アルバイト店員が起こした不祥事に対して損害賠償を請求する方法は?
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アルバイトが起こした不祥事に対し、損害賠償請求をしたいと考えたことがある経営者の方は、意外と多いのではないでしょうか。以前、大手飲食チェーン店において、店舗のアルバイト店員が不適切行為する動画をSNSサイトに投稿したことで大きなニュースとなりました。不適切動画の投稿により、同社は株価が大幅に値下がりするという大きな損失を被ったのです。
同社本部は、そのアルバイト店員を解雇するとともに、法的措置の準備に入ったことを公表しました。その後、不適切動画を投稿したアルバイト店員は、偽計業務妨害容疑で書類送致されたことが報道されています。
アルバイト店員の行為によって企業に大きな損害が発生した場合、企業側はどのような対応ができるのでしょうか。その方法や、損害賠償請求をできる場合とできない場合、さらに考えうるリスクについて、大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、アルバイト店員による不祥事
近年、「バイトテロ」とも呼ばれる、アルバイト店員による不適切動画の投稿が大きな話題を呼びました。本来行ってはならない、不衛生な行為や非常識な行為を撮影した動画は、ネット上に瞬く間に拡散されてしまいます。動画の多くは、行為者の顔や店舗の様子が映っていることから、どこの店舗で行われたのか判明してしまいます。その結果、当該店舗やチェーン店全体で客離れが起こるなどして、企業側にとっては大きな損害を被ることになり得るのです。
アルバイトによる不祥事は、企業側に以下のような損害をもたらす可能性があります。
- ブランドイメージ低下による客離れ、株価の暴落
- クレーム対応や問い合わせ増加にとられる時間的・人的コスト
- アルバイトが行った不適切行為により汚染された機器などの清掃、処分、交換などの費用
- 対応期間中の休業
こうしたことから、企業側としてもアルバイト店員を解雇するだけでは済まない事態に陥る可能性があるのです。場合によっては、不適切行為をしたアルバイト店員への法的措置を検討する必要があります。
2、アルバイト店員の不祥事に対する刑事責任
アルバイト店員が起こした不適切な行為は、内容によっては刑法上の犯罪に該当する可能性があります。また、企業側も責任を問われる可能性があることを知っておく必要があるでしょう。
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(1)不適切行為をした者に成立し得る犯罪
たとえば、アルバイト店員が、日常的に一度廃棄した食材を拾って提供していたかのように見える動画を公開したとします。この場合、実際はそのような行為をしたことがなかったとしても、その動画を見た人は信じてしまうことがあります。その結果、企業側が大きな損害を被る可能性は否定できません。
このようなとき、不適切行為をした者には、以下のような犯罪が成立し得ます。
●業務妨害罪(刑法第233条後段)
虚偽の事実を広めたりすることで業務を妨害することで成立する犯罪
●器物損壊罪(刑法第261条)
他人の持ち物などを壊したり、汚染させたりしたときに成立する犯罪
なお、業務妨害罪は、実際に損害が発生していなくても、犯罪が成立します。そのため、不適切動画を投稿した時点で犯罪が成立してしまう可能性もあるのです。
また、器物破損罪は、物理的に壊れていなくても、もう業務用として使えないと判断される状態に陥れば成立する可能性があります。たとえば、実際に皿や調理器具を割ったりしていなくても、汚物を載せて使用していたかのような動画が拡散されれば、再利用は難しく、処分せざるを得ません。その場合、物を壊されたときと同じ器物損壊罪が成立するのです。 -
(2)企業側が問われる可能性がある責任
企業側は被害者だと思われるかもしれませんが、場合によっては店舗運営者としての責任を問われてしまうことがあります。
たとえば、もしアルバイトが汚染していた食材をお客さまに提供していた場合、食品衛生法違反として店舗の責任者や経営陣が処罰を受けることになる可能性があるでしょう。また、顧客の個人情報をアルバイトが漏えいした場合、管理者としての責任を問われることになります。
3、アルバイト店員に対する損害賠償請求
不適切な行動により、企業に損害を出したアルバイト店員に対して損害賠償請求をしたいと考えたとき、どのように検討していくべきかについて解説します。
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(1)法的責任の有無を確認する
損害賠償請求を行うためには根拠が必要です。相手の行為によって店舗が損害を受けたという根拠がなければ、損害賠償請求を行っても賠償してもらうことは難しいでしょう。
アルバイトに対して損害賠償請求を行いたいのであれば、以下2点のいずれかに該当するかどうか確認しておく必要があります。
●不法行為に基づく損害賠償請求
違法な行為を、わざとあるいは誤って行ったことによって、他人(法人を含みます)に損害が発生したとき、その損害を賠償する責任が生じるというものです(民法709条)。
●契約の債務不履行に基づく損害賠償請求
お店とアルバイト店員との間で結んだ雇用契約の内容に反したことを根拠に行う損害賠償請求です。こちらも民法上の権利(同415条)です。契約書の内容が、重要な要素のひとつになってきます。
また、不適切行為をした本人だけでなく、その事実の公開などを手伝った撮影者や公開者に対しても損害賠償請求を行える可能性もあります。
理屈上誰を相手取ることが可能なのか、また、誰を相手取るのがベストなのかという点も含めて、弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)損害賠償請求の現実的な結末を考える
損害賠償請求を企業側からアルバイト店員に対して行うこと自体は、もちろん可能です。しかし、前述のとおり、損害賠償責任について裁判所が判断するにあたり、請求の法的根拠はもちろん、その証拠も求められます。
また、使用者(企業側)と労働者の経済力の差や、労働者の活動から利益を得るからには使用者もリスクも負うべきという報償責任の原理から、労働者が負う責任は一定の範囲に制限されるのが一般的です。
さらに、アルバイト店員に現実的に資力がなければ、損害を一括で回収することは難しくなります。
したがって、実際に受けた損害の全額を労働者から支払ってもらえるケースは非常に少ないと考えられます。 -
(3)損害賠償を請求することによるリスク
損害賠償請求ができる場合であっても、「刑事事件として警察に届け出るが、損害賠償請求はしない」という企業は少なくありません。それは、損害賠償請求をすることに一定のリスクがあると考えられるからです。
考えられるリスクはいくつかあります。
アルバイト店員に対して損害賠償請求をしたことがメディアに報道されてしまうと、“アルバイト店員の教育もできない企業“というイメージを与えかねません。つまり、企業ブランドを傷つけてしまうリスクがあります。
さらには、雇用している他のアルバイト店員が、「何かミスを犯してしまったら裁判を起こされてしまうのではないか」と萎縮した結果、辞めてしまうという可能性が考えられます。この場合、求人をしても応募が減ってしまうことも考えられます。これらのリスクは人材不足が社会問題となっている中、企業にとっては損害賠償請求以上の大きな損害につながりかねません。
これらのことから、損害賠償請求を行うとしても、慎重な行動が必要になる場合もあります。万が一の場合は、早急に弁護士に相談し、対処方法を検討してみることをおすすめします。
4、親に対する損害賠償請求は可能か?
アルバイト店員は、高校生や大学生であることが少なくありません。そこで、アルバイト店員本人が未成年であるなどから、損害賠償金を現実的に支払えない場合、その保護者に支払ってもらいたいとお考えの方は少なくないようです。
結論から言えば、アルバイト店員の親など保護者に対して直接損害賠償請求をすることはまずできません。なぜなら、親の監督責任は、民法714条に規定されているとおり、あくまで子どもが責任無能力の場合に限られるからです。ここにいう「責任無能力」とは、生じた結果が違法なものとして法律上非難されるものであることを弁識する能力がないことをいいます(裁判例には、小学生ほどの年齢であっても責任能力を肯定した事例もあります)。
したがって、アルバイトができる年齢であり実際に働いていた以上、ほとんどの場合には責任能力はあることが前提とされ、親の監督責任は認められないのです。
もっとも、アルバイトの雇用契約を結ぶにあたり、親や保護者を保証人として設定したうえで契約する場合があります。保証人契約を結んでいる場合であれば、保証人に対して損害賠償請求を行える可能性があるでしょう。
なお、上記のようないわゆる「身元保証」の契約は、一定の要件を満たさなければ、そもそも無効であると判断されることもある点には注意が必要です。
5、まとめ
近年多発するアルバイト店員による不適切動画は、企業に大きなダメージを与えうるものであることは、皆さまご存じのとおりです。しかし、いざそのような事態になった場合、企業がとるべき行動は、具体的なケースによってさまざまであり、一律に論ずることはできません。
万が一、アルバイト店員による不適切行動によって損害を被ったときは、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスにお気軽にご相談ください。状況に適したアドバイスを行うとともに、大宮オフィスの弁護士が問題解決のため、力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています