強制わいせつ罪(不同意わいせつ罪)とは? 問われうる行為と違い
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令和6年4月、埼玉県警少年課と行田署の合同捜査班が、強制わいせつと強制性交等ほかの容疑がある男を再逮捕したという報道がありました。
「強制わいせつ罪」と呼ばれていた犯罪は、令和5年6月16日に改正された刑法が同年7月13日に施行されたことで「不同意わいせつ罪」と名称が変わっています。冒頭の事件は、令和5年7月13日より前に行われた犯罪行為であるため、強制わいせつ罪で再逮捕されたものと考えられます。
本コラムでは、強制わいせつ罪と不同意わいせつ罪の違いから、それぞれに該当する行為や要件、その償いの方法、依頼を受けた弁護士が行える弁護活動について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、強制わいせつ罪、不同意わいせつ罪とは?
法律は、時代背景によって日々改正されています。強制わいせつ罪と呼ばれていた犯罪は、令和5年6月に改正され7月13日に施行された不同意わいせつ罪という名称となり、罪に問われうる要件が改正されました。
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(1)わいせつな行為とは?
そもそも、「わいせつな行為」とは、人の性欲を刺激し、正常な羞恥心を侵害するなど、善良な性的道徳観念を害する行為を指します。
中でも、不同意わいせつ罪に問われうる「わいせつな行為」に該当する可能性のある行為としては、キスをする、服を脱がす、乳房を揉む、陰部を触る、服の中に手を入れるなどが挙げられるでしょう。
これらの行為を強制的、もしくは相手の合意なく、または相手が拒否できる状況ではない環境下で行うと、不同意わいせつ罪に問われることになります。
不同意わいせつ罪が成立すれば、6か月以上10年以下の懲役刑が科されます。実際に科される刑の重さは、わいせつ行為の悪質性などによって変わります。 -
(2)不同意わいせつ罪と強制わいせつ罪の成立要件の違い
●強制わいせつ罪の成立要件
改正前の刑法第176条で規定されていた「強制わいせつ罪」は、相手が13歳以上であれば、暴行や脅迫を用いてわいせつ行為をした場合、相手が13歳未満の場合は暴行脅迫を用いていなかったとしても、わいせつな行為をした場合に成立します。令和5年7月12日までの行為については、強制わいせつ罪として罪に問われることになるでしょう。
●不同意わいせつ罪の成立要件
令和5年7月13日に施行された改正刑法第176条で規定されることになった「不同意わいせつ罪」は、以下の3つのパターンに当てはまる状況下などでわいせつな行為をした場合、罪に問われることになります。
- ①次に挙げる行為や理由、その他これらに類する理由により、同意しない意思を示している、もしくは同意しない意思を示せない状況下にあったとき
- ●暴行もしくは脅迫を用いること
- ●心身の障害を生じさせたりそもそも心身の障害が起きている状態であること
- ●アルコールや薬物を用いていたりすでにその影響を受けた状態であること
- ●寝ているときや意識が明瞭ではない状態にさせていたりその状態であること
- ●同意しない意思を表明する隙を与えない、もしくは同意しない意思を継続できない状況下におくこと
- ●予想と異なる事態におくことで恐怖や驚きを受けた状況下にあること
- ●虐待に起因する心理状態を引き出すこと、そもそもその状態であること
- ●経済的または社会的地位に基づく影響力による不利益を想定して不安を感じる環境下であること
②わいせつな行為ではないと信じ込ませたり人違いをさせたりしたうえでわいせつな行為をした場合
③相手が13歳以上16歳未満の子どもで、あなた自身が相手より5歳以上年上の場合
なお、相手が配偶者やパートナー(恋人)であっても、不同意わいせつ罪は成立しえます。また、公訴時効期間が延長されています。これまで強制わいせつ罪の公訴時効期間は7年でしたが、令和5年6月23日以降は12年となりました。さらに相手が18歳未満であった場合は、改正後の公訴時効期間に、被害者が18歳に達する日までの期間が加算されます。
2、名称が似ている犯罪行為も変わった? 各犯罪行為の概要
犯行の内容によっては、不同意わいせつ罪ではない罪が成立することがあります。そこで、不同意わいせつ罪に類似する罪についても紹介します。
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(1)準強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪へ吸収
改正前の刑法で規定されていた「準強制わいせつ」とは、人を精神喪失状態または拒絶不能状態にして、わいせつな行為に及ぶことを指しました。酒で酔わせる、睡眠薬で眠らせるなどの方法によって抵抗できない状態にして、わいせつな行為が行われた場合に成立します。今回改正・施行された不同意わいせつ罪の要件に、アルコールや薬物などを用いて抵抗できない状況下でわいせつな行為したケースが含まれることになったため、準強制わいせつは不同意わいせつ罪へ吸収され、刑法の条文から削除されました。
令和5年7月12日までの犯行により、準強制わいせつ罪で有罪になると、6か月以上10年以下の懲役刑が科されます。令和5年7月13日以降は、不同意わいせつ罪として罪に問われうることになります。 -
(2)公然わいせつ罪とは?
公然わいせつとは、公然とわいせつな行為をすることです。公然とは不特定多数の人が認識できる状態のことで、駅や公園、車中やカラオケボックスなども含まれる場合があります。
公然わいせつ罪で有罪になると6か月以下の懲役、30万円以下の罰金、拘留、科料のいずれかが科されます。 -
(3)迷惑防止条例とは?
いわゆる痴漢行為は、強制わいせつ罪ではなく、各都道府県の迷惑防止条例で罰せられることもあります。埼玉県迷惑行為防止条例に規定されている行為は、着衣の上から、または直接人の体に触れることと、卑猥な言動をすることです。
埼玉県迷惑行為防止条例違反が適用されると、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。常習者とみなされた場合に科される可能性がある処罰は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
もっとも、悪質性が高いなどの状況によっては、強制わいせつ罪によって罪が問われることになるでしょう。
3、罪を償うため、あなたができること
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(1)刑事手続きを経て刑事罰を受ける
平成29年7月13日の法改正により、強制わいせつ罪は「親告罪」ではなく「非親告罪」になりました。非親告罪とは、被害者からの告訴がなくても検察官が加害者を起訴できる罪のことです。
したがって、あなたが警察へ自ら足を運び、罪を犯したことを自白すれば、刑事手続きが始まることになるでしょう。もし、被害者が告訴しておらず警察も事件を認知していない、もしくは、事件そのものは認知されていてもあなたの犯行だったことを知らない状態であれば、「自首」したとみなされます。
自首したのちは、任意の取り調べを受け、必要に応じて逮捕されます。逮捕された後は、起訴か不起訴かが決まるまでのあいだだけでも、最長23日間の身柄拘束を受ける可能性があります。さらに、証拠がそろえば起訴されて、事件について審理を受けることになります。
自首した場合、逮捕後の身柄拘束期間が短く済んだり、刑罰が軽くなったりする可能性があります。 -
(2)民事手続きとして示談を申し込む
あなたの犯行によって、被害者は心身ともに傷ついています。しかし、たとえ刑事罰を受けて罰金刑が命じられたとしても、被害者にはそのお金は支払われません。
そこで、被害者に対して償いを行う方法のひとつとして、示談を行うことが挙げられます。具体的には、あなたが行った強制わいせつによって発生した治療費などの実費や精神的苦痛に対する慰謝料を支払うことによって、被害者が受けた損害を補てんしようとするものです。
一般的には、慰謝料額に双方が合意できれば、可能であれば「宥恕(ゆうじょ)文言」とも呼ばれる、加害者を許す意思を表してもらうことを目指します。警察や検察は、被害者の処罰感情を非常に重視するため、この一文があることによって、科せられる刑罰を軽くすることが期待できます。
もちろん、慰謝料は支払ったものの宥恕文言をもらえないケースもあります。このときも、被害者への民事的な賠償責任は果たしているとみなされるため、ある程度の情状酌量を期待できます。
たとえあなた自身が心から反省していたとしても、謝罪も示談もなければ、周囲にあなたの反省の念は伝わりにくいでしょう。また、きちんと賠償をしておかなくては、刑事罰を免れた場合でも、民事裁判を起こされてしまう可能性があります。謝罪と賠償は、早期に行うことをおすすめします。
4、弁護士があなたのために行う弁護活動
あなた自身やあなたのご家族などから依頼を受けた弁護士は、あなたのために以下のような弁護活動を行います。
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(1)刑事裁判で過剰な罪を科されないようサポートする
あなたが逮捕されてしまうと、逮捕から送致されるまでの48時間、ご家族の誰とも面会ができなくなってしまいます。この間、あなたと接見し、精神面や日常への影響を最小限に抑えるためのサポートを行えるのは、弁護士だけです。
さらに、警察から検察へ送致されると、場合によっては20日間も勾留されてしまうことになります。日常への影響はさらに大きなものとなりかねないため、弁護士は早期釈放を目指して、検察や警察へ働きかけることができます。また、検察に起訴されてしまうと99%の確率で有罪となってしまうため、起訴猶予を求めるための活動も行います。
その後、起訴されてしまった場合でも、重すぎる処罰を受けないよう刑事弁護を行い、あなたを全面的にサポートします。 -
(2)被害者との示談交渉を代理人として行う
あなた自身が逮捕されてしまうと身柄の拘束を受けることになるため、示談交渉ができなくなるでしょう。そもそも、被害者の個人情報を知らなければ示談することもできません。また、たとえ加害者であるあなたや、あなたの家族が示談交渉をしようとしても、被害者がそれに応じないケースは多々あります。
このようなケースは、多くの犯罪で見られます。なにより、警察は加害者側に被害者の個人情報を知らせることはありません。たとえ知り合いであっても、個人的に示談を行おうとすれば、さらなる被害を与えようとしていると誤解されてしまう可能性もあります。
特に強制わいせつなどの性犯罪であれば、個人的に示談しようとするのではなく、まずは弁護士に依頼してください。弁護士に依頼することによって、警察や検察を介して被害者と連絡を取り、示談を進められることがあります。また、第三者である弁護士を通じてであれば交渉に応じてくれる可能性が高まります。
弁護士に依頼することには、そのほかにもメリットがあります。不当に高い慰謝料を求められたときは、あなた自身の財力と犯行内容に基づいた適切な示談金の額を交渉します。また、事実誤認していることがあれば、誤解を解くための活動を行うこともあるでしょう。
5、まとめ
相手の同意を得ずに暴力や脅迫などを用いてわいせつな行為をしてしまった場合、令和5年7月12日までの行為であれば、強制わいせつ罪として罪に問われます。令和5年7月13日以降の行為であれば、相手の同意を得ずにわいせつな行為をした場合、不同意わいせつ罪に問われる可能性があるといえます。
自身の行為に後悔していたり、刑事事件化してしまったのであれば、まずは弁護士に相談してください。被害者と直接連絡を取ることは、多くのケースでさらなるトラブルを呼び込む可能性が高まります。弁護士に委任することで、不当に重い刑罰を処される可能性を回避することができるでしょう。
ベリーベスト法理事務所 大宮オフィスでは、強制わいせつ事件や不同意わいせつ事件に対応した知見が豊富な弁護士が、適切な弁護活動を行います。ひとりやご家族だけで悩まずご相談ください。
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