警察官に暴行!? 家族が公務執行妨害で逮捕されたときの対処法
- その他
- 公務執行妨害
- 警察
平成30年4月、埼玉県さいたま市で20代の男が救急隊員の顔を殴る事件が発生。大宮署は公務執行妨害と傷害の疑いで男性を現行犯逮捕したという報道がありました。さらに平成30年1月には、行田市で職務中の警察官にアイスピックを投げつけた男が逮捕されています。
このように警察官など公務員に暴行を加え、公務執行妨害容疑で逮捕されるニュースは日常的に聞かれます。では、なぜ警察官など公務員の業務を妨害すると逮捕されてしまうのかをご存じでしょうか。
ここではあなたのご家族などが公務執行妨害罪を犯してしまったとき、確認しておきたいポイントや対処法などを、大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、公務執行妨害とは
ドラマや映画では、警察官ともみ合いになった登場人物が「公務執行妨害罪で逮捕する!」などといわれて手錠をかけられるシーンを目にします。そもそも公務執行妨害はなぜ犯罪として成立するのかを解説します。
-
(1)公務執行妨害罪の概要
刑法95条第1項では「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者」が公務執行妨害罪として処罰されると定めています。つまり、公務員に対してその業務を邪魔するような行為をすれば、その相手が警察官でなくとも逮捕される可能性があるのです。
なお、公務執行妨害は「公務員」を守るために刑罰が設定されているわけではありません。「公務員が遂行する公務」を守るために規定された法律です。よって、暴行や脅迫にあたる行為を、業務時間外や休日中の公務員個人に対して行ったケースであれば、公務執行妨害罪ではなくその個人に対する「暴行罪」や「脅迫罪」として罪に問われることになります。 -
(2)公務員に該当する職種
刑法95条第1項で規定される「公務員」とは、国や地方公共団体など、広く官公庁で働く職員全般が対象となります。たとえば、次のような職種が対象となります。
- 警察官
- 県庁や市役所などの職員
- 税務職員
- 消防士
- 裁判所職員
- 自衛官
- 国会議員や地方議会議員
- 公立学校の教員
- 公立保育園の保育士
- 労働基準監督官
なお、駐車監視員や公社・公団職員のような「みなし公務員」といわれる職員も、国や地方自治体から委託を受けて公益性の高い業務を行っていることから、公務執行妨害罪で規定される公務員として扱われることになります。よって、たとえば役所の駐車場で働いている監視員の業務を妨害するような行動をとると、公務執行妨害罪が成立する可能性があります。
一方、私立学校の教員や保育士は、公務員ではないため、業務を妨害したとしても公務執行妨害罪は成立しません。たとえば、これらの人たちに暴行を加えたときは、その個人に対する暴行罪や傷害罪が適用されることになります。
2、公務執行妨害にあたる行為とは
公務執行妨害罪の条文に記載されている「暴行または脅迫」には、皆さんの想像以上に幅広い行為が該当します。
公務執行妨害罪では、以下のような行為が「暴行または脅迫」とされる可能性があります。
- 警察官から職務質問を受けているときにカッとなってパトカーを蹴った
- 警察官の持っていた書類を無理やり取って破った
- 役所の職員の話に納得がいかず、職員に向かって机上の物を投げた
- 救急隊員ともみ合いになって「殺すぞ!」などと脅した
「公務員の業務」を妨害していると評価される行為であれば、相手がケガをするしないにかかわらず、公務執行妨害罪が成立します。
3、公務執行妨害罪で科される刑罰
公務執行妨害の罪で有罪になると、「3年以下の懲役もしくは禁錮」、または「50万円以下の罰金」の範囲で刑罰を受けることになります。
「懲役」と「禁錮」は刑務所内に身体を拘束される点では同じですが、「懲役」では労働を強制される点で異なります。「罰金」は金銭を徴収される刑罰です。
しかし、公務執行妨害罪は、公務員に対する暴行や脅迫などの行為で成立する犯罪のため、一度の行為で、「公務執行妨害罪」だけでなく、「暴行罪」や「脅迫罪」などにも該当するケースが少なくありません。このようなとき、どのような刑罰に処されるのかを知っておきましょう。
-
(1)公務執行妨害罪と他の罪を同時に問われたら?
たとえば冒頭で紹介した救急隊員を殴ってしまった事件では、「公務執行妨害」容疑だけではなく「傷害」容疑でも逮捕されたと報道されています。このように、一度の行為で複数の犯罪に該当することを、「観念的競合」と呼びます。
観念的競合に該当するケースのときは、それぞれの罪に対する刑罰を比べ、より重く定められている刑罰で処罰を受けることになります。 -
(2)公務執行妨害罪と関係性の高い犯罪
公務執行妨害罪と同時に犯してしまう可能性のある犯罪の刑罰を確認しておきましょう。
●暴行罪(刑法208条)
暴行罪は、人の身体に向けて物理力を行使することで成立する罪です。相手の身体を殴る・蹴るなどの直接的な暴力だけでなく、相手にぶつからないように物を投げて恐怖心を与える、水をかけるなどの行為も該当する可能性があります。
暴行罪の刑罰は、「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」と定められており、公務執行妨害罪よりも刑罰が軽いといえます。よって、公務員に暴行した場合は、より重い公務執行妨害罪の刑罰が適用されます。
●傷害罪(刑法204条)
前述の「暴行」行為によって相手にケガをさせてしまった場合などは、暴行罪ではなく傷害罪として処罰されます。
刑罰は、「15年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金」と定められています。公務執行妨害罪より刑罰が重いため、公務員にケガを負わせてしまうと、傷害罪の刑罰によって処罰されることになります。
●脅迫罪(刑法222条)
「殺すぞ」「死んでしまえ」など相手の生命や身体、名誉などを傷つけるような発言をすると脅迫罪に該当する可能性があります。
刑罰は、「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」です。公務執行妨害罪より刑罰が軽いため、公務員を脅迫した場合は公務執行妨害罪の刑罰により処罰されます。
●器物損壊罪(刑法261条)
相手の物を壊したときなどに問われる罪です。
刑罰は、「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」と定められています。公務執行妨害罪の方がより重いため、公務執行妨害罪の刑罰で処罰されることになります。
4、公務執行妨害で逮捕された場合の対処法
もしあなたの家族が逮捕されてしまったとしたら……。いち早く日常を取り戻すために、家族はどうしたらよいのでしょうか。
-
(1)示談はほぼ不可能
被害者がいる刑事事件の場合、被害者との間で示談が成立していれば、起訴を避けられたり、罪が軽くなったりするケースが少なくありません。したがって、被疑者の家族は早急に示談の準備を進めることになります。
しかし、公務執行妨害罪の場合、被害を受けたのは「公務員個人」ではなく、「公務員が携わる公務」であるため、被害者は国や地方公共団体ということになります。国や地方公共団体が示談に応じるとは考えられませんから、この場合、示談交渉の余地はありません。
なお、傷害や暴行など、公務執行妨害罪以外の罪をも問われている場合、被害を受けた個人(公務員)と示談することによって、反省の念を示せる可能性はあります。 -
(2)逮捕後、勾留中に反省を伝える
もちろん、「少しでも早く日常を取り戻すために、家族にできること」がないというわけではありません。そのためには、捜査の流れを知り、長期にわたる身柄拘束となる前のタイミングをあらかじめ知っておくことも必要なことです。
公務執行妨害罪で逮捕されると、まずは警察で身柄を拘束され、取り調べを受けることになります。警察は、逮捕から48時間以内に事件を検察へと送致します。事件が軽微である場合には、警察段階で釈放される可能性もあります。そして、送致されるまでの期間は、留置場で寝泊まりすることになります。
警察が事件の送致を行うと、検察は、逮捕から72時間、送致から24時間以内に、身柄を拘束したまま捜査を行う「勾留(こうりゅう)」が必要か否かを判断します。勾留が必要と判断し、裁判所が検察官からの請求を許可すると、最長で20日間、留置場や拘置所で身柄の拘束を受けたまま取り調べが行われることになります。
もし、相手に大きなケガがないうえ、悪質性が低く、深く反省していることが明確であれば、送致される前に釈放される可能性も考えられます。しかし、真に加害者であるにもかかわらず非を認めない、取り調べに応じない、逆上し続けるなどの態度を続けていると、証拠隠滅や逃亡するおそれがあると思われてしまい、取り調べが長引く可能性が高いです。検察へ事件や身柄が送致されてしまえば、起訴される可能性が出てくるうえ、身柄の拘束期間が延びる可能性が高まります。
つまり、家族ができるアプローチのひとつは、本人に反省を促すことということになります。 -
(3)弁護士のアドバイスに耳を傾ける
もしあなたが、被疑者と一刻も早く対面して、状況を確認したい、話をして反省を促したいと考えたとしましょう。しかし、逮捕から72時間以内は、弁護士でなければ面会や差し入れはできません。
そのため、家族が逮捕されたとの知らせを受けたときは、できるだけ早く弁護士に相談し、対応してもらうことが、今後の鍵を握ります。捜査を受けるときの対処法や取り調べを受ける態度、今後どうなるかなどについてのアドバイスをしてもらうだけでなく、家族が心配していることを伝えてもらい、反省を促しましょう。
5、まとめ
今回は、あなたのご家族などが警察官などに暴行をふるってしまい、公務執行妨害罪で逮捕されたときの流れや対処方法について解説しました。
公務執行妨害罪では示談交渉ができないだけに、早い段階から弁護士のサポートを受けることが早期釈放や起訴・不起訴の行方を大きく左右します。特に、逮捕後の72時間は、長期の身体拘束を受けるかどうかが決まる重要な時間となりますので、信頼できるプロに相談することをおすすめします。
公務執行妨害罪で身近な人が逮捕されてしまったときは、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスまでご相談ください。刑事事件の対応経験が豊富な大宮オフィスの弁護士が早期解決に向けて力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています