サービス業における残業代請求で有効となる証拠とは? 弁護士が回答!
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埼玉県、大宮エリアはサービス業に従事されている方が多い地域でもあります。特に美容・アパレル関係やスーパーにお勤めの方は、就業時間を過ぎて接客をしなくてはいけない場合も多いのではないでしょうか。それでも、かつての習慣からか、残業代を支払われないというケースは少なくないようです。
場合によってはタイムカードがないなどのケースもあり、勤務時間の把握が難しいかもしれません。しかし、当然のことながら、雇用主は従業員に対して残業代を支払う必要があります。つまり、従業員であれば残業代を受け取る権利がありますし、支払われていなかった残業代があれば請求することができるということです。
そこで今回は、残業代請求を検討する場合に必要になる、「証拠収集」について、弁護士が解説します。同じような悩みを抱えている、その他の業種の方も参考にしてください。
1、残業代の証拠を集める際の注意点
最初に、未払いとなっている残業代の支払いを会社側に認めさせるためには、あなたが実際にどのぐらいの残業を行ったのかを、客観的な証拠をもとに立証できなくてはなりません。
以下では、それらの証拠を収集する際に、注意しておくべき点について解説します。
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(1)証拠はできる限り多く集めておく
訴訟や交渉において、有利な証拠は多ければ多いほどよいというのが大原則です。
出退勤を管理しているタイムカードの他に、毎日管理者に対して送信している業務日報のデータなどがある場合には、送信先や日時などが明確にわかる形でプリントアウトして保管しましょう。その他にも、パソコンのログイン時間の記録や、残業時間中に取引先とやりとりしたメールの記録などがあればできるだけ多く証拠を集めるようにしてください。
残業代の未払いが恒常化している職場では、業務報告書の廃棄など、証拠の収集を妨害される可能性もあります。会社に気付かれないように、証拠となる情報をこまめに集めて保管するようにしましょう。 -
(2)証拠がない場合の対処法
状況によっては、上のような証拠を集めることが難しいケースも考えられます。
そのような場合には、家族に対して「これから帰る」といった内容のLINEやメールを送信した履歴も有力な証拠になる可能性があります。 -
(3)証拠保全の手続き
その他、裁判所での訴訟手続きになった場合には、裁判所に「証拠保全」という手続きを行ってもらう方法もあります。
これは会社側が証拠の開示に応じてくれないような場合に、裁判所の命令によって強制的に証拠を会社側から収集する方法です。裁判官や裁判所事務官が会社側の事務所に出向いて証拠保全を行います。これらの手続きを実行することは、会社側にあなたが本気で未払いの残業代を回収するつもりであることを印象付け、プレッシャーをかける効果もあります。
2、残業代請求の証拠として提出できるもの
ここでは、具体的に残業代請求の証拠になるものについて解説します。
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(1)残業代請求において有効な証拠
残業代請求において特に有効な証拠となるものとしては、次のようなものがあります。
●タイムカード
出退勤管理のためのタイムカードは、もっとも基本的な証拠です。ただし、タイムカードを打刻した後にも残業をしているケースは少なくないですから、そのような場合には別の証拠と組み合わせて残業時間を立証する必要があります。
●シフト表
勤務先と合意の上で作成したシフト表も重要な証拠となります。しかし、自分で勝手に作成したとみられないように、勤務先担当者のサインや押印があるものを保管するとともに、実際の出退勤時間と照合できる、別の証拠もそろえておくといいでしょう。
●レジの記録
店舗で働いている方の場合、通常レジの記録には担当者の名前が入力されます。レジで時刻とあなたの名前がわかる記録を入力してレシートを出し、保管しておきましょう。
●パソコンのメール履歴
勤務時に送信したパソコンのメール履歴も重要な証拠となります。ただし、勤務先からノートパソコンを貸与されているような場合には、メール履歴が定期的に削除されるようなことも考えられます。メール文面を送信日時がわかるようにプリントアウトするなどして証拠を残すようにしましょう。
●給与明細
給与明細は、残業時間をもとに計算した残業代が、実際に支払われているかどうかを判断する際の重要な証拠となります。また、給与明細の通りに振り込みが行われているかどうか、説明を受けて合意していない名目で天引きされているようなお金がないかどうかも確認しておきましょう。
この他、雇用契約書や就業規則なども、残業代計算をする際に重要になります。 -
(2)場合によっては証拠になるもの
前述の証拠が収集できない場合には、次のようなものも証拠になる可能性があります。
●コピーや写真
雇用契約書や就業規則などの重要な書類は必ずしも原本でなくとも、コピーや写真の状態で保管したものでも証拠となります。タイムカードや会社のサインがあるシフト表なども原本を取得することが難しいことがありますので、そのような場合にはコピーをとっておきましょう。
●メモ
あなた自身が残した個人的な業務メモなども証拠として使えます。残業をした時間や休日出勤した情報が残っているメモは大切に保管してください。
一方で、メモは自分で作成するものですから、客観性が問題となることも考えられます。その点に備えて、メモはできる限り網羅的な方法で、つまり毎日継続的に同じ書式で作成するなど、第三者からみて客観性が確保されていると見えるように作成してください。手書きのメモに限らず、スマートフォンアプリなどを活用してメモをとることも有効です。
●SNSの投稿
上記のメモと似ている部分がありますが、SNSの投稿も証拠として使える場合があります。特に、SNS上の投稿時間は自分で勝手に変更することはできませんから、より客観性の高い証拠となりえます。
3、曖昧な就業時間と残業代請求
残業代の請求には、出退勤時間を正確に記録した証拠が必要になります。それさえあれば、どのような職種であっても、法定労働時間や残業代計算のルールは同じです。また、残業代請求の際に時効の中断のために内容証明郵便を送ったり、勤務先会社と交渉を行ったりといった手続きの進め方も変わりません。
しかし、サービス業の場合には、証拠集めが一般的な事務職などよりも難しくなるケースがあります。そこで、どのような場合に、どうすればよいか見ていきましょう。
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(1)出退勤時間が曖昧な場合
店舗が多い職種の場合、営業所や店舗内部での出退勤管理を明確に行っていない職場があるかもしれません。また、店舗での仕事を終わろうとしたら、顧客から話しかけられて長く時間を拘束されたという場合や、職場以外の場所で顧客サービスを行うケースもあるとおもいます。
このような勤務が日常化していると、多少のサービス残業は当たり前という先入観を持ってしまい、出退勤時間の証拠などを残していないケースが多々あります。
しかし、タイムカードがない職場であれば、シフト表やレジの記録、メモなどでも問題ありません。証拠の確保はしっかりと行うようにしておきましょう。 -
(2)研修や練習が勤務時間外にある場合
サービス業は、勤務時間よりも顧客への対応が優先されることが多く、時間管理がルーズになりやすい傾向にあります。
業種によっては、技術を身に着けるために深夜まで練習や研修を行うこともよくあり、いったいどこからどこまでが残業なのかわからないというケースもあります。
自主的な勉強と残業とを区別するポイントは、練習などが勤務先の指揮命令のもとで行われていたかどうかです。
たとえば、職場や店舗のルールとして「閉店後21時~22時半までは練習」といったように決まっている場合には、勤務先の指揮命令下にあった時間として問題ないでしょう。
一方で、自主的に早朝に集まって練習を行ったとか、強制ではないが休日にスキルアップのための勉強会に参加したといったような場合には、自己啓発の範囲と判断され、残業とはみなされない可能性が高まります。しかし、「強制ではないが参加しなければ業務や評価に差し障りがある」などのときは、実質強制とみなされることもあります。
雇用形態によっても残業代を請求できるかどうかは変わってきますので、まずは一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。
4、まとめ
今回は、残業代請求をする際の証拠を集める方法について解説しました。
証拠集めは職場の勤務管理の方法や、業種、役職によっても収集の難しさが異なります。サービス業や美容業などの業種に従事している場合や、店長などの役職に就いている場合には、残業時間を証明するための証拠を集めることがより難しくなります。
残業代を請求したいが、集めた証拠に不安がある方、そもそも証拠の集め方がわからない方は、ベリーベスト法律事務所・大宮オフィスへお気軽にご相談ください。親身になってアドバイスをするとともに、職場との交渉や対応を代理人として行うことも可能です。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています