身元保証契約とは? 2020年4月からの改正でどのように変わるのか
- 労働問題
- 身元保証契約
さいたま市には約4万1000件の事業所があり、約50万9000人の労働者が働いています(さいたま市統計書(平成30年版)より)。会社を経営していくうえでは、いつ・どのような形で不測の損害が生じるかわからないものです。もしかしたら、労働者の行為によって、会社に損害が生じることがあるかもしれません。そのような事態に備えて、労働者を雇用するときに、労働者の身元保証人と「身元保証契約」を締結している会社は、大宮エリアにも多いと考えられます。
2020年4月の改正民法の施行によって、この身元保証契約は大きな影響を受けることとなりました。そこで、本コラムでは、改正民法により身元保証契約が受ける影響と会社が取るべき対応について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、身元保証契約の基礎知識
-
(1)身元保証契約とは?
身元保証契約とは、労働者を雇用する会社と労働者の身元保証人との間で締結する契約です。労働者の行為によって使用者である会社が被る可能性のある損害を、身元保証人が賠償することの保証を約することを目的とします(身元保証ニ関スル法律第1条)。つまり、身元保証契約は、労働者の行為によって会社が受ける損害を担保するものなのです。
労働者を雇用するとき、労働者に身元保証契約書の提出を求めることを慣行にしている会社はまだまだ多いのではないでしょうか。 -
(2)身元保証契約の範囲は?
身元保証ニ関スル法律第5条によりますと、裁判所は、身元保証契約における損害賠償の責任および金額について、以下の事情を斟酌して(考慮の意味)決めるものとされています。
- 被用者(労働者)の監督に関する使用者(会社)の過失の有無
- 身元保証人が身元保証を為すに至った事由及び身元保証を為すにあたって用いた注意の程度
- 被用者(労働者)の任務又は身上の変化
- その他一切の事情
したがって、会社が、身元保証契約に基づいて身元保証人に対して請求できる損害賠償額は、当該事案の事情によってさまざまです。そして、一般的に、裁判所によって認定される損害額は、身元保証ニ関スル法律第5条に列挙された考慮事情を斟酌する結果、使用者に実際に生じた損害額から一定程度減額されるのが通常です。
ところで、仮に労働者が他社へ出向し、出向先に損害を与えた場合、出向元である会社が損害賠償責任を負う可能性があります。このような場合、身元保証契約はどのような効力を持つのでしょうか。
身元保証契約の趣旨は、使用者(会社)の業務に関する不法行為による損害の賠償を保証することです。そのため、出向先の業務に関する不法行為で損害を与えた場合、特約ない限り、身元保証人に責任は生じないのが原則です。ただし、特約がある場合に加え、「出向元の会社の業務遂行中に不法行為をなした場合と何ら変わるところはない」といえるような事情がある場合も、身元保証人としての責任を負う可能性があります(浦和地判昭和58年4月26日)。 -
(3)身元保証契約の期間は?
期間を定めていない身元保証契約は、原則として3年間効力を有します(身元保証ニ関スル法律第1条)。期間を定めた場合であっても、5年が最長とされています(同法第2条1項)。また、身元保証契約は更新することができますが(同条2項本文)、ここでいう「更新」とは、身元保証契約の期間満了の際になされる更新のみをいい、更新予約は含まれません。
したがって、身元保証契約を自動更新する特約は、「身元保証人に不利益なるもの」(同法第6条)として無効となります(札幌高判昭和52年8月24日)。もし、身元保証契約を継続するのであれば、契約期間満了後に改めて更新契約を締結する必要があります。 -
(4)身元保証契約における会社の義務とは?
身元保証ニ関スル法律第3条の規定により、以下のような場合、会社は身元保証人に対して遅滞なく、その事実を通知する義務があります。
- 労働者本人に業務上不適任または不誠実な行跡があり、このために身元保証人に責任が生じる可能性があることを会社が知った場合
- 労働者本人の任務または任地を変更した結果、身元保証人の責任が重くなり、また身元保証人による労働者の監督が困難になると認められる場合
会社から上記の通知を受けたり、自ら上記の事実を知ったりした身元保証人は、同法第4条の規定により会社との身元保証契約を解除することが認められています。
2、2020年4月からの民法改正でどう変わる?
身元保証契約は、特約がない限り根保証契約であると考えることができます。
根保証契約とは、一定の範囲で継続的に発生する不特定の債務を、保証人が包括的に保証するというものです。たとえば、「1月1日から3月末日までに行ったAを売主、Bを買主とする売買契約について、CがBの代金支払い債務を保証する」というものです。この場合、保証人Cは、1月1日以降3月末までに生じるBの売買代金債務全てを保証しなければなりません。
身元保証契約に当てはめると、会社は、労働者が会社に与えた損害を、最大5年間の範囲で金額の上限なく、身元保証人に賠償請求することが可能だということです。
つまり、保証人の債務が無制限に拡大する可能性があったのです。
ところで、根保証契約について定める旧民法第465条の2は、保証人が個人である場合の貸金等根保証契約に限定して、極度額(根保証する金額の上限)を定めなければ効力を生じないと定めていました。
これに対して、改正民法第465条の2は、そのような限定を取り払い、個人根保証契約全般について、極度額を定めなければその効力を生じないとしています。上記A、B、Cの例でいえば「100万円の範囲で保証する」などと上限額を定めなければ無効となるのです。
したがって、新民法が施行される2020年4月以降に会社が身元保証契約を締結するときは、身元保証人に対して請求できる損害賠償の上限額、つまり極度額を定めておく必要が生じることになったのです。
3、身元保証契約の極度額の設定について
では、身元保証契約における極度額は、どのように設定すればよいのでしょうか。
改正民法は、「主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。」と規定しています。つまり、法律では極度額の具体的な金額は規定されていないのです。
だからといって、あまりに巨額な極度額を設定することは現実的ではないうえに、身元保証人の選定が難しくなることになりかねません。他方、少額すぎても、実際に会社に損害が生じた場合に十分な補償が受けられなくなるおそれがあります。
したがって、身元保証契約の極度額を設定するときは、これまでに会社や他社が労働者の責めによる事由で損害を受けた実例を参考にしながら、身元保証契約締結の時点で確定的な金額を定める必要があります。
なお、改正民法附則第21条1項に規定された経過措置により、2020年4月の施行日前に締結された身元保証契約については、改正前の民法の規定が適用されます。
4、弁護士に相談するメリット
会社が身元保証契約に基づいて保証人に損害賠償請求するときは、その是非をめぐって保証人や労働者とトラブルになることもあります。そのような事態を未然に防ぐには、労働関連の法律や制度に知見があり、トラブル解決に実績のある弁護士から、身元保証契約の見直しや、新法の下での契約内容について、法的知見や他社の事例などを踏まえたアドバイスを受けることが有用です。
また、実際にトラブルとなってしまった場合であっても、弁護士を会社の代理人とすることで、保証人や労働者との交渉、さらには裁判上の手続きを任せることができます。
5、まとめ
身元保証契約以外にも、今回の民法改正は会社の労務管理にさまざまな影響を及ぼします。これにより、身元保証制度のほかにも見直さなければならない制度や就業規則が出てくることでしょう。このような見直しを怠ることは、会社のリーガルリスクにつながりかねません。万が一の事態を回避するためにも、民法改正に伴う社内諸制度の見直しは、弁護士と相談しながら進めることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、会社のパートナーとしてワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスを提供しています。もちろん、身元保証契約に限らず、幅広い分野でご相談を承ることが可能です。身元保証契約などを見直す際は、ぜひベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士までご相談ください。あなたの会社のために、ベストを尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています