未消化の代休の精算方法とは。代休の管理方法とあわせて解説

2022年08月22日
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未消化の代休の精算方法とは。代休の管理方法とあわせて解説

会社の繁忙期などでは、会社は労働者に対して休日労働をお願いすることもあると思います。労働基準法上使用者は、労働者に対し、いわゆる管理監督者等一部の労働者を除き、原則、毎週少なくとも1日の休日を与えなければなりません。ただし、4週間を通じて4日以上の休日を与える場合はこの限りではありません。労働者に法定休日に労働をさせた場合には、使用者は、労働者に対し、その日の労働については、通常の労働日の賃金の計算額に一定の割増率(1.35倍以上)を乗じた割増賃金を支払わなければなりません。

休日は、労働者にとっては仕事と私生活を両立させるために重要なものです。会社としては、労働者の休日をしっかりと管理する必要があります。休日労働を労働者にさせた場合に、労働者に別の労働日について代休を付与する会社もあると思います。

本コラムでは、未消化の代休についての処理方法や代休の管理方法などをベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、改めて理解しておきたい代休の要件および効果

いわゆる代休とはどのような制度のことをいうのでしょうか。以下では、代休の概要と代休の要件および効果について説明します。

  1. (1)代休とは

    いわゆる代休とは、事前に振替先の休日を特定することなく、休日に労働をさせた後に、代わりに、他の労働日を休日にするものです。

    また、代休と似た制度に「休日の振替」というものもあります。特定の休日について、その休日よりも前に一定の手続きを行ってその休日を労働日にし、そのかわり、他の労働日を休日にするものです。

    休日の振替は、事前に特定の休日を他の労働日と変更する制度です。一方、代休は、事前に特定の休日と他の労働日を変更するのではなく、休日に労働をさせた後、事後的に別の労働日を休みにする制度です。

  2. (2)代休付与の要件

    そもそも使用者が法定休日に労働者に労働をさせるためには、「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」行政官庁の許可を受けるか、いわゆる三六協定を締結し、行政官庁に届け出た上で、その協定に基づいて休日労働を行わせる必要があります。

    休日労働をさせた後、使用者が別の労働日に代休日を指定する場合、休日を指定すること自体は当然にできます。ただし、代休日について無給とするためには労働協約または就業規則に基づいて行うか労働者の個別的同意が必要とする見解がありますので、使用者が代休を付与する際には、就業規則等に代休についての定めを置いた上、就業規則等に基づいて代休を付与するべきです。
    なお、使用者は労働者が希望した日を代休日と定めることもできます。

  3. (3)代休の効果

    上記のように就業規則等に基づいて代休を付与したとしても、振替休日とは異なり、元の休日における労働は、その休日が法定休日の場合、あくまでも休日労働ですので、会社は、労働基準法上の割増賃金(通常の労働日の賃金の計算額の1.35倍以上)を支払わなければなりません

    法定休日とは、労働基準法上使用者が労働者に与えなければならない毎週少なくとも1回の休日または4週間に4回の休日のことをいいます。一方、法定外休日という概念もあり、これは法定休日でない休日のことを指します。法定外休日については、休日労働したとしても、労働基準法上は、休日労働としての割増賃金(通常の労働日の賃金の計算額の1.35倍以上)は発生しません。ただし、その日の労働で労働時間が週40時間を超えている場合は時間外労働として割増賃金の対象になります(通常の労働日の賃金の計算額の1.25倍以上)。

    そのかわり、就業規則等に基づいて代休日を付与することによって、その代休日については労働者は労働していないことになるので、その通常の労働日の所定労働時間相当分の賃金請求権は発生しないことになり、当該賃金対象月間に代休日を設定すれば、精算調整し、割増分のみ(0.35倍以上)賃金を支払うという処理は可能です。当該賃金対象月間に代休日を設定できなければ、当該賃金対象月間については、所定労働時間相当分も含め割増賃金を支払う必要があります。

    その月より後に就業規則等に基づいて代休日を付与する場合には、その代休日については労働者は働いていないため、所定労働時間相当分の賃金を支払わないことになります。

2、未消化の代休の処理方法

労働者が希望した日について代休日を付与するという制度設計の場合に、労働者が代休日を取得せず、未消化の代休がたまっている場合にはどのように処理すればよいのでしょうか。

  1. (1)割増賃金の計算について注意する

    会社に代休制度があり、労働者の希望する日に代休を与える制度の場合、労働者が出勤日に休みにくいなどの理由から代休を消化することができずに数十日分も保有しているというケースがあり得ると思います。

    労働者が法定休日に労働をした当該賃金対象月間に労働者が代休日を取得した場合には、前述したとおり、休日労働日については、割増部分のみの支払いで足ります。
    しかし、当該賃金対象月間に代休日を取得できない場合には、割増部分の支払いのみならず、通常の労働日の賃金分も当然支払わなければなりません

    当該賃金対象月間に代休日を取得できず、未消化のまま翌月を迎えてしまう場合は、このような処理をする必要があります。

  2. (2)使用者が就業規則等に基づき代休日を指定する

    労働者の疲労や心身の不調などの健康障害を防ぐためにも、長時間労働を防止するということは会社の重要な使命になっています。代休がたまっている状態というのは、休日労働を行っていながら仕事を休めていない状態ですので、労働者の心身の疲労も大きいものと考えられるでしょう。

    労働者のモチベーションやパフォーマンスの低下を防止するという観点からも、一定数の代休が未処理となっている場合には、使用者が就業規則等に基づき代休日を指定するなどの処理をすることも必要となるかもしれません

3、代休の取得期限

未処理の代休がたまっている場合には、いつまでに代休を取得する必要があるのでしょうか。

  1. (1)法律上代休の取得期限はない

    代休日の取得は、労働基準法などの法律によって定められた制度ではありません。したがって、代休をいつまでに取得しなければならないという期限はないといえます。

    だからこそ、代休の取得期限を設けるかどうか、設けるとしていつまでにするかは就業規則などの規定に従って運用していくことになります。

  2. (2)会社としては代休取得期限を設けることが望ましい

    法律上、代休取得期限が定められていないからといって、代休取得期限を設けないことや代休取得期限を長く設定してしまうと、代休取得が進まない可能性があります。そのため、会社としては、ある程度の期限を設定することも必要になるでしょう。

    当該賃金対象月間に代休を取得すれば、割増賃金分との精算調整が可能なので、休日労働をした当該賃金対象月間内に代休を取得するような期限の定め方が労務管理上は望ましいといえます。

    代休の取得期限をどうするかについては、会社によってさまざまですので、適切な期限となるように会社と労働者でよく話し合って決めることが大切です。

4、代休を適切に管理するために会社がやるべきこと

労働者が未消化の代休をためることがないようにするためにも、会社としては以下のような代休の管理が必要となります。

  1. (1)休日勤務の申請時に代休日を決める

    代休を消化することができずにためてしまう原因には、振替休日と異なり代休が事後的な休日の付与であるという点が挙げられます。休日勤務をした後に代休を取得しようとしても繁忙期であったり、代わりの人員が確保することができなかったりという状況下では、代休を取得することができません。

    そのため、代休を付与する場合には、休日勤務のときまたはそれと近接した時期に代休日を決めるということが有効です。代休日を決める際には、労働者の側からの申請だと言い出しづらい部分もありますので、上司が声がけをしてあげるなどの工夫があるとより良いでしょう。

  2. (2)代休の制度は使わず振替休日で対応する

    代休を管理する手間を減らし、休日の取得を促進するための方法としては、代休ではなく振替休日を利用する方法があります。

    振替休日は、あらかじめ休日労働の代わりとなる休日を指定することになりますので、代休のように休日を取得することができずに未消化の休日がたまってしまうということはありません。振替休日の制度を利用することによって、会社としてもいつ誰が休むのかを把握しやすくなりますので業務量の調整が容易になります。

    また、振替休日の場合には、法定休日に労働をさせた際の休日労働としての割増賃金分の支払いも不要になりますので、法定休日に労働をさせた場合でもコスト削減を図ることが可能です。なお、労働日となった休日の労働が当該週において40時間を超える場合は、時間外労働しての割増賃金は支払う必要はあります。

    ただし、振替休日の制度は、就業規則等上、業務の必要により休日を他の日に振り替えることができる旨を定め、かかる規定に基づき、振替を行うことが必要です。このような就業規則等の規定がない場合は、労働者の個別的合意が必要となります。

    それに加えて、振替休日を行う場合も、労働基準法上の毎週少なくとも1回の休日または4週間に4回の休日を労働者に与えなければならないという規定を守る必要があります。

5、まとめ

代休は、法律上定められた制度ではありません。代休を付与するかどうか、付与する場合の期限をどうするのかについては、会社が自由に決めることができます。

しかし、休日は、労働者にとっては疲労を回復し、仕事へのモチベーションを保つために重要なものとなります。だからこそ会社としては、代休についてのルールを定めて適切に運用することが求められます。

代休制度の導入や運用についてのお悩みについては、企業法務に詳しい弁護士によるサポートによって解決できるでしょう。労働問題でお悩みの企業は、ベリーベスト法律事務所大宮オフィスまでお気軽にご相談ください。貴社の状況に適した月額設定で利用できる顧問弁護士サービスもご用意しています。まずはお問い合わせください。

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