個人で楽しんでも違法ダウンロード? 概要と警察がきたときの対応法
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令和5年版犯罪白書によると、その他のサイバー犯罪に分類される違法ダウンロードを含めた著作権法違反による検挙数は令和2年の363件以降、2年連続ありません。埼玉県が公開している未成年者の適切なスマートフォン利用を啓発する広報などで、「違法ダウンロードは犯罪!」と明示されているとおり、さまざまなメディアで「違法ダウンロードは犯罪になる」と広報されている結果といえるかもしれません。
本コラムでは「違法ダウンロード」によって問われる罪や規制を受ける行為、嫌疑をかけられた場合の正しい対応、個人で楽しむ場合ではどうなのかについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、違法ダウンロードを規制する「著作権法」
違法ダウンロードは「著作権法」の規制に違反する行為です。
まずは著作権法がどのような法律なのか、特に違法ダウンロードに関係する規制や法改正の部分に注目して解説します。
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(1)著作権法とは
著作権法は、著作物や著作権者の権利を明確にしたうえで保護し、文化の発展に寄与することを目的とした法律です(著作権法1条)。現在の著作権法は明治32年に制定された旧著作権法の全部を改正することで昭和45年に制定されました。
著作物の創作者に「著作権」や「著作者人格権」などを与え、さらに著作物と密接な関係にある実演家・レコード製作者・放送事業者などには「著作隣接権」などを与えることでそれぞれの利益を保護しています。 -
(2)著作権法改正の流れ
現行の著作権法は昭和45年に制定されたものであり、当時と現在とでは、著作物のあり方や国民と著作物の関わり方が大きく異なります。
制定当時はインターネットを悪用した著作権侵害が発生することなど想定されていなかったため、インターネットにより著作権者の利益が侵害される事案を規制することができませんでした。
しかし、現代ではインターネットが発達し、スマートフォンひとつで大容量のデータの送受信が可能になっています。その結果、アーティストが生み出し有料で発信されている楽曲や書籍などのデータを、対価を支払うことなく簡単にダウンロードや閲覧ができてしまう、いわゆる海賊版サイトが登場しました。そこで、各業界が法律による規制を強く訴える事態に発展したのです。
このような経緯があり、平成24年には違法ダウンロードに対する罰則が新設され、ようやく「違法ダウンロードは犯罪である」と世間一般に広く認識されるようになりました。
2、ダウンロードすると罪に問われるおそれのある著作物
インターネットを利用してサーバー上にあるデータをパソコンやスマートフォンといった端末に取り込むことを「ダウンロード」といいます。
ダウンロード自体はインターネットを利用したデータ送受信に欠かせないものであり、すべてのダウンロード行為が一律に違法となるわけではありません。以下、まずはダウンロードが違法となる著作物をみたうえで、規制を受けないダウンロードについてもみていきましょう。
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(1)従来の規制によって保護されていた著作物
そもそも著作権法は、原則として、著作権者以外の者による「複製」を禁止しています。「複製」とは、便宜上簡単にいえばコピーする行為を指します。レコードやCD・DVDの複製はもちろん、データのダウンロードによる再製行為も原則違法です。
ただし、著作権法では、原則として著作物の複製行為を禁止しながらも、個人による「私的使用」の目的の範囲内であれば例外として複製を認めていました。たとえば、音楽CDのデータをパソコンのハードディスクに取り込む行為は、この私的使用の例外規定によって認められていたものです。
ところが、ウェブサイトでの公開やコピーガードの回避などが横行したため、平成24年の改正によって「違法配信されている有償著作物等を、違法配信されている音楽・映像と知りながらのダウンロード」が禁止されました。
つまり、この改正によって、有償販売されていて、違法配信されている音楽・映像データについては、私的使用であってもダウンロードによる複製は禁止となっています。 -
(2)令和3年施行の改正によって新たに保護対象となった著作物
従来の著作権法の規制では、有償で販売されている「音楽や映像」のダウンロードが禁止されているのみで、そのほかの著作物については保護されていませんでした。
ところが、令和3年1月1日に施行された改正著作権法では、これまでは規制対象外だった次のような著作物も、正規版が有償で提供されている場合はダウンロードが禁止されることになりました。- 漫画・書籍・論文などの静止画コンテンツ
- コンピュータープログラム
つまり、今回新たに規制対象に加わったのは、正規版が有償で販売されているにもかかわらず、無償でダウンロードが可能な「海賊版」にあたる漫画・書籍・論文・コンピュータープログラムのダウンロードです。
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(3)個人で楽しむならOK? 違法にならないダウンロードとは
以前から規制されている音楽・映像のほか、新たに規制対象に加えられた漫画・書籍・論文・コンピュータープログラムであっても、正規版を有償でダウンロードする行為はもちろん適法です。
また、次に挙げる各条件に合致する場合のダウンロードは、著作権法の規制を受けません。
● 「軽微なもの」である場合
著作権法第30条の2第1項は、著作物の複製の精度やそのほかの要素に照らして「軽微な構成部分となる場合」を規制対象外としています。
ダウンロードされる分量がごく小さい、画質精度が低く鑑賞にたえない、メインの被写体に付随して著作物が写り込んでしまったといった場合は規制を受けません。たとえば、漫画の1コマをダウンロードした、スクリーンショットしたところ著作物の一部が写り込んでしまったといったケースは違法ダウンロードになりません。
● 二次創作やパロディーの場合
漫画のキャラクターなどを著作権者ではない者が書き起こした二次創作やパロディーのデータをダウンロードする行為は著作権者の権利を侵害したことにはなりません。
ただし、二次創作・パロディーの製作者にも著作権が存在しうるため、無許可でダウンロードすれば違法となるおそれがあります。
● 著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合
その他、具体的な事情を総合考慮したうえで「特別な事情がある」と認められる場合は違法ダウンロードになりません。
● 違法にアップロードされたことを知らなかった場合
なお、著作権法が違法ダウンロードとするのは、侵害者が、対象物が「違法配信されたものであることを知っていた」場合に限られています。
たとえば、正規配信であると誤信してダウンロードした場合は違法とはなりません。
3、ネット上の画像や動画をダウンロードして逮捕される可能性は?
違法ダウンロードに対する規制が強化されたことで、これまでは違法とされなかったケースでも犯罪となる可能性があります。
漫画などネット上の画像や映画・アニメーションなどの動画をダウンロードすると逮捕されてしまうのでしょうか?
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(1)違法にアップロードした者のほうが摘発されやすい
たしかに、これまで現に摘発されているのは、違法にアップロードした方が中心です。
たとえば、令和3年6月には、映画作品を短く編集した「ファスト映画」と呼ばれる動画をインターネットで公開した男女3人が逮捕される事件が発生しました。動画投稿サイトからの広告収入を得ることが目的だったようです。
しかしながら、今般、違法ダウンロードの対象が拡大され、実質的な厳罰化が実現したことにより、今後は違法アップロードだけでなく、違法ダウンロード行為への取り締まりが強化されるものと予想されます。悪質な違法ダウンロードをした場合には摘発される可能性が高いでしょう。 -
(2)違法ダウンロードに対する罰則
著作権法第119条3項には、違法にアップロードされている著作物であることを知りながら、反復・継続してダウンロードした場合は、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれらを併科すると定められています。
なお、違法ダウンロードに関する犯罪は、検察官が起訴するにあたって被害者の告訴を必要とする「親告罪」として規定されています。 -
(3)ダウンロードだけのつもりが違法アップロードをしていた可能性も
ファイル共有ソフトを利用して、著作権者が著作権を手放していない映画や漫画などのコンテンツを取得する行為ももちろん、違法ダウンロード行為にあたります。
ファイル共有ソフトとは、不特定多数のユーザーとインターネットを介してファイルのやり取りを行えるソフトウエアです。日本国内でもっとも有名なファイル共有ソフトといえばWinnyですが、大きく報道された影響もあり、現在利用されている方は少ないかもしれません。令和5年3月時点では、個人利用者の間ではBitTorrentなどのソフトウエアが多く利用されているようです。
多くのファイル共有ソフトでは、ダウンロードすると同時に当該ファイルをアップロードする機能が搭載されています。匿名性が高いことをPRするファイル共有ソフトがあるかもしれませんが、IPアドレスから個人が特定される可能性もありますから、ファイル共有ソフトを安易に利用すると、違法ダウンロード行為としてだけではなく、違法アップロード行為としても罪に問われてしまう可能性があるのです。
4、嫌疑をかけられた場合の正しい対応
それでは、違法ダウンロードの嫌疑をかけられてしまった場合はどのように対応するべきでしょうか?
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(1)任意の呼び出しには素直に応じる
警察から「事情を尋ねたい」と呼び出しを受けた場合は、素直に応じるべきです。正当な理由なく出頭要請を拒んでいると、逃亡や証拠隠滅を疑われて逮捕されてしまうおそれが高まります。
警察に逮捕されてしまうと、逮捕・勾留によって長期間の身柄拘束を受けることになり、社会生活上の不利益を被る事態に発展しかねません。
仮に違法ダウンロードの事実があったとしても、逮捕の必要性がないと判断されれば任意のまま在宅事件として捜査が進められるので、出頭要請には素直に応じたほうが賢明です。 -
(2)取り調べの前には弁護士にアドバイスを求める
警察による取り調べで述べた内容は供述調書という書類にまとめられます。不用意な供述をすれば不利な内容の供述調書が作成されてしまいますし、ひとたび「間違いない」と確認して署名・押印すれば事後の訂正は困難です。
警察からの呼び出しを受けて取り調べに臨む際には、事前に弁護士に相談して対応方法についてアドバイスを受けましょう。
弁護士に相談すれば、著作権法の規制に照らし、違法ダウンロードにあたるのかを正確に確認できるだけでなく、警察による取り調べに対してどのように対応すべきなのかにつき助言が得られます。
また、逮捕・勾留を受けるおそれがある場合でも、弁護士が警察・検察官に対し「逃亡や証拠隠滅のおそれはない」などとはたらきかけることで、厳しい身柄拘束を回避できる可能性もあります。
5、まとめ
違法ダウンロードを繰り返した場合、著作権者の刑事告訴によって、逮捕され、刑罰が科せられるおそれがあります。令和3年1月以降は、改正著作権法により以前から規制されていた有償で販売されている音楽・映像のデータに加えて、漫画・書籍・論文・コンピュータープログラムといったデータの違法ダウンロードも規制対象に加えられました。
違法ダウンロードの嫌疑をかけられてしまい、警察から連絡がきたときは、直ちに弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。素早く対応すれば、逮捕や厳しすぎる刑罰を回避するためのサポートが期待できます。
違法ダウンロードによる逮捕・刑罰を回避するためには、刑事事件対応についての知見や経験だけでなく、ITや知財財産についての知識も必要不可欠です。所内に知的財産専門チームがあり、刑事事件の解決実績も豊富なベリーベスト法律事務所 大宮オフィスにお気軽にご相談ください。
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