電車の事故は賠償しなくてはならない? 実際の事例と基本的な考え方

2021年05月13日
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電車の事故は賠償しなくてはならない? 実際の事例と基本的な考え方

新型コロナウイルスによる経済的なダメージは大きく、残念ながら倒産する会社や自殺する人も増えています。埼玉県内やその近郊で人身事故が起き、自分が利用している電車の遅延や停止で、影響を受けたという経験はみなさんにもあるのではないでしょうか。

こうした電車の事故が起きたとき、その損害は誰が負担するのでしょうか。鉄道会社は、遺族や関係者に損害の賠償を求めるのでしょうか。本記事では、電車で事故が生じた場合の賠償責任について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士がご説明します。

1、電車の事故が発生……賠償責任は?

  1. (1)電車事故による損害とは

    電車の事故が起きると、接触した車両が停止し、その前後の運行にも大きな影響が出ます。接触の程度によっては、車両が破損するなどして運行ができなくなる場合もあります。乗客への影響も大きく、実際に電車事故による遅延に巻き込まれて、予定に遅れた経験がある方も少なくないでしょう。

    電車事故による損害賠償の費目としては次のようなものがあげられます。

    • 事故による対応にかかった鉄道会社の人件費
    • 他の運送事業者への振替輸送費
    • 車両が損傷した場合には車両修理費
    • 現場の清掃費


    それぞれの損害額の大きさは、運行の乱れが続いた時間の長さ、振替輸送を余儀なくされた利用者の数、車両の損傷の程度などによって左右され、通勤時間帯の事故や、利用者の多い沿線や駅で事故が起きた場合は、損害賠償金額も大きくなる傾向にあります。一方、早朝や深夜で、利用客の少ない沿線ならば、損害賠償金額も比較的小さくなります。

  2. (2)誰が賠償責任を負う?

    鉄道会社に責任がない電車事故が起きて損害が発生した場合、誰が損害賠償責任を負うことになるのかについて解説します。

    ① 事故を起こした本人
    電車事故が起きた場合、事故を起こした本人に故意や過失があるならば、鉄道会社は、事故を起こした本人に対して損害の賠償を求めることができます。

    ② 遺族
    電車事故が飛び込みによる場合、本人が生きていれば本人に対して請求します。しかし、このようなケースでは、本人は他界されていることが多いでしょう。

    こうした場合、故人の相続人となる遺族が損害賠償の責任を相続します。したがって、鉄道会社は、事故を起こした人の相続人を調査し、損害賠償請求を行うことを検討します

    ③ 認知症患者の場合
    認知症の患者が事故を起こした場合は家族が賠償責任を負う可能性があります。この点については、重要な裁判例がありますのでご紹介しておきます。

    平成19年12月7日、認知症患者である男性が線路に立ち入り、列車にはねられて死亡するという事故が起きました。そして、列車を運行していたJR東海は、この男性と同居していた当時85歳の妻と別居していた長男に対し、損害賠償を請求する訴訟を起こしたのです。

    妻と長男には、認知症の家族を監督する義務があったにもかかわらず、2人がその義務を怠ったために事故が起きた、だから家族が損害を賠償せよ、という理屈です。この事件は高齢化を迎えた日本の社会問題として大きく報道され、注目を集めました。

    第1審は、介護を担っていた妻および長男の責任を認めましたが、最高裁では妻と長男2人の責任をいずれも否定し、JR東海は完全敗訴という結果で終わりました。妻自身が要介護1の認定を受けており、要介護4であった夫の介護も長男の妻の補助を受けて行っていたこと、長男は本件事故まで20年以上も事故を起こした父親と同居しておらず、事故直前の時期においても1か月に3回程度週末に訪ねていたにすぎないということから2人とも監督の責任を負っていたとは言えないとされました。

    具体的には、どのような場合に監督責任が認められるのかは今後の判断の蓄積が待たれるところではありますが、介護を担う家族は、本人が徘徊などによって事故を起こさないようにしっかりと見守るべきだという点を覚えておきましょう。

2、相続放棄による解決

  1. (1)相続放棄とは

    電車の人身事故で家族が死亡した場合、遺族は衝撃を受けるとともに悲嘆に暮れるでしょう。しかし、そのようなときであっても、鉄道会社は遺族に対して賠償責任を求めてくる場合があります。

    この場合、遺族は、相続放棄によって損害賠償責任を免れることができます

    相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がないようにするために行う、法的な手続きのことを言います。具体的には、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、相続放棄の申述を申し立てます。裁判所に備え付けられた申述書面を使うこともできますし、裁判所のホームページからダウンロードすることもできます。

  2. (2)相続放棄の注意点

    相続放棄とは、故人のマイナスの財産だけでなく、プラスの財産も全て相続しないという手続きです。したがって、いったん手続きをすると、故人の遺産に手を付けることはできません。本人が生前に所有していた預貯金や不動産などについて、相続人としての権利を主張することは一切できなくなるのです。

    したがって、鉄道会社からの賠償請求額が、遺産の総額を下回るときには、相続放棄をすると損をする可能性がありますので注意しましょう。

    なお、相続放棄の申述は、被相続人が亡くなったという事実、およびそれによって相続人自身が相続人となった事実を知ったときから3か月以内に行う必要があります。この期間を過ぎてしまうと、原則として相続放棄は認められません。

    3か月はあっという間に過ぎてしまいますし、鉄道会社からの賠償請求は、事故から3か月以上たってから行われることもあります。相続を放棄した方がいいのか判断ができない場合、相続放棄の期間を伸長してもらうように裁判所に求めることを検討しましょう。

    この伸長の申し立ても、3か月を過ぎるとできなくなってしまいますので、電車の人身事故で家族が死亡した場合は、早めに弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

3、子どものいたずらで電車の運行を止めた場合は?

  1. (1)置き石をしたら賠償責任が待っている

    電車事故の中には、子どもの置き石による事故もあります。中でも、昭和55年に起きた京阪電車置き石列車脱線転覆事件は、当時中学生であった少年らがレール上に置き石をしたために列車が転覆し、車両が民家に突っ込むなどした結果、負傷者が104名にも及ぶ大事故となりました。

    少年たちは列車を転覆させようとしたわけではなく、ただ置き石をすれば列車が火花をあげて石を跳ね飛ばすだろうと予想し、その様子を見ようとしてレール上に石を置いたのです。しかし、中学生ともなれば、レール上に石を置けば列車に大きな危険を及ぼすこと、転覆によって負傷者が出る可能性について予測することができるはずです。置き石は、決していたずらとして許されるものではないのです。

    被害に遭った鉄道会社は、現場にいた5名の少年とその親に対して、損害賠償請求を行いました。このうち4名とその親については、鉄道会社と示談を行い、それぞれ840万円を支払っています。

  2. (2)置き石をしなかった少年の責任は?

    しかし、自分では置き石をしなかった少年だけは、鉄道会社からの賠償請求を拒否しました。そこで、鉄道会社は少年とその保護者を相手取って、損害賠償請求訴訟を提起したのです。

    裁判所は、少年が、現場で仲間たちとの置き石に関する話をしていた点、そして、その直後に他の少年たちが実際にレール上に石を置くのを見ていたこと等を理由に、責任を認める判断をしました。現場を見ていた以上、自ら置き石を取り除いて列車事故を防ぐべきだったのに、それをしなかった以上、他の少年と同様に責任を負うとされたのです(京阪電車置き石列車脱線転覆事件・上告審昭和62年1月22日最高裁判決・事件番号昭60(オ)322号)。

  3. (3)親の責任はどうなる?

    少年による事件となると、その親の責任も気になります。子ども自身には経済力がないため、実際のところ、親が支払うべき法的責任があるかどうかが重要なポイントになるからです。実際、上記の置き石事件の裁判でも、少年だけでなく親の責任も争点となりました。

    子どもが事故を起こした場合に親の責任が認められるのは、

    • 子ども自身に責任能力がない場合
    • 子ども自身に責任能力があるが、親が親権者としての監督責任を果たしていない場合


    のいずれかです

    責任能力とは、その行為の責任を弁識するに足るべき知能のことです。子どもの責任能力は、おおむね11歳前後で認められるものとされていますが、責任能力は個別の事案ごとで判断されるので、11歳前後でも責任能力が認められない可能性はあります。

    置き石事件で最高裁まで責任を争った少年の年齢は14歳でした。この事件では、少年自身には責任能力があるとされたため、親が賠償責任を負うのは、親自身が親権者としての監督責任を果たしていなかった場合に限られます。

    この点について、裁判所は、少年の普段の生活に非行などの問題がなく、親も子どもの面倒をそれなりにきちんと見ていたことから、親が監督責任を果たしていなかったとは言えないとして、親の賠償責任を否定しました。

4、踏切事故の場合はどうなるのか

踏切事故とは、踏切において、列車が踏切を横断する人や車両と衝突する事故のことです。列車が通過する際に、踏切を無理に横断しようとして列車に接触するケースや、自動車が踏切上で動けなくなり、通過する列車と衝突してしまうケースなどがあります。この場合も、列車の運行を妨げたことによる損害は、事故を起こしたことに故意過失がある場合は、その者が賠償しなければなりません。

急いでいるからといって遮断機を無理に超えるようなことは厳に慎むべきです。仮に接触したら、命の危険はもちろん、多額の賠償責任を負うリスクがあります。自分のためにも家族のためにも、踏切はくれぐれも注意して渡るようにしましょう。

5、まとめ

本記事では、電車事故に関する賠償責任について説明しました。人身事故は、自動車だけでなく電車でも起きる可能性があり、本人はもちろん、家族や鉄道の利用者にも大きな影響を与えます。

万が一家族が事故を起こしてしまった場合には、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスで早めに相談されることをおすすめします。法的な面でのアドバイスや訴訟などの対応を通じて、あなたのサポートを行います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています