限定承認をするときは相続財産管理人が必要不可欠なの? その概要と注意点
- 相続放棄・限定承認
- 限定承認
- 相続財産管理人
さいたま家庭裁判所では、相続放棄や限定承認の申述有無について照会できるのは、亡くなった方(被相続人)の最後の住所が埼玉県内にあった場合だけに限られることを告知しています。この照会制度を利用できるのは、相続人と債権者などの利害関係人です。
「限定承認」とは、被相続人が多額の債務を負っていた場合などに、相続人の資産を守るために活用できる制度です。相続人が複数いる場合には、家庭裁判所によって「相続財産管理人」が選任されます。円滑に遺産相続を完了するため、他の相続人は相続財産管理人に協力する必要があるといえるでしょう。
本コラムでは、限定承認の概要・手続き・注意点や、相続財産管理人の職務などについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、限定承認とは?
相続権を有する者(相続人)は、相続について「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかを選択することになります。
このうち「限定承認」は、遺産を相続しつつも、その価値がマイナスになってしまうことを防げるメリットがあります。
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(1)相続資産の限度で債務を相続する意思表示
「限定承認」とは、相続によって得られる財産の限度においてのみ、被相続人の債務や遺贈の弁済を行う義務を保持したまま、相続の承認をすることです(民法第922条)。
そもそも、相続の対象となるのは、被相続人が死亡したときに存在していた一切の権利義務です(民法第896条)。したがって、被相続人の財産だけでなく、借金などの債務も相続の対象です。
そのうえで、財産・債務をすべて相続する意思表示が「単純承認」、そのすべてを相続しない意思表示が「相続放棄」と呼ばれています。他方、本コラムで取り上げている限定承認は、財産を相続しつつ、「財産-債務」がマイナスにならない限度で債務を相続するという、単純承認と相続放棄の中間的な位置づけとなります。このように、限定承認をした場合、相続人に対し、被相続人の債務の責任を全て負わせることをしないで、被相続人の財産の範囲で弁済させ、残余がある場合には、それを相続人に取得させるということになります。 -
(2)限定承認を行うべき場面の例
限定承認を行うメリットがある場合としては、主に以下の2つが挙げられます。
1つ目は、相続の対象となる財産を債務が上回っていることが明らかなものの、手元に残しておきたい相続財産がある場合です。たとえば、実家の土地・建物をどうしても処分したくない場合、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って相続財産に相当する価額を弁済することで、土地建物自体を手元に残せる可能性があります(民法932条)。
2つ目は、被相続人が、複数の資産とともに多くの債務をかかえていて、相続人にとってこれらを把握するのが容易ではないという場合に、限定承認は有益です。万が一後から次々と債務が判明し、それらをすべて相続しなければならないとすれば大変です。
そのため、念のため限定承認を行い、相続した財産を債務が上回る事態を予防しておく、というケースが考えられます。
2、複数の相続人による限定承認の際には、相続財産管理人が選任される
複数の相続人が共同で限定承認を行う場合、家庭裁判所によって、相続人の中から遺産を管理して遺産を清算する職務を行う者が選任されます。(民法第936条第1項)。
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(1)相続財産管理人とは?
限定承認をする場合、相続債権者・受遺者との関係で適切に相続財産を精算するため、民法のルールに従った相続財産の管理や弁済などが必要になります。
限定承認者となる相続人が1人であれば、相続財産の管理や弁済を行うのは、その相続人自身です。これに対して、複数の相続人が共同で限定承認を行う場合、相続人を代表する立場となる相続財産管理人が、相続財産の管理や弁済の対応を行うことになります。
相続財産管理人は、相続人の代理人として、相続財産の管理および債務の弁済に必要な一切の行為をする権限を有します(民法第936条第2項)。なお、令和3年4月に公布された民法改正により、本改正法が施行される令和5年4月1日以降は相続財産の清算を行う者を「相続財産清算人」へ、相続財産を保存して管理する者を「相続財産管理人」という名称に区別される予定です。 -
(2)相続財産管理人の職務
相続財産管理人は、民法の各規定に従い、以下の職務を行います。
① 相続財産の管理・相続財産目録の作成
相続財産管理人は、自己の固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければなりません(民法第936条第3項、第926条第1項)。
それに伴い、他の相続人の請求に応じて、相続財産の管理状況を報告する義務等を負います(第926条第2項、第645条)。
② 相続債権者・受遺者に対する公告・催告
相続財産管理人は、選任後10日以内に、すべての相続債権者(被相続人に対してお金を貸していたなどの債権を持つ人)・受遺者(遺贈を受ける人)に対して、限定承認をした旨および一定期間内に請求の申し出をすべき旨を官報公告しなければなりません(民法第936条第3項、第927条第1項、第2項、第4項)。
なお、公告期間は、2か月以上に設定する必要があります。
また、すでに知っている相続債権者・受遺者に対しては、公告とは別に、個別の催告を行うことが必要です(同条第3項)。
③ 公告期間満了後の弁済
上記の公告期間が満了した後、相続財産管理人は、請求申出があった相続債権者および知れている相続債権者に対して、相続財産から弁済を行います(民法第936条第3項、第929条)。
相続財産が債権全額の弁済に不足する場合には、債権額の割合に応じて弁済する必要があります。ただし、優先権を持つ債権者の権利を害さないよう気をつけなければなりません。
相続債権者に対する弁済の後、相続財産が残っている場合、相続財産管理人は、相続財産から受遺者に対する弁済を行います(民法第936条第3項、第931条)。
④ 弁済のための相続財産の換価
弁済のために相続財産を売却する必要がある場合、相続財産管理人は、相続財産を競売に付さなければなりません(民法第936条第3項、第932条本文)。なお、前述のとおり、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い、相続財産に相当する価額を弁済することで、競売を止めることができます(同条但し書き)。
⑤ 職務終了後の経過・結果報告・相続財産の引き渡し
上記の職務がすべて終了した後、相続財産管理人は、相続人に対して事務処理の経過・結果を報告しなければなりません(民法第936条第3項、第926条第2項、第645条)。
また、残った相続財産については、相続人に対して引き渡します(民法第646条第1項、第2項)。
3、限定承認のやり方と注意点
限定承認の手続きは、民法の規定に従って行う必要があります。
限定承認を行うに当たっての注意点もいくつかあるので、弁護士のアドバイスを受けながら慎重にご対応ください。
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(1)家庭裁判所に申述書等を提出する
限定承認は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申述書を提出して行います(民法第915条第1項)。このとき、相続人全員が共同した申述人となり、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。
また、申述書のほか、戸籍謄本や住民票などの添付書類の提出や、費用の支払いも必要です。費用については、収入印紙800円分、そのほか連絡用の郵便切手が必要となります。正確に限定承認の申述に必要な書類を確認するためにも、申述書を提出する裁判所に問い合わせるとよいでしょう。 -
(2)限定承認は全相続人が共同で行う必要がある
相続人が複数人いる場合、限定承認はすべての相続人が共同して行う場合に限り認められます(民法第923条)。単独で行うことができる相続放棄とは異なるので、注意が必要です。これは、共同相続人間で限定承認をする者と単純承認をする者等がいると手続が煩雑になるためです。限定承認をしたい場合には、他の相続人との間で説得・調整を行い、足並みをそろえて手続きを行いましょう。
もっとも、一部の相続人が相続放棄した場合や生死不明の相続人がいる等と言った場合には、必ずしも共同相続人全員で限定承認をする必要はありません。 -
(3)限定承認には期間制限がある
前述の通り、限定承認は原則として、相続の開始を知った日から3か月以内に行わなければなりません(民法第915条第1項本文)。
実際には、期間制限を経過しても限定承認が認められるケースはありますが、確実に限定承認を行うためには、期間に間に合うように手続きを行いましょう。なお、利害関係人又は検察官の家庭裁判所に対する請求によって、限定承認の期間を伸長してもらえる場合があります(同項但し書き)。相続人は、この「利害関係人」に含まれるとされています。 -
(4)法定単純承認に要注意
以下のいずれかに該当する場合には「法定単純承認」が成立し、限定承認が認められなくなってしまうので注意が必要です(民法第921条第1号、第3号)。
- ① 相続人が、相続財産の全部または一部を処分した(不動産を売却や取り壊しをした・使ってしまったケースなど)とき(保存行為・短期賃貸借を除く)
- ② 相続人が、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私的に消費し、または悪意で相続財産目録中に記載しなかったとき(限定承認後を含む)
相続財産の処分は、相続財産の状態を実質的に変更することに繋がります。限定承認の手続き前後を問わず、このような行為を行うと、法定単純承認を行ったとみなされてしまいます。
具体的にどのような行動が法定単純承認事由に該当するのかについては、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。 -
(5)限定承認の申立てを取り下げることは可能か
限定承認は、申述書を家庭裁判所に提出していても、その申述が受理されるまでの間であれば、申述の申立ての取下げ(撤回)は可能です。一方、申述が既に受理された後は、その撤回は認められません。限定承認の申述書を家庭裁判所に提出をして申立てをしても、その申述が受理されるかどうかの判断がなされるまで、相当の日数がかかることがあります。特に、申述が代理人等によって行われた場合などは、家庭裁判所により、改めて申述人の意思確認が行われるなどします。
繰り返しになりますが、限定承認の場合、相続放棄とは異なり、相続債権者に対して一定の債務を弁済する必要があります。相続財産を売却しない場合には、弁済原資を確保できずに債務不履行を起こしてしまうケースがあるので、限定承認を行う前に弁済のめどを立てておきましょう。
4、遺産相続の悩みは弁護士にご相談を
限定承認すべきかどうかの判断や、限定承認に関する手続きの進め方については、弁護士にご相談いただくのが安心です。相続には手続きができる期間が定められているものが多く、それまでにそろえるべき書類もたくさんあるため、個人ですべての対応を行うことは非常に骨が折れる作業となりうるためです。相談いただければ、どのような対応をしたほうがよいのか、手続きの手順などについてのアドバイスを行えます。
また、弁護士に対応を依頼することで、必要な手続きを適切に進めたり、必要な書類修習のサポートを行ったりすることが可能です。そのほか、遺言執行や遺産分割、遺留分侵害額請求など、相続に関するあらゆる問題について、依頼者のご状況に合わせた適切なアドバイスを行うだけでなく、あなたの代理人として話し合いを進めることができます。
遺産相続に関する悩みや疑問点がある方は、ぜひ弁護士までご連絡ください。
5、まとめ
限定承認は相続人全員で行う必要があり、相続人が複数の場合は、家庭裁判所によって相続財産管理人が選任されます。相続財産管理人は相続人の中から選任され、民法の規定に従って職務を行わなければなりません。相続手続きを円滑に進めるためにも、他の相続人は相続財産管理人に協力しましょう。
ベリーベスト法律事務所では、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。限定承認をご検討中の方、そのほか遺産相続に関する疑問やお悩みをお抱えの方は、お早めにベリーベスト法律事務所 大宮オフィスへご相談ください。
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