残業代請求の手続きの流れは? 弁護士による対応と労働基準監督署による対応との違いとは?
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埼玉労働局が令和5年9月6日に公表した「労働基準関係法令違反に係る公表事案」によると、労働者7名に対して36協定の締結・届出なく違法な時間外労働を行わせたとして埼玉県内の企業が送検されました。
時間外労働をたくさんしているにもかかわらず残業代が支払われていない場合、相談先として、公表事案のような法的な対応を行える労働局や労働基準監督署を思いつく方が多いかもしれません。しかし、状況によっては、労働基準監督署に相談し、対応してもらうことに適しているケースと、そうではないケースがあります。そこで今回は、残業代請求について、労働基準監督署がどのような手助けをしてくれるのか、弁護士に頼んだ場合との違いや費用などについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、労働基準監督署とは
労働基準監督署は、労働条件や、労災の加入などについて事業者を監督する立場の役所で、残業代などの労働問題についても相談できる公的な機関です。しかし、紛争解決に動いてくれる場合と、そうでない場合があります。
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(1)残業代請求に対応してくれる?
残業代請求について、労働基準監督署の窓口に最初に相談した際は「まずは勤務先の会社とご自分で交渉してみてください」という対応をされるのが一般的です。
これは、労働基準監督署が労働問題について実際に動くためには、まずは労基法違反が認められることが必要だからです。つまり、あなたが、会社に対して残業代請求権を有しており、会社が残業代請求に対して残業代を払わないことが確定して初めて、労働基準監督署は動いてくれるということになります。
したがって、まずはあなた自身が会社に対して残業代の請求を行う必要があります。労働基準監督署へ相談する時期は、「あなたが行った残業代請求に対して会社側が支払わないという意思表示をしてきたという状態に陥った後が適切」ということになります。 -
(2)相談すべき労働基準監督署
労働問題について労働基準監督署に相談する際には、あなたが勤務している会社の事業所を管轄している労働基準監督署の窓口を利用する必要があります。会社の事業所が他県や他市にある場合、あなたのお住まいの地域では対応してもらえないため、注意が必要です。
また、本社機能を有する場所の労働基準監督署が管轄する場合があり、勤務地の労働基準監督署が必ずしもその事業所を管轄していない可能性があるため、その点もあらかじめ調べることが必要です。
そのため、相談に行くときは、厚生労働省のウェブサイトで管轄と所在を確認することをおすすめします。
2、残業代の請求で、頼るべきは労働基準監督署と弁護士どちら?
残業代請求について相談する場合、労働基準監督署の他に、労働問題を専門としている弁護士に相談することが考えられます。
どちらに対して相談するのがより適切か、次に、弁護士に相談した場合の手続きの流れをみていきましょう。
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(1)残業代請求の際の弁護士の対応
残業代請求について弁護士に相談する場合、まずは法律事務所にメールや電話で相談内容を伝え、あなたが置かれている状況について簡単に説明します。そののち、実際に面談をする日程を調整し、弁護士と面談することになります。
正式に弁護士に依頼して残業代請求を行うことを決めたら、弁護士との間で委任契約を締結します。依頼の時点で通常は着手金を支払います。ここから弁護士は、残業代請求の手続きを具体的に進めていきます。
弁護士はあなたの手元にある証拠や資料を整理し、会社との交渉に当たったり、労働審判や裁判の法的手続きをとったりします。進捗状況などは担当弁護士から随時報告されますので、その都度、あなたの希望を伝えながら手続きを進めてもらいましょう。
なお、すでに勤務先を退職している場合には、会社との交渉はすべて法律事務所が窓口となり、あなたの担当弁護士を通して進めていくことになります。あなたから直接元勤務先の担当者と電話をかけたり、面談をしたりする必要が一切ないという点も、弁護士に依頼したときに得られる大きなメリットのひとつといえます。
残業代請求を弁護士などの専門家に依頼する際に必要となる情報を例示すると、以下のとおりとなります。
- 給与に関する情報(月給か日給か、固定か歩合か、給与明細の内容など)
- 雇用契約の内容(定時は何時から何時までか、基本給の額、残業手当などの有無など)
- 残業時間に関する情報(実労働時間。何月何日に、何時から何時まで働いたのか)
残業時間の存在はあなたが証明しなければならないと考えられています。そのため、あなたが現時点で勤務先に勤めている場合には、退職する前に手元に保管しておくべき証拠資料(タイムカード、業務日報など)について、弁護士から専門的アドバイスを受けることが重要です。
残業代請求には3年間の時効が存在します。すでに退職をしている方の場合は、この消滅時効が成立してしまわないように注意し、必要な時効中断の手続きなどを確実に行っていくことが大切です。
なお、企業側に慢性的な労働法規違反の状況がみられるケースもあるでしょう。その際は、労働基準監督署への申告も、相手方にプレッシャーを与えるための有効な手段のひとつです。弁護士への依頼と同時並行で労働基準監督署に申告手続きを進めることも十分検討の余地がありますので、そのあたりも含め、担当弁護士とよく協議することをおすすめします。 -
(2)労働基準監督署と弁護士、どちらに相談すべき?
前述したように、労働基準監督署は、原則として会社が労基法違反をしていることが認められる場合に、是正措置などを行ってもらえる機関になります。
残業代請求は、どの時間が労働時間に当たるかといった点が問題となることが多く、労基法違反が直接問題とならない場合があるので、残業代請求権が存在することが明らかでない時点では、労働基準監督署では解決できない場合があります。
したがって、あなたが、これから残業代請求をしようと考えている場合には、労働基準監督署ではなく、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
残業代請求は自分ですることも不可能ではありませんが、特に裁判手続きでは、各種資料の準備など、法律家の専門知識が必要不可欠です。状況によっては自身で対応し続けることが難しいことも多々あるでしょう。多くの場合、労働問題に詳しい弁護士に依頼したほうが、よりスムーズに残業代を支払ってもらえる傾向があるといえますので、いずれにしてもなるべく早い段階で弁護士に相談するようにしましょう。
3、サービス業での残業代請求は可能?
たとえばアパレル、飲食店従業員などのいわゆるサービス業は、残業代の計算方法について、タイムカードなどにより労働時間を管理している一般的な事務職と状況が異なる場合があります。
さらに、店長などの管理職にある場合には、会社側のスタンスとして、時間外勤務という扱いがなされない場合もあります。
そのため、このような場合の残業代請求においては、実際にどのような内容の職務を担当していたかなどの側面から、未払いの残業代を計算していくことが必要になります。
具体的には、毎月提出するシフト表や、レジの集計データなどが証拠になり得ます。
4、弁護士に依頼した場合の費用
すでに勤務先を退職している方の場合でも、労働問題に詳しい弁護士に相談すれば、残業代請求が成功するケースもあります。会社と直接交渉などしたくないという場合でも、弁護士に対応を一任すれば、以後は弁護士があなたの代わりに交渉の窓口となります。
あなたひとりで残業代請求を進めていくのが難しいと感じる場合には、ひとりで悩むのではなく、専門家のアドバイスを受けたり、その後の対応を依頼したりすることを検討してみてください。相談料や弁護士費用については、法律事務所によって異なりますが、個々の状況によっても変わります。まずは電話やメールなどで、費用や手続きの流れなどについて、詳細を確認するようにしましょう。
なお、ベリーベスト法律事務所では、残業代請求に関する弁護士費用について、ウェブサイトで詳細にご説明していますので、ぜひ一度ご覧ください。
残業代請求 弁護士費用についてはこちら
5、まとめ
今回は残業代請求を考えた場合、事前にどのような準備をし、どこに相談すべきなのか、労働基準監督署や弁護士に相談する際の注意点を含めて説明しました。
労働基準監督署は、残業代について労働者と会社の間が実際に紛争状態にあるかどうかを確認してから何らかの対策を講じるのが原則となっています。「現在、未払いの残業代について不満があるけれど、まだ会社に対しては何らのアクションも取っていない…」という段階で労働基準監督署に相談しても、問題解決につながる可能性は残念ながら低いといえます。
残業代請求をする場合、証拠集めや、会社との交渉に慣れている労働問題に詳しい弁護士に相談するのが適切です。さいたま市周辺の事業所にお勤めの方で残業代請求についてのアドバイスを受けたいとお考えの方や、実際に交渉を代理してほしいとお思いの方は、どうぞお気軽にベリーベスト法律事務所 大宮オフィスまでご相談ください。未払い残業代請求に対応した経験や最新情報についての知見が豊富な弁護士が、あなたの残業代問題を解決できるよう最善を尽くします。
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