い場合に認められる手続きです。また、勾留の延長も、被疑者の取り調べの状況や捜査の進捗などから、やむを得ない場合に認められます。
弁護士に依頼すれば、逃亡・証拠隠滅の危険がないことを客観的な証拠を示しながら主張できます。検察官に対して任意の捜査でも十分に対応できるといった主張を展開すれば、勾留の回避が期待できるでしょう。また、仮に勾留されてしまったとしても、裁判所の拘留許可の決定に対し、準抗告という異議申立を行って、身柄の解放を目指すことも可能です。
また、単純な事件で証拠も明らかであるのに、あえて勾留延長が請求されたようなケースでは、不当に身柄拘束を長引かせているおそれがあるとして抗議し、勾留延長の取り消しを求めることも可能です。
現実的に勾留・勾留延長が取り消されるケースは決して多くありません。しかし、捜査機関に対して適正な捜査・適正な刑事手続きを求めて監視しているといった姿勢を示すことは、不当な処遇・処分を回避するためのけん制として効果を発揮します。 -
(4)起訴の阻止が期待できる
検察官が事件を起訴する割合は決して高くありません。わが国の刑事司法では、検察官が確実に有罪判決を獲得できると確信している事件を厳選して起訴しているという現実があるため、証拠が十分にそろわなかった場合は不起訴となる可能性が高いのです。
また、すでに示談が成立しており、被害者が被疑者に刑罰を与える必要はないという意思を示している場合は、確実に有罪判決を獲得できる状況でもあえて起訴しないことがあります。これを起訴猶予といい、検察官が不起訴処分を下す理由の大部分を占めています。
令和4年度の犯罪白書によると、令和3年中に不起訴処分が下された14万9678人のうち、不起訴の理由が起訴猶予だった方の割合は68.6%を占めます。
検察官が起訴猶予と判断するためには、被疑者自身の反省や更生の可能性、被害者の宥恕(ゆうじょ)などが重要となります。宥恕とは、被害者が寛大な心で加害者を許すことです。弁護士のサポートによって、示談を成立させ、これらを具体的に示すことで、不起訴処分の獲得が期待できるでしょう。
4、逮捕・起訴の回避は刑事事件の解決実績が豊富な弁護士へ
捜査機関による逮捕や検察官による起訴を防ぐには、弁護士のサポートが欠かせません。ただし、弁護士であれば誰でも最善のサポートが期待できるとはいえないので注意が必要です。
弁護士には、これまでの活動実績などに応じて得意な分野があります。借金問題や債務整理、離婚・浮気問題、不当解雇や賃金不払い問題、特許などの知的財産侵害問題など、実にさまざまな専門分野で弁護士が力を発揮しているのです。
もちろん、刑事事件の解決には刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士にサポートを求める必要があります。
刑事事件では、段階に応じてさまざまな手続きが登場します。釈放をねらうタイミングもさまざまであり、機を逃してしまったり、タイミングを誤ってしまったりすると、身柄拘束が長引いてしまうおそれがあります。
また、犯罪が成立する要件やこれを否定するための弁護活動についても深い知識と豊かな経験が必要となるため、刑事事件を専門に取り扱ってきた実績は不可欠です。
逮捕・起訴を回避するためには、必ず刑事事件の知見を豊富にもつ弁護士にサポートを依頼しましょう。
5、まとめ
逮捕とは犯罪の被疑者が逃亡・証拠隠滅を図るおそれを防ぐための身柄拘束であり、起訴とは検察官が刑事裁判を提起する手続きです。逮捕と起訴は、刑事事件における一連の流れで登場するものですが、根本的にまったく異なる手続きであることをおぼえておきましょう。
逮捕による身柄拘束は社会生活に多大な不利益をもたらしてしまい、起訴されてしまえば刑罰を問われる事態になります。いずれも、可能な限りの対策を講じて回避すべきなので、刑事事件の弁護実績が豊富な弁護士にサポートを依頼するのが最善策です。
スピードが命と呼ばれる刑事事件を解決するためには、素早く的確な弁護活動が必要となります。あなたのご家族が刑事事件の被疑者となってしまった場合は、直ちにベリーベスト法律事務所 大宮オフィスへご相談ください。知見が豊富な弁護士が、適切な刑事弁護により重すぎる処罰を科されてしまう事態を回避できるよう力を尽くします。
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