生活保護の不正受給がばれたらどうなる? 該当するケースと措置とは
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令和3年、埼玉県警大宮東署が生活保護費を不正受給した詐欺の疑いで、男性を逮捕したとの報道がありました。逮捕された男性は、さいたま市の福祉事務所に虚偽の内容の収入申告書を提出し、生活保護費として400万円近くをだまし取ったとされています。
生活が困窮している方は、生活保護費の支給を受けることによって、憲法が保障している最低限度の生活を営むことが可能になります。一方で、虚偽の申告書類を作成して、生活保護費を不正に受給したという事件もよく耳にするところです。もし、このような生活保護費の不正受給をしてしまい、ばれた場合にはどうなるのでしょうか。
今回は、生活保護費の不正受給が発覚した場合どうなるのか、返還や罰則などについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、生活保護の不正受給とは
生活保護の不正受給とは、具体的にどのような行為を指すのでしょうか。以下では、生活保護の不正受給の概要について説明します。
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(1)生活保護の不正受給の概要
生活保護法では、生活が困窮している方に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障する目的で、生活困窮の程度に応じて必要な保護を実施しています。これを「生活保護」といいます。
しかし、生活保護受給者のなかには、事実と異なる申請をするなど不正な手段によって生活保護の支給を受けようとする方がいます。このように不正な手段によって生活保護費を受け取ることを「生活保護の不正受給」といいます。
なお生活保護では、以下のような保護を受けることができます。- 日常生活費必要な費用(食費・被服費・光熱費など)
- アパートなどの家賃
- 義務教育を受けるために必要な学用品費
- 医療サービスの費用
- 介護サービスの費用
- 出産費用
- 就労に必要な技能の習得などにかかる費用
- 葬祭費用
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(2)生活保護の不正受給に該当する3つのケース
具体的にどのような行為が生活保護の不正受給にあたるのでしょうか。以下では、不正受給に該当する代表的なケースについて紹介します。
- ① 収入を偽って申告するケース
生活保護を受給するためには年収が一定額以下であることが必要です。
生活保護を受給することができる年収の額は、居住している地域、世帯人数、受給者の性質によって異なります。
生活保護が支給される年収以上の収入があるにもかかわらず、実態を隠して生活保護費を受給している場合には、不正受給になります。
- ② 資産を保有しているのに申告をしないケース
生活保護を受給するためには、保有している資産を売却するなどして生活費に充てることが必要になります。
不動産、車といった資産があるにもかかわらずそれを隠し、生活保護を受給している場合には、生活保護の不正受給になります。
- ③ 世帯員の構成に変化があったにもかかわらず申告をしていないケース
生活保護費の収入要件は、世帯構成に応じて決められます。そのため、世帯員の構成に変化があった場合には届け出る義務があります。
内縁の配偶者と同居を始めた、子どもが就職して独立したにもかかわらず届け出ていないなどの場合には、生活保護の不正受給になります。
- ① 収入を偽って申告するケース
2、ばれるとどうなる? 生活保護費の返還について
生活保護の不正受給がばれてしまった場合にはどうなるのでしょうか。以下では、生活保護費の不正受給がばれた場合における生活保護費の扱いについて説明します。
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(1)生活保護費の返還
生活保護は、生活困窮者が最低限度の生活を送るための給付であり、その費用は国民の税金から支出されることになります。そのため、生活保護の受給資格のない人に支払われた生活保護費は、返還をしなければなりません。
生活保護法63条では、被保護者に資力があるにもかかわらず、緊迫の事情があったことなどによって、生活保護費を支給した場合には、事後的に返還をしなければならないと定めています。
生活保護法63条は、事後的な生活保護費の調整規定となっていますが、以下のような場合にも適用されることになります。- 被保護者に不正手続きの意図があったことの立証が困難な場合
- 実施機関が被保護者に資力がないと誤認して生活保護決定をした場合
- 実施機関や被保護者が認識していない収入があることが事後的に判明した場合
このように生活保護費の返還が行われるのは、被保護者や実施機関の過失によって、不正受給がなされたケースといえます。
なお、生活保護費の返還額は、原則として全額の返還が求められることになりますが、全額を返金することによって被保護者の自立が著しく阻害されると認められる場合には、一部の返金とすることも可能です。 -
(2)費用等の徴収
過失による不正受給ではなく、被保護者による積極的な作為または不作為によって、生活保護の不正受給が行われた場合には、生活保護法78条に基づく、費用等の徴収が行われます。
費用等の徴収が行われる場合としては、以下のケース等が挙げられます。- 届け出または申告についての指示に従わなかった場合
- 届け出または申告にあたり、明らかに作為を加えたとき
- 実施機関の職員が説明を求めたにもかかわらず応じなかった場合、または虚偽の説明をした場合
費用等の徴収の場合には、生活保護費の返還のように一部の返還となることはなく、基本的には全額の返還を求められることになります。
また、支払われた生活保護費だけでなく、徴収額に4割を加算した金額が徴収されることもあります。
3、悪意性が高いと刑罰を受ける可能性もある
生活保護の不正受給に関して、不正受給を行った本人の悪質性が高い場合には、刑罰を受ける可能性もあります。
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(1)生活保護法違反
生活保護費の不正受給をした場合には、生活保護法違反となり、刑事罰を受ける可能性もあります。
不正受給に対しては、上記のように生活保護費の返還や徴収が行われることになりますが、不正な申告や届け出を繰り返していたり、生活保護費の返還や徴収に応じなかったりした場合には、悪質な不正受給と判断されます。
福祉事務所のケースワーカーによって不正受給が悪質と判断された場合には、刑事告訴がなされて、生活保護法85条による罰則が科されることになります。
生活保護法に違反した場合の罰則は、3年以下の懲役または100万円以下の罰金と定められています。 -
(2)刑法上の詐欺罪
生活保護を受給する際に虚偽の申告書を作成して提出した、または、世帯や収入に変更があったにもかかわらず変更の届け出をしなかったことによって不正に生活保護の支給を受けたなどの場合、刑法上の詐欺罪が成立する可能性があります。
生活保護法85条では、刑法の詐欺罪が成立する場合には、生活保護法違反ではなく、刑法の詐欺罪によって処罰されると規定されていますので、この場合には、詐欺罪が適用されることになります。
詐欺罪が成立した場合の罰則は、10年以下の懲役と定められています(刑法246条1項)。
4、弁護士に期待できること
生活保護の不正受給に関与してしまった場合には、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
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(1)刑事告訴を免れるための弁護活動
生活保護の不正受給で刑事告訴されるケースは、不正受給の事案のなかでも悪質なケースが中心となっています。
たとえば、ケースワーカーの指示に従わない、説明を求められても応じないといったケースでは、悪質性があると判断され刑事告訴される可能性があります。
そのため、生活保護の不正受給に関して刑事告訴を免れるためには、自ら生活保護費を返還し、ケースワーカーとの面談で誠実に対応することが大切です。
弁護士であれば、不正受給をしてしまった本人に代わって、福祉事務所との対応をすることも可能です。迅速かつ適切に不正受給の問題を解決するために、検討してみるのも一案です。 -
(2)有利な処分の獲得に向けたサポート
生活保護の不正受給によって刑事告訴をされてしまうと、悪質なケースについては、詐欺罪として逮捕起訴される可能性があります。
詐欺罪の法定刑は、10年以下の懲役とされており、罰金刑が含まれていません。だまし取った金額や期間などによっては、実刑となってしまう可能性もあります。
弁護士は、だまし取った生活保護費を迅速に返還することなどによって少しでも処分を軽くすることができるようにサポートします。逮捕・勾留といった身柄拘束の回避に向けたアドバイスも可能ですので、まずは早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
生活保護の不正受給をしてしまった場合、迅速な返還など、適切な対応をすることによって刑事告訴などの処分を回避できる可能性があります。全額を一括で返還することが難しい場合には、弁護士が間に入って分割払いによる返還を認めてもらうように交渉することも可能です。生活保護の不正受給でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスまでまずはご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています