夫が電車で置き引きをして逮捕されてしまったら。量刑や対応について解説
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平成30年11月、埼玉県の電車内で現金の入ったバッグを持ち去ったとして参議院事務局職員が逮捕される事件がありました。
もし自分の夫が置き引きによって逮捕されたと連絡を受けた場合、家族にはどのような対処が求められるのでしょうか。
今回は、電車で置き引きをしてしまった夫に対して、家族として何ができるのか、量刑や逮捕後の具体的な流れについて弁護士が解説します。
1、置き引きとは?
そもそも置き引きとは、自分の所有物ではないものを許可なく持ち去る行為です。下記の行為が代表的な置き引きの手口です。
- スーパーに置き忘れてあった他人の買い物(精算済みのもの)を持ち去る。
- 電車の網棚にあった他人の荷物を持ち去る。
- 銀行のATMに置き忘れてあったお金の入った封筒を持ち去る。
- 自転車カゴに入っていたスマートフォンを持ち去る。
- トイレの中に置き忘れてあった財布を持ち去る。
加害者は、自分の所有物ではないと認識していながら被害者の荷物を現場から持ち去ります。
ほんの出来心で置き引きをしてしまったとしても、置き引きは犯罪です。犯行状況が防犯カメラで撮影され、後日逮捕されることも少なくありません。
2、置き引きをして問われるのは窃盗罪?
置き引きは、窃盗罪、または占有離脱物横領罪(せんゆうりだつぶつおうりょうざい)に問われる可能性があります。これらの罪には、どのような違いがあるのでしょうか。
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(1)窃盗罪と占有離脱物横領罪
他人の財物を盗み取ることが窃盗罪に当たります。「財物」とは、バッグや財布、アクセサリーなど、金銭的な価値をもつものだけでなく、本人にとってのみ価値のあるものも含まれるとされます。
つまり、他人の占有下にある他人の所有物を許可なく持ち去った場合に、窃盗罪として罪に問われ得ることになります。
一方、占有離脱物横領罪とは、所有者の占有下にないものを横領する行為です。たとえば、道端に落ちていたお金やアクセサリー(他人の物)を自分のものにする目的で拾うことで犯罪が成立します。 -
(2)犯行態様の違い
では、電車の網棚に置いてあったバッグを盗んだ場合、窃盗罪と占有離脱物横領罪のどちらの罪に問われるでしょうか。
一般的には、電車の網棚に置かれている物は、特定の場所に到着するまでの間、一時的に置かれているものにすぎません。つまり、所有物は、その間、常に被害者によって管理されていますから、被害者の占有下にあるといえます。このような状況で、被害者が一瞬目を離した隙にバッグや財布を盗んだのであれば、窃盗罪に問われる可能性が高いでしょう。
一方で、被害者が網棚に物を置いたことを完全に忘れてそのまま電車を降りてしまった場合は、もはや被害者の占有下にはないと判断されることが多いといえますので、占有離脱物横領罪に問われる可能性が高くなるでしょう。
3、窃盗罪と占有離脱物横領罪の量刑
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(1)量刑の範囲
窃盗罪の量刑は、「10年以下の懲役、または50万円以下の罰金」(刑法第235条)と定められています。
一方、占有離脱物横領罪は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料」(刑法第254条)と定められています。科料とは、比較的軽微な犯罪に対して科される財産刑であり、1000円以上1万円未満の間で徴収されます。 -
(2)量刑の判断基準
窃盗罪または占有離脱物横領罪に問われ有罪となった場合、どのような判断基準で量刑が決まるのでしょうか。量刑は、下記の要素等によって変わってきます。
- 犯行の悪質性
- 犯行結果の重大性
- 示談の有無
もし、初犯であったり、犯行に悪質性があまり認められず、その結果が被害者に多大な影響を与えていなければ、刑罰は軽微なものとなるでしょう。略式裁判による罰金または科料となるケースもあります。
しかし、高額なものを狙って盗んでいたり、犯行が常習化していたりする場合は、悪質と判断され懲役刑となる可能性も十分にあります。
また、被害者との間で示談が成立しているかどうかも、重要な判断材料となります。示談を成立させることで、起訴前であれば不起訴が、起訴後であっても罪の減軽などが期待できます。
最終的な判決は、加害者の反省の様子や犯行の経緯、犯行の動機等によっても左右されます。
4、逮捕後の流れ・裁判について
置き引きで逮捕されてしまった場合、その後の流れを見てみましょう。
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(1)逮捕・送致される
逮捕されるとまず警察署で取り調べが行われます。警察は、逮捕から48時間以内に検察庁に送致するか否かを決定しなければならないため、取り調べはその間に実施されます。
身柄が検察庁に送致されると、検察官が事情聴取を行い(「弁解録取」といいます。)、引き続き身柄を拘束する必要があるかどうかを24時間以内に判断します。 -
(2)勾留・延長
検察が身柄を拘束する必要があると判断した場合は、裁判所に対し勾留請求を行います。
(検察官が身柄を拘束する必要がないと判断し、勾留請求を行わない場合、または、勾留請求されたとしても、裁判官が勾留を認めなかった場合は釈放されます。)
勾留が決定された場合は、原則として10日間、引き続き身柄を拘束されて取り調べを受けます。捜査上、勾留の延長が必要であると判断された場合には、さらに10日間勾留が延長されることもあります(「勾留延長」といいます。)。この間に、検察官は起訴または不起訴を判断します。
長期間の身柄拘束を受ければ社会生活にも影響が出るため、早急に対策を打つことが大切です。 -
(3)起訴・刑事裁判
勾留の期間中に、検察官は事件を起訴するか、または不起訴で終わらせるかを決定します。
不起訴となれば前科もつきませんが(ただし、「前歴」はつきます。)、万が一、起訴されることが決定した場合は、略式手続きなのか、正式裁判なのかが検討されます。
正式裁判となった場合、約1か月の期間を経て刑事裁判が開かれることになります。刑事裁判では、犯行の悪質性や重大性、示談の有無などの事情が総合的に考慮されて、判決が言い渡されます。
5、家族にできること
置き引きは、つい出来心でやってしまいがちな犯行態様といえますが、動機に酌量の余地はなく、悪質性が高いとされることも多くあります。その場ではばれなかったとしても、後日、防犯カメラや第三者の証言により逮捕されるというケースも少なくありません。
また、本人が占有離脱物横領罪にあたると思っていても、前述したとおり、様々な状況などから被害物品が被害者の占有下にあったと判断されれば、より法定刑の重い窃盗罪として起訴される可能性も十分にあります。
家族としては、なるべく早期に弁護士に依頼して適切な対応をしてもらうことがもっとも大切です。特に重要なのは、被害者との示談交渉です。
刑事事件の示談交渉において、警察や検察は二次被害が発生しないよう加害者本人やその家族に被害者の連絡先を教えることはありません。その点、弁護士であれば、被害者の連絡先を手に入れ、加害者の代わりに被害者と示談交渉が出来る可能性があります。被害者側としても加害者側と直接話をしなくて済むため、交渉を受け入れてもらえる可能性はより高まると言えます。
示談が成立すれば不起訴となる可能性もあるため、家族は一日でも早く弁護士に依頼し、示談交渉を進めることが大切です。
6、まとめ
今回は、置き引きの量刑について、また逮捕されてしまった後の流れや家族ができることについて解説しました。家族の誰かが置き引きによって逮捕されてしまった場合は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
刑事弁護の経験が豊富な弁護士であれば、被害者との示談交渉を有利かつ円滑に進めることができるため、不起訴や罪の減軽が期待できます。
置き引きに関する相談先をお探しなら、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスまでご連絡ください。刑事弁護の経験が豊富な弁護士が、あなたのご家族の力になります。
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