万引きして警備員を突き飛ばしたら事後強盗に!? 量刑や逮捕後の流れ
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平成30年6月、さいたま市内で事後強盗の疑いで少年が現行犯逮捕されました。書店内で万引きをした少年を呼び止めた店員に対し、暴行を加えたと報道されています。
万引きは、窃盗という犯罪です。有罪になれば10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。さらに、窃盗して逃亡しようとしたとき、誰かに対して暴力をふるったり突き飛ばしたりすると、冒頭の事件のように、事後強盗の罪に問われることになります。本コラムでは、事後強盗罪とはどのような罪なのかといった基本的な知識から、逮捕後の流れなどを中心に、大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、事後強盗とは
事後強盗罪は、前述のとおり窃盗をはたらいた者が、捕まらないようにするなどの目的を持って、暴行や脅迫を加えることで成立する犯罪です。刑法第238条で以下のとおり定められています。
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
まずは、どのような要件で成立するのかについて解説します。
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(1)窃盗をした者
事故強盗罪の主体は、窃盗犯人、すなわち、窃盗の実行に着手した者をいい、窃盗が未遂か既遂かは問われません。
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(2)暴行または脅迫
暴行とは、身体に向けられた不法な有形力の行使をいい、脅迫とは害悪の告知をいいます。わかりやすくいえば、暴行または脅迫とは、他人を殴ったり、脅すような言葉を告げたりすることです。これらは、被害者の反抗を抑圧するに足りるような程度でされることを必要とします。
また、当該暴行、脅迫が、窃盗の機会に、すなわち、財物の取得と密接な関連性を有すると認められる状況の下に行われることも必要です。たとえば、電車内ですりの現行犯として車掌に逮捕された犯人が、その約5分後に到着駅のホーム上で逃走を企て、車掌に暴行を加えた場合は、窃盗の機会に暴行がなされたと言えます(最決昭和34.3.23集13-3-391)。 -
(3)暴行、脅迫をした目的
事後強盗罪の成立には、行為の目的が必要です。具体的には、犯行後に窃盗したものを取り戻されるのを防止することや逮捕を免れること、罪証を隠滅するために、暴行や脅迫をした場合に、事後強盗罪が成立するのです。
2、事後強盗罪はどのような罪に問われるのか
事後強盗罪で有罪になったときは、どのような刑罰が科されるのでしょうか。
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(1)強盗罪と同じ
前述の事後強盗について定めた刑法第238条では、刑罰の年数などは記載されていません。しかし、「強盗として論ずる」と明示しています。したがって、刑法第236条に定められた強盗罪と同じく、5年以上の有期懲役に処されます。
先に暴行や脅迫をしてものを奪う行為と、取り返されないために暴行脅迫を加える行為は、行為の順番が異なるだけで、実質的な違法性は同じであると考えられているためです。窃盗罪は10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処することが規定されていることから、事後強盗罪が成立すると、窃盗罪に比べ、非常に重い量刑が科されることになるでしょう。 -
(2)未遂罪もある
なお、事後強盗罪には、未遂罪もあります。未遂と既遂の違いは、窃盗が達成しているかどうかで判断されます。
たとえば、留守中の家に忍び込み、金品を盗んだ状態で、帰宅した家人に見つかり、追いかけられたとします。このとき、捕まらないように、家人を突き飛ばしたりすると、事後強盗罪の要件に該当します。
しかし、留守中の家に忍び込み、まさに金品を盗もうとしたそのときに、家人が帰宅して追いかけられた、という場合、どのように扱われることになるのでしょうか。結論から言えば、この場合、窃盗自体は未遂なので、事故強盗未遂罪が成立し、事後強盗罪は未遂であっても罪に問われることになります。
たとえものが盗めなかったとしても、事後強盗未遂罪として有罪になれば、5年以上の有期懲役が科される可能性があるでしょう。ただし、刑法第43条本文によって、未遂の場合は、その刑が任意的に減軽される可能性があります。 -
(3)ケガを負ってしまえばさらに重くなる
逃げるために店員を突き飛ばし、店員がケガをしてしまった場合や最悪、死んでしまった場合、強盗致死傷罪が成立してしまう可能性があります。
強盗致死傷罪は、刑法第240条で定められている犯罪であり、強盗致傷罪の法定刑は、無期または6年以上の懲役、強盗致死罪の場合は、死刑または無期懲役が法定刑になります。
3、事後強盗の逮捕後の流れ
事後強盗罪の容疑で逮捕されたのち、どのような手続きが取られるのかについて解説します。
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(1)長期間身柄が拘束されるおそれがある
そもそも逮捕とは、被疑者の身体を強制的に拘束して留置施設に連れて行き留め置くことをいいます。逮捕の目的は、被疑者の逃亡を防ぐとともに、証拠の隠滅を防ぐことにあります。
事後強盗罪の容疑がかかっているときは、すでに暴力や脅迫によって逃亡を図ったり逮捕を逃れたりしようとしているため、逮捕される可能性が高いでしょう。
逮捕されると、警察官による取り調べを受けることになります。警察は、逮捕から48時間以内に検察官へ送致するかどうか判断します。送致を受けた検察官は、逮捕から72時間かつ送致から24時間以内に勾留請求を行うかどうかを決定します。
勾留とは、被疑者を刑事施設に拘束する処分です。勾留の措置が必要だと検察官が判断すると、裁判所に勾留請求が行われます。裁判所が勾留を認めた場合、事故強盗罪の場合、原則10日間、最長20日間もの間、身体が拘束され続けることになるでしょう。
最終的に、起訴するかどうかの判断は、勾留期間が終わるまでに検察官が行い、起訴されると刑事裁判が行われます。勾留されていた場合は、起訴された以降も身柄の拘束が続くため、保釈請求を行うケースが一般的です。なぜなら、裁判は月に1度程度の頻度で行われるため、判決が出るのは数か月も先になることが多く、さらに判決で有罪になったら、執行猶予がつかない限り、1度も帰宅できないまま刑務所に入ることとなってしまうためです。
ただし、事後強盗罪の容疑で罪に問われている場合、刑の減軽がされなければ執行猶予がつくことはありません。なぜなら、刑の全部の執行猶予は、前に禁錮以上の刑に処せられたことがない場合、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言い渡しを受けたときでなければつけられず、他方、事後強盗罪の法定刑は5年以上の懲役であるためです。保釈が認められれば、自宅から裁判に出廷することになります。 -
(2)弁護士の尽力が不可欠
事後強盗の罪を犯してしまったら、できるだけ早く弁護士に相談することを強くおすすめします。なぜなら、逮捕から勾留があるかどうかが決定するまでの非常に重要なカギを握る最長72時間は、弁護士以外の者が被疑者本人と接見することはできないためです。たとえご家族であっても、面会することや、電話などで直接話すこともできません。
まず、逮捕された場合、身体を解放してもらえるように、力を尽くす必要があります。逮捕された人が何か警察官などに働きかけることは、非常に難しいものです。弁護士を依頼していれば、早期に被害者との示談交渉を進めたり、取り調べにどう臨むべきかなどのアドバイスを受けたりすることができます。
弁護士への依頼は本人の法定代理人、保佐人や配偶者、直系の親族、兄弟姉妹でも本人でも可能です。本人は冷静さを欠いており、弁護士に依頼することを忘れていることもあります。こうした場合は、上述の者が弁護士を依頼することで、間接的に本人へ気持ちを伝えてもらうこともできるようになるのです。
依頼を受けた弁護士は、本人との接見を行うとともに、まずは、事件の被害者との示談成立を目指します。なぜなら、被害者との示談を成立させることで、捜査機関は被害者の処罰感情が和らいだり、損害が回復したと判断するためです。その結果、勾留や起訴を回避したり、仮に起訴されたとしても量刑面で本人に有利に評価されたりする可能性が出てきます。また、示談を成立させることで被害者の損害賠償も行うことになるため、事件後に民事的な責任を問われる可能性も回避できるでしょう。
被害者との示談は、できるだけ早いタイミングで成立させる必要があります。しかし、本人は逮捕勾留されているため、示談交渉することができません。加害者家族が示談を行うこと自体は可能ですが、加害者側とのかかわりを避け、被害者が示談に応じないケースがほとんどです。こうしたことから、第三者である弁護士が示談交渉することが推奨されるのです。
4、まとめ
万引きをしたあと、逃亡を図ったり盗ったものを取り返されるのを防いだりするためなどに、追ってきた人に暴行や脅迫を加えてしまうと、事後強盗罪が成立します。とっさに突き飛ばしただけ、殴っただけでも成立する可能性があるといえます。
場合によっては非常に重い罪が科されてしまう可能性がある犯罪です。罪を犯したご本人はもちろん、ご家族に至るまで、将来にわたる大きな影響を受けてしまうことになりかねません。最悪の事態を回避するためにも、弁護士による弁護活動と被害者との示談成立が必要不可欠です。
事後強盗罪を犯してしまった、ご家族が逮捕されてしまったときは、早急にベリーベスト大宮オフィスまでお気軽にご相談ください。刑事事件はスピード対応が必須です。大宮オフィスの弁護士が力を尽くします。
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