相続発生! 孫でも遺留分を請求できる? もらえる割合や注意点について

2021年01月18日
  • 遺留分侵害額請求
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相続発生! 孫でも遺留分を請求できる? もらえる割合や注意点について

令和元年度中、さいたま家庭裁判所では「遺言書の検認」が1064件行われました。少なくともさいたま市近隣で、検認が必要な遺言書が存在する相続が年間1000件以上あったということにほかなりません。

相続の形は極めて多種多様であり、またトラブルも付き物です。そしてトラブルの種類も多種多様です。相続のパターンは、発生した相続の数だけ存在するといっても過言ではありません。

そこで本コラムでは、被相続人(亡くなった人のこと)の孫が相続人であり、かつ遺留分が問題となっているケースについて、遺留分や代襲相続、そして遺留分侵害額請求の基本から取るべき対応について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、遺留分とは

  1. (1)遺留分とは?

    遺留分とは、被相続人の生前の意向や遺言の内容に関係なく、一定の範囲の相続人に対して最低限保証された遺産の取り分のことです。

    遺言の内容は、原則として法定相続分に優先します。しかし、配偶者や小さな子どもがいるのにもかかわらず、自分の死後は全財産を寄付したり愛人に譲るなどの内容の遺言が作成されたりしてしまうことがあるかもしれません。その場合、残された遺族はこれからの生活に困ってしまいます。

    そのような事態を防ぐために、民法では遺留分の制度を設け、被相続人の配偶者・子ども・直系尊属(父母や祖父母など)が最低限相続できる財産を請求できる権利を保障しているのです。なお、遺留分は被相続人の兄弟姉妹や甥姪には認められていません。

  2. (2)遺留分割合の計算方法とは?

    遺留分の権利を持つ人が複数いる場合は、以下の割合にそれぞれの法定相続分を乗じて計算します。

    民法第1042条によりますと、遺留分割合は以下のとおりです。

    • 法定相続人が直系尊属(父母、祖父母など)のみの場合……相続財産の3分の1
    • 法定相続人がその他(兄弟姉妹、甥姪を除く)の場合……相続財産の2分の1

2、孫は遺留分を得ることができるのか?

  1. (1)代襲相続とは?

    まず、「代襲相続」についてご説明します。
    代襲相続とは、「代襲者」として被代襲者の順位および割合で、被相続人の遺産を相続することです(民法第887条2項および民法第889条2項)。

    具体的には、被相続人の子どもまたは兄弟姉妹が以下のいずれかに該当した場合に、その子どもである被相続人の孫または甥姪が、相続を行うことになります。

    • 被相続人の相続開始前に死亡
    • 被相続人の相続人から廃除
    • 相続欠格に該当


    たとえば、被相続人の子どもが相続発生前に死亡していれば、孫が代襲者になります。なお、被相続人と血縁関係のない養子についても、代襲者になることが可能です。

    さらに、被相続人の子どもの代襲者、つまり孫が上記に該当している場合は代襲者の子ども、つまり被相続人のひ孫が「再代襲」することになります。また、被相続人の相続人に該当する兄弟姉妹が死亡していれば、甥姪が代襲者ということになります。

    ただし、代襲相続については以下のケースに該当するときは行うことができません。

    • 子どもや兄弟姉妹が相続放棄をしていれば、孫や甥姪は代襲相続できない。
    • 被相続人の兄弟姉妹が相続する場合には、代襲相続ができるのは被相続人の甥姪まで。つまり、甥姪の子どもは再代襲することができない。
  2. (2)代襲相続の場合の遺留分は?

    孫が代襲相続の要件を満たしているかぎり、孫も遺留分を受け取ることができます。

    ただし、先述のとおり兄弟姉妹には遺留分が認められていません。したがって、被相続人の甥や姪には遺留分を請求する権利はない、ということになります。

3、遺留分侵害額請求(旧遺留分減殺請求)とは?

被相続人の遺言などにより、遺留分を下回る財産しか相続できない場合、これを「遺留分の侵害」といいます。遺留分を侵害されている相続人は、自身の遺留分を侵害している他の相続人に対して「遺留分侵害額請求」を提起することにより、本来自身が受け取るべき遺留分までの財産を請求することができます。

遺留分侵害額請求は、遺言による財産分与だけではなく、被相続人による生前贈与にも適用することができます。もし被相続人によって生前贈与が複数以上の人に行われており、当該生前贈与が遺留分侵害に該当する場合は、①生前贈与が同時になされたときには、その目的の価格に応じて減殺し、②それ以外のときには、被相続人が死亡した日に近い日時に行われた生前贈与分から、順番に減殺していくことになります(民法第1047条1項2号3号)。

なお、遺留分侵害額請求は、令和元年7月に改正民法が施行される前までは遺留分減殺請求と呼ばれていた手続きです。大きな違いはありませんが、具体的には以下の点が変更されています。

旧遺留分減殺請求は、原則、現物の返還を請求する手続きだった
   
遺留分侵害額請求は、原則、遺留分相当額の金銭の返還を求める手続きになった

なお、相続発生時が令和元年7月以前であれば、遺留分減殺請求を行うことになります。

4、孫が遺留分を請求する際の注意点

  1. (1)遺留分侵害額請求には時効がある

    遺留分侵害額請求権には、行使できる期間が民法第1048条により定められています。

    具体的には、以下のケースに該当する場合、時効によって消滅してしまいますので注意が必要です。

    • 遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間その権利を行使しない場合
    • 相続開始のときから10年を経過してもその権利を行使しない場合
  2. (2)遺留分侵害額請求できる相手は侵害した当事者のみ

    民法第1047条第4項では、「受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する」と規定されています。この条文が意味することは、遺留分侵害額請求できる相手は、侵害した当事者のみに限定されるということです。

    たとえば、相続人の兄が他の相続人の遺留分を侵害していたとします。しかし、その兄は他の相続人が遺留分侵害額請求を行った時点で、侵害した金額に相当する遺留分すらも使い切っており、まったくの無一文だったというケースを想定してみましょう。

    この場合、相続人の兄に資力がないことから、被相続人から生前贈与を受けていた兄の子どもなどに対して遺留分侵害額請求を行おうとしても、それはできないのです。したがって、このケースでは、残念ながら遺留分を侵害された権利者は泣き寝入りするしかないといえます。

5、遺留分を請求する方法

  1. (1)当事者間の話し合い

    遺留分侵害額請求は、まず遺留分権利者と侵害者の当事者間で行うことが一般的です。遺留分侵害額を請求する意思表示の方法については特段の規定がなく、書面やメールだけでなく口頭によるものでも基本的に効力が生じます。

    しかし、後日に裁判所での調停や訴訟に至った場合を想定し、内容証明郵便を用いるケースが多いでしょう。

  2. (2)調停

    当事者間での話し合いがまとまらない場合、遺留分権利者は家庭裁判所に遺留分侵害額の請求をめぐる「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てることになります。

    家事事件手続法第244条および第257条の規定により、家庭裁判所における遺留分侵害額の請求は調停前置主義を採用しており、裁判の前に必ず調停を行うものとされています。

    遺留分侵害額の請求調停は、あくまで調停委員を介した当事者同士による話し合いです。調停員を介することで当事者間のみの場合よりも、冷静な話し合いが期待できます。なお、遺留分侵害額の請求調停においては代理人として弁護士を付けることができます。

  3. (3)訴訟

    調停が不調に終わった場合は、遺留分侵害額の請求に関する訴訟に移行することになります。訴訟の段階になると、双方に代理人の弁護士が付いているケースは少なくありません。

    遺留分侵害額の請求に関する訴訟は、調停時の家庭裁判所に申し立てられるわけではない点に注意が必要です。被相続人が死亡したときの住所地を管轄している地方裁判所または簡易裁判所(遺留分侵害額の請求額が140万円以下の場合)において行われるものと規定されているためです。申し立てるべき裁判所が遠方である場合は、全国にオフィスがある法律事務所に依頼したほうが、相談するときはもちろん、コスト面においてもメリットが大きいでしょう。

    裁判所による審理の結果、和解または判決に至った場合は、遺留分を侵害していた側に価額弁償履行の義務が発生します。

  4. (4)強制執行

    相手方が自身の遺留分侵害を認め、価額弁償を行う旨の調停が成立、あるいは遺留分侵害額の請求に関する訴訟で和解もしくは判決が確定したのにもかかわらず、相手方がその義務を履行しないケースも考えられます。

    このような場合は、裁判所に対する強制執行の申し立てをするとよいでしょう。強制執行の申し込みを行う際も、弁護士に依頼することが可能です。詳しくは弁護士に相談してください。

6、まとめ

本コラムでご説明したような、孫が相続人であり、かつ遺留分が問題となっているケースは、遺留分を侵害している他の相続人とトラブルになりがちです。まして親族間のトラブルですから、さまざまな感情が入り交じり修復不可能なまでに関係が悪化してしまうことになりかねません。

遺留分などの遺産分割をめぐり家族や親族とトラブルになることが予想される場合は、できるだけ早期に弁護士に相談することをおすすめします。あなたの依頼に基づき、弁護士はトラブルの解決に向けて財産調査や利害関係者である家族や親族との話し合い、さらに調停や訴訟になった場合でもあなたの代理人として対応することが可能です。

もし遺留分など相続をめぐりトラブルになってしまった場合は、お早めに弁護士へご相談ください。ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでは、相続全般に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています