強要されて万引きしてしまった場合、どのような罪になるのか
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埼玉県大宮西警察署が公表する「刑法犯認知件数(令和4年11月末累計)」によると、大宮西警察署で認知した全刑法犯587件のうち44件が万引き事件だったことが明らかにされています。
万引きを犯す理由の多くは物欲や金銭苦、あるいはスリルや病的な衝動などが考えられますが、なかには「盗んでこい」などと強要されて万引きを犯すケースもあります。特に未成年の間では、その年代に特有の人間関係から万引きを強いられて「仕方がなくやった」という状況が少なくありません。
他人に強要されて万引きをした場合でも、やはり罪を問われるのでしょうか? 本コラムでは強要されて万引きをしてしまった場合、他人に万引きを強要してしまった場合の責任について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、万引きは犯罪! 窃盗罪として厳しく処罰される
万引きくらいならばバレてしまっても、謝れば済む話だという印象を持っている方が一部いらっしゃるようです。しかし万引きはれっきとした犯罪です。
まずは、万引きで問われる罪や責任の重さを確認しておきましょう。
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(1)万引きは「窃盗罪」に問われる
実は、刑法をはじめとするどの法律をみても「万引き」という名称の犯罪は存在しません。
万引きとは、スーパーやコンビニなどの店頭に陳列されている商品を、代金を支払わずに盗む行為で、刑法第235条の「窃盗罪」が適用されます。
窃盗罪にあたる行為は、日常生活において、対象物や犯行の手段・方法などによってさまざまな名前が付けられています。たとえば、空き巣、すり、自転車泥棒なども窃盗罪にあたる行為です。 -
(2)窃盗罪が成立する要件
窃盗罪は「他人の財物を窃取する」ことで成立します。
「窃取」とは他人が占有している物を盗むことをいいます。
万引きは、「他人」である被害店舗の店長が占有している、商品という「財物」を盗む行為であり、まさに窃盗罪に当てはまる行為です。 -
(3)窃盗罪に科せられる刑罰
窃盗罪で有罪判決を受けると、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
もともと、窃盗罪の刑罰は懲役のみで、罰金の規定はありませんでした。物を盗むのは「お金がないからだ」という理屈から、罰金を科しても納付できず、刑罰として意味をなさないと考えられていたからです。
しかし、十分なお金を持っているのに習癖として万引きを犯してしまうケースが増加したこと、懲役のみでは検察官が起訴をためらう事案が増えたことなどを理由に、平成18年の改正で罰金の規定が追加されたという経緯があります。
2、万引きを強要した側・強要された側が問われる罪
上述したとおり、万引きは窃盗罪で処罰されます。では、他人に「万引きをしてこい」などと強要した側は責任を問われないのでしょうか。また、強要されて仕方なく万引きをした場合は、自分から進んで万引きをしていなくても処罰されてしまうのでしょうか?
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(1)強要した側も「教唆犯」になる
たとえ自分では万引きを実行していなくても、万引きをして来いと強要した側は「教唆(きょうさ)犯」として処罰される可能性があります。
教唆犯とは、刑法第61条に定められている共犯の一形態です。人をそそのかし、犯罪を実行させた者を指し、正犯、つまり犯罪を実行した人と同じ刑罰が科せられます。
犯罪の意思がない者をそそのかして実行させるのだから、直接犯罪の実行をしていなくとも犯人と同じく罪を問われるのは当然だという考え方です。万引きの強要のように、人間関係の優位などからまったく犯罪の意思がない者に犯罪の実行を強いたようなケースでは、正犯よりも教唆犯のほうが厳しい処分を受ける危険があるでしょう。
なお、教唆された方が万引きを実行したものの、商品をかばんにいれようとしたところで店員に発見されたなどの理由で未遂に終わった場合は、窃盗罪の未遂の教唆犯として罪を問われます。 -
(2)強要された側は「正犯」としての責任を問われる
たとえ強要を受けていたとしても、実際に万引きを実行した人の罪が成立しないわけではありません。教唆を受けて犯罪を実行した者に対する刑の減免制度は用意されていないので、正犯としての責任を問われることになります。
ただし、万引きを実行した側にどうしても抵抗できなかった事情があるなど、万引きを実行した状況によって、実際に科せられる刑罰の重さは変わりえます。
3、未成年は刑罰を受けない? 少年事件の流れ
万引きを犯す背景が多様化している現代では、成人・高齢者などによる犯行も少なくありません。
しかし、万引きは犯行手段が容易で動機も単純だとされる「初発型非行」に分類される犯罪です。埼玉県警が公表する「令和4年版少年非行白書」によると、令和3年中に万引き・自転車盗などの初発型非行で検挙・補導された少年は埼玉県内で383人にのぼります。初発型非行のうち万引きが占める割合は大きく、やはり万引きを犯してしまう少年は多いというのが現実です。
未成年の少年が万引き・万引きの強要をした場合はどうなるのでしょうか?
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(1)未成年が起こした事件は「少年事件」になる
令和4年4月1日から民法が改正され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
しかし「少年法」の定義では、20歳未満の者を「少年」とし、そのなかでも18歳以上の少年を「特定少年」として扱うことが明記されています。
少年が罪を犯した場合は「少年事件」として扱われます。
成人が罪を犯した場合は刑罰が科せられますが、少年の場合は更生を目的とした保護処分を受けることになるので、原則として刑罰の対象にはなりません。 -
(2)少年事件の基本的な流れ
少年事件と成人事件では、刑事手続きの流れが異なります。
少年事件の基本的な流れは次のとおりです。- 警察による捜査
少年が起こした場合でも、事件を担当するのは管轄の警察です。必要に応じて逮捕されることもあります。 - 検察官への送致
捜査を終えた警察は少年の身柄や書類を検察官へと送致します。検察官は、警察からの書類をもとに自身でも取り調べ・捜査を行います。逮捕を伴う事件では、逮捕を含め最長23日間にわたる身柄拘束を受け、社会から隔離されてしまうおそれがあります。 - 家庭裁判所への送致
検察官の捜査が終わると、すべての事件が家庭裁判所へと引き継がれます。
成人事件では検察官が起訴・不起訴を決定しますが、少年事件では少年の特性や少年事件の特徴に配慮した措置を決める必要があるため、家庭裁判所の判断に委ねるのがルールです。 - 処分の決定
家庭裁判所が必要と認めた場合は、成人の刑事裁判にあたる「少年審判」が開かれます。ここでは、少年の更生に必要な処分として、保護観察・更生施設への送致などの保護処分が下されます。これらの保護処分が必要ないと判断されれば不処分となります。また、少年審判を開く必要がないと判断されると「審判不開始」となるため、処分を受けずに済みます。
なお、家庭裁判所が保護処分ではなく成人と同じように刑罰を科すべきと判断した場合は、再び検察官へと送致されます。この手続きを「逆送」といい、逆送された事件は検察官によって起訴されるのが原則です。ただし、逆送の対象となるのは、16歳以上の少年のときに犯した故意の犯罪で被害者を死亡させた事件や、18歳以上の特定少年のときに犯した一定の重大犯罪に限られます。
窃盗罪はこれらの要件に該当しないので、逆送されることはありません。事件が処理されている間に20歳を迎えてしまうと成人事件として逆送されますが、誕生日が目前に差し迫っている状況で事件を起こしたといった状況でもない限り、年齢を理由として逆送される可能性は低いでしょう。 - 警察による捜査
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(3)万引きを強要した側・強要された側の少年事件での扱い
万引きを強要した側は「窃盗罪の教唆犯」として、強要されて万引きを犯した側は「窃盗罪の実行犯」として、それぞれ送致されます。
しかし、それぞれが同じ処分を受けるとは限りません。
そもそも、強要されなければ万引きを犯すことはなかったのだと判断されれば、窃盗罪の実行犯である強要を受けた側は、不処分・審判不開始で済まされる可能性があります。一方で、たとえ自分では犯行に加わっていなくても、万引きを強いた側のほうが厳しい処分を受ける事態も考えられるでしょう。
4、万引き事件や犯罪の強要トラブルを解決したいなら弁護士に相談を
万引き事件を起こしてしまった、強要されて万引きしてしまったなどの事態が起きてしまったら、弁護士に相談しましょう。
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(1)店舗側との示談交渉を一任できる
万引き事件を穏便なかたちで解決できる最善策は「店舗側との示談」です。迷惑をかけてしまった店舗に謝罪し、商品代金などの損害分を賠償することで、被害届を取り下げていただける場合もあります。
以前にも同じ店舗で万引きをしており店舗側から厳しく注意されたことがある、発覚していない分を含めて多数の余罪があるといったケースでもなければ、謝罪・賠償で穏便に解決できるケースも少なくありません。
ただし、小売店にとって万引き被害は極めて重大な問題です。多くの店舗が、外部から警備員を雇う、商品管理システムを強化するなど、万引き防止対策に労力とコストをかけているため、謝罪・賠償だけでは容易に済まされないこともあるでしょう。
加害者本人やその関係者が相手では、店舗側との示談交渉を受けいれてもらえないばかりか、まったく相手にされないおそれもあります。交渉の相手が弁護士になれば、店舗側が交渉を受けいれてくれる可能性が高まるので、穏便な解決が期待できます。 -
(2)過度に厳しい処分の回避が期待できる
強要されて万引きを犯したといったケースでは、犯罪を実行したのは自分自身でも、強要されなければ事件を起こすことはなかったはずです。「強要された」という理由で刑罰が免除されるわけではないにしろ、自分勝手な理由で犯行に及んだのではないので、処分の決定に際してそういった事情に配慮してほしいと望むのは当然でしょう。
しかし、警察・検察官・裁判官が加害者にとって有利な材料を汲んでくれるとは限りません。「言い逃れをしている」「他人のせいにして反省していない」など、不当な評価を受けてしまう危険もあります。
少年の主張が正しく認められない状況があるなら、弁護士の助けが必要です。弁護士が捜査機関や裁判官に証拠を示しながら客観的に説明することで、不起訴や執行猶予・罰金、少年事件における不処分や審判不開始といった有利な処分を得られる可能性が高まります。
事件の背景を無視して過度に厳しい処分が下される事態を避けたいなら、弁護士にサポートを求めましょう。
5、まとめ
万引きの強要は、強要されて実際に万引きを犯した側も、万引きを強要した側も、どちらも処罰の対象になりえます。万引きを強要された側は、「強要された」という理由だけで罪が不問になるわけではありません。他方、自分は万引きを実行していなかったとしても、強要して万引きさせた側も教唆犯として厳しく処分を受けるおそれがあります。
万引き等の犯罪に関与してしまいご不安をお抱えでしたら、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスにご相談ください。刑事事件、少年事件の解決実績を豊富に持つ弁護士が、穏便な解決に向けて全力でサポートします。
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