ひとりがすべて相続するとき遺産分割協議書の書式は決まっている?
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平成30年、さいたま市では1万451人の方が亡くなっています。相続財産が多い・少ないという個別事情はあるでしょうが、この数に近い件数の相続が発生しているのです。相続のパターンは非常に多種多様であり、かつ相続に対する考え方は相続人の数だけあるといっても過言ではないでしょう。なかには、ひとりがすべての財産を相続する、あるいはそれを目指したいと考える方もいることでしょう。
そこで、本コラムでは、ひとりがすべて相続することを遺産分割のゴールとしたい方向けに、遺産分割協議の注意点から遺産分割協議書の書式、さらには円滑に相続を進める最善の方法について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、ひとりですべて相続することは可能か?
結論からいいますと、遺産をひとりですべて相続することは可能です。被相続人(亡くなった人のこと)の相続人がひとりであれば、遺産は当該相続人が一括して「包括承継」することになります。
しかし、相続人が複数いる場合は、遺産は相続人全員の「共有」(民法第898条)となり、この時点での相続人は「共同相続人」とされます。共有のままでは共同相続人単独で遺産を使用したり売却したりすることができないため、「遺産分割協議」により誰が・どの遺産を・どのような割合で相続するか相続人全員で決めなくてはなりません。
このとき、他の相続人全員が「相続放棄」をすれば、相続放棄した相続人は最初から相続人ではなかったことになりますので(民法第939条)、残りの相続人がひとりですべて相続することになります。
ただし、相続放棄の手続きは遺産分割協議だけで終わるものではありません。相続放棄をする相続人は、家庭裁判所への所定の手続きを行うことが必要です(民法第938条)。
2、遺産分割協議を行う際の注意点
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(1)遺産分割協議の方法は?
遺産分割協議が成立するためには、①相続人全員が協議に参加し、②全員の同意を得ることが必要です。そのほか、遺産分割協議を行う上での法的な規制は、特にありません。
本来であれば、相続人全員が一堂に会して話し合い、結論を出すことが望ましいのかもしれませんが、それぞれ遠隔地に居住していることも考えられますので、持ち回りやSNSなどを用いて協議する方法も認められています。 -
(2)行方不明の相続人がいる場合は?
相続人が失踪しており、いくら手を尽くしても見つからない場合、このままでは相続人全員の参加と同意を必要とする遺産分割協議を成立させることはできません。そのような場合は、共同相続人が行方不明の相続人の利害関係人として「失踪宣告」の手続きを行い、行方不明の相続人が死亡したという法律効果を発生させる方法が考えられます。
もし失踪宣告の要件を満たしていない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申立て、選任された不在者財産管理人と遺産分割協議をすることになります。 -
(3)相続人に未成年者がいる場合は?
未成年者については、親権者または後見人が法定代理人として当該未成年者の財産管理や法律行為をするものとされています。
しかし、遺産分割協議においては、以下のように法定代理人と未成年者の利害が相反する場合、法定代理人が未成年者の代理をすることができなくなります。- 親権者または後見人も共同相続人である場合
- 共同相続人に、親権者または後見人を共通とする複数の未成年者がいる場合
このような場合、当該法定代理人は家庭裁判所に「特別代理人」の選任を請求し、当該特別代理人と遺産分割協議を行うことになります。
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(4)遺産分割協議がまとまらない場合は?
相続割合や相続財産などをめぐって、遺産分割協議が合意に達しないというケースは多いものです。特に法定相続分と異なる割合での分割が論点になっている場合は、なおさらでしょう。
このような場合、紛争当事者である共同相続人は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。遺産分割調停では、家庭裁判所が選出した調停委員を介して利害関係にある共同相続人と話し合いを継続し、遺産分割協議の成立を目指していくことになります。
遺産分割調停でも遺産分割協議が成立しなかった場合は、次に遺産分割審判に移行します。遺産分割調停と異なり、遺産分割審判では紛争の当事者が書面や証拠資料などを提出しながらそれぞれの主張を行い、それに対して裁判官が審理を進めていくことになります。もし、遺産分割審判で双方の主張が歩み寄り和解が成立した場合は、「和解調書」が作成されます。この和解調書は裁判における確定判決と同様に、強い法的拘束力を持ちます。
和解が成立しない場合は引き続き審理が進められますが、遺産分割審判は1か月から2か月に1回のペースで行われるため、裁判官から結論が出るまでに数年単位の時間を要することも珍しくありません。また、遺産分割審判の結論が出ても、2週間以内であれば不服申立て(即時抗告)を行うことができます。
なお、遺産分割の割合を決めることについては、訴訟つまり裁判が存在しません。したがって、遺産分割審判で確定した内容が最終的な結論になります。遺産分割審判の内容が確定することにより、強制執行などの手続きが可能になります。
3、遺産分割協議書の書式は?
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(1)遺産分割協議書の記載内容
遺産分割協議がまとまったら、その内容を明文化した「遺産分割協議書」を作成しましょう。遺産分割協議書は、法的に作成が義務付けられているものではありません。しかし、不動産の相続登記の際に法務局から提出が求められることや、ほかの相続人と後日のトラブルを回避する手段として、遺産分割協議書を作成しておくべきです。
遺産分割協議書の記載内容について、特段の決まりはありません。
ただし、以下のように遺産分割の内容については明確にしておく必要があります。- 誰が、どの財産を、どのくらいの割合で取得するか。
- 代償分割(不動産など特定の資産を特定の相続人が相続する場合、当該相続人が他の相続しない相続人に本来の相続割合に応じて金銭を支払うこと)がある場合、誰が誰にいくら支払うか。支払いの期限と違反行為があった場合はどうするか。
- 今後、現時点で存在が判明していない相続財産が見つかった場合、誰がどのくらいの割合で取得するか。
- 相続や譲渡所得税の負担はどうするか。
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(2)遺産分割協議書の作成方法
遺産分割協議書の書式は、相続人の間で協議が成立したことが客観的にわかるようにしておくことがポイントです。
- 相続人の財産を余すことなく記載した「財産目録」を作成すること。
- 住所は、住民票や印鑑証明に記載されているとおりに記載すること。
- 実印で押印し、印鑑証明書を添付しておくこと。
- 金融機関にはあらかじめ連絡して相続に必要な書類を取り寄せておき、遺産分割協議書への押印と同時に当該書類にも押印できるようにしておくこと。
- 遺産分割協議書は当事者の人数分を作成し、各当事者が1通ずつ所持保管すること。
- 遺産分割協議書が複数ページにわたる場合、各ページに契印(割り印)を行うこと。
4、弁護士に相談するメリット
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(1)財産調査を依頼できる
相続財産を調査することは、意外と手間がかかるものです。特に相続財産の調査のためには平日の昼間に金融機関や役所などに行かなくてはならないため、平日は仕事をしている人にとって大きな負担となり得ます。
また、被相続人が生前に作成した遺言や財産目録があったとしても、実は被相続人が記載を漏らしていたというケースがあることや、把握すらしていなかった財産が存在するケースもあります。このことからも、相続が発生したら確実に相続財産を把握するための調査が重要なのです。
もし相続財産の調査が難航することが予想される場合、あるいは平日の昼間に時間が取れない場合は、職権により財産調査が可能な弁護士に依頼することがおすすめです。 -
(2)法定相続人の調査を依頼できる
あなたが被相続人の遺産を包括承継できる場合でもないかぎり、ひとりですべて相続することを目指したい場合は弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
たとえば、遺産分割協議がまとまったあとに新たな法定相続人が現れた場合は、遺産分割協議をやり直すことになってしまいます。したがって、遺産分割協議の前に被相続人の法定相続人を漏れなく把握しておくことは、極めて重要です。
法定相続人の調査は、戸籍謄本などで行います。しかし、戸籍謄本は本籍地の役所でしか取得できないため、現地の役所宛てに請求を行わなければなりません。また、すでに死亡している法定相続人がいる場合は、調査の対象となる戸籍謄本は膨大な数になることも考えられます。さらに、戸籍謄本は作成時期によって独特な書式で作成されており、解読すること自体難航することも予想されます。
このようなことから、戸籍謄本の取得と分析についても弁護士に依頼したほうがよいケースは少なくありません。 -
(3)トラブルの対処を依頼できる
弁護士は、職権で依頼者の代理人になることができます。これにより、トラブルの相手方となっているほかの相続人との交渉、さらには、遺産分割調停や遺産分割審判にもあなたの代わりに出席することが可能です。
トラブルの相手方と冷静な話し合いが期待できない場合、さまざまな事情から遺産分割調停や遺産分割審判への出席が難しい場合は、弁護士に依頼するとよいでしょう。
5、まとめ
ひとりですべて相続することにより何らかのトラブルが予想される場合は、ぜひお早めに弁護士にご相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでは、相続全般に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご連絡ください。あなたのために、ベストを尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています