みなし残業とは? 違法な運用や未払い残業代がある可能性の調べ方
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埼玉労働局が令和5年9月に公表した報道資料によると、時間外労働や休日労働時間数が1か月あたり80時間を超えていると考えられる事業場など718事業場に対して監督指導を行ったとのことです。内、実際に違法な時間外労働があった事業場は47.8%もあり、さらに、賃金不払い残業があった事業所は12.1%もあったことが報告されています。
もしあなたが長時間労働をしているにもかかわらず適切な残業代が支払われず、「みなし残業がついているから」と会社に言われたとしても、あきらめる必要はありません。まずは、みなし残業とは何かをよく知り、違法な運用をされていないか、未払い残業代はないかについて、確認してみましょう。ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。会社に対して未払いの残業代を請求したい場合は、弁護士に相談して進めることをおすすめします。
目次
1、みなし残業とは|みなし残業制度・固定残業制度の概要
みなし残業制度とは、一定の条件または労使間の合意のもとで、実際の労働時間ではなく特定の時間を働いたとみなす制度です。固定残業制度と呼ばれることがあります。
実際の労働現場においては、セールスパーソンや研究者のように、実際の労働時間を特定することが難しい職種の労働者に対して適用されていることが多いようです。そしてこの制度では、給与体系はあらかじめ基礎賃金に一定額の残業代が加味されていることが一般的です。
みなし残業制には、事業外労働のみなし時間制と裁量労働制があります。
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(1)事業場外労働のみなし労働時間制
事業場外労働のみなし労働時間制は、労働者が会社外や出張などで労働し、その業務に関する労働時間の算定が難しい場合に、所定労働時間または労使協定で定めた時間を働いたとみなす制度です。なお、労働基準法第38条の2の規定により、労働者が事業場以外で労働する場合であっても、出向先などの中に当該労働者の労働時間を管理することができる者がいる場合は、この制度の対象とはなりません。
続いて、事業場外労働のみなし時間制における労働者の労働時間についてご説明します。
まず、労働時間の算定が1日の労働の「すべて」について難しい事業場外労働の場合、1日の労働時間は「所定労働時間」とします。ただし、その業務を遂行するために所定労働時間を超えて労働することが必要と認められる場合は、労働者はその労働時間について「通常必要時間」を働いたとみなされます。通常必要時間は、過半数組合等との労使協定により定められます。
他方、1日の労働の「一部」について労働時間の算定が難しい事業場外労働の場合、労働時間はいずれかになります。- 事業場内の労働時間と通常必要時間の合計が所定労働時間以下の場合は、所定時間がその日の労働時間
- 事業場内の労働時間と通常必要時間の合計が所定労働時間を超える場合は、その合計時間がその日の労働時間
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(2)裁量労働制
裁量労働制とは、業務の性質上、業務を遂行するための方法を大幅に労働者の裁量に委ねざるを得ない労働者を対象に、労使の合意で定めた労働時間を働いたとみなす制度です。
労働基準法第38条の3と同条の4によって、裁量労働制には専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制が規定されています。
専門業務型裁量労働制は、厚生労働省の省令・告示で定める専門業種の中から、対象業務を労使協定で定めます。そして労働者をその業務に従事させた場合に、労使協定で定めた時間つまり「みなし労働時間」を労働したとみなす制度です。なお、裁量労働制の導入には、所定の事項を労使協定で定めたうえで労働基準監督署への届け出が必要です。
また、企画業務型裁量労働制では、企業の本社などでの企画・立案・調査・分析などを行うホワイトカラー労働者を対象に、労使委員会の決議で定めた労働時間を働いたとみなす制度です。企画業務型裁量労働制の導入には、各種法令で定められた事項について労使員会の5分の4以上の多数で決議したうえで、所轄の労働基準監督署へ届け出ることが必要です。
さらに、本制度の導入後も、対象となる労働者の労働時間の状況と労働時間に応じた健康・福祉確保措置の実施状況について、労働基準監督署へ6か月ごとの定期報告が必要です。
なお、令和6年4月1日から「裁量労働制に係る省令・告示の改正」が施行・適用されています。すでに協定を締結している場合であっても、改めて新たな事項に添って改めて協定をしなおす必要があります。もしされていない場合は会社に確認すべきでしょう。
2、残業に関する労働基準法の規定
まず、労働基準法における残業の定義について確認しておきましょう。
残業には大きく分けて以下のとおり4つの種類があります。そして、基礎賃金に対する割増率はそれぞれ異なります。
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(1)法定内残業
労働基準法第32条によりますと、労働者の労働時間は原則1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えてはならないと規定されており、これを法定労働時間といいます。
しかし、就業規則や雇用契約などで、法定労働時間よりも短く所定労働時間を定めている会社もあります。たとえば、所定労働時間が7時間と定められているような会社です。
このような企業で労働時間が8時間となった場合は、1時間の残業(法定労働時間内での残業)に対して残業代が発生します。この場合の残業は法定内残業として扱われ、基礎賃金に対する割増はありません。 -
(2)法定外残業
労働基準法第32条に定める1日8時間の法定労働時間を超える残業を法定外残業といいます。法定外残業の基礎賃金に対する割増率は、25%です。
企業にとってやむを得ない事情があれば、企業は労働者に対して法定労働時間を超えた残業を命じることができます。ただし、会社と労働組合または労働者の代表との間で時間外労働・休日労働に関する労使協定(いわゆるサブロク協定)が締結されていなければなりません(労働基準法第36条)。この場合、企業の労働者に対する残業代の支払い義務は、この法定労働時間を超えた分について発生することになります(労働基準法第37条)。 -
(3)深夜労働
午後10時から午前5時までの勤務を、深夜労働といいます。深夜労働に対する割増率は25%です。
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(4)法定休日労働
企業は労働者に対して1週間あたり原則として1日以上の休日を与えることが義務付けられており、これを法定休日といいます(労働基準法第35条)。この法定休日に労働した場合、企業は割増率35%の賃金を労働者に対して支払うことが義務付けられています。
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(5)休憩
労働基準法第34条第1項では、使用者つまり会社は労働者に対して「1日の労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分の休憩を与えなければならない」と規定しています。
会社は労働者に対して休憩時間を自由に使わせなければなりません。そのため、休憩時間中も電話番をしなければならないなど、実質的に業務を休めない状態であれば、休憩時間ではなく勤務中とみなされます。
3、労働基準法におけるみなし残業
では、みなし残業制度における残業代はどのように考えられるのでしょうか。
もし企業側から、「業務遂行に必要な残業時間に相当する残業代はすでに支払っているのだから、その範囲で業務を遂行できなかった場合は労働者の自己責任である。したがって、たとえ労働者がみなし残業代を超えた残業をしたとしても、追加の残業代を支払う必要はない」と言われているとしたら、それは法的に誤りです。
みなし労働時間制のもとで働く労働者に対しても、上記の労働基準法上の時間外労働、深夜労働、法定休日、休憩に関する規定は適用されます。それにもかかわらず、もし労働者が固定残業代分を超えて法定外労働をしていたのにもかかわらず、企業が残業代を支払われていない場合は、当該企業の違法行為といっても過言ではありません。
そもそも、みなし残業制というものは前払いの残業代という性質のものです。したがって、前払い分の時間を超過した労働時間に対して、企業は追加の残業代を支払う義務があるのです。
したがって、みなし労働時間制が適用される労働者のみなし労働時間が1日8時間を超える場合、企業は労働組合とのサブロク協定の締結と所轄労働基準監督署への届け出が必要です。
さらに、労働者側は企業に対して、時間外労働に対する割増賃金の支払いが求めることができます。企業から適正な残業代の支払いを受けることは労働者の権利なのです。
4、これって違法では? と思ったら、弁護士へ相談
みなし残業制が適用されている中で、企業から適正な残業代が支払いがなされていない場合は企業に対して支払いを求めることができます。未払い分の残業代を請求する際は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、残業代を適正に支払わない企業との交渉から裁判による解決まで、サポートが可能です。なお、労働問題は社会保険労務士も詳しいのですが、法的にあなたの代理人となる職権を持つのは弁護士だけです。
また、労働基準監督署(労基署)への相談すべきか迷う方もいるでしょう。労基署は、違法な労働環境を強いる企業に対し指導や勧告により是正するよう働きかけることを主な業務とする機関です。労働環境の改善を図れる可能性はありますが、個人の未払い残業代を取り戻すために代理人として動いてくれるわけではありません。
労働問題への知見が豊富な弁護士は、あなたが直面している労働問題について法的なアドバイスを行うだけでなく、あなたの代理人として会社と交渉などを行います。未払い残業代を請求するほか、あなたの権利を取り戻すための具体的な弁護活動が期待できます。
5、まとめ
みなし残業制度を適用した労働者に対する企業側の残業代不払いには、さまざまな手口が確認されており、その中には明らかに違法性を疑う事例も存在します。まずは、企業側によるみなし残業制適用の正当性、そしてみなし残業制が適用された場合は残業代が適正に支払われているか、入念に確認してください。
そして、あなたに残業代が適切に支払われていない考えられる場合は、弁護士に相談するなどして会社に未払い残業代の請求を行うことをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでは、みなし残業制を適用された労働者に対する残業代未払いなど、労働問題全般に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。
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