発達障害を理由に退職勧奨を受けた! 辞めたくないときにとるべき行動
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発達障害と診断された方のうち、特定の条件に当てはまる場合は、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を交付できることがあります。「さいたま市統計書(令和2年度版)」によると、さいたま市民のうち、令和元年度末時点において療育手帳を所持している人は8023人、精神障害者保健福祉手帳を所持している人は12776人でした。
発達障害は、生まれつき脳の機能の違いによって生じる症状のひとつです。特性に合った働き方などを工夫することで、本来の能力を活かしやすくなる可能性があります。そのため、使用者は、発達障害を有する者の強みと弱みを理解して、強みを活かせる業務に異動できないかを検討したり、一緒に働く方々と障害の特性を共有することで業務を円滑に進められるように工夫したりすることも場合によっては求められているでしょう。
したがって、発達障害であることを理由とする退職勧奨は、会社の違法行為となりえます。また、医師でもないのに発達障害であると決めつけたうえで退職勧奨をしてくる場合も、違法行為となる可能性が高いでしょう。
もし、会社から違法な退職勧奨を受けた場合には、早急に弁護士へご相談ください。本コラムでは、発達障害者に対する退職勧奨の違法性などについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、退職勧奨を受けた際のNG行動・とるべき対応
会社からの退職勧奨に対しては、会社側の言い分を鵜呑みにすることなく、法律のルールを踏まえて冷静に対処することが大切です。まずは退職勧奨を受けた際のNG行動と、とるべき対応の例を紹介します。
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(1)退職勧奨を受けた際のNG行動例
退職勧奨を受けた場合、会社の求めに応じて素直に退職届を提出してはいけません。会社から提示された退職合意書にあっさりサインすることもNGです。
なぜなら、退職勧奨は、あくまでも、従業員に対して「任意に」退職を促すものだからです。会社が一方的に従業員を退職させるのは「解雇」であり、退職勧奨とは異なります。
過去の裁判例でも、どのような場合であっても退職勧奨に応じる義務はないとの判断を示しています。
本来であれば、会社が従業員を解雇するためには、法律上の厳しい要件をクリアしなければなりません(労働契約法第16条等)。そのため、会社は退職勧奨を行い、「従業員が任意に退職した」という体裁をとることで、解雇に関する規制を免れようとするケースが多いのです。
従業員としては、このような会社の思惑に乗ってはいけません。退職勧奨を拒否するか、仮に退職を受け入れるとしても、「自分が満足する一定の退職条件(金銭補償等)を満たすなら、退職を検討する」などと主張し、これから生活していくうえで有利な退職条件を引き出せるように毅然と対応すべきです。 -
(2)退職勧奨を受けた際のとるべき対応例
会社との退職勧奨に関するやり取りは、すべて記録しておきましょう。
メールで退職勧奨を受けた場合は、そのメールをすべて保存しておきます。電話や口頭で退職勧奨を受けた場合は、その内容を録音しておくのが最も効果的です。また、退職勧奨を超えて一方的に解雇を通告された場合には、会社に対して解雇理由証明書の発行を請求しましょう(労働基準法第22条第1項)。
会社と交渉して有利な退職条件を引き出すためには、弁護士に代理交渉を依頼することをおすすめします。解雇が無効であることを前提として、弁護士が法的な観点から交渉を行うことで、好条件で退職できる可能性が高まるためです。
2、発達障害を理由に退職勧奨を行うことの違法性
障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)第34条では、「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない。」とされています。
そのため、発達障害があることだけを理由に、会社が従業員に対して退職勧奨を行うことは、障害者雇用促進法の趣旨に反する可能性が高いです。
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(1)発達障害者に対する差別的な退職勧奨の例
以下の例は、発達障害者に対する退職勧奨が差別的なものであり、障害者雇用促進法違反に該当する可能性が高いと考えられます。
- 労働能力などに基づかず、単に発達障害者であるという理由だけで退職勧奨を行うこと
- 健常者については成績が最低の者だけを退職勧奨の対象とするのに、発達障害者については平均以下の者を退職勧奨の対象とすること
- 退職勧奨の基準を満たす者が他に複数いる場合に、労働能力などに基づかず、単に発達障害者であるという理由だけで優先的に退職勧奨を行うこと
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(2)発達障害者に対する退職勧奨が認められるケース
ただし、発達障害者に対する退職勧奨が一切禁止されるわけではありません。健常者も含めたすべての従業員の労働能力などを適正に評価したうえで、結果的に発達障害者を退職勧奨の対象とすることについては、問題なく認められます。
たとえば、障害の内容・程度に応じた合理的配慮を十分に行ったにもかかわらず、無断欠勤が目立ち改善の見込みがない場合などには、発達障害者に対する退職勧奨もやむを得ず適法と評価すべきでしょう。
3、発達障害者に対して、診療結果の報告を求めることの問題点
障害者雇用促進法は、常時43.5人以上の労働者を雇用する事業主に対し、障害者雇用状況の報告義務を課しています(同法第43条第7項)。そのため、事業主が雇用する発達障害者に対して、障害の症状・程度などに関する報告を求めることも、かかる報告義務を果たすために必要な範囲であれば問題のない行為です。また、障害者雇用納付金の申告や、障害者雇用調整金(または報奨金)の申請との関係で、事業主が障害者雇用状況を把握する必要が生じる場合もあることも知っておきましょう(同法第49条以下)。
ただし、退職勧奨をするかどうかの判断材料とするために、障害の症状・程度などに関する報告を求めることは厳禁です。
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(1)利用目的の明示が必要|目的外利用はNG
発達障害の有無や症状に関する情報は、「要配慮個人情報」(個人情報保護法第2条第3項)に該当します。そのため、事業主は、発達障害に関する情報を取り扱うに当たって、個人情報保護法上のさまざまなルールを遵守しなければなりません。
個人情報保護法に基づき、事業主に義務付けられることのひとつが、個人情報の利用目的の特定・明示です。事業主は個人情報の利用目的をできる限り特定したうえで(同法第17条第1項)、その利用目的を本人に通知し、または公表しなければなりません(同法第21条第1項)。
さらに、個人情報の目的外利用は、法令に基づく場合などを除き、原則として禁止されます(同法第18条)。たとえば、障害者雇用促進法に基づく手続きなどに用いるために取得した発達障害に関する情報を、退職勧奨の対象者を選定する際に考慮することは目的外利用であり、個人情報保護法違反にあたります。
もしあなたが、利用目的の特定・明示がないまま、発達障害の有無や症状についての情報を求められた場合は、なぜその情報が必要なのかを確認してください。そのうえで、あなたが納得できたら回答するようにしましょう。納得できない場合は、回答する必要はありません。 -
(2)個別の報告要求はNG|全体向けに呼びかけるのが原則
障害者雇用促進法に基づく手続きなどに必要だとしても、事業主が発達障害を持つと思われる従業員に対して、障害の症状・程度などに関する報告を個別に要求することは適切ではないと考えられます。本人に不当なプレッシャーを与え、または報告が義務付けられているとの誤解を生むおそれがあるからです。
厚生労働省が定める「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」でも、採用後に障害者を把握・確認する場合には、雇用している労働者全員に対して申告するよう呼びかけることを原則としています。適切な呼びかけの例としては、社内LANの掲示板に掲載したり、従業員全員に対して一斉にメールや社内報を送付・頒布したりする方法があります。
ただし例外的に、従業員が公的制度や社内制度の活用を求めて自発的に申し出を行った場合には、障害に関する情報を個別に照会することができるとされています。
もしあなたが、個別の報告要求を受けた際は、なぜその情報が必要なのかなどを確認し、納得できなければ回答を拒むことができます。何度も繰り返し個別に回答するように求められる場合は、労基署などの機関に相談してください。 -
(3)呼びかけには拘束力なし|従業員は報告を拒否してもOK
前述のとおり、発達障害に関する事実は要配慮個人情報にあたります。要配慮個人情報は、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ずに取得することが禁止されています(個人情報保護法第20条第2項柱書)。要配慮個人情報を提供するか否かは、本人の任意に委ねるべき事柄であるためです。
したがって、会社から発達障害の有無や症状などについて報告を求められても、従業員にはそれに従う義務はありません。発達障害に関する事実を明かしたくないと考えるのであれば、報告要求に応じなくてOKです。
4、発達障害であることを会社に報告すべきか?
良心的な会社であれば、発達障害であることを伝えておいた方が、働くうえで合理的な配慮をしてもらえるかもしれません。発達障害を隠して働くことに不安があり、会社のことを信頼できるならば、思い切って打ち明けることも検討すべきでしょう。
また、発達障害者向けの社内制度が設けられている場合には、積極的に利用することが望ましいといえます。このような制度を設けている会社は、障害者と健常者の調和を重要視していることが多く、発達障害を打ち明ければ働きやすくなることが期待されるためです。
しかし、発達障害であることを過度に気にされたくない、差別の目線が怖いなど、さまざまな理由から打ち明けたくないと考える方もいらっしゃるでしょう。
その場合は、ご自身の気持ちに素直な行動をとってください。もし会社が発達障害であることを疑ってくる、決めつけて見下したような対応をとるようであれば、障害者にフレンドリーな職場へ転職することもひとつの選択肢になりえます。
5、まとめ
発達障害であることだけを理由に、会社が従業員に対して退職勧奨を行うことは、障害者雇用促進法違反にあたります。医師などの専門家でもないのに、勝手に「発達障害だ」などというラベリングが行う方がいるようですが、外部から見てもその症状の程度を把握することは極めて困難であり、個人が安易に診断を下せるようなものではありません。
もし会社から、勝手に発達障害であると決めつけたうえで退職を促される、もしくは、実際に発達障害であったとしてもそれだけを理由に退職勧奨を受けた場合は、法的な観点から適切に反論するため、弁護士へのご相談をおすすめします。
会社から不当な退職勧奨を受けたときは、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています