特措法とは? 休業要請を無視したらどのような影響を受けるのか?
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埼玉県では、新型コロナウイルス感染症総合サイトを設け、県内の感染症の発生動向や、県民・事業者に対する要請などを公表しています。新型コロナウイルス感染症の流行が勢いを増してくると、国や都道府県から事業者に対して、感染防止対策の目的で「休業要請」が発せられる可能性があることはご存じの通りです。
では、事業者に対する休業要請は、どのような法令上の根拠によって行われているのでしょうか? また、休業要請に従わなかった場合、どのようなペナルティーを受けることになるのでしょうか?
今回は、コロナによる休業要請の法的根拠となる「特措法」の概要や、休業要請を無視した場合のペナルティーなどについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、コロナによる休業要請の根拠となる「特措法」とは?
新型コロナウイルスの感染対策を目的とした休業要請は、主に「特措法」に基づいて行われています。
「特措法」は一般に「特別措置法」の略を意味しますが、コロナ対策との文脈では「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を指します(以下「コロナ特措法」と略称します)。
正式名称からわかるように、コロナ特措法はコロナ対策のために新規制定された法律ではなく、近年相次いで流行した新型インフルエンザなどの感染症対策を目的として施行されたものです。
新型コロナウイルス感染症は、流行が始まった令和2年(2020年)2月7日に、(感染症法および)コロナ特措法上の「指定感染症」に指定されました。
その後、令和3年(2021年)2月13日には「新型インフルエンザ等感染症」に指定され、コロナ特措法の枠組みの中で、新型コロナウイルス感染症への対策を恒久的に実施することが可能となっています。
2、コロナによる休業要請の種類と対象施設
コロナ特措法では、「緊急事態措置(緊急事態宣言)」または「まん延防止等重点措置」の発令を条件として、各都道府県知事に対して、事業者などに感染防止のための協力要請等を行う権限を与えています。
休業要請は、コロナ特措法に基づく感染防止のための協力要請の一環として位置づけられているのです。その一方で、コロナ特措法に基づかない事実上の措置としての休業要請が行われることもあります。
各種の休業要請についての概要と対象施設の範囲は以下のとおりです。
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(1)緊急事態措置に基づく休業要請
緊急事態措置(緊急事態宣言)は、以下の2つの要件を満たす場合に発令が認められます(コロナ特措法第32条第1項、同法施行令第6条)。
- ① 一の都道府県の区域を越えて、新型コロナウイルス感染症が拡大・まん延していること
- ② 感染の拡大・まん延により、医療の提供に支障が生じている都道府県があること
緊急事態措置が発令されている状況では、各都道府県知事は、対象区域の住民に対して外出自粛や休業などを要請することができます(同法第45条第1項)。
また、以下の施設については、施設の使用制限や停止、催物の開催制限や停止などの措置を要請することも可能です(同法第2項、同法施行令第11条第1項)。- 学校その他の教育施設
- 保育所
- 老人ホーム
- 劇場、観覧上、映画館、演芸場
- 集会場、公会堂
- 展示場
- 百貨店などの店舗
- ホテル、旅館
- 体育館、水泳場、ボーリング場などの運動施設、遊技場
- 博物館、美術館、図書館
- キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールなどの遊興施設
- 理髪店、質屋、貸衣装屋などのサービス業店舗
- 自動車教習所、学習塾などの学習支援業施設
- 飲食店舗
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(2)まん延防止等重点措置に基づく休業要請
まん延防止等重点措置は、以下の2つの要件を満たす場合に発令が認められます(コロナ特措法第31条の4第1項、同法施行令第5条の3第2項)。
- ① まん延防止等重点措置を集中的に実施しなければ、当該都道府県において新型コロナウイルス感染症が拡大するおそれがあること
- ② 当該都道府県の区域において、医療の提供に支障を生ずるおそれがあること
まん延防止等重点措置が発令されている状況では、各都道府県知事は、対象区域の住民・事業者に対して、外出自粛や休業などを要請することができます(同法第31条の6第1項、同第2項)。
施設の使用制限や停止、催物の開催制限や停止などについては、緊急事態措置とは異なり明文化されていません。しかし、厚生労働大臣が具体的な状況を踏まえて公示した場合には、これらの措置を要請することも可能となっています(同法施行令第5条の5第8号)。 -
(3)特措法に基づかない休業要請
コロナ特措法上の緊急事態措置またはまん延防止等重点措置が発令されていなくても、事実上の措置として、各都道府県知事による休業要請が行われることもあります。
コロナ特措法に基づかない休業要請には、従わなくても法律上のペナルティーはありません。しかし、世間からの評判などを考慮すると、多くの事業者は休業要請に従わざるを得ない実情があります。
そのため、コロナ特措法に基づかない休業要請は乱発されるべきではなく、行政による慎重な判断が求められています。
3、休業要請を無視した場合のペナルティーは?
コロナ特措法に基づく休業要請を無視した場合、世間からの評判の悪化に加えて、事業者は法律上のペナルティーを受けるおそれがあります。
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(1)休業命令を受ける可能性がある|公表・過料の制裁あり
「休業要請」の段階では、事業者に対する法的拘束力は発生しません。しかし、休業要請を無視している事業者に対しては、各都道府県知事により「休業命令」が発令されることがあります(コロナ特措法第45条第3項、第31条の6第3項)。
休業命令が発令された時点で、都道府県知事は、対象となった事業者の名称等を公表することができます(同法第45条第5項、第31条の6第5項)。休業命令が公表されると、「休業要請に従わなかった事業者」として全国的に広く知られてしまい、社会的な評判が低下するおそれがあるので注意が必要です。
また、休業命令に違反した場合には、違反事業者に対して以下の「過料」の制裁が科される可能性があります。緊急事態措置下での休業命令違反 30万円以下の過料(同法第79条) まん延防止等重点措置下での休業命令違反 20万円以下の過料(同法第80条第1項) -
(2)協力金を受給できない可能性がある
緊急事態措置・まん延防止等重点措置が発令されている状況では、事業継続を支援するため、休業要請と併せて協力金の支給などが行われることがあります。
この場合、協力金を受給するためには、各都道府県知事が定める要件に従い、適切に休業を実施していることが必要となります。もし、休業要請を無視して営業したことが発覚した場合、協力金が支給されない可能性があるので気を付けなければなりません。
なお、「協力金を受給するよりも、普通に営業した方がもうかる」という考え方により、あえて休業要請を無視する事業者もいます。
事業を存続させるためには、目先の収入を確保することも大切です。しかし長期的に見れば、「休業要請に従わなかった事業者」として世間に認知されてしまうことは、大きなデメリットになり得る可能性があることは否定できません。
4、コロナ関連の休業要請を受けたら弁護士にご相談を
コロナ関連の休業要請には3つの種類があり、法的性質や従わなかった場合のペナルティーなどがそれぞれ異なります。
事業者としては、「本当に従う必要があるのか」、「従うとしても、具体的にどのような対応が必要なのか」といった疑問を抱くケースもあろうかと思います。
こうした疑問については、顧問弁護士にご相談いただいてもよいでしょう。弁護士は、コロナ特措法による規制内容や、社会的な評判への影響などを総合的に考慮してアドバイスすることが可能です。
なお、弁護士と顧問契約を締結していれば、コロナ対策に限らずさまざまな事項について相談することができます。日常の取引・契約や労務管理・コンプライアンスなど、疑問や懸念点があればすぐに相談できるので、安心して事業を営むことができます。
コロナ対策その他の事業運営に関して、法的な観点から助言を必要としている事業者の方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
コロナ特措法に基づき「緊急事態措置」または「まん延防止等重点措置」が発令されている状況では、都道府県知事から事業者に対して休業要請が行われることがあります。休業要請に従わない場合、休業命令を経て、事業者名の公表や過料の制裁に発展する可能性があるので注意してください。
また、コロナ特措法に基づかない休業要請が行われた場合、従わなくても法律上のペナルティーはありません。しかし、世間からの評判が悪化するリスクなどを踏まえて、休業要請への対応を適切に判断する必要があります。
ベリーベスト法律事務所は、コロナ対策を含めた事業運営上の法律問題について、事業者の方から随時ご相談を受け付けております。日々変化するコロナ禍への対応にお悩みの事業者は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスへご相談ください。
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