『不法侵入』とはどこから? 住居侵入罪で逮捕される可能性と処罰
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令和5年7月、埼玉県警察本部生活安全総務課のXアカウント上で、さいたま市内にある一戸建て住宅の窓ガラスを割り、住宅内に不法侵入しようとした男が逃走した旨を知らせる投稿がありました。
いわゆる『不法侵入』とは、具体的にどこから罪に問われることになるのでしょうか。冒頭の事件のように悪質性があるわけではなくうっかり他人の敷地に立ち入ってしまったケースなどでも逮捕されることがあるのか、心配になる方もいるかもしれません。
本コラムでは『住居侵入罪』に焦点をあてて、どのような基準で刑罰が科せられるのか、逮捕された後の手続きを、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、『不法侵入』とは
『不法侵入』という用語は日常的に使われています。しかし、実のところ『不法侵入罪』という犯罪は存在しません。
まずは不法侵入とはどのような行為なのか、適用される罪名を確認しておきましょう。
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(1)一般的な定義
民家の玄関先に「不法侵入お断り」のステッカーを貼っていたり、立入禁止の場所に「不法侵入は警察に通報します」と明記した看板が掲示されていたりと、『不法侵入』という用語を見かける機会は数多くあります。
他人の敷地に無断で入るといった行為が不法侵入にあたることは間違いないでしょう。
ただし、不法侵入が犯罪として成立するのは、刑法によって厳格に規定された罪名に該当する場合に限られます。 -
(2)適用される罪名と刑罰
いわゆる不法侵入が犯罪として成立するのは、刑法第130条に該当する場合です。
【刑法第130条(住居侵入等)】
正当な理由がないのに、人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入し、または要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処する。
この条文の前段にあたる部分が不法侵入を罰する規定です。
後段にあたる部分は『不退去罪』と呼ばれ、不法侵入と同じく処罰されます。
侵入した場所によって成立する犯罪の名前が異なりますが、いずれかが成立した場合でも法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。
● 住居侵入罪
人が現に居住している住居に無断で侵入すると『住居侵入罪』が成立するおそれがあります。屋内に限らず、屋根・庭もここでいう住居に含むため、無断での立ち入りは処罰の対象になりえます。
住居とは「人が起臥寝食する場所」という意味があるため、現に人が住んでいない空き家は住居に含まれません。ただし、空き家は施錠されている場合など他人が事実上管理支配しているといえる場合には、「看守する邸宅」に含まれるため、無断での立ち入りは、犯罪が成立する可能性があります。
また、アパートの共用階段、通路、屋上なども住居の一部ですので、無断で立ち入れば、住居侵入罪が成立することがあります。
● 建造物侵入罪
人が住む住居ではないが、他人が事実上管理支配しているビル・学校や病院などの施設などに無断で侵入すると『建造物侵入罪』が成立するおそれがあります。管理人の目を盗んでビル内部に侵入する、夜間に学校の校舎内に忍び込むといった行為が建造物侵入罪の処罰対象になることは容易に想像できるでしょう。
ここで問題となるのが「建物の内部には侵入していない場合」です。たとえば、深夜に無許可の撮影やいたずら半分で学校などに侵入しようと企てて、塀を乗り越えて校庭に入ったところを警備員に発見されたようなケースでは、建物の内部への侵入がないため建造物侵入罪は成立しないように思う方もいるかもしれません。
しかし、このようなケースでは侵入した場所が『囲繞地(いにょうち)』にあたるのかで成立が判断されます。囲繞地とは、塀で囲まれた場所のことを指します。したがって、先ほどの校庭のケースでは、建造物侵入罪が成立する可能性があります。
また、条文では『艦船』への侵入も犯罪の対象としています。艦船とは、軍艦や船舶を指しており、その平穏を保護する必要のある程度の大きさのものに限られます。
2、不法侵入の境界線は? 逮捕されてしまうのか
他人の住居や敷地、他人が管理する建物などに無断で立ち入れば住居侵入罪・建造物侵入罪が成立しえます。
とはいえ、日常生活のなかには、特に許可を得ないまま他人の敷地や建物内に足を踏み入れる場面も少なくないので「どこからが犯罪になるのか?」と疑問を感じてしまうでしょう。
不法侵入が犯罪となってしまう境界線はどのような点にあるのでしょうか?
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(1)権利者・管理者の意思に反しているのか
住居侵入罪・建造物侵入罪が保護しているのは『居住権』『管理権』であると考えるのが通説です。住居の居住権者や建物の管理権者の意思に反した立ち入りは侵入とみなされます。
他人の住居への無断立ち入りが居住権を犯す行為であることは間違いありませんが、問題となるのは出入り自由の場所への侵入です。
たとえば、不正な方法によって出玉を稼ぐ『ゴト行為』をはたらく目的でパチンコ店に立ち入る行為は、一見すると一般客との区別がつかないため出入りは自由でも、管理権者の意思に反した立ち入りにあたるので、侵入とみなされます。
同様に、次のようなケースでは「権利者・管理者の意思に反した侵入」が成立すると考えられるでしょう。- 盗撮目的で営業中の銀行ATMに立ち入った
- いやがらせ行為をはたらく目的で、官公庁の敷地に立ち入った
また、「関係者以外は立入禁止」と立て看板などで明示されている、周囲を門塀などで囲っているなどの場所では、施錠がなく出入りが自由でも侵入とみなされることがあります。
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(2)犯罪の目的があるのか
法律の考え方では住居侵入罪・建造物侵入罪が成立する場合でも、無断で敷地内などに立ち入る行為をしたことで必ず逮捕されるというわけではありません。
ただし、窃盗や強盗、盗撮などの犯罪の目的があれば、厳しい対応を受けることになるのは必至です。警察官の追及にあえば言い逃れることは難しいので、その場で逮捕されてしまうおそれは十分にあるでしょう。
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3、不法侵入で逮捕された場合の刑事手続きの流れ
不法侵入が住居侵入罪・建造物侵入罪にあたって逮捕されると、その後はどのような刑事手続きを受けることになるのでしょうか?
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(1)逮捕の種類
不法侵入に対する逮捕では、侵入の現場を家人や周辺の通行人、警備員などに目撃され、現行犯人として逮捕されるケースが考えられます。
ただし「現行犯でないと逮捕されない」というわけではありません。冒頭で挙げた事例のように、別の事件を起こして余罪の捜査を受ける過程で不法侵入が発覚し、逮捕されることもあります。
この場合は、不法侵入に関する捜査が進められて逮捕状が発付され、通常逮捕を受けるでしょう。 -
(2)逮捕後は検察官に送致される
警察に逮捕されると、逮捕の種類にかかわらずその時点で身柄拘束を受けます。逮捕後は警察の取り調べが行われ、48時間以内に身柄と関係書類が検察官へと引き継がれます。これが『送致』、マスコミなどでは『送検』と呼ばれる手続きです。
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(3)検察官による勾留請求
身柄の送致を受けた検察では、警察から送致を受けた書類などを精査し被疑者を取り調べて24時間以内に起訴・不起訴を判断しなければなりません。
この段階で重要な決断を下すための材料が不足している場合、さらに詳しい取り調べを進める必要が出てきます。そこで、検察官は裁判所に身柄拘束の延長を求めます。
これを『勾留請求』といいます。 -
(4)勾留中の取り調べ
検察官の勾留請求を裁判官が認めると、まず原則として10日間まで身柄拘束が延長されます。勾留を受けた被疑者は、警察署に身柄を戻されてさらに詳しい取り調べを受けることになります。
最初の勾留期限までに必要な捜査が終了していない場合は、さらに延長請求によって10日間までの延長を受けます。つまり、住居侵入罪が被疑事実の場合、勾留の最長期間は20日間です。
逮捕から送致までが48時間、検察官が起訴を判断するまでに24時間、勾留が延長を含めて20日間で、逮捕から数えると合計で最長23日間の身柄拘束が続きます。 -
(5)起訴・不起訴の判断
勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴・不起訴を判断します。他方、勾留をされないケースもありますが、その場合は取り調べが終わり次第、起訴とするか不起訴とするかが判断されることになります。
起訴されれば『被告人』となり、刑事裁判が開かれる日までさらに身柄を拘束されますが、保釈による一時的な身柄解放が認められる可能性もあるので有効活用したいところです。
不起訴処分は、別の真犯人がみつかって容疑が晴れた、被告人を有罪に問えるほどの証拠がそろわなかった、証拠は十分にそろっているが罪を科すほどはない事情があるといった場合に下されます。
刑事裁判は開かれないので、刑罰は科せられません。
4、不法侵入で逮捕された場合の解決策
不法侵入で逮捕されてしまった場合は、弁護士に相談して早期解決を目指しましょう。逮捕・勾留による身柄拘束や刑罰を回避するためには、弁護士のサポートが必須です。
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(1)被害者との示談成立を目指す
被害者となる住居権者や管理者と示談交渉を進めて、謝罪のうえで被害届や告訴の取り下げがかなえば、逮捕の回避や早期釈放、不起訴処分の獲得が期待できます。
不法侵入を受けた被害者は、加害者に対して強い怒りを持っている可能性が高いものです。加害者やその家族が示談を進めようとしても、かたくなに拒まれるケースもめずらしくありません。
そのため、第三者である弁護士が代理人をつとめることで、被害者の怒りや反発を和らげて、穏便な交渉が進められる可能性が高まります。被害者との示談交渉は弁護士に一任するのが最善策です。 -
(2)悪質な侵入ではないことを主張する
不法侵入が罪に問われたとしても、犯罪目的などの悪質な侵入でなければ重い刑罰は科せられない可能性があります。
正当な理由が存在したことや、他人の敷地だとは認識せずに立ち入ってしまったこと、侵入にあたるとしても不法の目的はなかったことなどを客観的に証明すれば、不起訴処分の獲得も期待できるはずです。
刑事事件の弁護実績がある弁護士に相談してサポートを求め、有利な事情を証明する証拠をそろえて悪質な侵入ではないことを主張しましょう。
5、まとめ
ひとことで『不法侵入』といっても、窃盗やわいせつといった悪質な目的の手段としての侵入もあれば、誤って他人の敷地や建物に立ち入ってしまったケースもあります。
たとえ刑法の条文に照らせば住居侵入罪や建造物侵入罪にあたるとしても、侵入の理由や状況、方法、動機によっては逮捕や刑罰を避けられる可能性があると覚えておきましょう。
もし、不法の目的があれば警察に逮捕されてしまうおそれが高まりますが、被害者との示談交渉を進めることで逮捕・刑罰の回避も期待できます。示談は当事者同士で行うと事態が悪化してしまう可能性があるので、弁護士に対応を依頼しましょう。
不法侵入により警察沙汰になってしまった、家族が不法侵入の容疑で現行犯逮捕されてしまったので早期釈放を目指したいなどのお悩みがあれば、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスにご相談ください。住居侵入罪・建造物侵入罪を含めた刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、事件の早期解決を目指して全力でサポートします。
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