暴行容疑で逮捕されるケースとは? 刑罰と前科についての疑問を解決
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暴行罪というと、殴る蹴るなどの暴力をふるい、ケガをさせた結果、成立する犯罪だと考えている方も多いでしょう。しかし、相手がケガをしなくても、暴行罪が成立することをご存じでしょうか。たとえば、平成30年1月、埼玉県さいたま市にあるJR大宮駅で停車中の満員電車の中で、泣いている赤ちゃんの首を絞めた男は、赤ちゃんにケガがなかったものの、暴行容疑で逮捕されています。
刑事ドラマなどで、暴力をふるう犯人が逮捕されたり、裁判にかけられたりするシーンはよく見かけます。しかし、犯人が法律的にどのような立場に置かれているのかを気にしたことがある方はあまりいないでしょう。そのため、自分の家族が犯人となってしまったとき、どのように対応すれば良いのか分からず、法律相談に来られる方も多くいらっしゃいます。
今回は、「暴行罪」で逮捕される要件や刑罰などの基礎知識と、前科がつかないようにするために家族がすべきことについて、弁護士が解説します。
1、暴行罪とは?
暴行罪は、刑法208条によって「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」罰することが明示されています。
そもそも、ここで示す「暴行」とは、「人に向けた有形力の行使」と解釈されています。殴る蹴るといった行為に限らず、狭い室内で日本刀を振り回す行為、人の数歩手前を狙って石を投げる行為でも、「暴行」に該当します。つまり、単純な殴り合いのケンカはもちろん「暴行」に該当しますし、また、有形力が人の身体に接触しない場合でも、暴行罪に問われる可能性があるということです。
2、暴行罪と傷害罪との違い
刑法第208条で定められているとおり、暴行したものの、被害者がケガをしなかったときに暴行罪が成立します。つまり、ケガをさせてしまった場合には暴行罪が成立しないのです。この場合は、「傷害罪」が成立することになります。それぞれの違いを知っておきましょう。
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(1)傷害罪
「傷害罪」とは、刑法204条に規定されている犯罪です。「人の身体を傷害した」ら傷害罪になります。つまり、他人に有形力を行使してケガをさせたら傷害罪です。傷害罪で有罪になると、以下の範囲で刑罰を科されることになります。
- 15年以下の懲役(ちょうえき)
- 50万円以下の罰金(ばっきん)
なお、暴行行為によって相手が死亡してしまったときは、さらに罪が重い傷害致死罪(刑法205条)に問われ、3年以上の有期懲役が科されます。
さらに、もし殺意まであったなら、殺人罪(刑法199条)に問われ、死刑、無期もしくは5年以上の懲役が科されることになります。 -
(2)暴行罪
一方、暴行罪で有罪になると、以下の範囲から刑罰を科されることになります
- 2年以下の懲役(ちょうえき)
- 30万以下の罰金(ばっきん)
- 拘留(こうりゅう)
- 科料(かりょう)
なお、「拘留」とは、1日以上30日未満の期間、拘置所に収容されて身柄を拘束される刑です。「科料」は、1000円以上1万円未満の支払いを命じられる刑になります。
傷害罪よりも暴行罪の方が、軽い刑罰である「拘留」や「科料」から、重い刑罰である「懲役」まで、幅広い刑罰が定められています。
3、暴行罪で逮捕される可能性は?
前述のとおり、暴行をして被害者がケガをした場合には傷害罪となります。暴行罪と傷害罪を区別するのは、ケガという結果(これを「傷害の結果」といいます)が生じているか否かという点です。
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(1)「暴行罪」が成立する証拠とは?
相手がケガをしたときに成立する傷害罪の場合には、病院の診断書など、わかりやすい証拠が手に入ります。しかし、相手がケガをしないでも成立する暴行罪では、どのような根拠に基づいて逮捕しているのでしょうか。
もちろん、逮捕するためには証拠が必要です。暴行罪が成立する際の証拠は、目撃情報や防犯カメラの映像、スマホなどで撮影された写真・動画などが挙げられます。近年、防犯カメラの映像が鮮明になってきていることから、被害者が提出した被害届と、防犯カメラなどの映像証拠があれば、逮捕から逃れるのは難しくなるかもしれません。 -
(2)暴行容疑で「逮捕」されるケース
そもそも逮捕は、捜査のために身柄を拘束する強制処分の一種です。そして、刑事訴訟法では、その手順や必要性が厳密に定められています。基本的には、逮捕をするときは逮捕状がなければなりません。裁判官が発付した逮捕状を警察官が容疑者に示して逮捕します(「通常逮捕」と呼ばれています)。
しかし、目前で犯行がなされたときの特例として、逮捕状がなくても「現行犯逮捕」をすることが認められています。犯行が明らかであることから、警察官だけでなく一般人でも身柄を取り押さえて現行犯逮捕することが可能です。
逮捕後、以下に該当すると、長期拘束に至る可能性が高まります。- 住所不定、無職、身元を保証する人物がいないとき
- 前科がある、複数人で犯行に及んだ、暴力行為に武器や道具を使用したなど、悪質と判断されたとき
- 犯行を否認している
- 捜査に協力しない
一方、身元引受人がいて、犯人の身元・勤務先などが明確で、素直に罪を認めているなど、逃亡・証拠隠滅の可能性が低いと判断されれば、身柄拘束が解かれることもあるでしょう。ただし、釈放後も、「在宅事件扱い」として、検察の呼び出しに応じ、捜査を受けるケースは多々あります。釈放されたからといって、起訴されないと決まったわけではないという点には注意が必要です。
4、暴行罪の時効は?
「暴行」すると、加害者には法的な責任が発生します。加害者が負うことになる責任には、刑事責任と民事責任があります。法律上、それぞれ異なる事項が定められています。
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(1)暴行の刑事責任
「刑事責任」とは、刑法に違反した者として刑罰を受けなければならない法的な地位のことをいいます。ただし、刑事責任は、刑罰に処されない限り、一生消えない……ということはありません。「公訴時効」という制度があり、犯罪が終了してから一定の期間が経過すると、検察官は、裁判官に罪を裁いてもらうため刑事裁判にかける「起訴」ができなくなります。
公訴時効の期間は犯罪ごとに異なり、「暴行罪」のみの場合は、暴行行為が終わったときから3年間と定められています。ただし、海外にいる場合、その海外にいる期間は公訴時効の進行が停止します。 -
(2)暴行の民事責任
民事責任とは、暴行行為によって生ずる損害賠償責任です。被害者から慰謝料を請求されれば、支払う必要があります。
民事責任の時効期間は、被害者が損害および加害者を知ったときから3年です。
5、「前科がつく」とは?
前科とは、有罪判決を受けたことがある経歴のことです。つまり、起訴され、有罪にならなければ前科はつきません。そして、起訴するか不起訴にするかを決める権限を持つ職業が検察官です。
今後の将来にかかわる可能性が高い、「前科」の意味などについて知っておきましょう。
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(1)逮捕されたら、必ず有罪判決を受ける?
家族が暴力行為によって逮捕されても、必ず起訴されるとは限りません。
起訴するかどうかを決めるのが検察官の仕事ですが、さまざまな観点から検討し、たとえ罪を犯したことが明らかであっても、起訴する必要がないと判断されれば、「不起訴」になることがあります。不起訴になれば、前科はつきません。
検察官は、適格な証拠があり、有罪判決が得られる高度の見込みがある場合に限って起訴しています。そして、現在の日本では、起訴されれば約99%が有罪判決になると言われています。つまり、検察官に起訴されるかどうかが、前科がつくかどうかの実際上の別れ目になります。 -
(2)「前科」と「前歴」の違いは?
「前科」は、前述のとおり、裁判で有罪判決を受けた経歴を指します。履歴書などで求められたら、記載しなければなりませんし、隠せば虚偽として問題になることもあります。そのほかにも、前科がついたら取れない資格や、就けない職業があったり、入国できない国があったりします。
一方、「前歴」は、警察や検察などの捜査記録を指します。この記録は、警察や検察のデータベースに残ることになります。ただし、特に履歴書などで明らかにする必要はありません。前科と前歴のもっとも大きな違いは、「有罪判決を受けたかどうか」です。
もし、暴行で警察のお世話になり、微罪処分として帰宅した……という出来事があったとしたら、その記録は警察に残っています。それが「前歴」です。その後、同様の事件を何度も起こせば、警察は前歴をもとに「常習」と判断するなど、起訴・不起訴や量刑を決める材料とすることもあります。 -
(3)懲役刑で刑務所に行かなければ前科がつかない?
懲役だけが刑罰ではありません。「科料」、「拘留」、「罰金」も、有罪判決が下されなければ科されない刑罰です。また、「懲役1年、執行猶予3年」といった執行猶予付き判決も、有罪判決であることに変わりませんから、前科が付きます。
また、略式手続で終わった場合も、前科が付きます。略式手続というのは、100万円以下の罰金刑を受け入れる場合に、法廷まで行かずに罰金刑を下してもらえるという簡易的な制度です。これも有罪として罰金刑をもらいますから、前科が付くことになります。
つまり、刑務所に行く判決が下されなくても、有罪判決が下されれば「前科」がつくことになるのです。
6、暴行行為で不起訴となるためにできること
前述のとおり、暴行容疑で逮捕されたとしても、起訴されるとは限りません。どうすれば起訴を回避できるのでしょうか。
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(1)不起訴にあたって考慮される事情
検察官が不起訴にするときに、考慮する事情は状況によって異なります。一般的には、次のような事情が検討されます。
- 暴行行為の内容・程度
- 凶器を用いているかどうか
- 被害者の処罰感情の程度
- 暴力行為の動機、原因
- 前科・前歴の有無、内容
- 身元引受人や勤務先が明らかか
- 真剣に反省しているか
- 示談は成立しているか
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(2)示談成立の重要性
検察官は、被害者の処罰感情を非常に重視します。示談が成立しているかどうかによって、起訴するか不起訴にするかが決まることがあります。示談が重視される理由は、次の点にあります。
- 被害者が示談金を受け取ったことから、被害が金銭的に回復している
- 事件にもっとも利害関係のある被害者が、処罰を望んでいない
- 自分の起こした事件を放置せず、示談という形で一応の始末をつけた
示談交渉では、被害者に示談金を支払うかわりに、「もう処罰を求めません」という意見を被害者から明らかにしてもらうための交渉を行います。示談書を作成して、示談金の受け取りが完了していることや、処罰しなくてよい、寛大な処分を求めるなどの「宥恕(ゆうじょ)項目」を盛り込み、署名、押印の後に検察官に提出することになります。
7、暴行罪の示談を弁護士に依頼したほうがよい理由
示談とは、民事上の紛争を、民事裁判の形ではなく、当事者による合意という形で解決することをいいます。示談交渉を行う人物も、法律で規定されているわけではありません。つまり、暴行した本人はもちろん、その家族や友人、職場の上司などが、直接示談交渉をすることそのものが禁止されている訳ではありません。
しかし、連絡先を教えてもらえないなどして、そもそも示談の話し合いが始められなかったり、あるいは口封じをしにきたと誤解されたりすると、かえって不利な立場になりかねません。多くの被害者が、暴行をした加害者本人やその近親者に対して、恐怖心を持つものです。また、被害者側の怒りの感情が先立って、冷静な話し合いが難しいことも少なくないのです。
きちんと交渉の窓口を開いてもらい、冷静かつ迅速にお話し合いを進めるためには、示談交渉の専門家である弁護士に依頼することがベストです。その理由は、次のとおりです。
- 弁護士なら、警察、検察を通じて、被害者の連絡先を教えてもらえることがある
- 被害者からの信頼を得やすく、円滑に話し合いが進む
- 示談金の相場をよく知っているので、不当な要求に毅然(きぜん)と対応できる
- 素早く示談書の作成ができ、最短で示談書を検察官に提出できる
- 短期間で示談を成功させ、不起訴処分や早期釈放の可能性が高まる
できるだけ早いタイミングで、示談が成立すれば、早期釈放や起訴の回避などができる可能性が高まります。個人で交渉し、結果長引いたり不利な立場になってしまったりするよりかは、早期に弁護士に依頼したほうが、大きなメリットを得ることができるでしょう。
8、まとめ
家族が暴行容疑で逮捕された……と聞けば、誰しも、戸惑いや驚き、もしくは怒りや落胆など、さまざまな感情に襲われ、心労がピークを迎えてしまうことでしょう。本人の将来や身柄がどうなるのかを心配してしまうのは、家族として当然のことです。本人が反省しているのであれば、なおさら、心配している気持ちを伝え、ぜひ本人の心の支えになってあげてください。
家族ができることとして、まずは、早期に弁護士を探して、依頼することが挙げられます。依頼が早ければ早いほど、メリットは大きいものです。事態の早期解決に向けて、示談交渉や捜査機関への働きかけなどを早期に着手できますし、前科がついてしまうことも回避できる可能性が高まるでしょう。
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