残業代の請求に時効はある? サービス業でも請求可能か、弁護士が解説
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サービス業が多い大宮エリアでは、お客様への応対等で、終業時間を過ぎても接客をしてしまうことはよくあることかもしれません。美容やアパレル、飲食業といったサービス業では、特に残業時間の管理があいまいになっているケースが少なくないようです。
実は、残業代請求には時効があります。残業時間だけでなく、その期限にも注意し、ご自身の残業代がいつのタイミングで時効にかかってしまうのか正しく理解しておかないと、本来受け取れるはずのお金が受け取れない可能性もあります。
この記事では、埼玉県の大宮エリアで残業代請求を行うことを検討している方向けに、法律上の時効のルールについて説明します。
1、残業代にも時効が存在する
残業代を請求するのは労働者の当然の権利です。しかし、その権利は、一定期間行使をせずに放置していると時効にかかって消滅してしまいます。法律上認められている権利ではあっても、時効が成立すると、会社に対して請求することができなくなってしまうのです。
以下では、未払いの残業代を請求することを考えている方向けに、時効に関する注意点を解説します。
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(1)未払いの残業代はどれくらい前まで請求できる?
結論から言うと、未払いとなっている残業代は2年間放置していると時効にかかって消滅してしまいます。
問題はこの「2年間」がいつからスタートするのかですが、これは原則として給料日の翌日からと考えられています。
たとえば、毎月25日にお給料が支給されている会社であれば、平成28年6月25日に本来支給されるべき残業代は、平成28年6月26日から時効の計算をスタートすることになります。したがって、平成30年6月25日を過ぎると、平成28年6月分の残業代を請求する権利は消滅してしまうことになります。同様に、平成30年7月25日を過ぎると、平成28年7月分の残業代を請求する権利が消滅します。
お給料は通常毎月支給されるものですから、時間がたてばたつほど時効にかかって消滅する残業代が増えていきますので注意が必要です。 -
(2)2年を過ぎた分の残業代は絶対に請求できない?
残業代請求をすることなく2年が過ぎてしまった場合は、その権利は消滅してしまい、請求できなくなるのが原則です。そのため、2年が経過する前に、次項で述べる「時効の中断」をする必要があります。しかし、以下の場合には、例外的に2年以上前の残業代を請求することが可能です。
●時効完成後に会社側が支払い義務を認めた場合
2年間の消滅時効が成立してしまったとしても、そのあとに会社側が「支払いは必ずするのでもう少し待ってほしい」など、支払い義務を認めた場合には、後日会社が残業代は時効で消滅していると主張することが、法律上許されないことがあります。一度支払うと言ったにもかかわらず、時効による消滅を主張するのは明らかに矛盾するためです。
ただし、会社側があとから気づいて「そんなことは言っていない」と反論してくることも考えられますから、できれば念書などの形で書面の証拠を残しておくことをおすすめします。
なお、時効が完成する前に会社が支払い義務を認めた場合には、時効が中断することになります。
●不法行為に基づく損害賠償として支払い義務が認められた場合
残業代の請求を行う際の法律上の根拠を、「不法行為に基づく損害賠償請求」とした場合には、2年以上前の残業代についても請求を行える可能性があります。
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は「損害があることを知った時点から」3年間、「不法行為があった時点から」20年となるためです。
会社側が、残業代が発生していることを認識していながら、職場環境(勤務時間管理の体制)を整えることもしなかったこと等について、会社の行為が違法であると判断されるほどに悪質な場合には、不法行為に基づく損害賠償請求が認められることがあります。
2、時効を中断させるには
上で述べた「時効の中断」についてもう少し詳しく知っておきましょう。時効の中断の具体的な方法としては、次のようなものがあります。
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(1)内容証明郵便を会社に送る
ひとまず時効の完成を止めるための方法としてもっとも簡便なのは、残業代を請求する旨の内容証明郵便を会社側に送る方法です。
内容証明郵便とは、文字通り郵便局が書面で通知した内容を証明してくれるというもので、あなたが会社側に対して残業代の請求を行ったことを証拠として残すことができます。なお、内容証明には必ず配達証明をつけるようにしましょう。
ただし、内容証明郵便で会社に残業代を請求しても、6ヶ月以内に次に述べるような訴訟の提起や労働審判の申し立てをしなければ、時効は中断しません。そのため、内容証明郵便で残業代を請求することはあくまで一時的に時効を止める効果があるにすぎません。 -
(2)民事訴訟の提起
裁判所に残業代を請求する訴訟を提起することで、時効を中断させることができます。
ただし、その訴訟を取り下げた場合や、書面上の要件を満たしていなかったことにより申し立てが却下されてしまったような場合には、時効の中断の効果は生じませんので注意しましょう。 -
(3)労働審判の申し立て
民事訴訟ではなく労働審判を申し立てることでも時効を中断させることが可能です。
この労働審判も法律上は裁判上の請求の一種ですので、申し立てを行った時点で時効の中断の効果が認められます。取り下げや却下の場合に時効の中断の効果が生じないのは訴訟の場合と同様です。
3、弁護士に相談した場合の流れ
残業代請求は自分で行うこともできますが、従業員本人からの要求に対して、会社側がすんなりと交渉に応じるケースは少ないというのが現実です。会社側としては、1名の従業員との交渉を認めてしまうと、職場にいるその他全員の従業員との交渉に応じざるを得なくなり、収拾がつかなくなってしまう可能性があるためです。
このような場合には、弁護士を立て、会社側に対して、法律的な手続きも辞さない態度で交渉に臨むことが有効です。
ただし、弁護士に依頼したとしても、実際には裁判にまで進むことはそれほど多くなく、交渉段階で会社側が支払いに応じることも少なくありません。弁護士に残業代請求を依頼した場合には、以下のような流れで手続きが進行していきます。
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(1)交渉
まずは会社側と書面や電話など通じて交渉を行います。弁護士に依頼していれば、会社とのやりとりはすべて弁護士が行います。あなた自身はストレスを感じることはありません。弁護士を信じて待つことになります。
弁護士は、内容証明郵便を用いるなど、書面での証拠が残る形で交渉を進めていきます。また、会社側の支払い能力が低い場合等には、分割払いや一部免除といった方法を提示することで交渉がまとまる場合もあります。 -
(2)労働審判
交渉では残業代支払いを会社側が認めない場合には、労働審判という方法もあります。
労働審判とは、裁判所で行う手続きではありますが、訴訟手続きよりも柔軟な解決方法を取ることが可能です。労働審判では、裁判官に加えて、労働問題の専門家である労働審判員2名が参加し、会社とあなたからそれぞれの主張を聞いた上で、問題の解決をあっせんします。労働審判は原則として3回以内の期日で終わるものとされており、迅速な解決が期待できることが大きなメリットです。 -
(3)裁判
労働審判でも双方が納得しない場合には、裁判手続きに移行することになります。
裁判でも労働審判同様に裁判官から和解の提案がなされることはあります。しかし、当事者間で話し合いがまとまらなければ、最終的には判決が下されることになります。判決確定後、それでも会社が残業代の支払いを拒む場合には、裁判手続きを用いて、会社から強制的に残業代を回収することも可能となります。
当事者間でどうしても話し合いでは解決できないポイントがある場合などには、労働審判を経ずにいきなり訴訟に進むこともあります。
4、まとめ
今回は、残業代請求に関する消滅時効のルールについて説明しました。未払いの残業代を請求するのは労働者の当然の権利ですが、長期間にわたってその権利を放置しているとその権利を行使できなくなってしまうので注意しなくてはなりません。
すでに消滅時効成立の期限が近づいている方は、会社側との交渉手続きを早急に始めることが必要ですが、やり方がわからない、交渉に不安があるという方は、お気軽にベリーベスト法律事務所 大宮オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています