口座譲渡や売却をすると罪に問われる? 初犯でも有罪になるのか

2023年05月30日
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口座譲渡や売却をすると罪に問われる? 初犯でも有罪になるのか

銀行などで発行を受けた通帳・キャッシュカードを売却する行為は、罪に問われる可能性があります。たとえば、令和5年3月の報道によると、さいたま市内の駐屯地に所属していた者がいわゆる闇バイトに応募し、金融機関の口座を売却した容疑で逮捕されたという報道がありました。最終的に不起訴になったとのことですが、不起訴となった理由は明らかになっていません。

本コラムでは、通帳・キャッシュカードの売却などを含む「口座譲渡」がどのような犯罪にあたるのか、冒頭の報道のように厳しい罪を避ける方法はあるのかについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、「犯罪収益移転防止法」の違反になる

通帳・キャッシュカードの売却を含めた口座譲渡は、有償・無償を問わず犯罪になります
このような行為を禁止しているのが「犯罪による収益の移転防止に関する法律(通称:犯罪収益移転防止法)」です。

  1. (1)犯罪収益移転防止法とは

    犯罪収益移転防止法は、暴力団や犯罪集団が活動するための資金の流れをストップさせることで、これらの組織を弱らせ、国民の安全で平穏な生活を確保する目的で定められた法律です。

    不正にやり取りされた通帳やキャッシュカードは、暴力団や犯罪集団が裏にひそむ振り込め詐欺などの犯罪やヤミ金融事案に悪用されてしまいます。
    法律によって不正な口座譲渡を厳しく罰することで、暴力団や犯罪集団といった組織を弱体化させるねらいがあるのです。

  2. (2)どのような行為が犯罪になるのか

    通帳・キャッシュカードの売却を含めた口座譲渡に関しては、犯罪収益移転防止法第28条に規定されています。

    第28条第1項では、他人になりすまして銀行などのサービスを利用する目的で、他人名義の通帳やキャッシュカードを譲り受けることや、通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他正当な理由がないのに有償で買い取る行為について、罰則を定めています。第三者にこのような行為を行わせる場合も規制対象です。
    これは通帳・キャッシュカードを「受け取った・買い取った側」に対する規定です。

    さらに、同条第2項では、第1項のように他人になりすまして通帳・キャッシュカードを利用する目的があることを知ったうえで、あるいは、通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他正当な理由がないのに有償で、これらを譲り渡し、交付し、または提供する行為についても罰則を定めています。
    こちらは通帳・キャッシュカードを「譲り渡した・売却した側」に対する規定で、有償・無償を問いません。

    SNSやネット掲示板などで「短時間で高収入」「いますぐ◯万円」といった高報酬の募集を見かけることがありますが、口座譲渡を持ちかけられる危険性が高いので相手にしてはいけません

  3. (3)犯罪収益移転防止法違反の罰則

    通帳・キャッシュカードの売却を含めた口座譲渡は、犯罪収益移転防止法第28条1項および2項違反として、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの両方が科せられます

2、詐欺罪に問われることもある

通帳・キャッシュカードを他人に譲り渡す行為は、犯罪収益移転防止法違反ではなく刑法の「詐欺罪」に該当する可能性もあります。

  1. (1)詐欺罪とは

    詐欺罪は刑法第246条に規定されている犯罪です。
    他人にウソをついて信用させ、金品などの財物をだまし取る行為を罰するもので、振り込め詐欺・オレオレ詐欺・還付金詐欺・結婚詐欺・情報商材詐欺など、さまざまな手口が存在しています。

  2. (2)どのような行為が詐欺になるのか

    口座譲渡が詐欺罪になるのは「通帳・キャッシュカードを譲り渡した、売却した」という段階よりも前にさかのぼったところです。

    たとえば、口座の買取業者から「今から◯◯銀行に行って口座を開設し、通帳とキャッシュカードを作ってこちらに郵送してくれたら報酬を渡す」と持ちかけられたとします。言われたとおりに銀行に行って口座を開設し、当日は通帳を、後日にキャッシュカードを郵送して、たしかに約束どおりの報酬が得られたとしましょう。

    銀行などの金融機関で口座を開設する際には、必ず「口座開設の目的」を尋ねられます。本来であれば「貯蓄のため」「給料振り込みのため」「生活費の引き落としのため」といった理由で開設するはずです。

    ところが、この場合は「買取業者に売却するため」という目的を持っているものの、正直に答えれば口座開設を断られてしまうので、別の目的を説明するでしょう。その話を信じて窓口の係員が口座を開設し、通帳やキャッシュカードの発行に応じれば、本当の目的を隠してウソをつき、金融機関から通帳やキャッシュカードをだまし取ったことになります。

    簡単に区別すれば、すでに持っている通帳やキャッシュカードを譲渡・売却すれば犯罪収益移転防止法違反に、譲渡・売却の目的で新たに口座を開設すれば詐欺罪になるといえるでしょう。

  3. (3)詐欺罪の罰則

    詐欺罪には、10年以下の懲役が科せられます
    懲役の上限が重たいうえに罰金の規定もないので、有罪になれば懲役が下される可能性も高く、非常に厳しい罰則が設けられているといえるでしょう。

3、刑事事件の流れと厳しい処分を回避するためにできること

犯罪収益移転防止法や詐欺罪の疑いをかけられてしまうと、その後はどのような流れで手続きを受けるのでしょうか?刑事事件の流れを解説します。

  1. (1)逮捕・勾留によって身柄を拘束される

    警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官へと送致された段階で24時間以内の、合計72時間にわたって身柄を拘束されます。警察署の留置場に置かれるため自由な行動は許されず、自宅へ帰ることも、会社や学校へと通うことも認められません。

    また、この72時間は、たとえ家族であっても面会が認められません。さらに、逮捕後、検察官からの請求によって裁判所が許可すれば、勾留されることになります。勾留は原則10日間以内ですが、延長請求でさらに10日間以内で勾留されることもあり、最長20日間にわたって自由な行動が制限され、警察署の留置場での生活が続きます。

  2. (2)検察官が起訴すると刑事裁判になる

    勾留の期限までに検察官が起訴すると、刑事裁判になります。

    起訴されるまでは犯罪の疑いがある「被疑者」と呼ばれる立場でしたが、起訴されると刑事裁判を受ける「被告人」へと変わり、保釈されない限りは被告人としての勾留が続きます

  3. (3)刑事裁判で刑罰が下される

    刑事裁判では、検察官や弁護士が提出した証拠をもとに裁判官が審理し、有罪・無罪を決めます。

    有罪の場合は、さらに法律が定める範囲内でどの程度の刑罰が適切であるかも審理され、判決として言い渡しを受けます。

  4. (4)不起訴になると刑事裁判は開かれない

    検察官が起訴すれば刑事裁判になりますが、一方で、検察官が「不起訴」処分として起訴を見送ることもあります。

    不起訴の場合は刑事裁判が開かれないので、有罪・無罪を問われることもなく早期に釈放されます。裁判官の審理を受けないので、当然、刑罰が科せられることも、前科がついてしまうこともありません。

4、厳しい処分を避けるには弁護士のサポートが欠かせない

通帳・キャッシュカードの売却を含めた口座譲渡は、特に犯罪を手助けしているつもりがなくても詐欺組織や闇金グループを活動しやすくしてしまうため、厳しい罰則が設けられています。

「犯罪になるとは知らなかった」「アルバイトだと思ってだまされた」といった言い訳や、「初犯だから絶対に有罪にならない」などという考えは通用しないと考えておくべきです。

もし、厳しい処分を避けたいと考えるのであれば、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。弁護士に相談した場合、次のようなサポートを受けられます。

  1. (1)逮捕の直後でもアドバイスができる

    警察に逮捕された直後の72時間以内は、たとえ家族であっても面会できません。

    この期間に逮捕された本人と面会できるのは弁護士だけなので、弁護士に接見を依頼して、今後の見通しや取り調べを受ける際の注意点などのアドバイスを受けましょう。

  2. (2)素早い釈放を目指したサポートが可能

    逮捕・勾留は、被疑者の逃亡や証拠隠滅を防止するための強制手続きです。つまり、逃亡や証拠隠滅の危険がない場合は逮捕・勾留が不要となります。

    弁護士に依頼すれば、住居や仕事が定まっていて逃亡する危険がないこと、家族による監督がしっかりしていること、すでに証拠は提出済みで証拠隠滅を図るおそれがないことなどを主張して、早期釈放を実現するための活動を行うことができます

  3. (3)不起訴の獲得を目指すことができる

    被疑者を刑事裁判にかける必要があるのかどうかを判断するのは検察官です。実は、検察官が起訴に踏み切る割合は決して高くありません。令和2年版の犯罪白書によると、刑法犯の起訴率は38.2%に過ぎず、60%以上の事件は不起訴となっています。

    検察官が不起訴とする理由のなかでもっとも多いのが、犯罪の事実があり、証拠もそろってはいるものの、さまざまな事情から刑罰を科すまでの必要はないとする「起訴猶予」です
    深い反省を示して再び罪を犯すことはないと判断されれば、検察官が不起訴を下す可能性があるので、弁護士に依頼して反省文の提出などの対策を講じましょう

  4. (4)刑事裁判での弁護活動が期待できる

    刑事裁判では、被告人にとって不利な証拠だけでなく、有利な事情を示す証拠も審理されます。そのためには適切な手続きや書面で、被告人が詐欺の事実を知らなかったなどの事情を主張する必要があることは言うまでもありません。

    弁護士に依頼して適切な弁護活動を行うことによって、刑罰が軽減される可能性が出てきます

5、まとめ

通帳・キャッシュカードを譲渡・売却してしまうと、犯罪収益移転防止法違反や詐欺罪に問われる事態になります。報酬の高いアルバイトだと勘違いして話に乗ってしまうと、思いがけず逮捕されてしまうことや、刑罰を受けてしまうことすらあるでしょう。

厳しい処分を回避するには、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士のサポートが欠かせません。通帳・キャッシュカードの売却を含めた口座譲渡について不安を感じているなら、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。不起訴の獲得や刑罰の軽減を目指して、大宮オフィスの弁護士が全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています