特別受益に時効はある? 相続分・遺留分の違いと持ち戻しの免除とは
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さいたま市のホームページでは、相続した空き家や農地の賃貸借など必要な手続きについてまとめて情報提供されています。しかし、相続において、一部の相続人が得た特別受益をどのように取り扱うかは、相続人同士の間で揉めやすい事項のひとつです。
特別受益の算入期間の制限(いわゆる「時効」)は、相続分の計算と遺留分の計算では適用されるルールが異なります。そのため、相続開始よりもかなり前に行われた生前贈与については、相続分と遺留分で取り扱いが異なる可能性があるので注意が必要です。
この記事では、特別受益の「時効」や、持ち戻し計算の方法を含めた、特別受益に関する法律上のルール・注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスの弁護士が解説します。
1、特別受益に時効(期間制限)はある?
特別受益の対象となる生前贈与について、相続開始からいつまでさかのぼればよいかについては、相続分と遺留分でルールが異なっています。
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(1)相続分の計算上は、算入期間の制限はない
一部の相続人について特別受益が認められるケースでは、各相続人の相続分は、特別受益を相続財産に持ち戻して計算されます(民法第903条第1項。持ち戻し計算については後述)。
この持ち戻しの対象となる生前贈与には、算入期間の制限はありません。
したがって、相続開始から20年、30年……とかなり前に行われた生前贈与であっても、特別受益として持ち戻し計算の対象になります。 -
(2)遺留分の計算上は、相続開始前10年以内の贈与のみ
特別受益は、遺留分の計算上も、持ち戻し計算の対象となります。
相続分の場合とは異なり、遺留分の計算上は、特別受益として持ち戻しの対象になるのは、遺贈および相続開始前10年間に行われた贈与に限られます(民法第1044条第1項、第3項)。
この期間制限は、令和元年7月1日に施行された改正相続法によって、新たに導入されました。
つまり、たとえば相続開始から15年前に行われた法定相続人に対する贈与は、相続分の計算上は特別受益として取り扱われるものの、遺留分の計算上は特別受益にあたらないというズレが生じるのです。
2、特別受益にあたる遺贈・贈与の範囲は?
特別受益にあたる遺贈・贈与は、受遺者・受贈者や内容について、民法上ルールが定められています。
以下では、どのような遺贈・贈与が特別受益に該当するかについて解説します。
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(1)法定相続人に対する遺贈・贈与のみ
特別受益の制度は、法定相続人間における相続分の不公平を是正することを目的として設けられています。
したがって、特別受益に該当するのは、法定相続人に対する遺贈・贈与に限られます。 -
(2)遺贈はすべて特別受益にあたる
被相続人から法定相続人に対して行われた遺贈は、すべて特別受益として持ち戻し計算の対象になります(民法第903条第1項)。
遺贈は「遺言による贈与」を意味するため、遺贈の対象となる財産は、実質的には相続財産と変わらない取り扱いを受けると理解しておけばよいでしょう。 -
(3)贈与が特別受益にあたるかどうかは内容による
これに対して、死因贈与や生前贈与が特別受益にあたるのは、以下のいずれかに該当する場合に限られます(民法第903条第1項)。
- 婚姻のための贈与:持参金や嫁入り道具など
- 養子縁組のための贈与:住居の準備費用など
- 生計の資本としての贈与:生活費、不動産や車などの購入資金、学費、事業出資など
実際には、贈与が特別受益に該当するかどうかの線引きはかなり曖昧です。
たとえば生活費や学費など、「生計の資本としての贈与」に該当すると思われるものでも、親としての扶養義務の範囲内と評価できるものであれば、特別受益にあたらないと判断されるケースもあります。
過去の生前贈与について、特別受益にあたるかどうかわからないものがある場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
3、特別受益の持ち戻しとは?
一部の相続人に特別受益が認められる場合における、「持ち戻し」の考え方について解説します。
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(1)相続分・遺留分を公平に割り当てるための計算方法
特別受益にあたる遺贈・贈与を受けた相続人(特別受益者)は、被相続人から財産上の優遇を受けているといえます。
その反面、他の相続人が相続できる財産が減ることになるので、相続人間で不公平が生じてしまいます。
そのため以下の方法により、相続人間の相続分の不公平を是正する調整を行うことが、特別受益の「持ち戻し」の基本的な考え方です。- ① 特別受益の金額を、相続財産の総額に加算して、各相続人の相続分を計算する
- ② 特別受益がある相続人の相続分は、①の相続分から特別受益の金額を控除した金額とする
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(2)持ち戻し計算の具体例
特別受益の持ち戻し計算の具体例を紹介します。
<相続人は配偶者A、子どもB・Cの3名のケース>
相続財産の総額は5000万円
Bは被相続人から、特別受益にあたる1000万円の生前贈与を受けた
このケースでは、特別受益を相続財産に持ち戻すことにより、相続分計算の基礎となる財産は6000万円となります。
これをA・B・Cの法定相続分に応じて配分すると、Aは3000万円、BとCは1500万円ずつの相続分を得ることになります。
しかし、Bはすでに1000万円分の特別受益を得ていますので、Bの相続分からは1000万円を控除して、最終的な相続分は以下のとおりです。A:3000万円
B:500万円
C:1500万円 -
(3)持ち戻しの免除とは?
なお、相続分計算における特別受益の持ち戻しは、被相続人の意思表示によって免除することが認められています(民法第903条第3項)。
したがって、上記のケースにおいて、遺言書などで被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていた場合、特別受益の持ち戻し計算は行われず、相続分は以下のとおり修正されます。A:2500万円
B:1250万円
C:1250万円
なお、遺留分計算における特別受益の持ち戻しについては、相続分の場合とは異なり、持ち戻しの免除は認められないので注意しましょう。
4、特別受益がある場合における相続手続きの注意点
特別受益が関係する相続手続きを円滑に処理するための注意点を解説します。
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(1)贈与財産・相続財産の価値評価を適切に行う
特別受益の持ち戻しを考慮したうえで、相続分を正しく算定するためには、基礎財産としての贈与財産・相続財産の合計額を正しく導き出すことが大切です。
特に、贈与財産・相続財産の中に不動産や未公開株式が含まれている場合には、専門的な価値評価を要するため、弁護士を通じて各種の専門家とともに検討を行うことをお勧めいたします。 -
(2)特別受益について揉めた場合は、適宜調停を活用する
特別受益については、その存在や金額をめぐって、相続人同士の争いが生じてしまうケースが非常に多いです。
遺産分割協議の中でも、特別受益の存在を主張する側・される側の主張が平行線をたどり、なかなか協議がまとまらないことも考えられます。
その場合には、遺産分割調停へと場を移して、裁判官・調停委員の仲介の下で遺産分割の交渉を行うことも検討すべきでしょう。
裁判官・調停委員が第三者的な視点から交渉を調整することによって、遺産分割問題の解決への糸口が見いだせる可能性があります。 -
(3)特別受益がある遺産分割協議を行う際は弁護士へ相談を
特別受益の問題を含めて、遺産分割には多岐にわたる法律上の論点が存在します。
また、当事者である相続人だけで遺産分割協議を行うと、感情的なもつれからかえって交渉がヒートアップしてしまい、なかなか協議が成立しないケースもよくあります。
そのため、これから遺産分割を行う場合には、早い段階で一度弁護士へご相談ください。
弁護士は、法的な観点を踏まえつつ、依頼者や他の相続人の意見・希望をよく伺い、各相続人ができる限り納得できる形の解決策を提案します。
また、遺産分割協議が暗礁に乗り上げ、調停手続きへと移行する必要が生じたとしても、弁護士に相談をしておけばスムーズに対応することが可能です。
特別受益の問題など、遺産分割に関するトラブルにお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
5、まとめ
相続分の計算にあたって、相続財産への持ち戻しの対象となる特別受益には、特に期間制限(時効)は設けられていません。その一方で、遺留分計算における特別受益の持ち戻しには10年間の期間制限が設定されているので、遺留分侵害額請求を行う際には、相続分とのルールの違いに注意しましょう。
ベリーベスト法律事務所では、特別受益の問題を含めて、遺産分割に対するオーダーメードの解決策をご提案します。財産規模の大きな相続や、複雑な法律上の論点が含まれている相続についても全面的なバックアップできますし、グループ内税理士と連携のうえ、相続税申告についてもサポートが可能です。
特別受益など、遺産分割問題でお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 大宮オフィスでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています