相続人と連絡が取れなくて相続できない! とるべき対応を弁護士が解説

2020年02月05日
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相続人と連絡が取れなくて相続できない! とるべき対応を弁護士が解説

遺産相続と聞くと、これまでに遺産相続を経験したことがない方にとっては、なにかとトラブルが多く面倒なもののように感じられるかもしれません。確かに、遺産分割は金銭的なことを話し合う上に人間関係が複雑に絡み合うため、親族間が不仲であれば手続きが円滑に進まないこともあります。

しかし、「意見が食い違って話し合いが進まない」というトラブルが生じても、それぞれの主張を調整することでいずれは解決できます。もっとも困るのは、ほかの相続人と連絡が取れないというケースでしょう。

警察庁の資料では、過去10年ものあいだ行方不明者届受理数は横ばいで、毎年一定数の行方不明者の届け出が行われています。県最大の歓楽街を持っている、大宮でも何らかの理由で行方不明になっている方がいるのではないでしょうか。そこで、ここでは遺産相続の際に、ほかの相続人と連絡が取れない場合の対処法について大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、相続に関する決まり

相続については、第5編「相続」として第882条から第1050条まで、相続人の範囲や分割割合の決め方など、詳細に定められています。

  1. (1)法定相続

    法定相続とは、民法に定められた相続人が規定されたとおりの割合で財産を相続する方法です。遺言書がない場合に基準となる相続方法です。具体的には、以下のとおり定められています。

    第900条(法定相続分)
    同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
    1. 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
    2. 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
    3. 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
    4. 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
  2. (2)遺言

    被相続人が有効な遺言書を作成することによって、法定相続人ではない者に遺産を与えたり、法定の割合とは異なる財産分配を行ったりすることができます。

    有効な遺言書が存在している限り、財産を所有していた故人が最期に遺した意思として尊重されるため、基本的には遺言書の内容に従うことになります。

    遺言書が存在しない場合は、民法の定めに従って法定相続が発生します。

  3. (3)遺産分割協議

    遺産の分割割合や誰がどの財産を相続するのかなどについてすべての相続人全員で話し合うことを遺産分割協議と言います。
    遺産分割方法が遺言書で指定されているような場合でなければ、遺産は一旦、相続人全員が共有する状態になります。このような状態を解消するためには、遺産分割協議を行わなければなりません。

2、遺産分割協議

遺産分割協議は、法定相続人の全員が遺産の分割割合等を協議することで成立します。では、具体的にどう進めるものなのかについて知っておきましょう。

  1. (1)協議の進め方

    協議といっても、必ずしも一堂に会して話し合う必要はありません。たとえば、法定相続人が遠方に点在しており集合することができないなどの場合は、電話で意見を取りまとめることも可能です。

    最終的には遺産分割協議で決まった内容を「遺産分割協議書」にまとめます。「遺産分割協議書」は、不動産の登記手続などに用いることになりますので、相続人全員が署名し、実印を押す必要があります。

  2. (2)遺産分割協議が無効になるケース

    遺産分割協議を行ったつもりであっても、協議内容が無効になるケースがあることに注意が必要です。遺産分割協議は法定相続人の「全員」が協議に参加する必要があり、1人でも協議に参加していなかった場合は無効になってしまいます。

    以下のような事情があっても、全員の同意が必ず必要になりますので、所定の手続きなしで協議を進めた場合は無効になります。

    • 遺産分割協議に参加してくれない者がいる。
    • 連絡を取っているが音沙汰がない者がいる。
    • 連絡先もわからない行方不明者がいる。


    また、法定相続人の存在を知らずに協議が進められてしまった場合も、「全員」という要件を満たしていないため無効になります。

    たとえば、故人と過去の配偶者とのあいだに実子がいた場合で、その事実を現在の配偶者が知らなないまま遺産分割協議を進めてしまった場合、その内容は無効になります。協議を始める前に故人の出生から死亡までの全戸籍を調べておかねばならないということです。万が一、「ほかに法定相続人はいない」と思い込み、相続を進めてしまったら、思いもよらぬ事態に陥ってしまう可能性があります。

3、ほかの相続人と連絡が取れない場合の対処法

前述のとおり、遺産分割協議を進めていくためには、まず法定相続人の全員と連絡を取り合う必要があります。ところが、実際には前述したようにほかの相続人と連絡が取れないケースが多々あるのです。そのような場合どうすべきなのか、対処法を解説します。

  1. (1)戸籍をたどって行方を捜す

    親族、知人などを頼って手を尽くしたとしても連絡が取れない相続人がいた場合、まずは住所地を特定することから始めましょう。

    被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得すると、すべての法定相続人の戸籍が明らかになり、連絡が取れない相続人の現在の本籍地もわかります。しかし、本籍地だけでは住所地はわかりませんので、住所地を調べたい相続人の本籍地を管轄する役所へ、戸籍謄本の「附票」を請求しましょう。附票には、その戸籍に記載されている人の住所地の履歴が記載されています。戸籍の附票に記載されている住所地は、住民票上の住所地になりますので、住民票の届け出がしっかりと行われていれば、相続人の居場所を特定することができます。

  2. (2)相続人への連絡方法

    住所地がわかった場合、いきなり家を訪問すると驚かせてしまうので、まずは書面を送って事情を説明するのが賢明でしょう。書面には自分の連絡先なども明記して、確認後の折り返しを待つことをお勧めします。

    連絡が取れない相続人には、何らかの事情があって居場所などを明かしていない可能性が考えられます。不用意に相手を刺激しないように注意を払って、スムーズに協議に参加してもらえるようにお願いしましょう。

  3. (3)弁護士に相談する

    ここまでで説明した「戸籍謄本からたどる方法」は、手間はかかりますが個人でもできる方法です。しかし、住所地がわかっても結局コンタクトが取れなかった場合には、弁護士に依頼して以下の方法をとることをおすすめします。

    ●不在者財産管理人の選任を申し立てる
    ある相続人について音信不通の状態が解消できなかった場合でも、その相続人のことを無視して遺産分割協議を進めることはできません。弁護士に依頼して、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てましょう。

    不在者財産管理人とは、行方不明になっている人の財産をその人に代わって管理するために家庭裁判所によって選任された者のことをいいます。不在者財産管理人は「不在者の財産を管理すること」が任務であって、遺産分割協議への参加は権限外の行為となってしまいます。

    そこで、不在者財産管理人が裁判所に「権限外行為の許可」を申請してこれが認められれば、相続人に代わって遺産分割協議に参加することが可能となります。

    ●失踪宣告の申立てをする
    不在者財産管理人は、相続人が生存していることを前提に取られる方法です。しかし、生死さえもわからないまま相当な時間が経過していたり、災害などに巻き込まれて死亡していることが予想されたりする場合には、「失踪宣告」の手続きを行うことで遺産分割協議を進めることも可能になります。

    失踪宣告の申立てをし、家庭裁判所がこれを認めた場合、失踪宣告を受けた者は死亡したものとみなされます。その場合は、協議に参加できる相続人のみで協議を進めることができます。

4、まとめ

遺産相続が発生した際に、連絡が取れない相続人がいて遺産分割協議が進まない場合の対処法について解説しました。当事者同士で力を合わせれば、なんとか連絡を取る方法もありますが、手間がかかるわりに徒労に終わる可能性もあります。弁護士に相談して対策を考えることが賢明でしょう。

弁護士ならば、戸籍をたどる手続きを代理で対応できます。また、相手が協議に応じない場合でも、弁護士からの依頼ということであれば素直に応じてくれる可能性があります。

ベリーベスト法律事務所大宮オフィスでは、遺産相続トラブルの知見が豊富な弁護士がサポートします。相続人と連絡が取れないことでお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています