被害届と告訴状はどう違う? 弁護士が判断ポイントや効果を解説!
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さいたま市大宮区の犯罪率(人口千人あたりの犯罪の認知件数の割合)は、埼玉県内の市区町村のなかでもっとも深刻な数値を示しています。令和元年中の大宮区の犯罪率は16.6であり、県内全体の犯罪率7.6の2倍以上にのぼっています(埼玉県警:市区町村別犯罪率令和元年確定値)。
そのため日頃から犯罪に巻き込まれないように注意しておくことが大切ですが、たとえ注意していても不運にも犯罪被害に遭ってしまうこともあります。犯罪に遭遇したときには、被害者はどのような対応をとることができるのでしょうか?
本コラムは、被害に遭ってしまった方にむけて、被害届と告訴状の違いや判断ポイントなどをベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説していきます。
1、被害届と告訴状はどう違う?
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(1)被害届とは
「被害届」とは、被害者が犯罪被害にあった事実を捜査機関に申告する書類です。
最寄りの警察署や交番に行って相談すれば、備え付けの「被害届」に警察官が事情をききながら記入してくれることが多いでしょう。
基本的に被害届は被害者本人が提出するものですが、被害者本人がケガなどによって提出できない場合には親族が提出することもできますし、被害者から依頼を受けた弁護士が代理人として提出することもできます。なお「被害届」を受理したからといって、警察に法律上捜査義務が課せられるわけではありません。
簡単にいえば、被害届は単に事実を申告するにとどまる書類で、それ以上の法律上の効力を生じさせるものではないといえます。 -
(2)告訴状とは
告訴状とは、犯罪の被害者やその法定代理人、被害者死亡などの場合は一定の親族が捜査機関に犯罪事実を申告して“犯人の処罰を求める意思表示”を行う書類です。“犯人の処罰を求める意思表示”であるという点が重要なポイントです。
ちなみに告訴と混同しやすい制度に「告発」があります。告発は、被害者などの告訴権者と犯人以外の第三者が捜査機関に犯罪の事実を申告して“犯人の処罰を求める意思表示”を行う制度です。告訴(または告発)を受けたときには、捜査機関は捜査を開始しなければならないという法律上の効力が生じます。 -
(3)被害届と告訴状の大きな違い
被害届と告訴状の大きな違いは、受理した捜査機関に法律上の捜査義務が生じる書面かどうかという点にあるといえるでしょう。
単に犯罪事実を申告する「被害届」よりも、犯人の処罰を求める意思表示を含む「告訴状」の方が、結果として犯人に責任追及できる可能性が高くなります。しかし一方で、告訴状を受理すれば捜査機関に法律上の捜査義務が生じるので、「告訴状」は「被害届」よりも受理してもらうためのハードルが高くなります。
2、告訴状を選ぶ判断ポイント
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(1)捜査の開始・進行や起訴を促す必要があるかどうか
被害届と告訴状の大きな違いについては、ご理解いただけたと思います。ではどのようなケースで、被害届ではなく告訴状を選択すべきといえるのでしょうか。
判断ポイントとしては、警察に捜査に着手するよう促す必要があるときには、告訴状を選択した方が効果を得やすいといえます。また捜査機関が、事件性があるとしてすでに捜査しているときでも、告訴状が提出されると、捜査のさらなる進行と起訴を促すことが期待できます。
なぜなら告訴を受理した司法警察員(通常は巡査部長以上の警察官をいいます)は、書類と証拠物を速やかに検察官に送付しなければならないと刑事訴訟法で取り扱いが定められているためです。これによって、警察が事件を長時間保留しておいたり検察官に送致せずに事件を終わらせたりすることはできなくなります。
さらに、検察官は、起訴したか不起訴にしたかを告訴人に通知する義務を負います(刑事訴訟法260条、261条)。つまり告訴状を提出した方には、捜査結果の通知を受けることが権利として認められているということです。また告訴人には、検察官の不起訴処分に不服があるときには、検察審査会の審査を求める権利も認められています。 -
(2)親告罪に該当する犯罪かどうか
加害者の行為が親告罪に該当する犯罪であれば、告訴状を選択すべきです。
親告罪とは、被害者からの「告訴」がなければ、加害者の刑事責任を問うことができない犯罪をいいます。親告罪には、名誉毀損(きそん)罪、過失傷害罪、器物損壊罪、親族間の窃盗・詐欺・横領罪などが該当します(かつて、旧強制わいせつ罪や強制性交(旧強姦)罪は親告罪でしたが、平成29年に行われた刑法改正以降は非親告罪化しています)。
親告罪に該当する犯罪については、検察は、被害者からの告訴がなければ起訴することができないとされています。したがって親告罪に該当する犯罪の被害にあったときには、「被害届」でなく「告訴状」を選ぶ必要があります。
3、被害届・告訴状の注意点とは
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(1)親告罪の告訴期間には制限がある
親告罪の告訴期間は「犯人を知った日から6か月」とされています。この期間を経過してなされた告訴は無効になるので注意が必要です。
なお親告罪以外の犯罪の告訴や被害届の提出については、このような期間制限はありません。 -
(2)親告罪の告訴の取消は起訴まで
親告罪の被害者が告訴した場合でも、告訴が取り消されたときには、加害者は起訴されないという効果が生じます。そのため被害者と加害者のあいだで、告訴の取消を条件とした示談が行われることもあります。
しかし親告罪は、起訴後の告訴の取消は認められないので注意が必要です。また示談の成立を見込んで告訴を取り下げてしまったときに、示談がうまくいかなかったとしても、再告訴は認められていないことも注意する必要があります(刑訴法237条2項)。
一方被害届については、取り下げが行われたときでも加害者は起訴される可能性は残るという違いが生じます(ちなみに実務上は、被害届の取り下げによって釈放や不起訴になることは少なくありません)。また被害届を再提出することも認められています。 -
(3)告訴状には犯人の処罰を求める意思表示が必要
告訴状の方式に関して、法令での定めはありません。しかし性質上、少なくとも告訴人、犯罪事実の表示などと犯罪事実について処罰を求める意思表示が記載されている必要はあります。
なお告訴人になることができるのは、被害者や被害者の法定代理人、被害者が死亡したときは配偶者や直系親族、兄弟姉妹などです。
また告訴は、検察官または司法警察員に対して書面または口頭でしなければなりません。口頭によって告訴を受けた司法警察員などは、調書をつくらなければならないとされています。
いずれにしても告訴状については、受理されるためには、求められる要件を満たす書面にする必要があります。告訴状が受理されないなどのトラブルがあれば、弁護士に相談するとよいでしょう。
4、弁護士に相談したほうがよいケース
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(1)告訴状を出すべきか迷うとき
犯罪の被害を受けたときには、ご自身の心理的なショックも大きく、気持ちを整理するだけでも困難をともなうものでしょう。さらには、「被害届と告訴状のどちらを選択すべきか」「逮捕された被疑者と示談を成立させてよいのか」など、ご自身だけでは判断が難しい悩みが出てきます。そのような場合には、弁護士に相談して、告訴や示談などのご自身の負担を減らすことを検討するのもひとつの選択肢です。
弁護士は、ご相談者のご意向を反映した適切な方法や判断について、豊富な経験と法律知識からアドバイスすることが可能です。 -
(2)加害者と直接接触したくないとき
依頼を受けた弁護士は、あなたの代理人として、加害者と交渉をすることができます。つまり、示談を相手(加害者)側が求めてきたとき、一般的には交渉などで加害者とやりとりをする必要が生じるのですが、弁護士に依頼することで被害者の方は加害者に直接接触せずに示談を進めることができるのです。
加害者家族や加害者本人と顔を合わせることさえつらいとお感じになるケースは少なくありません。相手側に住所などを知られたくないというケースは多々あります。そもそも親告罪の規定がある犯罪であればなおさらでしょう。そのような場合、弁護士に依頼することで、ご相談者の心理的なご負担を大幅に減らすことができます。これは、非常に大きなメリットになるといえるでしょう。 -
(3)裁判でのサポートが受けられる
もしあなたが加害者から損害を受けていた場合は、たとえ刑事事件として裁かれた後であっても、民事上の法的責任を追及できる可能性があります。その場合であっても交渉は欠かせません。
また、たとえ交渉で決裂して裁判になったとしても、弁護士であれば、裁判において、どのような主張や証拠が判決につながりやすいのかを熟知しています。したがって適切なサポートを受けることが可能になり、安心して裁判にのぞむこともできることでしょう。
5、まとめ
本コラムでは、犯罪の被害に遭ってしまった方にむけて、被害届と告訴状の違いや判断ポイントを解説しました。被害届は犯罪の事実を報告する書面であり、犯人の処罰の意思表示まで示す書面ではありません。刑事事件として確実に犯人に責任追及したいときや親告罪であるときには、告訴を検討するとよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士は、刑事事件の被害者になった方が安心して最善の策をみつけられるよう全力でサポートします。ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています