相続開始前に遺留分を放棄させることは可能? 生前からできる相続対策

2023年01月31日
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相続開始前に遺留分を放棄させることは可能? 生前からできる相続対策

裁判所が公表している司法統計によると、令和3年度中にさいたま家庭裁判所に新たに申し立てのあった遺留分の放棄についての許可申立て事件の件数は、44件でした。この「遺留分の放棄についての許可申立て」とは、遺留分を放棄したい相続人本人が、被相続人が生きている間に行う手続きです。

遺言書を作成することによって、特定の相続人に遺産のすべてを相続させること自体は可能です。しかし、相続人には法律上、遺留分が保障されていますので、遺言内容に不満のあるほかの相続人から遺留分侵害額請求をされるリスクがあります。このようなリスクを回避するために、相続人本人に「遺留分の放棄についての許可申立て」をしてもらうことが考えられますが、もちろん本人が同意してくれない場合もあるでしょう。

本コラムでは、遺留分を放棄する際の手続きについてと、相続人本人の同意が得られない場合のその他の相続対策について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、相続開始前に遺留分を放棄させることはできるのか

相続人に遺留分を放棄させることは可能でしょうか。
以下では、そもそも遺留分とは何か、また、遺留分の放棄はどのように行うのかについて説明します。

  1. (1)そもそも遺留分とは

    遺留分とは、被相続人の財産の中で、法律上その取得が一定の相続人に留保されていて、被相続人による自由な処分に制限が加えられている持分的利益をいいます。
    つまり、一定の相続人については、最低限の相続財産が法律上確保されており、それは、被相続人の意思(遺言)によっても奪われないということです。

    被相続人が死亡した場合、生前に作成された遺言書があれば、その内容に従って遺産を分けることになります。遺言書がない場合は、相続人間で遺産分割協議を行い、どのように遺産を分けるかを決めていくことになります。

    すなわち、相続財産をどのように分けるかは原則として本人(被相続人)の自由ということです。したがって、特定の相続人に対してすべての遺産を相続させる旨の遺言も有効です。しかし、そうすると、他の相続人の相続への期待が裏切られてしまうケースや、被相続人の扶養を受けていた方がたちまち困窮してしまうケースが起こりかねません。

    そこで、そのようなケースを回避するために設けられたのが、遺留分という制度です。

  2. (2)遺留分の放棄はどのように行うのか

    遺留分の放棄とは、遺留分を有する相続人が自らの意思によって遺留分を放棄することをいいます。したがって、他人が強制的に遺留分を放棄「させる」ことはできず、相続人を説得して、放棄することについて同意してもらうことが必要になります。

    遺留分の放棄は、法律上保障されている最低限の取り分さえ放棄するという重大な効果を伴うものです。被相続人の生前においては、被相続人から不当な圧力を受けることによって、真意でないにもかかわらず、遺留分の放棄をさせられるおそれもあります。そのため、被相続人の生前に遺留分の放棄をするためには、念書を作成するなどの方法によることはできず、後述するような家庭裁判所の関与が要求されています。

    一方で、被相続人が死亡した後(相続開始後)については、被相続人から不当な圧力を受けるおそれはないため、家庭裁判所の関与なしに自由に行うことができます。

2、家庭裁判所に対する遺留分の放棄についての許可申立て

被相続人の生前(相続開始前)に遺留分の放棄をする場合には、遺留分の放棄をする方自身が家庭裁判所に申し立てをする必要があります。

  1. (1)遺留分の放棄についての許可申立てとは

    必要となるのは、家庭裁判所に対する「遺留分の放棄についての許可申立て」という手続きです。

    遺留分の放棄をしてしまうと、最低限の遺産も受け取ることができなくなるため、家庭裁判所は、放棄が相当なものと認めた場合に限って許可の審判をします。

    その際の判断要素は以下の通りです。

    • 本人の真意に基づくものかどうか
    • 放棄することに合理性と必要性があるかどうか
    • 遺留分放棄の代償を得ているかどうか


    したがって、単に「親と不仲だから」、「親から遺留分放棄をするように言われたから」という理由だけでは、合理性・必要性がないとして、遺留分放棄が許可されない可能性がありますので注意が必要です

  2. (2)誰が申し立てることができるのか

    遺留分の放棄についての許可申立てをすることができるのは、遺留分を有する推定相続人に限られています

    遺留分を有する推定相続人とは、以下の人のことをいいます。

    • 配偶者
    • 子ども
    • 直系尊属(両親、祖父母など)


    被相続人の兄弟姉妹も法定相続人の範囲には含まれますが、兄弟姉妹には遺留分が認められていませんので、遺留分放棄の申し立てをすることはできません。

3、本人が遺留分放棄に同意してくれない場合

繰り返しになりますが、遺留分を放棄する手続きは、相続人本人が行う必要があります。そのため、遺留分を有する相続人本人が放棄に同意しない場合には、強制的に遺留分を放棄させることはできません。

同意してもらえない場合には、以下のような方法を検討しましょう。

  1. (1)生前贈与

    生前贈与によって財産を減らしておけば、相続が開始した時点の遺産の総額も減少します。そうすると、各相続人の有する遺留分も減少することになり、遺留分を一部放棄させたことと同じ状況を作り出すことができます。

    ただし、被相続人の死亡前1年以内に第三者に対して行われた生前贈与については、遺留分の基礎財産に含まれます。また、相続人に対して行われた生前贈与については、被相続人の死亡前10年以内のものまで遺留分の基礎財産に含まれてしまいます。

    そのため、遺留分対策として生前贈与をお考えの方は、早めに生前贈与に着手することが重要なポイントとなります。

  2. (2)生命保険の活用

    被相続人が死亡したことによって相続人に支払われる死亡保険金については、原則として相続財産には含まれません。死亡保険金は、受取人固有の財産と評価されるからです。したがって、遺留分の基礎財産にもならないのです。

    そのため、生命保険を活用することによって、遺留分のトラブルに巻き込まれることなく、特定の相続人に多額の財産を渡すことが可能になります。

    ただし、遺産総額に占める生命保険の死亡保険金の割合が著しく高い場合には、例外的に遺留分の基礎となる財産に含めなければならないと判断された事例(最判平成16年10月29日)もありますので、注意が必要です。

  3. (3)寄与分

    寄与分とは、被相続人の相続財産の維持または増加について、特別の貢献があった相続人に対して、その寄与度に応じて相続分を増額するという制度です。

    相続人に寄与分が認められたとしても、遺留分の計算において寄与分は考慮されません。したがって、寄与分を主張することによって、相続人から請求される遺留分の金額を減らすことができる可能性があります。

    ただし、相続人同士の話し合いがまとまらず、家庭裁判所の審判になった場合、遺留分を侵害するような寄与分の主張が認められにくいので注意が必要です。あらかじめ生前から、寄与と評価される行動をするとともに、協議でほかの相続人にも同意されるよう証拠を積み上げておくなどの準備をしておくとよいでしょう

  4. (4)遺言書の付言事項

    遺留分を侵害する内容の遺言書を作成する際には、付言事項を活用することも有効な手段となります。付言事項とは、遺産の分け方など法律行為以外の内容について遺言者の気持ちを記載した事項です。

    付言事項として、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成した理由や、遺留分侵害額請求をしないでほしいという思いを記載しておけば、遺留分権利者が遺留分侵害額請求を諦めてくれる可能性があります。

    ただし、付言事項には法的拘束力はありません。遺言者の意思が表明されていたとしても、その意思に反して遺留分侵害額請求をすることは可能です。

4、生前の相続対策は弁護士へ相談を

生前の相続対策をお考えの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)最適な相続対策を提案してもらえる

    生前の相続対策には、さまざまなものがありますので、相続争いの防止、相続税の節税、納税資金の確保などの目的に応じて最適な手段を選択することが大切です。

    そのためには、法律面だけでなく税金面からもアドバイスが可能な専門家を探すことが重要となります。ベリーベスト法律事務所は、グループ傘下の税理士法人と連携し、多角的な観点から最適な相続対策を提案することが可能です。

  2. (2)有効な対策を実施できる

    生前の相続対策としてよく行われているのが、遺言書の作成です。自筆証書遺言であれば、誰でも手軽に作成することができる遺言書ですので、利用されている方も多いでしょう。

    しかし、遺言書には、法律上厳格な要件が定められています。万が一、そのひとつでも要件を欠いてしまうと遺言書の全体が無効になってしまうリスクがあります。また、内容に疑義のある遺言書であった場合には、遺言書の解釈をめぐって相続人同士で争いが生じてしまうおそれがあります。

    このようなリスクを回避するためには、弁護士によるサポートが不可欠となるでしょう。弁護士であれば、法的に有効な遺言書を作成することができるのはもちろんのこと、相続人同士の争いにならないような内容も提案することが可能です。

5、まとめ

生前に相続人に対して遺留分を放棄させるためには、家庭裁判所に対し遺留分の放棄についての許可申立てをしてもらう必要があります。遺留分の放棄を認めてもらうためには、相続人の意思に基づく申し立てであることが必要になりますので、相続人が遺留分の放棄に同意してくれない場合には、遺留分の放棄という手段をとることができません。

その場合でも、さまざまな相続対策を講じることによって、将来の遺留分に関する争いを防止できる可能性があります。生前の相続対策をお考えの方は、まずはベリーベスト法律事務所 大宮オフィスまでお気軽にご連絡ください。争いを防ぐためのサポートを行うだけでなく、グループ傘下の税理士法人をはじめ司法書士など、各専門家と連携しながら相続対策を考えていきますので、安心してお任せいただけます。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています