看護休暇とは? 法律上の規定と会社が対応すべきことを弁護士が解説
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「令和2年度埼玉県就労実態調査報告書」では、「仕事と生活の両立支援について」調査していて、主に育児や介護の支援制度についての統計が公表されています。仕事と育児を両立するための制度のなかに、「子の看護休暇」という制度があることをご存じでしょうか。
「看護休暇」は、小学校就学前の子どもを養育する労働者に認められている法定休暇です。令和3年1月1日には介護・育児休業法の改正法が施行され、労働者がより柔軟に看護休暇を取得できるようになりました。そのため企業の経営者や担当者は、「看護休暇」について理解を深め、法改正にも対応していかなければならないといえます。
本コラムでは、「看護休暇」について、法律上の規定や会社が対応すべきことをベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説していきます。
1、看護休暇に関する法律の規定
看護休暇は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」とします)で規定される法定休暇です。
育児・介護休業法では、看護休暇について次のように規定しています。
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(1)看護休暇の申し出
育児・介護休業法第16条の2には、「小学校就学前の子どもを養育する労働者は、事業主に申し出ることによって子の看護休暇を取得することができる」旨が規定されています。
取得できる限度は、年度ごとに5日間(2人以上の小学校就学前の子どもがいるときでは10日間)となっています。年度は、特に定めをしなければ、毎年4月1日から翌年3月31日までになります。
なお、看護休暇を取得できるのは、負傷したり病気にかかったりした子どもの世話をするときや、病気の予防のために必要な予防接種・健診を受けるときです。 -
(2)事業主の義務など
育児・介護休業法第16条の3では、労働者から看護休暇取得の申し出があったときには、原則として事業主は拒むことができないことが規定されています。
しかし、「事業主に継続雇用された期間が6か月未満の労働者」、「1週間の所定労働日数が2日以下の労働者」については、労使協定を締結しておけば、看護休暇の取得を拒否することはできます。
また子どもの看護休暇を時間単位で取得することが難しい業務に従事する労働者については、労使協定を締結していれば、時間単位の取得の申し出を拒否することができます。もっともこの場合でも、1日単位での看護休暇取得の申し出に対しては、拒むことはできません。
2、看護休暇制度の内容
経営者や担当者は、看護休暇制度の具体的な内容についても、正確に理解しておく必要があります。
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(1)対象者
看護休暇制度を利用できるのは、小学校就学前の子どもを養育するすべての労働者(日雇いを除く)です。
改正法施行前は、1日あたりの所定労働時間が4時間以下の労働者は対象から除外されていました。現在は就学前の子どもを養育しているほぼすべての労働者が対象になったため、アルバイトやパート社員はもちろん、もちろん、期間の定めのある社員であっても、看護休暇を取得する権利があります。
ただし労使協定を締結すれば、先ほどご説明したように「継続雇用期間が6か月未満」または「1週間の所定労働日数が2日以下」の労働者については取得を拒否することもできます。 -
(2)休暇中の賃金
看護休暇は、年次有給休暇と違って、休暇中の賃金については法律の定めがありません。したがって企業側が、有給か無給かを決めることができます。
ただし、労働基準法によって、就業規則には、看護休暇中の賃金についての記載を必ずしなければならないとされています。 -
(3)取得の方法
看護休暇は、労働者が事業主に申し出ることで取得できます。子どもの急な熱や怪我など緊急性の高い場面で利用される休暇であるため、企業側は、当日の電話で申し出る方法などでも認める必要があります。書面の提出を必要とした場合でも、後日提出することで足りるとする対応を検討したほうがよいでしょう。
また事業主は、労働者に対して、看護休暇の取得原因の事実を証明する書類の提出を求めることが認められています。たとえば医師の診断書などがあげられますが、診断書の作成は自費で作成することになるケースがほとんどです。そのため、購入した薬のレシートによって確認するなど柔軟に対応していくことが求められています。 -
(4)取得単位
令和3年1月1日に施行された改正法によって、看護休暇は時間単位での取得も認められるようになりました。したがって事業主は、労働者が「1日単位」または「1時間単位」で取得できるようにしなければなりません。
時間単位の取得は、基本的に始業の時刻から連続した時間、または就業時間の途中から終業の時間まで連続した時間で取得することをいいます。
なお、必ずしも「中抜け」(就業時間の途中から休暇を取得して就業時間の途中に戻ること)を認めなければならない、ということではありません。
3、看護休暇制度について会社で対応すべきこととは
看護休暇は法律で定められた休暇であり、会社としても従業員が仕事と子育てを両立できるように制度を整備・定着させていく必要があります。
会社は次のような対応が求められていると考えてよいでしょう。
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(1)就業規則に記載する
育児・介護休業、看護休暇や介護休暇などについては、労働基準法によって就業規則に記載しなければならないとされる事項があります。
そのため会社としては、看護休暇に関して必要な事項を就業規則に記載して、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
なお育児・介護休業法によって定められた制度は、労働者としての最低限の権利を定めたものです。したがって会社には労働者に法律の規定より上回る権利を与える努力が求められており、法律の規定を下回る条件で設けた内容は無効になると解されています。就業規則を作成する際は注意が必要です。 -
(2)必要に応じて労使協定で対象者を除外する
看護休暇を希望する者が「継続雇用期間が6か月未満の労働者」と「1週間の所定労働日数が2日以下の労働者」の場合、労使協定があれば看護休暇の取得を拒否できます。なお、「時間単位で子の看護休暇を取得することが困難な業務に従事する労働者」について、時間単位の看護休暇取得の対象者から除外するときにも、労使協定の締結が求められることを知っておきましょう。
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(3)不利益取り扱いの禁止に注意する
看護休暇の取得を申し出たことを理由に、昇進や昇格の人事考課の検討材料とするなど、看護休暇を求めた労働者に対し、不利益になる取り扱いをすることは許されません。
不利益な取り扱いの例としては、解雇や降格、契約更新をしないこと、昇進や昇格の人事考課で不利益になる評価をすることなどがあげられます。もっとも看護休暇の期間中の給与について企業が無給と定めることは、不利益取り扱いにはあたらず問題ありません。
4、お悩みの際には顧問弁護士に相談を
従業員が仕事と育児・介護を両立できる環境づくりを行うことは、企業の急務です。しかし法務部を持たない会社などでは、看護休暇や介護休暇などの休暇制度を整備したり、法改正に対応し続けたりしようと思えば、大きな負担になる可能性があります。
そういった悩みは、弁護士と顧問契約をすることで解消できる可能性があります。顧問契約をした場合のメリットには、次のようなものがあります。
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(1)法律問題を気軽に聞くことができる
弁護士は法律を熟知しているので、相談することによって的確な回答を得ることができます。顧問弁護士であれば、信頼関係を継続して築きあげられるので、会社の状況を熟知したうえでの回答が期待できます。また、「このようなことを聞いてもいいのか」と迷うことなく気軽にご相談いただけることでしょう。
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(2)法律を遵守した制度設計ができる
法律は改正されることも多く、常に最新の法知識をもって社内の制度を整備することは、難しい部分があります。顧問弁護士がいれば、法律を遵守した制度設計ができるので、労働トラブルを未然に防ぎ、社会的な信頼も得られる可能性があります。
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(3)不利な契約をするリスクを回避できる
顧問弁護士は、契約書のチェックができます。そして企業にとって入れたほうがよい条項などがあればアドバイスし、不利な内容やトラブルに発展しそうな条項を指摘することも可能です。
契約は、その内容によってはトラブルに発展することも少なくないため、締結前にチェックが受けられることは、会社にとって大きなメリットになることでしょう。 -
(4)従業員や取引先とのトラブルも相談できる
企業では、従業員や取引先、顧客などとのトラブルが発生することも珍しいことではありません。そのような場合にも顧問弁護士であれば、社内の事情をふまえたうえで、トラブルの早期解決を図ることができます。
5、まとめ
看護休暇をはじめとする育児や介護などの制度の整備については、顧問弁護士に相談しながら進めたほうがよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、ご利用しやすい顧問弁護士サービスを展開しています。大宮オフィスでも、経営者や担当者の方とともに企業の成長に貢献できるよう弁護士が尽力しますので、お気軽にご相談ください。
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