スポーツ中の怪我と損害賠償責任はどうなる? 法的責任について解説

2020年02月12日
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スポーツ中の怪我と損害賠償責任はどうなる? 法的責任について解説

平成30年5月、大宮を本拠地とするプロサッカーチーム「大宮アルディージャ」所属の菊地選手が、試合中に左足腓骨骨折をし、全治3か月の診断を受けたという報道がありました。しかし令和元年のシーズンでは、25試合出場と無事回復し、再びの活躍を見せてくれました。

選手の怪我は、ファンにとっても残念で心配なことです。しかし、体の接触が伴うスポーツの世界において怪我はつきものでしょう。それは、プロの試合に限らず、アマチュアのそれであっても変わりありません。

スポーツ中の怪我はある意味つきものだとしても、法律上どのように処理されるのか、ご存じでしょうか。本コラムでは、スポーツ中の怪我と損害賠償責任の関係について、基本的な考え方や法的責任の概要を、大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、スポーツ中の怪我で発生する責任とは

  1. (1)スポーツの特殊性

    スポーツはその性質上、怪我がつきものです。冒頭でご紹介したサッカーだけでなく、ラグビーや野球、バスケットボールなどでも、だれひとりかすり傷ひとつ負わずに真剣勝負をすることは難しいともいえます。ボクシングや相撲など、そもそも、選手同士のぶつかり合いこそが技能であり醍醐味といわれるスポーツも少なくありません。競技者は、一定程度の怪我を負う危険があることを理解してスポーツに参加しているといえます。

    そのため、原則としては、スポーツ中の怪我については、法的な責任を問われにくいところです。しかし、「スポーツだから何でもアリ」というわけではありません。事故の内容によっては、刑事、民事の責任に問われる可能性も十分あるのです。

  2. (2)刑事責任

    故意または過失によって相手に怪我をさせてしまった場合、傷害罪などの罪に問われることがあります。ライバル選手に怪我をさせてやろうと思い、又は、必要もないのにあえて危険な行為をしたような場合は、これに当てはまります。

    近年問題となった、アメリカンフットボール部選手による悪質タックル問題などは、その一例と言えます。

  3. (3)民事責任

    スポーツでの怪我については、次のような民事責任が発生する可能性があります。

    ●不法行為に基づく損害賠償責任(民法第709条)
    故意または過失によって他人に怪我をさせた場合、加害者は、被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負います。
    加害者が成年の場合、多くは加害者本人が責任を負います。他方、未成年者の場合は、その未成年者が法律上の責任を負えるかどうかが問われます(責任能力・民法第712条)。責任能力があると判断されれば、未成年者であっても損害賠償責任を果たさなければなりません。責任能力がない場合には、その未成年者の保護者が責任を負う可能性があります(民法第714条)。

    また、安全に配慮し指導すべき監督やコーチの行き過ぎた指導や、明らかに不適切な指示によって事故が発生した場合、その監督やコーチにも責任が認められる可能性があります。

    ●使用者責任(民法第715条)
    従業員が不法行為を行った場合に、その従業員の雇い主も被害者に対する損害賠償責任を負うことがあります。たとえば、監督やコーチの指導不足が原因で生徒が怪我をしてしまった場合に、監督やコーチの雇い主であるテニスクラブも責任を問われる可能性があります。

    ●土地工作物責任(民法第717条)
    施設や設備の不具合が放置されているなど、施設の管理不備により事故が起きた場合、施設の管理者も責任を負う場合があります。
    ただし、施設の管理義務を怠った事実と、結果との因果関係が必要です。

2、スポーツ中の怪我における責任の判断基準

スポーツ中の怪我では、加害者にどの程度の故意、もしくは過失があったのかを個別に判断することになります。
明文化されているわけではありませんが、ルールを守っていたか、自身の行為が怪我につながることをどの程度予測できたか、といった点が判断基準のひとつとなるでしょう。

  1. (1)ルールを守っていたかどうか

    加害者がルールを守ってプレイしていたか否かは、加害者の過失を判断する一要素になります。プレーヤーは、ルールを守っていてもある程度の怪我が発生すると想定してプレイをしています。しかし、ルールを無視した行為はその想定の範囲外です。その行為によって誰かが怪我をした場合は、損害賠償請求の対象となりえます。
    なお、ルールを守って競技をしていても、別の要素を加味した結果、注意義務違反などの過失が認められることがあります。

  2. (2)怪我の発生への予見可能性

    自分の行為がどのような結果を生じさせるかを認識していたかどうかも重要です。たとえば、野球でわざとボールをぶつけてデッドボールをする行為は、ぶつけた相手に怪我をさせる危険が高い行為と言えます。ルールの範囲内か(上記(1)参照)という観点で見ても、プレーヤーは、故意にデッドボールを投げられるということまでは許容していないとも言い得るでしょう。

3、判例等

具体的に、スポーツ中の怪我に関連する判例等を見てみましょう。

●スキー場の衝突事故で過失が認められた事例(最高裁判所判決平成7年3月10日)
スキー場で上方から滑走してきたスキーヤーが下方を滑走中のスキーヤーに衝突し、上方から滑走してきたスキーヤーの過失が認められた事例です。上方から滑走してきたスキーヤーは、一般的なスキー場のルールに違反してはいなかったものの、「前方を注視し下方を滑走するスキーヤーとの衝突を回避する義務」を怠ったとされました。

●コーチではなく練習生に責任があると判断された事例(横浜地方裁判所平成10年2月25日判決)
テニス教室での練習中にコート脇で待機していたところ、他の練習生が打ったボールが顔面に当たり負傷した事例です。

この事件では、コーチが「安全な場所での待機を指示する義務」を怠ったのではないかと争われました。しかし、練習生が初心者や児童ではなく、練習内容について十分認識しているはずの最上位クラスの生徒だったことから、待機場所における判断は自己責任であるとされ、コーチの注意義務違反が否定されました。

このようにスポーツ中の怪我については、スポーツごとのルールや危険性の違い、個々の競技者のレベル、状況などによって判断が大きく異なることになります。

4、スポーツ中のトラブルは弁護士に相談を!

スポーツ中に怪我をさせてしまった場合、被害者から治療費や慰謝料などを請求される可能性もあります。逆にあなたが怪我を負ったときは、慰謝料請求ができる可能性も考えられます。

当人同士での話し合いでは、どの要素が問題になるのかわからず適切な結論を出せなかったり、責任を互いに認められず感情的になってうまく解決できなかったりすることも多いものです。

そこで、トラブルの長期化を回避し、早期解決に導くためには弁護士に相談することが最善策といえるでしょう。弁護士であれば、怪我が損害賠償請求の対象になるのかを法的観点からアドバイスしてもらうことができます。また、示談交渉によって損害賠償金の調整や、もし裁判になったとしても、心強い代理人として対応します。

5、まとめ

今回はスポーツ中の怪我と損害賠償責任について解説しました。

スポーツ中の怪我は、法的責任が問われにくいという特性があるものの、全てのケースで加害者の責任が否定されるわけではありません。スポーツ事故の損害賠償請求についてお悩みの方は、弁護士へ相談されるとよいでしょう。責任の所在や過失割合は個々の事情によって判断されるものであり、どのケースで責任が問われるのかは一概にいえるものではないからです。

弁護士がいれば、被害者との交渉によって適切な結果へと導けるよう力を尽くします。ベリーベスト法律事務所大宮オフィスでもご相談をお受けします。スポーツ中の怪我でお困りであれば、ぜひご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています