体調不良なのに休めない! 出勤強要は労働基準法的に問題はないのか

2024年03月26日
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体調不良なのに休めない! 出勤強要は労働基準法的に問題はないのか

埼玉県が公表する「令和4年度の労働相談の状況について」によると、「労働時間、休日・休暇」についての相談は565件あり、前年度の551件より微増していることがわかりました。退職時の余った有給休暇の消化を認められないケースはもちろん、発熱や体調不良を訴えているのに、繁忙期や人手不足を理由に会社が「出勤しろ」と命令し、休ませてくれないというケースも少なくないでしょう。

では、体調不良を訴えているにもかかわらず出社を強要する会社は、労働基準法に違反していないのでしょうか。また、元気であっても休日や時間外に出勤を強要された場合、拒否をすることはできるのでしょうか。本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が会社による出社強要について解説します。

1、労働者にはどんなときでも出社義務がある?

まずは、労働者が働く義務と休む権利について、確認しておきましょう。

  1. (1)労働者には労務を提供する義務がある

    企業と労働者は、「雇用契約」を結んでいます。労働者とは、正社員はもちろん、アルバイトやパートも含んだいわゆる従業員を指しますから、すべての従業員は会社に対して、労務を提供する義務を負っているのです。出社をしなければ労務提供の義務を果たせない場合は、従業員は出社をしなければなりません。

    労働基準法では、法定休日を週に1日と定めており、また企業が所定の休日を設定しています。規定されている休日に限り、労働者は働く義務はありません。

  2. (2)労働者が労働義務を免除される場合

    労働者は、就業規則等に規定されている休暇や休業中は、労働する義務が免除されます。

    労働者が、法的に労働義務を免除されるのは、以下に該当する場合です。

    • 年次有給休暇
    • 産前産後休業
    • 育児休業
    • 介護休業
    • 介護休暇
    • 子どもの看護休暇

    そのほかにも就業規則等で休業、休暇等が設定されている企業は、それらも含みます。

2、労働基準法違反になりうる会社の出勤強要とは

会社側が出社を強要する行為は、場合によっては法律違反となります。状況別に詳しく確認しておきましょう。

  1. (1)休日出勤を要請する行為

    ここまで、労働者は会社に対して労務を提供する義務があり、休日や法律、就業規則で定められた休業、休暇以外の日の労務提供義務は免除されないと説明をしました。裏を返せば、「休日」や「法律等で定められた休業、休暇」は働く義務はないといえます。

    しかし、休日出勤の要請については、使用者がいわゆる三六協定を締結し、就業規則で「一定の業務上の事由があれば休日出勤を命じることができる」などの記載がある場合は、違法とはいえません。こうした場合に、会社から具体的な休日労働命令がなされた場合は、労働者にこれに応じる義務が発生し、その拒否については懲戒処分の対象となるおそれがあります。(なお、災害等による臨時の必要がある場合について労働基準法33条の要件を満たす場合も、就業規則上規定があれば、会社は休日出勤を命ずることができます。)

    休日出勤命令の拒否について懲戒処分によって処断するためには、以下の3要件の充足が必要と考えられます。

    1. ①休日労働を必要とする業務上の必要性が存在すること
    2. ②業務命令が労働者の健康の侵害やあらかじめ会社側の了解を得ている労働者の生活設計を不当に害するなど労働者に不当な権利の侵害を生じない配慮等がなされていること(たとえば、通学や教育の受講、保育、病院の介護等)
    3. ③労働者が具体的な休日労働命令に応ぜられない理由を具体的に述べて拒否をしたときには、その拒否理由に正当性があるか考慮しているものであること。
  2. (2)発熱をしているときに出社を強要する行為

    会社側が、体調不良を訴えている従業員を無理やり働かせる行為は、労働契約法違反となる可能性があります。

    すなわち、労働契約法では会社に対して以下の義務を課しています。

    労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
    使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。


    この条文では、企業は従業員が安全に働くために配慮をすることを義務付けています。これを安全配慮義務といいます。発熱をしているのに、出社を強要する状態は、当該従業員だけでなく、ほかの従業員に対する安全配慮義務に違反しているおそれがあります。したがって、「発熱をしているのに出社を強要する行為」は、「労働契約法5条違反」となる可能性があります。

    また、伝染病にかかった従業員に対して、会社が出勤を強要する行為は、労働安全衛生法第68条で定められている「病者の就業禁止」に違反しています

  3. (3)時間外労働を要請する行為

    会社が労働者に対して時間外労働を命じるためには、法律上それが許されていることと就業規則上それが当該労働者に義務付けられていることが必要です。
    所定労働時間が8時間未満の場合に、1日8時間に達するまでの所定労働時間外労働をさせる場合は、就業規則上それが労働者に義務付けられていることについての規定があれば足ります。1日の所定労働時間が8時間未満の場合で、実労働時間が1日8時間を超え、または1週40時間(常時10人未満の労働者を使用する商業、サービス業については週44時間)を超える時間外労働をさせるときには、いわゆる三六協定の締結と就業規則上の根拠が必要です。1日の所定労働時間が8時間であって、その時間を超えて労働させるときも、いわゆる三六協定の締結と就業規則上の根拠が必要です。(なお、災害等による臨時の必要がある場合について労働基準法33条の要件を満たす場合も、就業規則上規定があれば、法定時間外労働をさせることができます。)

    なお、時間外労働については当然賃金が発生しますので、会社がこの分について賃金を支払っていない場合は未払い賃金の請求ができます

3、出社を強要されたときに労働者がすべき対応

休日出勤や定時前出勤、そして発熱をしているときに出社を強要された場合、従業員にできることを解説します。

  1. (1)休日出勤を要請された場合

    休日出勤を要請されたら、その要請が三六協定、就業規則に違反していないかどうかを確認します。違反していないとしても、通院等の理由があれば出勤の拒否が可能な場合がありますので、明確に理由を述べましょう

  2. (2)発熱を理由に休暇取得を申請したのに拒否をされた場合

    発熱をしているにもかかわらず出勤を強要された場合は、労働契約法第5条に違反している可能性があることを伝えて休めるように要求します。

  3. (3)時間外労働を要請された場合

    まずは、会社が就業規則や三六協定上で、時間外労働を命じられる状態にあるかどうかを確認します。時間外労働を命じられる状態であるときは、残業代が支払われるかどうかを会社に確認をしましょう。残業代が支払われるのであれば、時間外労働は違法とはいえません。

    一方で、残業代が支払われない時間外労働は違法ですので、労働基準監督署や弁護士に相談をしてください

4、解決方法別の労働問題の相談先

会社が、違法な出勤強要をした場合、ご自身だけでは思うように対処できないケースが少なくありません。発熱をしているのに出社を強要する会社は、いわゆるブラック企業体質で、従業員が休むことの正当性を主張できる雰囲気ではないこともあるでしょう。

対応が難しい場合は、解決方法に応じて以下の機関や専門家にご相談ください。

  1. (1)ほかの従業員も同様の悩みを抱えており会社の体制を変えたい

    自分以外にも同様に違法に出社を強要されていて、会社の体制を変えたい場合は、労働基準監督署(労基署)や労働局への相談をしてみることもよいでしょう。

    これらの機関は、企業が労働関連の法律に違反しているか調査して、違反している場合、指導などを行います

  2. (2)会社に損害賠償請求をしたい

    出社強要だけでなく、残業代の不払いや各種ハラスメントなどの労働問題があるケースは少なくないようです。そのようなとき、会社側に未払い残業代の請求や、慰謝料の請求を求めることができます。

    前述の労働基準監督署などでも相談に対するアドバイスはしてくれますが、実際にあなたの代理人として未払い残業代などの請求をしてくれるわけではありません。あなたの代理人として会社側と交渉してほしい、個人の労働問題を解決したいというときは、弁護士に相談をしましょう。

    弁護士は、未払い残業代の請求や慰謝料請求の際に必要な証拠を集める段階からサポート可能です。

5、まとめ

会社が、発熱をしている労働者を無理やり出社させる行為は、労働契約法違反になる可能性があります。また、休日出勤の命令や、時間外労働の命令も、適切な手続きを踏んでいなければ違法です。

これらの違法な出勤強要がある場合は、会社側にその旨を伝えた上で、体制の改善を求めましょう。会社側が出勤強要をやめず、同僚と社内体制全体の改善を求めたい場合は、労働基準監督署等の公的機関への相談を検討してみてもいいかもしれません。

他方で、個人に対する違法な出社強要が著しい場合や、残業代未払いなどの労働問題がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。未払い残業代や慰謝料の請求手続きが可能かどうかを判断し、対応をサポートすることが可能です。ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでも、出社強要などの労働問題から、未払い残業代請求のご相談に対応しております。まずはひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています