残業代請求をするとき、未払い分を計算したい! どうすればいいか弁護士が解説

2019年02月20日
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残業代請求をするとき、未払い分を計算したい! どうすればいいか弁護士が解説

アパレル関係やスーパーの店員など、埼玉県さいたま市の大宮でも、サービス業に従事している方はとても多いと思います。
職場によっては、勤務時間外でも、顧客の対応を行う必要が多々発生するでしょう。このような場合に、常について回るのが残業代の未払い問題です。所定の労働時間を過ぎた場合、残業代は割り増しした金額が支払われることになりますが、金額の算定が難しいと戸惑う方もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は残業代請求の基礎になる残業時間や金額の計算方法について説明します。

1、残業代の計算方法と計算式

残業代請求でいう「残業」とは、所定労働時間または法定労働時間を超えて働いた時間のことを意味します。
以下では、このうち法定労働時間を超える部分の残業代の計算方法について詳しく見ていきましょう。

  1. (1)残業代の計算式

    まず、残業代請求の対象となる残業代は、次の計算式によって計算できます。

    残業代=残業時間×1時間あたりの賃金×割増率1.25


    もっとも、就業規則で1.25を超える割増率が定められている場合には、その割増率が適用されます。

  2. (2)どのような場合に残業時間となる?

    残業時間とは、法律上定められている労働時間である「1日8時間、1週間で40時間まで」を超えて働いた場合、すべてが「残業時間」という扱いになります。
    以下に、少し詳しく説明していきます。

    ●法定労働時間
    これは、「労働者を1日8時間、1週間で40時間までしか働かせてはいけない」という法律上のルールのことです。

    ●法定時間外労働
    「法定労働時間以外の労働」が法定時間外労働に該当します。
    法定労働時間を超える時間を働いた場合には、その時間分については法定時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。

    なお、時間外労働には36協定(サブロク協定)という形で、「この時間数までであれば法定労働時間を過ぎても文句は申しません」という合意が雇用者側と労働者側で結ばれている場合があります。
    その範囲内の時間であれば残業をさせても違法ということではなくなります。
    逆にいうと、36協定のない場合には雇用者側は法定労働時間を超えて労働者を働かせることはできません。

  3. (3)1時間あたりの賃金の計算

    正社員として働いている方の場合、月給でお給料を受け取るのが普通でしょう。したがって、1時間あたりの賃金というのはあまり計算したことがないかもしれません。1時間あたりの賃金を算出する際には、以下のように計算します。

    1時間あたりの賃金=月給の金額÷1年間における1ヶ月平均所定労働時間


    所定労働時間とは簡単にいうと「定時」のことで、雇用契約書や就業規則で決まっている労働時間のことをいいます。
    1年間における1ヶ月平均所定労働時間は以下の計算式のとおり、1年間の勤務日数に所定労働時間をかけて、さらに12ヶ月で割ると算定できます。

    1年間における1ヶ月平均所定労働時間=1年間の勤務日数×所定労働時間÷12ヶ月


    たとえば、所定労働時間が8時間の方が、一年間で240日働いたとすると、8時間×240日=1920時間となりますので、これを12で割って算定される160時間が1年における1ヶ月平均所定労働時間です。
    この方の月給を26万円としますと、26万円÷160時間=1625円ですので、1625円が1時間あたりの賃金となります。

2、変形労働時間制では残業代の計算方法はどうなる?

1ヶ月間、毎日同じ時間に出社して退社するという方や、シフト勤務になっている方は、先述した計算方法を使って残業代を計算することができます。他方、繁忙期があるので毎月働く時間数が違うという職場の場合には、変形労働時間制が適用されている場合があります。 以下、変形労働時間制の場合の残業時間の計算方法についてみていきます。

  1. (1)変形労働時間制とは

    変形労働時間制とは、1ヶ月単位、1年単位あるいは1週間単位という一定の期間内で特定の日や週に法定労働時間を超えて労働させることを認める制度のことをいいます。

    変形労働時間制が適用されるには、法律上の要件を満たす必要があります。
    たとえば、1ヶ月単位の変形労働時間制であれば、労使協定または就業規則その他これに準じるものにより、1ヶ月以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない定めをして、各週、各日の所定労働時間をあらかじめ特定することなどが必要となります(労働基準法32条の2)。

    1ヶ月単位で労働時間を定める場合は、次の計算式でまず1ヶ月間合計の法定労働時間を計算します。

    1ヶ月間合計の法定労働時間=40時間×1ヶ月の日数÷7


    たとえば、1ヶ月が31日間の月であれば、40時間×31÷7=177.1時間となります。

    1ヶ月トータルでこの労働時間を越えなければOKということですので、次のような形で繁忙期に法定労働時間内で対応するといったことも可能になります。

    • 1週目:35時間
    • 2週目:35時間
    • 3週目:35時間
    • 4週目:72.1時間


    この一例における4週目は、通常の法定労働時間である40時間を大幅に超えています。しかし、変形労働時間制の下では法定労働時間の範囲内、という扱いになるのです。

  2. (2)変形労働時間制の場合の残業時間の算出

    変形労働時間制の場合でも、法定労働時間を越えればその時間は残業時間となります。

    1ヶ月単位で労働時間を定める場合であれば、以下の時間については変形労働時間制の場合でも割増賃金が発生します。

    ●1日で8時間以上の所定労働時間を定めた場合
     定めた所定労働時間を超えて労働した時間

    ●1週間で40時間以上の所定労働時間を定めた場合
     定めた所定労働時間を超えて労働した時間

    ●1週間で40時間以下または1日8時間以下の所定労働時間を定めた場合
     法定労働時間である1週40時間または1日8時間を超えて労働した時間

    ●上記の対象期間全体で、法定労働時間を越えた時間数

    変形労働時間制を採用している企業の場合、「うちは変形労働時間制になっているから、残業時間はない」と理解、もしくは労働者に対して説明している担当者も少なくありません。しかし、これは正しくありません。しっかりと、自分の労働時間を確認しましょう。

  3. (3)残業代の計算方法

    変形労働時間制における残業代の割増率は25%です。本項の(2)で計算した時間外労働時間から残業代を計算するときは、残業時間に1時間あたりの賃金および割増率1.25をかけて残業代を計算することになります。

  4. (4)変形労働時間制における注意点

    前述のとおり、変形労働時間制が適用されるには、厳しい要件が課されています。会社によっては、その要件を満たさないまま変形労働時間制を用いている場合も考えられます。 そのため、「うちの会社は、変形労働時間制がとられている」と言われていても、そもそも変形労働時間制の要件を満たすか調べてみることが必要です。
    もし、変形労働時間制が適用されないならば、法定労働時間を超えた労働時間がすべて残業時間に含まれる可能性があり、多額の残業代を請求することができるかもしれません。

3、見落としやすい残業時間

残業時間に含まれるケースで見落としやすいものとして、以下のようなものがあります。

これらは残業代の請求を行う際の請求金額に含めることが可能となるため、忘れないようにしてください。

●朝礼時間
朝礼のために勤務開始時刻よりも早く出社しているという場合、その朝礼時間も所定労働時間外の労働になりますので、労働時間に含まれます。朝礼の代わりに早朝の掃除などがある職場も多いと思いますが、この掃除の時間も労働時間に含まれます。

●自宅に持ち帰ってした仕事の時間
自宅にまで仕事を持ち帰って行う必要があったかについては判断が分かれる可能性があります。たとえば「明日の朝の会議に使う資料を今日中に必ず作成するように」といったように、実質的に仕事を持ち帰らなければ完了できない場合には、その時間も労働時間に含まれる可能性が高いといえます。

●タイムカードを押した後に残って仕事をした場合
タイムカードを押した後になって顧客対応の必要が出たような場合には、その時間分は労働時間に含めることができます。また、タイムカードを押す時間が社内規則で決まっているような場合でも、現実にそれ以降も残って仕事をしたときは、その時間は労働時間に含まれます。

ただし、このような場合には、実際の勤務時間をメモなどで証拠として残しておくことが大切になります。裁判や労働審判では、タイムカードが労働者の労働時間を立証する上で客観的な証拠になることが多いです。そのため、タイムカードの打刻時間以降も働いていたことを立証する証拠が必要となります。

4、まとめ

今回は残業代の計算方法について、基本的な考え方や計算式について説明しました。残業代を請求できないと思い込んでいた方も、実際は請求できる可能性に気が付かれた場合も多いのではないでしょうか?

しかし、実際にあなたが残業代を職場にいくらぐらい請求できるのかについては、具体的な勤務時間の計算や、そのための証拠集めなどをする必要があります。これらは、ご自身ですべて行うことは難しいことです。

そこで、労働問題について実績のある弁護士事務所に相談すると、具体的なアドバイスを受けることが可能になり、手続きもスムーズになります。

勤務先や昔の勤務先に対して未払いの残業代がある方は、弁護士に相談することを選択肢に入れることをおすすめします。ベリーベスト法律事務所・大宮オフィスでお待ちしております。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています