同僚の横領を知りつつ見過ごしたら「幇助」したと犯罪になる!?

2020年01月15日
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同僚の横領を知りつつ見過ごしたら「幇助」したと犯罪になる!?

大宮区の刑法犯の認知件数は、平成30年で1924件でした。さいたま市全体の認知件数10560件のなかでは、市内でもっとも刑法犯が多い区になっています。
自らが「犯罪」だと認識してする行為はともかく、中には犯罪にならないと思っていた行為が実は犯罪行為になっていることもあります。そのような犯罪のひとつに、「他人の罪を見逃す」行為があります。

たとえば、会社のお金を同僚が横領していることを知りながら、何もしないでいることは罪になるのでしょうか。手助けをすれば何らかの罪に当たるかもしれないと想像するかもしれませんが、実は、何もしない行為も幇助(ほうじょ)犯として犯罪になることがあるのです。今回は、業務上横領罪と犯罪の手助けをする幇助犯について解説します。

1、業務上横領罪とはどういう犯罪?

そもそも業務上横領罪とはどのような犯罪なのでしょうか。横領罪というのは、他人の物を占有している者が、それを勝手に自分のものとして利用・処分してしまうことで成立する犯罪です。業務上横領罪は、占有という行為を仕事などの業務に基づいて行うことで成立する犯罪となります。
たとえば、銀行で他人のお金を預かっている銀行員が、そのお金を自分のものにしてしまう行為などが業務上横領罪に該当します。

詳細に成立する要件をみていきますと、

  1. ①業務上
  2. ②自己の占有する
  3. ③他人の物を
  4. ④横領すること

となります。

  1. (1)業務上

    業務とは、他人の物を占有・保管する事務を反復継続的に行うことを指しています。そして、この業務は、契約に基づくものであっても、あるいは慣習または法規に基づくものでも問題ありません。一時的に荷物を預かるクロークのような行為についても、この業務に該当するのです。

  2. (2)自己の占有する

    占有とは、物に対して事実上または法律上の支配力を有する状態のことをいいます。

  3. (3)他人の物

    物とは、財物を指します。物といっても、金銭や動産だけでなく、不動産なども含んでいます。たとえば、土地の名義移転をするために一時的に土地の所有名義人になっているような場合において、それを自分の土地として売ってしまう行為は、横領罪に該当します。

  4. (4)横領すること

    横領については、一般的に不法領得の意思を発現する一切の行為を指すとされています。具体的には、他人の物の占有者が、自分の物でなければできないような処分をする意思をいいます。たとえば、自分のものとして着服することや使ってしまうこと、勝手に第三者に売ってしまうことなどが挙げられます。

2、業務上横領罪の量刑は?

業務上横領罪は、10年以下の懲役と法定刑が規定されています。罰金刑は規定されていません。つまり、有罪となり執行猶予もつかなければ、最長で10年もの間、刑務所に入らなければならないことになります。
これは、他人の物を占有していることから、そもそも犯罪の発生しやすい状況であること、また被害金額が高くなる傾向があることから、犯罪を抑止する観点や被害を食い止めるために、重い刑罰が定められているといえます。

3、同僚の横領を知っていながら何もしなければ幇助の罪に問われる?

他人の犯罪行為を、知っていて見逃すような場合、その見逃す行為については、犯罪が成立するのでしょうか。
犯罪者を手助けする行為の犯罪として、幇助犯というものがあります。

  1. (1)幇助犯とは

    刑法は正犯(犯罪の実行者)を手助けしたことについて幇助犯として処罰の対象にしています。犯罪の実行者だけでは犯罪遂行が不可能な場合でも、他者の手助けによってその犯罪行為が容易になることが多いことから、手助け行為も処罰の対象となっているのです。

  2. (2)幇助犯が成立する要件

    幇助犯が成立するための要件としては、以下の4つになります。

    1. ①幇助行為
    2. ②幇助の意思
    3. ③正犯の実行行為
    4. ④因果関係

    ①幇助行為
    幇助の行為というのは、正犯の実行行為を容易にする行為となります。刑法上は、「正犯を幇助した」としか規定されていないため、行為については裁判例などを参考にするしかありません。武器を渡す行為や施錠を解除したなどの積極的な手助け行為のほか、「なにもしない」という不作為、つまり積極的な行為をしないことについても幇助行為に該当するとされた裁判例もあります。

    ②幇助の意思
    幇助者の認識としては、正犯が行う特定の犯罪についてある程度概括的に認識、認容し、かつ、その実行を自分の行為によって容易にさせることを認識していれば幇助犯は成立しえます。これは、正犯が認識していなくても成立します。

    ③正犯の実行行為
    正犯の実行行為がなければ、幇助犯は成立しません。あくまで正犯の実行行為を手助けすることを処罰の対象としているからです。そのため、会社に侵入しやすいようセキュリティーを外して手助けしようとしていたとしても、実際に正犯が会社に侵入しなかったような場合は、犯罪は成立しません。

    ④因果関係
    因果関係は、正犯の犯罪実行を物理的または心理的に容易にすることです。

  3. (3)同僚の横領行為を見逃した行為について

    それでは、具体的にみていきましょう。たとえば、会社の同僚が横領行為をしており、それに気がついたけれども見逃してしまったという行為について、幇助犯になるのでしょうか。

    この場合の見逃すという行為は、不作為による幇助といいます。どのような行為を指すかというのは、裁判例(札幌高判平成12年3月16日判時1711号170頁)を参考にしますと、正犯者の犯罪を防止しなければならない義務のある者が、一定の作為(積極的な行動)によって正犯者の犯罪を防止することが可能であるのに、そのことを認識しながら、その行動をせず、これによって正犯者の犯罪の実行を容易にした場合に成立し、作為による幇助犯と同視できるとしています。

    具体例から考えてみますと、要するに、以下のような場合に幇助犯が成立するといえるでしょう。

    1. ①会社の中で同僚の横領行為を防止しなければならない立場にあった
    2. ②何か行動をすれば横領行為を止めることができた
    3. ③これら2つを分かっていながら、何もしなかった
    4. ④何もしないことによって、同僚の横領行為が容易にできるようになった

    他の社員の不正を見逃してはならないという義務があり、セキュリティーを強化する、管理職に相談するなど、行為を止めることができたにもかかわらず、それを知っていながら見逃したために、同僚は横領行為ができたという場合には、積極的に手助けをしたわけではなくても幇助犯として逮捕されたり、処罰されたりする可能性があるといえるのです。

  4. (4)教唆犯について

    幇助犯と似た犯罪行為に、教唆犯というものがあります。これは、正犯者が犯罪行為をするのをそそのかす行為について、犯罪の対象となるものです。

    たとえば、同僚がお金に困っていて、どうしようもないとき、「ちょっと手を出すしかないだろう」などと横領行為をすることを決意させてしまうような言動だけでも、成立してしまいます。

4、逮捕されてしまったらどうなる?

前項で見た通り犯罪行為であることから、幇助犯として逮捕されることもあります。典型的な例として、児童虐待における見ているだけの親も幇助犯として逮捕されることがあります。逮捕された場合は刑事手続きに従うこととなります。

逮捕されてから警察署などで取り調べを受けると、48時間以内に検察に送致するかどうかが決定されます。送致されてから検察官が取り調べなどをして24時間以内に勾留請求するかどうかを決定します。
この勾留請求が認められてしまうと10日間身柄拘束をされることになりますし、事案によってはさらに10日間の延長が認められることもあります。つまり起訴までに最大23日間身柄が拘束されてしまい、その間社会生活を送ることができなくなってしまうのです。
また、逮捕から勾留請求までの72時間は、家族は面会することができません。しかし、弁護士は面会することができます。

幇助犯で逮捕されるか不安な場合は、あらかじめ弁護士に相談して、逮捕されたあとどうすればよいのかアドバイスを受けておくことをおすすめします。逮捕されてしまった場合も、弁護士を依頼すれば、不起訴を目指して対応してくれます。

身柄を拘束されている間は、社会生活と断絶され、社会的な不利益が大きくなります。一刻も早く身柄を解放されるよう、早い段階から弁護士に相談しておくことが大事です。

5、まとめ

何もしない行為が、犯罪を手助けしたとして、幇助犯として逮捕される場合もあります。そのため、同僚の犯罪行為を見つけた場合は、しかるべきところに相談することをおすすめします。なお、すでに見逃してしまった場合は、弁護士に相談し、今後どうすればよいのかアドバイスを受けましょう。逮捕されてしまった場合も、不起訴などを目指して適切な対応をしてくれます。

横領行為の幇助になるのではないかとお困りの場合は、ベリーベスト大宮オフィスまでお気軽にご相談ください。大宮オフィスの弁護士が力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています