親が勝手に婚姻届を提出? 不受理届などについて弁護士が解説!

2021年09月13日
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親が勝手に婚姻届を提出? 不受理届などについて弁護士が解説!

政府の統計を見ると、晩婚化が進むだけでなく結婚をしないという選択をする方も増えているようです。このような状況の中で、本人よりも親のほうが婚活に熱心に取り組むケースが報道されるようになりました。

しかし、本人を差し置いて親同士が盛り上がってしまい、本人の知らぬ間に婚姻届が出されてしまったら、どうなってしまうのでしょうか。

本コラムでは、勝手に出された婚姻届は有効なのか、戸籍を元に戻すためにはどのような対処をすべきなのかについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、原則、本人の承諾なしに婚姻届は出せない

結婚する際に婚姻届が必要になることは誰もが知っているでしょうが、届け出さえしてしまえば、本人の意思とは関係なく結婚届は有効になってしまうのでしょうか?

ここでは、婚姻届と本人の意思との関係について説明します。

  1. (1)結婚には本人の意思が必要

    結婚は日本国憲法第24条第1項において、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」すると定めているように、本人の意思が必要です。

    また、民法742条第1項において、「人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき」は、無効になるとしています。したがって、本人の意思が伴わない婚姻は無効となります。

  2. (2)形式と意思

    結婚は、民法第739条第1項に定めるように、戸籍法で定められた形式にのっとり届け出ることによって効力を発揮します。しかし、実質的に夫婦として過ごす意思がない場合では、その婚姻は無効となります

    たとえば、何らかの事情で形式的に夫婦関係を偽装する必要があり、婚姻届を出すことに同意していた場合でも、実質的に夫婦になる意思がなかったケースではその有効性を否定されています。(最高裁昭和44年10月31日判決)

    なお、婚姻届を提出した時点では婚姻の意思はなくとも、その後夫婦として生活を営む意志が双方に発生した場合は、追認したものと考えられて婚姻は有効となります

    このように、本人に結婚の意志がない場合は、婚姻届を勝手に出されていても、婚姻は無効となります。

2、勝手な婚姻届を防ぐ不受理届とは

前述したように、本人の意思に基づかない婚姻は無効となります。しかし、いくら無効になるとはいえ、知らない間に婚姻届を勝手に出されてしまってはたまったものではありません。

そこでここでは、そのような届出を勝手に出されることを防ぐ「不受理届」について説明していきます。

  1. (1)不受理届とは

    戸籍法第27条の2第3項において、本人の意思に基づかない届出が勝手に提出されて、戸籍に登録されることを防ぐ制度です。
    これを出しておけば、結婚だけでなく、本人の意思に基づかない一方的な離婚や養子縁組などを未然に防ぐことができます。

  2. (2)不受理届の提出方法

    自治体の担当窓口に本人が出頭し、不受理の申し出をします。不受理申出書と、本人確認ができる書類が必要になりますが、具体的な必要書類については提出先の市区町村役場に問い合わせるといいでしょう。

  3. (3)不受理届の注意点

    不受理届は一度受理されると、有効期限がありません。したがって、不受理の申出が不要となった場合には、不受理の取り下げの申出書を提出する必要があります。

    婚姻届など重要な届け出を勝手に出される危険性があるときは、トラブルを未然に防ぐためにも、事前に不受理届を本籍地や所在地の自治体窓口に提出しておくことをおすすめします。

3、勝手に婚姻届を出されていたら?

不受理届が間に合えばいいのですが、その前に、すでに勝手に婚姻届を出されていた場合はどうすればいいでしょうか。

原則本人の意思がない婚姻届の提出がされても、婚姻は無効になると解説しました。しかし、届け出がされているにもかかわらずそのまま放置しておけば、本人が認めたとみなされてしまい、婚姻が有効となってしまう可能性があります(法律上「追認」と呼ばれます)

婚姻が有効になってしまうと、遺産相続などそのほかの状況下でもトラブルが起こる可能性が出てくるため、すでに婚姻届が出されていた場合は、婚姻が無効であることを確認して、戸籍を元に戻す必要があります。

そこでここでは、婚姻の無効を確認する手続きについて説明していきます。

  1. (1)婚姻無効確認調停

    婚姻無効確認調停とは、勝手に届出を出した人物を相手取り婚姻が無効であると確認する話し合いをする手続きです。

    家庭裁判所で婚姻無効確認調停を申し立て、話し合いで婚姻が無効であると確認され、その合意が適切だと判断された場合は、審判がされます。その後、審判書謄本と確定証明書を市区町村役場に持参すると、婚姻の無効が確認され、戸籍が元に戻ります。

  2. (2)婚姻無効確認訴訟

    婚姻無効確認調停を申し立てても、相手が婚姻の無効を認めない可能性があります。また、相手の連絡先がわからない、もしくは連絡をしていても無視されてしまい、調停が成立しないケースもあるでしょう。

    その場合は、家庭裁判所で婚姻無効確認訴訟を提起することになります。訴訟手続きでは相手が裁判に応じない場合でも、判決を得て婚姻届を無効にする手続きを進めることができます

    婚姻が無効であるとの判決が出た場合は、判決書謄本と確定証明書を合わせて市区町村役場に提出すると、婚姻の無効が確認されて戸籍が元に戻ります。

4、弁護士に相談すべき?

勝手に婚姻届を出されそうになった場合、不受理届も、婚姻無効確認調停・訴訟も本人が手続きをすることができます。しかし、状況によっては、弁護士に相談して手続きを進めたほうがよいでしょう。

  1. (1)犯罪に対して適切に対応できる

    勝手に婚姻届を出すことは、以下の犯罪に該当します

    ● 有印私文書偽造等罪、行使罪
    婚姻届を偽造することは、刑法第159条に規定されている「有印私文書偽造等罪」に該当します。また、偽造した婚姻届を区役所に提出する行為は「偽造有印私文書等行使罪」に該当します。

    いずれも3か月以上5年以下の懲役刑となります。

    ● 電磁的公正証書原本不実記録等罪
    虚偽の婚姻届を提出することは、区役所の担当者をだまし、誤った戸籍の書き換えをさせる行為は、刑法第157条第1項に規定される「電磁的公正証書原本不実記録等罪」に該当します。

    有罪になれば、5年以下の懲役または50万円以下の罰金刑が科されます。

    ● ストーカー規制法違反
    婚姻届を勝手に出すだけではなく、つきまとい行為などが付随している場合には「ストーカー規制法」に基づき、相手に接近禁止命令を出してもらえる可能性があります。

    これらの犯罪を適正に罰し、今後の再犯を防止するためにも、ひとりで対応するのではなく、弁護士が付いていたほうが心強いでしょう。警察に届け出る際にも対応がスムーズになると考えられます。

  2. (2)民事上の損害に対する賠償請求

    婚姻届を勝手に出されたことに対して、不法行為に基づく損害賠償請求、精神的苦痛に対する慰謝料請求を行うことも考えられます。しかし、相手と直接交渉をすることは危険が伴いますし、心身ともに負担が大きくなることが考えられます。

    しかし、弁護士が代理人となって交渉をすすめられれば、あなたが直接対応する必要がなくなります弁護士を介することによって、相手も自分の行為について真摯に反省し、交渉がスムーズにすすむ可能性が出てくるでしょう

    弁護士ならば、示談書の作成や、適切な内容で相手と交渉することが可能です。交渉が困難になりそうなときや、そのほかのトラブルを誘発しそうなときは、弁護士に交渉をお任せください。法的に適切な対応を行い、あなたの身に降りかかったトラブルを解決に導きます。

5、まとめ

婚姻届を勝手に出された場合、どのようなケースであれば婚姻が無効になるのか、また、無効であった場合でも戸籍を元に戻すためにはどのような手続きが必要となるのかもあわせて紹介しました。

勝手に婚姻届を出されることなどあり得ないと通常では考えるところですが、ライフスタイルの多様化が進んだ現代では、どのようなことが起きるかわかりません。親の親切心で勝手に婚姻届を出されても困りますが、相手がストーカーであったり、国際犯罪に巻き込まれたりする危険性がないとは言い切れないのです。

婚姻届を勝手に出されていたら、まずは弁護士にお気軽にご相談ください。状況をお伺いし、どのように対処すべきかアドバイスします。ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでは、知見が豊富な弁護士が真剣にお話を伺い、トラブルを解決に導けるよう力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています