相続人に伝わらなければ意味がない。遺言書の保管場所はどこが良い?

2019年07月24日
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相続人に伝わらなければ意味がない。遺言書の保管場所はどこが良い?

司法統計によると、さいたま家庭裁判所で平成29年に行われた遺言書の検認は889件ありました。検認とは、家庭裁判所が相続人に対して遺言書の存在や内容を知らせるとともに、遺言書を保全する手続きです。主に、自筆証書遺言や秘密証書遺言と呼ばれる形式で遺言書が遺されていたときに行われます。

相続対策で重要なのは、残された家族が争わない「円満な遺産分割」をすることです。相続にトラブルは付き物であり、仲のよかった家族でも相続が始まると遺産をめぐって修復不可能なくらいに関係が崩壊してしまうことは少なくありません。

そのような事態を防ぐために有効な方法の一つとして、遺言書を作成しておくことが挙げられます。遺産の分割について、遺言書は強い法的拘束力をもつため、原則としてあなたのご意思通りの円満な遺産分割が可能となります。

ただ、遺言を作成しようとしても、作成方法や保管場所などについて迷うことも出てくるでしょう。特にあなたが亡くなった後にご家族が遺言の保管場所を見つけることができなければ、せっかく遺言書を作成しても意味がありません。

そのような事態を防ぐために、遺言書の作成や保管場所について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。

1、まずは知っておきたい遺言書の種類

遺言書の方式は大別して「普通方式」と「特別方式」があります。

このうち、特別方式による遺言とは、災害などによる危急時や伝染病により隔離された場合などに用いられる遺言であり、民法第983条の定めにより遺言者が普通の方式による遺言が可能になったときから、6ヶ月生存すると無効になります。したがって、特別方式の遺言書は極めて特殊であり、もしあなたが今から作成するのであれば、通常は普通方式の遺言となります。

普通方式の遺言には「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」および「秘密証書遺言」があります。

  1. (1)自筆証書遺言

    自筆証書遺言では、遺言者が遺言書の全文と日付および氏名を手書きし、これに押印(指印でも有効とした判例もありますが、避けた方が良いでしょう)することで作成します。

    また、遺言書には「財産目録」を添付することが一般的です。財産目録については、2019年1月13日から、パソコンによる作成や遺言者以外の者による代筆、さらには預金通帳や不動産登記事項証明書のコピーなどを添付して作成することができるようになりました。ただし、財産目録の全ページにわたって遺言者の自筆による署名・押印を行うことが必要となります。

    自筆証書遺言は、弁護士等をいれずに作成されることが多いですが、法的知見を欠いて作成すると要件不備のため無効になる可能性があります。また、作成者が死亡し相続が発生すると、家庭裁判所が相続人に対して遺言書の存在や内容を知らせるとともに、遺言書の偽造・変造を防ぐため、遺言書を保全する「検認」という手続きが必要です。

  2. (2)公正証書遺言

    公正証書遺言の要件は以下のとおりです(民法第969条)。

    • 2人以上の証人が立ち会うこと。
    • 公証人が作成すること。
    • 公証人が、遺言者から口頭で伝えられた遺言の内容を筆記し、その内容を遺言者および証人に読み聞かせ、または閲覧させること。
    • 上記に間違いことを確認し、遺言者および証人が署名、押印すること。
    • 公証人が、同条の方式に従って作成された遺言書である旨を付記して、署名、押印すること。

    公証人とは、ある事実の存否や法律行為の適法性などについて証明・認証する権限をもつ、法務局所属の公務員です。
    公正証書遺言は自筆証書遺言と異なり不正がなされる可能性が格段に低い上、検認の手続きが不要というメリットがあります。

    ただし、遺言の存在や内容を公証人や証人に知らせる必要があることや、証人を確保しなければならないこと(公証役場で有料で紹介をしてもらうことも可能です)費用がかかることがデメリットとなりえます。

  3. (3)秘密証書遺言

    秘密証書遺言の要件は以下のとおりです(民法第970条)。

    • 遺言者が作成、署名、押印すること。
    • 遺言者自身が、作成した遺言を封じ、遺言書で用いた印鑑で封印すること。
    • その封書を公証人および2人の証人に提出し、自己の遺言であることおよび自己の住所氏名を申述すること。
    • 公証人が証書の提出日および上の申述内容を封紙に記載し、遺言者、公証人、証人のそれぞれが封筒に署名押印すること。

    このように、秘密証書遺言は、遺言の存在自体は記録されますが、誰にも遺言書の内容を知られずに作成することができます。ただし、公証人が遺言の内容を確認しないため、自筆証書遺言と同様に検認が必要となります。さらに、内容によって法的要件が満たされず遺言書が無効になる可能性があることや、公正証書遺言と同様に手続きが面倒で費用がかかるというデメリットもあります。

    そのため、自筆証書遺言や公正証書遺言に比べると秘密証書遺言はあまり活用されていないというのが現状です。

2、遺言書に書いておくべき法定遺言事項

遺言書の記載のうち、法的効力が及ぶ事項を「法定遺言事項」といいます。遺言書に記載しておくべき主な法定遺言事項について確認しておきましょう。

  1. (1)財産の処分に関すること

    • 第三者への遺贈(遺言で財産を分け与えること)
    • 社会に役立てるための寄付
    • 遺産によって一般財団法人を設立
    • 財産の保全、または収益の有効活用のための信託設定
    • 生命保険の死亡保険金受取人の変更
  2. (2)相続に関すること

    • 相続人ごとに相続させる財産の特定
    • 法定相続割合と異なる分割割合の指定
    • 相続人や受遺者(遺贈により財産を受け取る人)および遺産の分割割合の指定に関する第三者への委託
    • 遺産分割の禁止(ただし、5年まで)
    • 生前贈与や遺贈など特別受益に対する持戻し(すでにあげた財産について、相続財産に加算し相続割合を決定すること)の免除
    • 遺留分(相続人に対し民法で保証された最低限の取り分)の減殺方法の指定
    • 共同相続人間における担保責任の減免または加重
    • 遺言執行者(遺言書の内容を実現する人)の指定、または遺言執行者の指定に関する第三者への委託
  3. (3)身分に関すること

    • 子どもの認知
    • 法定相続人の廃除、またはその取り消し
    • 未成年後見人、または後見監督人の指定
  4. (4)その他

    • 葬儀や墓の管理など、祭祀(さいし)を主宰する人の指定

3、付言事項についても記載しておきましょう

遺言書には、法定遺言事項のほかに「付言事項」というものがあります。付言事項は遺言書本文の末尾に記載されることが一般的であり、主に相続財産を配分する理由や家族への感謝の気持ちなど「家族への最後のメッセージ」を記載します。

付言事項に法的拘束力はありません。しかし、残された家族が遺言者であるあなたの気持ちを知ることで、相続財産をめぐる不平不満やトラブルを防ぐ効果が期待できます。逆に、この付言事項が原因で親族間の紛争をあおってしまうこともありますので、記載内容には十分注意しましょう。

4、遺言書の種類別の保管場所

  1. (1)自筆証書遺言の保管場所

    自筆証書遺言の保管場所は基本的に遺言者の任意の場所であり、自宅に保管しているケースが多いようです。したがって、自筆証書遺言は紛失・偽造・変造のリスクがあるといえます。

    このデメリットを解決するため、平成30年に成立した「法務局における遺言書の保管等に関する法律」により、令和2年7月10日から自筆証書遺言を法務局が有償で保管する制度が開始されます。

    作成された自筆証書遺言を法務局が保管するわけですから、自筆証書遺言に紛失や改ざんなどが生じる危険性が大きく軽減されることになります。また、自筆証書遺言を保管する際に法務局の遺言書保管官が自筆証書遺言の外形的な形式を審査します。したがって、形式不備を理由に無効となる危険性も軽減されます。ただし、遺言の内容そのものの有効性について判断をしてもらえるわけではありません。

    さらに、法務局で保管されていた自筆証書遺言については、相続発生時の家庭裁判所による検認が不要になります。これにより、遺産分割までの期間が大きく短縮されることが期待されています。

  2. (2)公正証書遺言の保管場所

    公正証書遺言は、原本・正本・謄本が作成されます。
    このうち原本は公証役場で保管され、正本と謄本は遺言者本人で保管します。公証役場で原本を保管しているわけですから、紛失・偽造・変造の心配はないといってよいでしょう。

  3. (3)秘密証書遺言の保管場所

    秘密証書遺言は、公正証書遺言とは異なり、公証役場で保管されるわけではありません。自筆証書遺言と同様に、遺言者の任意の場所で保管されます。もっとも、自筆証書遺言と異なり、上述した法務局における保管制度の対象外ですので、法務局に保管をお願いすることはできません。

5、まとめ

相続に関する各種の法令や制度は、非常に複雑です。それらに定められた要件をクリアして、なおかつ相続人が争わないような遺言書を作成するには、相続業務全般について豊富な経験を持つ専門家からのアドバイスが不可欠です。

遺言書の作成については、弁護士があなたの心強いパートナーになります。弁護士であれば法的なアドバイスはもちろんのこと、作成した遺言書の保管を請け負うことが可能です。これにより、紛失や改ざんなどのリスクはなくなります。

さらに、弁護士は、遺言の執行者になることもできます。弁護士を遺言の執行者に指定しておけば、あなたが亡くなった後に生前のご意思どおりに遺産分割手続きなどを行い、相続人間のトラブルを防ぎ、相続に関する手間を軽減することが可能です。

ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでは相続に関する相談を承っております。また、状況に合わせて、税理士等と連携した対応が可能です。遺言書の作成をご検討であれば、まずはお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています