改正電子帳簿保存法が令和4年(2022年)施行! 会社が準備すべきこと
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平成28年の統計によれば、埼玉県内には23万9966もの事業所があります。日本国内の都道府県では5番目に多い事業所数であり、多数の会社が埼玉県内で企業活動を行っていることがわかるでしょう。
企業活動を行っている以上、各種税法上の義務を負うことは当然不可避です。そのうち帳簿などの書類については、紙で保存することが原則とされていますが、電子帳簿保存法によって一定の要件のもとで、電子帳簿に保存することが可能とされています。
今般令和4年1月から施行される改正電子帳簿保存法について、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、電子帳簿保存法とは?
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(1)概要
電子帳簿保存法の正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。現在、全部で11条の規定があり平成10年に施行されています。
帳簿などの書類については、各税法で原則として紙媒体での保存が義務付けられていることはご存じの通りかと思います。しかし、デジタル化が進行している現代では、必ずしも紙媒体によらなくとも保存が可能であり、紙媒体による保管のコストや紛失の可能性も防止することができることから、この法律によって電子媒体による保存を認めることにしたのです。一定の要件を満たすことで電磁的記録(電子データ)による保存を可能とし、また、電子的に送付したり、受け取ったりした取引情報の保存義務を定めています。
電子帳簿保存法では、電磁的記録による保存を以下の3つに区分して、それぞれ保存方法などのルールを定めています。① 電子帳簿等保存
電子的に作成した帳簿書類をデータのまま保存する区分です。
会計ソフトなどを用いて作成した帳簿書類がこの区分に該当します。
② スキャナ保存
紙媒体によって作成したり、受け取ったりした書類を画像データで保存する区分です。
③ 電子取引
電子的に送付したり、受け取ったりした情報をデータで保存する区分です。
ダウンロードまたは電子メールなどでやり取りした見積書、請求書などがこの区分です。 -
(2)適用対象となる書類
電子帳簿保存法の対象となる書類は、「国税関係帳簿書類」をいい、国税関係帳簿と国税関係書類を指します。
具体的に、国税関係帳簿とは、仕訳帳や総勘定元帳などを指し、国税関係書類とは、貸借対照表や損益計算書といった決算書類、見積書・契約書・発注書・領収書といった取引関係書類をいいます。 -
(3)改正
電子帳簿保存法は、平成10年7月に施行された後、平成17年、平成27年、平成28年、令和元年、令和2年と複数回改正が行われました。
そしてさらに、令和4年(2022年)1月1日から新たな改正電子帳簿保存法が施行されました。主に、近時のテレワークの浸透もあり、より一層ペーパレス化を進行させる方向での改正です。
2、これまでとの違いは?
令和4年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法について、先に挙げた①電子帳簿等保存に関する改正、②スキャナ保存に関する改正、③電子取引に関する改正について、それぞれ主たる改正点をご説明します。
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(1)電子帳簿等保存に関する主たる改正
● 税務署長の事前認証制度の廃止
これまでは電子的に作成した国税関係帳簿や国税関係書類を電磁的記録により保存する場合には、導入希望日の3か月前までに税務署長へ申請し、税務署長の事前の承認を得ることが必要でした。しかし、この手続きは申請書類作成などの事業者の事務負担を軽減するため、事前承認は不要となりました。
この改正により、事業者にとっては電子帳簿等保存の使い勝手が良くなったといえるでしょう。
● 電子帳簿等の保存における検索要件の緩和
これまでの検索要件は、多数の項目を検索できる必要がありました。しかし、検索要件のうち「日付または金額の範囲」指定等の要件も不要となっています(税務職員による質問検査権に基づき、ダウンロードの求めがあったときに応じることができるようにしている場合)。したがって、検索要件は「取引年月日、取引金額、取引先」に限定されることになりました。
この改正も活用されやすくなる改正といえるでしょう。 -
(2)スキャナ保存に関する主たる改正
スキャナ保存に関する改正については、税務署長の事前認証制度の廃止、検索要件の緩和は、前述の電子帳等保存に関する改正と同様です。
スキャナ保存に特有の改正は以下の点です。
● タイムスタンプ要件の緩和
タイムスタンプは、当該電子データが作成された日時を証明するためのもので、その日時以降は変更などがなされていない証拠になるものですが、このための要件が一部緩和されています。(変更点)- タイムスタンプの付与期間が、現行3日以内から最長約2か月以内に変更
- 受け取った側が読み取る際の自署が不要に変更
- 電子データに訂正または削除を行った場合、これらの事実、内容を確認できるクラウド等で、入力期間内にその電子データの保存を行ったことを確認できる場合、タイムスタンプの付与と代用できるものへ変更
● 適正事務処理要件の廃止
不正防止目的で、社内規定の整備や各事務に関する職責をそれぞれ別の者にさせるといった相互けん制、定期的な検査などの適正事務処理要件がありましたが、廃止となりました。
● 重加算税の加重措置
スキャナ保存された電子データに隠ぺいなどがあり、それによって申告漏れがあった場合には、重加算税が10%加算されることとなりました。 -
(3)電子取引に関する主たる改正
電子取引の性質から、税務署長の事前認証制度はそもそもありませんが、タイムスタンプの付与期間や、検索要件の検索項目については、前述のスキャナ保存の改正と同様です。
電子取引については、特に影響の大きい改正がありますので、留意が必要です。申告所得税と法人税における電子メールやインターネットなどを利用した電子取引の取引情報に関係する電子データについては、そのデータを紙媒体で出力して、保存する方法も認められていましたが、本改正によって、紙媒体での保存は認められないこととなりました。したがいまして、企業にとっては、早急に本改正への対応が求められることになります。
もっとも、この改正点は、対応に混乱が予想されたこともあり、2年間の猶予期間が設けられることになりました。ただし、あくまで猶予期間であるため、紙媒体から電子保存に移行できるように、企業としての対応が求められることに変わりはありません。
なお、この改正は、企業規模の大小を問わず、申告所得税や法人税を納付する義務を負う企業が電子取引を行う場合には、すべて適用されます。中小企業であるからといって適用されないというものではないため、注意を要します。
3、不正行為をした場合は罰則が!
改正法では、検索要件の緩和やタイムスタンプの緩和など、全体的に緩和され、より電子保存を行いやすくなる方向の改正でした。
しかし、その一方で、対応しなかった場合のペナルティーは重くなりました。先述した、スキャナ保存された電子データに隠ぺいなどがあり、それによって申告漏れがあった場合には、重加算税が10%加算されることとなったことはその一環です。
また、国税庁の見解によれば、先述した申告所得税と法人税における電子取引の取引情報に関係する電子データについては、そのデータを紙媒体で出力して、保存する方法が認められていましたが、猶予期間は設けられたものの、改正によって認められないことになっています。したがって、電子保存の方法に対応できていない場合には、青色申告が取り消されてしまう可能性があることにも注意が必要です。
4、企業が準備すべきこと
まず、令和4年に施行された改正電子帳簿保存法の改正部分は、いずれも、法定の要件に沿った形で保存ができていない場合には、適法な税法上の保存書面としては認められないことになってしまいます。今回の改正では、検索要件における検索項目、タイムスタンプの付与などが、これまでにご説明した改正法に即した会計システムとして構築されているのか、確認する必要があります。
とりわけ、電子取引においては、一部の情報について書面での出力による保存では電子保存とは認められないことになっています。この点はまだシステムなどが構築されておらず、不完全な企業も一定数いらっしゃるものと思います。
現に電子取引を行わないために、取引先にもすべて紙媒体でのやり取りを要請し対応するなどといった電子帳簿保存法のペーパレス化の方針と逆行する動きもあるようです。猶予期間が設けられたとはいえ、社内システムの構築が急務です。
5、まとめ
ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでは、顧問契約のご依頼に対応しております。特色としては、ご相談者の事情に応じ、必要なときに必要なだけ相談が行えるなど、ニーズに応じた柔軟な顧問弁護士サービスのプランをご用意しております。また、グループ傘下の税理士とも連携し、税務的な側面も含めたアドバイスが可能です。
業種にフィットした企業法務だけでなく、電子帳簿保存法への対応についても知見が豊富なベリーベスト法律事務所 大宮オフィスへお気軽にご相談ください。
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